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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
過去編 レイメリアと魔術師の杖
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416.閑話 岩窟楼

バレンタインSSってことで……ギリですが、ハッピーバレンタイン!

「ひくちゅっ、ソラってばひどい……湯冷めしちゃうよ」


 片づけをするからとソラに居住区を追いだされたわたしたちは、ひとまず師団長室にやってきた。外はみぞれ混じりの雪で、とても出歩けるような状態じゃない。


「ソラに怒られたな」


 湯あたりしてのびていたレオポルドは、外気にあたって少し回復したみたいだ。


「片づけが終わるまでこうして待ってるしかないのかなぁ」


 グスグスと鼻をすすりながら師団長室の窓から居住区のようすをうかがっていると、レオポルドがたずねてきた。


「ソラはいままでにこうしてきみを追いだしたことがあったか?」


「いままでに?いちどもないよこんなこと」


 眉をさげて答えればレオポルドは銀の髪をかきあげて苦笑した。


「ならソラが腹を立てているのは私だ」


「なんで?風を喚ぶ魔法陣を失敗したのはわたしなのに……」


 彼はゆるく首をふる。


「それ以前の問題だ。『何をやっている』といいたいのだろう……婚約者の裸体を目にしたにもかかわらず、グレンが遺した設備に気をとられていた」


「いいかた!それは忘れていいってば!」


 あせっていいかえせば彼はくすりと笑ってわたしに手を差しだしてきた。


「とにかくここで待っていてもソラの機嫌は直らない。私に挽回のチャンスをくれないか?」


「挽回?」


 窓にたたきつけるみぞれ混じりの雨はますます激しくなるのに、彼はわたしに手を差しだしたままで優雅に一礼をした。


「そうだ。夜遊びにでかけよう、マイレディ」





 彼の手をとった瞬間、転移陣が展開する。


「どこにいくの?」


 ささやくように問いかければ彼の瞳がいたずらっぽくきらめいた。


「〝岩窟楼〟だ……きみは魔法使いのことを何も知らない」


 転移陣がまばゆく輝き、見慣れた師団長室がわたしの前から消えた。


 跳んだ先はどこか洞窟みたいな場所だった。岩壁には六柱石の結晶が光り、わたしたちが降りた通路をぼんやりと照らしている。


 薄暗がりのなかをレオポルドに手をひかれて進めば通路の先にはさびついた鉄の扉があり、その横には店番くんに似た一体のオートマタがいた。


 体の関節は歯車になっていてオートマタが身動きすると歯車が回り、レオポルドをみるとギギギ……と首をかしげた。


「これはこれは……銀の若君、〝岩窟楼〟へおいでとはめずらしい」


「その呼びかたはやめろ、モーリス」


 レオポルドが顔をしかめると、モーリスと呼ばれたオートマタはケタケタとあごのあたりの部品を揺らした。どうやら笑っているみたいだ。


「では昔のように『天使の顔した悪ガキ』とでもお呼びしますかねぇ。いや失礼お嬢さん、黄緑の瞳がまん丸だ。岩窟楼ははじめてかい」


「はじめまして」


 おっかなびっくりあいさつすれば、モーリスはぐぐっと身を乗りだした。オートマタのぽっかりとあいた空洞の目がわたしをみつめる。


「ほぉ……これは珍しい魂をお持ちだ。豪胆なくせに優しい、それでいて寂しがり屋だ。岩窟楼にはいれるのは限られた魔法使いだけ。お嬢さんにその資格はあるかね?」


「ど、どうかな」


 レオポルドの体に隠れるようにして左袖をぎゅっとつかみ、わたしは緊張して背筋を伸ばす。レオポルドはため息をついてモーリスをうながした。


「もったいぶるなモーリス、さっさと門をあけろ」


「はいはい……っと」


 モーリスは腕をギチギチと動かしながら、カウンターの上に仮面を二つ置いた。


 装飾がほどこされたきらびやかなもので、グレンの仮面とちがい目元だけ隠すようになっている。


 レオポルドが黒い仮面に手を伸ばした。


「いいか、ここでは何でも手にはいる。だが支払う対価を考えて、選ぶときは慎重に。帰るときはその仮面をはずすだけ……それで元の場所にもどれる」


