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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
過去編 レイメリアと魔術師の杖
403/560

403.帰還

デーダスから戻ってきました。

 長距離転移陣がまばゆく光れば、空気の感触がかわる。


 王都シャングリラの研究棟にある居住区、そこへわたしたちは帰ってきた。


「ただいま、ソラ!」


 声をだして呼びかけても返事はない。暖められた室内はコートがいらないほどで、わたしはキョロキョロとあたりをみまわす。


「ソラ……いないのかな?」


 そのとき打撃音がひびいてきて、レオポルドが中庭を指さした。


「ソラならあそこだ……ライアスもいる」


「ライアスも⁉」


 ソラはライアスの蹴りや突きをかわしながら、両手に持った短い棒で彼へと逆に攻撃をしかけている。


 あわてて中庭に飛びだせば、戦っていたふたりが動きをとめた。


「おかえりなさいませ、ネリア様」


「やぁネリア、もどったか」


「ただいま……って、どうしてふたりが中庭で戦っているの?」


 体からホカホカと湯気をだしながら、ライアスがにっこりとさわやかに汗を拭く。


「休みのあいだ、ときどきここにきてソラと鍛錬してたんだ」


「鍛錬……」


「ライアス様にたのまれまして」


 息ひとつ乱していないソラの横で、ライアスはさっと浄化の魔法をかけた。それでもまだ肉まんみたいにホカホカしてるけど。


「人間とはちがう動きに慣れておきたくてな。本当はソラとカードゲームをしていたんだが……俺はじっとしてるのが苦手で」


 みれば師団長室のテーブルには、カードがひろげてある。


「ソラが壊れます……と申しあげたのですが」


「そういいながら、俺を何度もねじ伏せたじゃないか」


「壊れたくないので」


 なんだかライアスとソラが仲良くなってる⁉


 ライアスは青い瞳を、黒いコートを着てたたずむレオポルドへとむけた。


「ネリアからエンツももらったが、レオポルド……お前からも報告を聞きたい。俺にいうことがあるだろう」


 レオポルドはライアスにうなずいて、わたしをふりむいた。


「わかった。ではまた師団長会議で会おう」


「うん……またね、レオポルド。ライアスも」


 ふたりを見送ると、ソラがわたしに声をかける。


「ネリア様、ヌーメリアよりエンツで、『緑の魔女様がギックリ腰でしばらく王都に戻れない』と連絡がありました。ヴェリガンとアレクもいっしょです」


「えっ、ギックリ腰……治癒魔法でもどうにもならないの?」


「おそらくひきとめられているのではないかと」


「ああ、そっか……わたしからもあとでエンツを送ってみるよ」


 居住区だけでなく研究棟もまだ人が戻っていない……ソラとふたりだけなことに、なんとなくモゾモゾしてしまう。


 いままでもこういうことってよくあったじゃん!


(すぐそばにあいつがいないのが物足りないとか……そんなことないから!)


「ネリア様、デーダスより送られた資料は整理して資料庫にございます。お探しになられていたサルジアの資料も取り寄せてありますが、まずはお休みになりますか?」


「そうね、休むほどではないけど荷物の整理をしたいから、わたしの部屋にお茶をお願い」


「かしこまりました」


 部屋に戻れば壁に飾っていたドレスがなくなったところが、ぽっかりと場所があいていてさびしい。


 夜会で着たドレスはレオポルドに見つからないよう、デーダスを去るときに工房へしまってきた。


 わたしはとりあえずそこに、エルリカで買ったラベンダーメルのポンチョをかける。


 ふわふわとしたファーがついたポンチョをみながら、わたしはぼんやり考えた。


(これを着て王都にでかける時間はあるかなぁ)


