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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
過去編 レイメリアと魔術師の杖
401/560

401.王城のライアス・ゴールディホーン

読者さんからのリクエスト『ソラの日常』……王城でのライアスとソラです。

ネリアたちがデーダスから戻ってくる前のひとコマです。

 エクグラシアで派手に祝うのは収穫を終えた秋祭りと冬の始まりを告げる貴族たちの夜会だけで、年末年始はそれぞれの家で静かにすごすのが決まりだ。


 それでも年明けの夜は各地でかがり火が焚かれ、新年の願いをこめて祈りを捧げるのだが。


 王都シャングリラの王城では、休みにはいってもそれなりに人が働いていた。


 ドラゴンたちの世話は年中無休だし、竜騎士団長のライアスは今日も王城に詰めている。


 独身ということで当番をかってでたヤーンが、ライアスにこぼした。


「秋の対抗戦、ボロ負けだったのは仕方ないけど、ちょーっと消化不良なんですよね。錬金術師団に戦わせてもらえなかったというか、ドラゴンたちの実力をぜんぜん発揮できませんでしたよ」


 十体のドラゴンとそれに乗る竜騎士に、総勢二十名の魔術師団……それに相対した錬金術師団はほんの数名で、しかも初参加だ。


 むしろケガをさせないか、本気で心配していたというのに。


 結果は惨敗だった。


 どんな形でも負けは負けだ。


 そのあとにひらかれた反省会の重苦しい雰囲気を思いだすと、ライアスもヤーンも胃が痛くなる。


 引退した竜騎士たちや元竜騎士団長まで押しかけてきて、ライアスたちに説明を求めた。


「たかが数名の錬金術師団に竜騎士団が敗北を喫するとはどういうことだ!」


 あとからきたアーネスト国王もしきりに首をひねっていたし、現地にいなかった者には、まったく状況がつかめないからしかたないのだが。


 そういわれても「タコとカタツムリが……」としか説明しようがない。


 北の平原には例年とちがい、タコとカタツムリがいた。それと数名の錬金術師が。


 ドラゴンたちとの感覚共有を逆手にとって利用された……ということを、ライアスの説明で理解した元竜騎士たちの怒りはすさまじかった。


「おのれ錬金術師団!どこまでも姑息なマネを……来年こそはその雪辱を!たのんだぞ、ライアス・ゴールディホーン!」


「はぁ……」


「貴殿の強さは我々も認めている。なんたってダグの息子だからな、期待しているぞ!」


 歴代の竜騎士団長に、バンバン肩や背中を叩かれて痛かった。


 ライアスの前に団長をつとめていた副官のデニスが、彼を気の毒そうにみていた。





 そして祝勝会で当のネリアはけろっとしていた。


「えっ、竜玉は手に入ったし、もういいかなって……」


 そうじゃないんだ、ネリア!


 きみはよくても竜騎士たち……タコまみれになった現役世代ではなく、引退組が納得しないんだ!


 ライアスは顔をしかめて、ため息をついた。


「ネリアは来年参加する気はないというし、このままでは来年魔術師団に勝利したとしても、『去年のていたらくは』とブツブツいわれそうだな」


「あり得ますね。来年の対抗戦にも錬金術師団が参加するよう、団長からネリア嬢を説得してもらえませんか?」


「そうだな……」


 ――いかん。自分の悩みが『いかにネリアを王都に誘うか』ではなく、『いかにネリアを対抗戦に誘うか』になっている。


 このままではネリアの顔をみても、また元竜騎士たちのいかつく険しい顔がチラつく。


 竜騎士団敗北の原因はミストレイの暴走にあるし、それを制御しきれなかった自分にもある……そう思うと研究棟にも顔をだしづらくなった。


(彼女が王都で働く魔道具師か何かだったらよかったのにな……)


 おなじ師団長として尊敬している。彼女に支えられているし、自分も彼女を支えていきたい……その気持ちは変わらないが、どうにもそれは恋愛感情とはちがう種類のものだ。


 それに対抗戦を境に、レオポルドのまとう雰囲気があきらかに変わった。


 研究棟で開かれた祝勝会で、彼はほかの錬金術師たちにも穏やかに接していたし、ネリアにきつくあたることもなくなった。


 むしろあのコランテトラが大きく枝をひろげた中庭で、だれよりもその場に溶けこんでみえたのは彼だった。


 錬金術師のウブルグ・ラビルから、「レオポルドはここで生まれ育った」と聞かされて納得したものだ。


 魔術学園でも貴族たちの集まりにおいても浮きあがってみえた彼が、そこではしっくりと景色のなかにおさまっていた。


 だまって木をみあげていた彼は遠い日を懐かしんでいるようにもみえ、ネリアを目で追う彼の姿に、ライアスは話しかけることもはばかられた。


 ――お前も彼女が気になるのか?


