42.ライザ・デゲリゴラル現る
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六番街でまずは四百五十年前に建てられた、歴史ある大聖堂を見物する。『竜王』と最初に契約を交わした建国の祖、バルザム・エクグラシア初代国王の像なんかがあって面白かった。
大聖堂周辺の土産物店に、アーネスト陛下の肖像の他に、ライアスやレオポルドのものまで売っていて、ちょっとウケた。
「騎士団長を拝命した時に、王宮絵師が何人もやって来たんだ……」と、ライアスは遠い目をしていたけれど。そりゃみんな、ライアスの顔を知っているわけだね……。
午後は船着き場から遊覧船に乗るから、その前に昼食をとろうということになった。
「この近くに、タクラ料理が美味いと評判の店がある」
タクラはエクグラシアの南にある海に面した都市で、海の幸をふんだんに使った料理で有名だ。
六番街は、マール川の支流の船着き場があり、川を使って運ばれるタクラからの交易品の荷下ろしなどで古くから発展したそうだ。
その関係でタクラ料理の店が多く、それを目当てに集まる、釣り客も川遊びの客も多いらしい。船着き場のほど近くに、『レイバート』というタクラ料理の店があった。
『レイバート』はちゃんとした店っぽかったので、わたしはワンピースを着てきた事に、ほっとする。混雑する昼食時という事で、ライアスはわざわざ予約を入れていてくれたらしい。店の入り口で名を告げると、すぐに中に通された。
明るい日差しから店内の明るさに目を慣らしていると、すぐ近くで華やかな叫び声が上がった。
「んまぁ!ライアス様!」
声は店内で食事中だった六人ほどの目立つ一団から上がったらしく、その中心にいた煌びやかに着飾った女性が、優雅に立ち上がった。
「アンガス公爵の夜会でダンスをしていただいて以来ですわね!」
そう言いながら嬉しそうに頬を染めて話しかけてくる令嬢は、とても美しい。艶やかなプラチナブロンドの髪は緩く巻いてあり、けぶるような長い睫毛にお人形さんのようなパッチリした吊り目がちのアイスブルーの瞳。鮮やかな赤のデイドレスは光沢のある生地に華やかなフリルが縫いつけられ、動くたびに衣擦れの音がする。
「ご機嫌よう、ライザ嬢」
丁寧に応対したライアスだが、少し困惑しているようだ。
隣にいるわたしの事はきれいに無視して、ライザ嬢はライアスに向かって眉尻を下げ、少し寂しそうな表情を見せた後、微笑みかける。
「最近お会いできなくて、わたくし寂しく思っておりましたのよ?……今度のメイビス侯爵の夜会では必ずご一緒してくださいませね?そうそう、夜会の前に屋敷の方にもいらしてくださいな!わたくしの新しいドレスを見ていただきたいんですの!」
ライザ嬢は嫣然と微笑みを浮かべ、ライアスの右腕に細くてしなやかな自分の手をかける。
「せっかくですし、ライアス様もこちらに!ライアス様とご一緒できるなんて嬉しいですわ!」
おおお、グイグイ来るよ!この人!でもわたしの事は完璧に無視したまんま、見ようともしないけど……こういう場合、どうしたらいいの?
ライアスが溜息をついた。腕にぴったりとくっついたライザ嬢は放っておいて、蚊帳の外状態のわたしに教えてくれる。
「せっかくだが、俺には今連れが居るので……ネリィ、こちらはライザ・デゲリゴラル嬢だ」
デゲリゴラル……デゲリゴラル……なんか聞いたことある……。
「あ!ひょっとして……デゲリゴラル国防大臣の?」
おお?あのおじさんからこの娘さん?……おじさん、もの凄い美人の奥さん捕まえたんだね!少し感心してライザ嬢を眺めると、ライザ嬢がすっと目を細めて……値踏みする視線でこちらを一瞥した。
「んまぁ……少しはものを知っているようね」
父親の威を借る令嬢は、『国防大臣』の名をだせばたいていの者が身を引くことを知っていた。当然、目の前のこの娘も萎縮するであろう。あとはいたたまれない気分にして、この場から追いだせばいい。
ライアスの目の届かない所にやってしまえば、こんな小娘、どうとでも引き裂いてくれよう……そう思った。
「あなた……王都ではお見掛けしない顔ねぇ……貴族のご令嬢じゃないのかしら?まぁいいわ……殿方の気まぐれに目くじらを立てる程狭量ではありませんもの」
(そうよ、殿方の浮気ぐらい鷹揚に受け止める度量の広さを見せなくては……)
そう思ったライザは口角を上げて、ライアスに微笑んで見せた。
「気まぐれ……?」
眉をひそめるライアスに対して、わたしはかなり正確にライザの意図を理解したと思う。なんたって女同士だからね!言外のニュアンスの把握はお手のものさぁ!
「ライアス……」
つん、とわたしがライアスの袖を引っ張ると、ライザがギッと凄い目つきで睨みつけてきた。わぁ、殺気。まぁ、レオポルドに比べたら可愛いものだ。
「あのねライアス、もしかして……こちらが婚約間近のご令嬢?」
「んまぁ!」
ライザが勝利を確信して可愛らしく頬を染めるのと、ライアスがギョッとした顔つきになって叫んだのは、ほぼ同時だった。
「ネリィ!俺に婚約間近のご令嬢など居ない!誰がそのようないい加減ででたらめな噂を‼︎」
周囲がざわりとし、ライザは真っ青になった。
「……んまぁ!ラ、ライアス様⁉︎」
ライアス、たぶん、いい加減ででたらめな噂を流した張本人の前で言ってるよー。
「違うの?」
小首を傾げて問えば、ライアスは首を横に振り、ハッキリと宣言した。
「違うとも!決まった相手が居ながら他の女性を誘うようなふしだらな男だと、ネリィに思われていたとしたら、心外だ!」
「んまぁ!」
ライザは青ざめてわなわなと震え、周囲はなおいっそう、ザワザワする。
「今の……ホントかしら?」
「婚約間近というお話でしたわよね……」
「そんなお話、なかったと言う事?」
「ライアス様ご本人がはっきりそうおっしゃるんじゃあ……」
「あら、じゃあライザ様って……」
騒めきは止まらない。ライアスはわたしをエスコートしつつ、ライザに右腕をとられている。
「ライアス様!つまらない女に関わっては、ライアス様の評判に傷がつきますわ!」
ライザ嬢は悲劇のヒロインのように叫ぶとライアスの腕に手をかけたまま、わたしの方をもの凄い勢いで睨んだ。
「お前っ!……ネリモラの花まで身に着けて……ライアス様にねだるなんて……厚かましい!」
え?ネリモラの花が何か?
そして、もしかして、ここで『仁義なき女の戦い』勃発⁉
わたしのお昼ご飯は⁉︎えぇ……それどころじゃない?
典型的な悪役令嬢ぽい感じのライザ嬢ですが、別に中に転生者とかほかの人が入ってるわけではありません。
『魔術師の杖 錬金術師ネリア、師団長になる』
https://izuminovels.jp/isbn-9784844398967
いずみノベルズ公式サイト
https://izuminovels.jp/
表紙と挿絵担当のよろづ先生よりいただいたライアス・ゴールディホーン……土産物店で売っている肖像っぽかったので、こちらで使わせていただきました!












