41.王都見物
アクセスが増えて(当社比)、びっくりするやら嬉しいやら。
2章で登場人物が大体出そろうので、更新頑張ります!
この間メロディの魔道具店にでかけた時は、迷わないようにとばかり考えて、周囲の景色など見回す余裕もなかったので、こうやってシャングリラの街を歩くのははじめてだ。
三番街にでかけた時も思ったけれど、整然とした街並みの割に無機質な感じがしないのは、建物のそこかしこに人の温もりを感じさせるせいだろうか。例えば今歩いている道も、赤や青のきれいな色タイルがそこかしこに埋め込んであって、踏むのが申し訳ないぐらいだ。
「綺麗な色タイルで道が装飾されているんだね」
「ああ、魔石タイルといって、それぞれに働きがある。魔石を粉にしてタイルに成形したもので、青は雨が降った時に水を吸い込んでくれるし、赤はめったに降らないが、雪が降った時に雪を溶かしてくれる。緑は道路に溜まったチリや埃などを、浄化してくれる」
なんですと⁉︎
「じゃあ、雨降ったら水たまりができて歩きにくくなったりとか、車が水しぶきを跳ね飛ばしたりとか、ないの⁉︎」
「ああ、そうだな……エルリカの街にもあったと思うが……?」
「そうなの⁉︎」
すみません、エルリカは素通りしました……まぁ、目に留まったとしても、ライアスの説明を聞かなきゃ分からなかっただろうなぁ。
タイルを敷く手間はあるけれど、魔石が力を失うと色が抜けるので、それを目安に定期的に魔石タイルのメンテナンスをするだけでいいらしい。
なんか、こっちの世界の方が進んでないか?
足元のタイルを見ながら感心して歩いていると、ふと建物の二階の方からきれいな歌声が聴こえてきて、誰が歌っているんだろう?と見上げてびっくりした。
「うわぁ!ライアス!あれ、何⁉」
「ペチャニアか?窓辺に置くと歌を歌ってくれる花だ。初心者でも育てやすいし、よりきれいな歌声の花を育てるコンテストも開催されていて、園芸家にも人気の花だな」
「花が……花が……歌う……」
「歌う植物は結構いるぞ?ペチャニアは美声だが、アンブローシアはダミ声な上に息が臭いし、密林に咲く睡蘭は、見た目も声も美しいが歌を聴くと眠ってしまうので、冒険者にとっては厄介だ」
そうですか。花が歌う……こっちの世界では常識なんですね……。
「興味があるなら、九番街にある王立植物園で実物が見られるが……」
王都凄いね!王立植物園……見てみたいかも。
「ただ、今日はやめておいた方がいいな」
なんで?
「『植物園』に行くなら、それなりの装備が必要だ。植物同士が縄張り争いでしのぎを削っているからな……巻き込まれると大変だし、最低でも『幻惑』や『幻覚』の耐性がないと……」
植物園⁉︎植物園だよね、それ⁉︎闘技場じゃないよね⁉︎
「ところで、どこに向かっているの?」
「まずは一番街の中央にある、『シャングリラ中央駅』に向かおう。ドラゴンに乗せた時に、魔導列車を降りるのを残念がっていただろう?建物としても一見の価値があるし、そこから六番街に移動するつもりだ」
「シャングリラ内を走る環状線みたいな魔導列車があるの?」
「環状線はあるにはあるが、貨物列車のみだな。人は駅からの移動は『転移門』を使う」
「『転移門』?……転移陣じゃなくて?」
「転移陣は魔力を流さなければ使えないが、『転移門』ならば魔石のエネルギーを利用しているから、魔力がない者も利用できる。今から三十年前に魔導列車が完成してシャングリラ中央駅ができた時に、グレンが設置したものだ」
「グレンが⁉︎」
グレン爺!凄い人だったんだね……。
「『転移門』も『魔導列車』も、グレン・ディアレス最大の発明と言われている。ネリィ……世間知らずだとは思っていたが……まさか、ここまでとは……」
「わたしも……今まで自分が、すごく狭い世界に生きていた事がよく分かったよ……」
デーダス荒野に囲まれた、ポツンと建つ一軒家。
それが三年間、わたしの世界の全てだったのだ。それにグレンも自分の功績を、得意気に話す人じゃなかった。
一番街の中央にある、『シャングリラ中央駅』は大きかった。ホームは全部で十四本。そのうち四本は貨物線のホームで、十本が王都とエクグラシア各地を結ぶ魔導列車のホームだ。切符売り場は三カ所、横に広い改札の両脇と、駅前の中央広場に設置してある。
「シャングリラ自体は五百年の歴史のある都で、魔石タイルも二百年前から使われているが……魔導列車の歴史自体はまだ三十年ほどで新しいんだ。最近ようやくエクグラシア各地への線路が整備し終わったばかりなのだが……今ではすっかりなくてはならないものになっているな」
シャングリラは王城を起点に十本の通りがあり、駅で魔導列車を降りた人々がスムーズに王都内を移動できるように、それぞれの通りの中央部分に、『転移門』のポートが置かれているらしい。
そして『シャングリラ中央駅』の『転移門』は、駅前の中央広場に、通りの数だけ並んでいた。
門は円形のアーチ状になっており、アーチに囲まれた直径三メートルぐらいの円形の台座に人々が乗るとすぐに、姿が消えていく。
「『転移門』を利用するのがはじめてなら、ネリィはきっと驚くだろうな」
面白そうに言うライアスと一緒に六番街に向かう転移門の列に並び、台座に乗るとすぐにぽわんとした大きな膜につつまれる。ちょうど門の大きさと同じぐらいのシャボン玉に囲まれたような感じだ。
「えっ?えっ⁉︎」
次の瞬間、わたしとライアスはシャボン玉に包まれたまま、王都上空に浮かんでいた。
「魔力がない者が利用した場合の『転移酔い』を防ぐための仕掛けなのだが、よくできているだろう?」
「どうなってるの⁉︎わたし達さっきまで駅前に居たのに!」
「今見えているのはあくまで『情景』なんだ。実際に王都上空に浮かんでいる訳ではない……『転移門』が見せてくれる幻だ」
もともと転移陣が使えるような魔力持ちには起こりにくいが、魔力を持たない人間が『転移門』を利用すると、慣れない空間の移動に『転移酔い』を起こしてしまうらしい。
それを防ぐために『幻』を見せてショックを和らげるのだそうだ。転移自体も、一瞬ですむのではなく、ひと呼吸置くようにゆっくり行われるので、シャボン玉で漂っているような感覚になる。
「マジで⁉︎VRだよ、これ……でも高所恐怖症の人はどうするの?つまり高い所が苦手な人だけど」
「門の所に居る係員に乗る前に伝えれば、『情景』を花畑に切り替えてくれる……ほら、下に見えるのが六番街だ……大聖堂や、マール川の支流の船着き場もあって、ちょっとした川遊びもできる」
シャボン玉は高度をさげ、六番街のポイントに吸い込まれていく。けれど『幻』というだけあって嫌な浮遊感などはなく、次の瞬間にはわたし達は六番街に立っていた。
ありがとうございました。