 そう、軽くたずねるべきだったかもしれない。レオポルドならば正直に答えるだろう……そう思う反面、答えを聞きたくない自分がいる。





 息をついたライアスは首を振って、考えを頭のなかから追いだすとヤーンに話しかけた。


「冬の間にどこかで〝狩り〟をする必要があるかもな。場所を選定しよう」


「ですね……いま思えば夏の〝サルジア狩り〟はちょうどよかったな。またあっても困りますけど」


「あれはユーティリス王子……王太子が用意した〝狩り〟だ。錬金術師団の動向には師団長のネリアをふくめ、()()にも注意する必要がある」


 錬金術師たちにはそれぞれ特性があり、独自の考えで動いている。


 グレン・ディアレスから師団長がネリアに代わってからのほうが、より動きが目立つようになってきた。


 それはネリアが引きたてているせいもあるが、もともとグレンに鍛えられていたのだろう。


「冬は魔獣たちもおとなしくなる。ドラゴンを連れて飛ぶとしたらどこがいいだろうか」


 ドラゴンたちが本気で〝狩り〟をすれば地形すら変わるから、王都近辺で行うのは難しい。


 魔獣を狩ったドラゴンたちがその肉を引き裂き、血みどろで王者の咆哮をあげる……感覚共有で竜騎士たちにも伝わるから、そのときの凶暴さは竜騎士ともども人にはみせられない。


「人里離れたところといえば……カレンデュラ山中、エレント砂漠、それか国境にひろがる樹海ですかねぇ」


「王太子のサルジア訪問もあるから、国境地帯を騒がせるのはよくないな……カレンデュラでレビガルを狩るか」


 年明けにでも狩りをおこなうことにして、ライアスは竜舎をでた。





 そのまま中庭を通り王城の通用門にむかってもよかったが、ライアスはなんとなく王城の裏手にある錬金術師団の研究棟へと足をむけた。


 研究棟前のひろばには、先日のゴーレム騒ぎで残された岩の塊がゴロゴロと転がっている。


 ネリアは本格的に研究をしたいらしいから、つぎの師団長会議では議題にのぼるだろう。


(オドゥ……あいつもいよいよ表舞台にたつのか)


 学園を卒業してからというもの、錬金術師団でくすぶっているようにみえた彼も、先日の対抗戦では総大将としてみごとな采配をみせた。


 オドゥ自身はどう考えているかわからないが、ネリアは彼のことをそのままにはしておかないだろう……と思える。


 それは同級生としてうれしい反面、複雑でもあった。


(たぶん俺は、彼女がオドゥを同僚として気にかけることすらイヤなのだろうな……)


 心がせまい自覚はある……だからこそ口にだせないが、こういう感覚は理屈では割り切れない。


 ライアスは研究棟前のひろばに立ち、三階建ての古めかしい研究棟をみあげた。いまは錬金術師たちもおらず、建物はひっそりと静まりかえっている。


 王城の裏手にある研究棟は、もともと建国の祖バルザム・エクグラシアが建てさせた別邸が前身で、王族たちの避難場所というか趣味部屋のようなものだったらしい。


 一階には大きなアトリウムがあり、いまではそこがヴェリガンの研究室になっている。


 初夏にグリンデルフィアレンに覆われてレオポルドの業火に焼かれ、竜騎士団で入り口を破壊した痕跡などどこにも見当たらない。


 ライアスが研究棟をながめていると入り口の扉が静かにあいて、そこから水色の髪と瞳を持つオートマタのソラが顔をだした。

【ライアスについて】

当初、ライアスはダブルヒーローぐらいの感覚で書いていたのですが、書籍発売時ライアスファン(?)の暴走がすごくて。

感想欄で他のキャラをこき下ろすのはまだしも、「イラストレーターをかえろ」だの、作者と交流がある他の作家さんの作品にまで感想でケチをつける……など目に余る行動があり、逆に彼を書きづらくなってしまいました。

「彼みたいな性格のいい男性は、本当にライザ嬢みたいのから好かれるんだ⁉」とあらためてビックリした事件でした。

ライアスは最後まで重要なキャラクターですし、話が煮詰まって死なせたり……とかはないので、その点はご安心を。

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