 レオポルドは反対しているけど、わたしはサルジアにいくつもりだ。


「お茶をお持ちしました」


「ありがとう」


 ソラが持ってきたミモミのハーブティーを飲んでいると、ソラは荷物の中からチュリカの笛を拾いあげた。


「これは……?」


「チュリカっていう笛なの。エルリカでは新年にそれを吹き鳴らすの」


「チュリカ……ああ、『チュリ』と『リーカ』ですか。この枝は空洞になってるので笛を作りやすいのです。精霊を呼ぶまじないの笛……まだそんな伝統が残っていたのですね」


「ソラも知ってるんだ」


「はい、レオもこれを?」


 相手の願いがかなうように、祈りをこめて首にかける。そのことをソラも知っているのだろうか。


「うん……あのね、それでレオポルドに願いは何か聞いたら、『きみの心がほしい』っていわれたの」


 チュリカの笛の音とともに聞いた言葉をソラに教えると、ソラはまばたきをした。


「レオが『きみの心がほしい』と……それでネリア様は何を願われたのですか?」


「願いっていうか……『彼の杖を作りたい』って思ったよ」


 口ごもりながらなんとかそういうと、ソラはおうむ返しにつぶやいた。


「レオの杖を作りたい……それがネリア様の願いですね」


「あ、でもそう思っただけで、グレンの設計図はみつけたけれどまだ何も……」


 ワタワタと両手を振ったわたしに、ソラは無表情にうなずいた。


「かしこまりました。万事ソラにおまかせください」


「ええと、うん……まかせるって何を?」


「サルジアの資料はこちらにお持ちします。ネリア様はゆっくりおくつろぎください」


 そういうとソラはスタスタと部屋をでていき、すぐに資料を持ってくるとまたどこかにいってしまった。


「くつろげっていわれても……」


 でもそういえばずっとレオポルドといっしょだったから、ぐでーんとかのべーんとかしていない。


 ソラにいわれたとおり思いっきりゴロゴロすることにして、わたしはサルジアの資料を手にベッドへと寝そべった。





 ライアスとレオポルドは、まっすぐ訓練場へとやってきた。


「報告を聞きたいのではないのか?」


「その前に軽く手合わせをしよう。俺は体が温まっているが、お前はまだだろう」


 ライアスのいわんとしたことはすぐに伝わったらしい。レオポルドはコートの襟に手をかけた。


「武器は?」


「いらない。素手でやろう」


 ライアスの返事にうなずくと、バサリとコートを脱いだレオポルドは銀の髪をくくって束ねた。


「手加減はしない、いいな」


「……ああ」


 言葉少なに応えるレオポルドに対し、ライアスは全身に闘気をみなぎらせる。


「モリア山への遠征前夜、俺は彼女を食事に誘った。彼女を研究棟に送りとどけたあと、お前も彼女をたずねてきたとソラに聞いた」


 レオポルドが目をみひらいた。


「なぜだまっていた!」


 ライアスの鋭い一撃をレオポルドは紙一重でかわし、すかさず間合いをとろうとする。


 それを許すようなライアスではなかった。


「彼女はそのあとひとりで泣いていたそうだ。お前は彼女に何をいった!」


 言葉を発するごとに数多の拳を打ちこむ。


 矢継ぎ早にくりだされる攻撃をガードしながら、レオポルドが口を開くより早く、ライアスの右拳が彼の腹に食いこんだ。


「…………っ!」


 ズザザザッ!


 訓練場に倒れたレオポルドに、ライアスは鬼のような形相で怒鳴りつけた。


「たとえお前であろうと彼女を傷つけることは許さん。立て!」


 レオポルドがギッとライアスをにらみつけ、地面から起きあがる反動を利用して彼を蹴りつける。


「ライアスお前……っ、殴りあいながらする話かっ!」


「……茶を飲みながらする話でもなかろう」


 銀髪を乱して立ちあがった魔術師団長を、竜騎士団長がぎろりとみすえた。


 ライアスの拳に魔力が集まっていく。

ネリアがゴロゴロしているときに男どもはこんなことを。

このふたりだったら、口論よりは肉弾戦になるだろうなと。

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― 新着の感想 ―
[一言] 肉体言語で語らう男たち、最高でした……! 更新ありがとうございます!!!
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