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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる
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40.ネリモラの花飾り

さあ、ライアスのターン!(違

 待ち合わせはわたしでも分かる場所にして、と頼んだら王城前の広場になった。


 広場に着いてから『時計台の前に居るね』と『エンツ』を送る。


 今日のわたしはいつもの動きやすい簡素なチュニック姿は封印。『ニーナ&ミーナの店』で購入したミントグリーンのストライプのワンピースに、ストラップつきのサンダルだ。


 服も可愛いうえにサンダルも軽くて履きやすいし、こんな女の子っぽい格好をするだけでもテンションが上がるのに。


 十七歳の時にデーダスに飛ばされてから、グレンの元で過ごして三年。よく考えたらわたし、大人の男の人とこういうデートっぽい『おでかけ』って……はじめてじゃない⁉︎


 ちょっと待って!


 意識したらなんか凄く恥ずかしいんですけど⁉︎


 あわあわしていたら、向こうの方で歓声と人だかりがしている。何かな?と注意を向けたら、「失礼、通して下さい」とか言いながらその人だかりをかき分けて、精悍な顔立ちの金髪の美丈夫が、現れた。


 ライアスはわたしを見つけると、晴れやかな笑顔を見せてこちらに歩いてくる。


「きゃああ!あれライアス様よ!」


「ちょっと!こっちに歩いてくるわ!」


「えっ!どうしよう⁉︎」


 わたしの周りの女の子達がにわかにパニックになり、騒めきはじめた。


 ライアスは、そんな女の子達には目もくれずまっすぐ進み、わたしの前に立つ。


「すまない、待たせたか?人ごみを抜けるのに手間取ってしまった」


 眉尻を下げてライアスがわたしに向かって手を差しだした瞬間、周りの女の子達から悲鳴が上がる。


 失敗した!もっと目立たない場所にすればよかった!


 よりによって、待ち合わせスポットと思しき『時計台の前』なんて!わたしの馬鹿!


「ネリア?」


「えっ!ああ、あの、外では『ネリィ』でお願いします」


「了解した……『ネリィ』」


 とろけるような笑みを浮かべたライアスの手を取ると、またもや周囲から悲鳴が上がる。どうすりゃいいのよ!


「驚いた……ライアス、凄い人気だね」


「今日は休日で人出も多いからな……なるべくすいているルートを行くつもりだから」


 今日のライアスは私服で、ラフな生成りのシャツに茶のスラックス姿で腕には麻のジャケット。最近王城で見かける時は、きちんと髪を撫でつけた騎士服姿だったから、久しぶりに髪を崩しているライアスを見るのも新鮮だ。


 うわぁ……めっちゃ格好良い!


(落ち着け、わたし!これは王都見物!おのぼりさんへの観光案内なんだから!)


 さっきまであちこちから話しかけられて、ライアスは歩くのもままならなそうだったのに。


 彼がわたしのエスコートをはじめた途端、さーっと人垣が割れるように道があいた。


 話しかけられることはなくなったけれど……かわりに視線が……視線が……もの凄く痛い!突き刺さる!


 うわぁあああ!メロディが言っていたのはこれかぁ!ライアス・ゴールディホーンの隣がこんなわたしでごめんなさい!ただの同僚なんですよぉ!


「『ネリィ』の威力は凄いな!とたんに歩きやすくなった」


 ライアスはそうした視線は意に介さず、広場をまっすぐ進んでいく。見られる事に慣れた人なのだろう。わたしは全然慣れてないけど!


 しかも歩調はゆっくりとわたしのペースに合わせてくれて。えぇ……ゆっくりと……合わせてくれて……広場引き回しの刑のようです……おおぅ……早くこの場を抜けだしたい。


「あ」


 何かを思いだしたように、ライアスは立ち止まり、それから、困ったようにこちらを見下ろした。


「俺は今日の貴女が素晴らしく美しくて、いつもの可愛らしさに加えてさらに魅力的だと言ったかな?無作法な男で申し訳ない……」


 ここでまさかの褒め殺し⁉︎わたし、今間違いなく赤くなってるよ!顔あついもん!


「いえっ!わたしもライアスに、『凄く素敵で格好いい!』ってまだ言ってなかったから……」


「ありがとう!『ネリィ』にそう言ってもらえるなんて光栄だ」


 碧い瞳を細めてくしゃっと破顔したライアスは……うわぁ、太陽みたい。うん、わたし緊張してるね……数年ぶりにワンピースを着たからなのか、ライアスが格好いいからなのか……全部だな。


 けれどライアスを見上げたら、本当に楽しそうに笑っている。その笑顔を見ていたら、わたしもだんだん緊張がほぐれてきた。


 そうだね、楽しまなきゃ。


「一番街は官公庁が多いから殺風景なんだ。二番街は金融街だから同じく……『ゴブリン金庫』は見応えがあるけどね」


「『ゴブリン金庫』!へぇぇ……」


「ネリィなら興味を持ちそうだな!三番街から六番街までは商業区域になっていて……」


「ちょいとお兄さん!」


 突然呼びかけられて振り向くと、花車を押したおばあさんがニコニコと笑っていた。


「彼女、まだネリモラの花を身に着けてないじゃないか!おひとつどうだい?」


 花売りのおばあさんは、小さな花飾りを差しだしてきた。白くて小ぶりな、甘い爽やかな香りがする花を束ねてある。


「そうだな、ひとつ……いや、二つ貰おう」


「!……おやおや、二つとはご馳走様!さぁどうぞ!お兄さんの手で飾っておあげ!」


「ネリィ、つけてもいいか?」


「えっ?はい」


 ライアスは慎重な手つきで花飾りを、ひとつは髪に、もうひとつは胸元につけてくれる。周りの女の子達から悲鳴が上がる。うん、いちいち格好いいよね。花飾りからはふわりと優しい香りがした。


「ネリィの髪に、この白い花は映えると思ったんだ」


 にこやかに笑うライアスの横から、おばあさんが手鏡を差しだして見せてくれた。


 おお、可愛い!メロディ達が「アクセサリーはつけていかない方がいい」とアドバイスしてくれたのは、このためか。花で身を飾る習慣があるんだね。


「ありがとう!ライアス!」


 わたし達が立ち去ると、花車の周りはあっという間に人だかりができた。


「今の!今の花をわたしにも!」


「わたしも!」


 今日はネリモラの花を身に着けた人でいっぱいになりそうだ。わたしはライアスと顔を見合わせて笑いあった。


 初めてのシャングリラ、背筋を伸ばして堂々と歩こう。


 さぁ、どこに行こうか。

傍から見たら「どう見てもそれ、デートだろう!」…と思うような『王都見物』をお送りしております…。

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