「帰るときはこの仮面をはずすだけでいいのね」


 わたしはキラキラした宝石の飾りがついた猫の仮面を手にとった。


「そうだ、ここでは私もきみも師団長ではない」


「岩窟楼だっけ……ここで何をするの?」


「ついてくればわかる」


「はい、二名様ご案内~銀の悪ガキと猫のレディ~」


 関節の歯車をガチガチとまわしギギギギと腕を伸ばしたモーリスが、岩壁に取りつけられたレバーを下におろす。


 するとさびついて重たそうな鉄の扉がゆっくりと開いた。


 扉をくぐって目に飛びこんできた光景にわたしは息をのんだ。


 目の前にぽっかりあいた空洞は、あちこちに魔導ランプが灯っている。光る結晶が通路を照らし、仮面をつけたひとびとが行き交う。


 あちこちに店があって六番街の市場にも似ているけれど、売っているものは店ごとにちがい、もっと雑然とした雰囲気だ。


「王都のように洗練された店はないが、ここには掘り出しものがある」


「待ってレオポルド、わたしお金も持ってないし……」


 レオポルドの袖をつまめば彼が立ちどまる。


「ここにきみを連れてきたのは」


 ふりむいた彼は身をかがめてわたしの耳元にささやいた。


「きみは恥ずかしがり屋だとライアスが教えてくれたからだ」


「ライアスが?」


「最初はとまどうことが多いが、ここなら相手の素性を気にするやつもいない」


 そういってレオポルドはわたしの右手をとると、そのまま自分のほうへ持っていき、コートの左ポケットにつっこんだ。


「へっ?」


「それにこうすれば恥ずかしくないだろう?」


 彼はポケットの中でそっとわたしの指に自分の指を絡めた。


 え、もしかして。


 レオポルドはわたしと手をつないで歩くために、ここへ連れてきたの?


 ポケットのなかで彼はわたしと手をつないでいる。


 それはたしかにだれにも見えないのだけれど。


 めちゃくちゃ気恥ずかしい!


 岩窟楼は思ったよりもひろくて、魔獣同士を戦わせる闘魔場もあれば、魔力を使って遊ぶ遊技場もある。


 ゆっくりと歩くレオポルドに、わたしも彼のポケットに手をつっこんだままトコトコと歩く。


 きれいな魔石や立派な魔道具も売っていたけれど、払う対価が心配でながめるだけにした。


「何かほしいものはあるか?」


 レオポルドが聞いてくれたけれどわたしは首を横にふる。


「……ねだってくれたほうが楽なんだがな」


 彼はそういってため息をつき、それからはわたしが興味をひかれたものについていろいろと教えてくれた。


 王都とちがい岩窟楼では買いものをするにも、まずは値段の交渉からはじまる。


 品物だけでなく情報や人材……交渉が成立すればどんなものでも買える。


 足もとをみられることもあるし、店主との信頼関係もだいじなのだという。


 ためしにレオポルドが一軒の店で交渉してみせてくれたけれど、ただお茶を飲んだだけで終わった。


 岩窟楼の具体的な場所は定かではなく、世界中から魔術師が集まるのだという。


「太陽の光が差さないから、ここは昼夜の別なく活動している。王都の魔術師団にいるだけではわからないことも、ここにくれば知ることができる」


「うん、それにいろんなものがあって面白いね」


 たっぷりとすごして仮面をはずせば元の師団長室で、窓のむこうに居住区の明かりがみえる。手に持っていたはずの仮面は消えてしまった。


「岩窟楼……またいける?」


 何だか不思議だったあの空間に心がひかれた。


「きみが望めば」


 レオポルドはそういってつないだ手に力をこめた。

レオポルドは手をつないで歩きたかった。

【岩窟楼】

バレンタインにかこつけてふたりがデートする場所を作ってみました。

紹介制で連れてきてもらわないと中に入れません。モーリスに仮面をもらえば入会審査終了。

国境を越えた魔術師の共同体といったイメージ。サルジアの呪術師ともすれ違っているかも。オドゥも出入りできます。

地中とみせかけて実は『月』だったり?

まだふわっとしていて本編に登場するかはわかりません。

挿絵(By みてみん)

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