40.ネリモラの花飾り
さあ、ライアスのターン!(違
わたしでもわかる場所にしてと頼んだら、待ち合わせは王城前の広場になった。
広場に着いてから「時計台の前にいるね」とエンツを送る。
今日はいつもの動きやすい、簡素なチュニックは封印。〝ニーナ&ミーナの店〟で購入したミントグリーンのストライプのワンピースに、ストラップつきのサンダルだ。
服もかわいいし、サンダルも軽くて履きやすい。こんな女の子っぽい格好をするだけでも、テンションが上がる。
「おかしくないかな?」
ちょっとソワソワして落ち着かない。十七歳のときにデーダスへ飛ばされてから、グレンと暮らして三年。よく考えたらわたし、大人の男の人とこういうデートっぽいおでかけって……はじめてでは⁉︎
ちょっと待って!
意識したらなんかすごく恥ずかしいんですけど⁉︎
あわあわしていたら、向こうから歓声が聞こえ、人だかりがしている。
「何かな?」
すると「失礼、通して下さい」とか言いながら、その人だかりをかきわけて、精悍な顔立ちの美丈夫があらわれた。陽光に輝く金髪がまぶしい!
わたしを見つけたライアスは、晴れやかな笑顔を見せて、まっすぐこちらに歩いてくる。
「きゃああ!あれライアス様よ!」
「ちょっと!こっちに歩いてくるわ!」
「えっ!どうしよう⁉︎」
わたしのまわりでも女の子たちが大騒ぎして、パニックになりはじめた。
そんな彼女たちには目もくれず、ライアスはずんずん歩いてわたしの前に立つ。
「すまない、待たせたか?人ごみを抜けるのに時間がかかった」
大きな手がわたしへと手を差しだされた瞬間、まわりの女の子たちから悲鳴が上がる。
失敗した!もっと目立たない場所にすればよかった!
よりによって、待ち合わせスポットの時計台前なんて!わたしのバカ!
「ネリア?」
「えっ!ああ、あの、外では『ネリィ』でお願いします」
「了解した……ネリィ」
ライアスがとろけるような笑みを浮かべるだけで「キャー!」と悲鳴があがり、その手を取ると「イヤアァー!」とさらに甲高い悲鳴がする。どうすりゃいいのよ!
「おどろいた……ライアス、すごい人気だね」
「休日で人出も多いからな……なるべくすいているルートを行くつもりだ」
私服を着た彼は、いつもの髪をきちっと整えた騎士服姿と違い、髪を崩している。ラフな生成りのシャツに茶のスラックス、腕には麻のジャケット。
うわぁ……めっちゃ格好良い!
(落ち着け、わたし!これは王都見物!おのぼりさんへの観光案内なんだから!)
さっきまであちこちから話しかけられて、ライアスは歩くのもままならなそうだったのに。
彼がわたしのエスコートをはじめたとたん、さーっと人垣が割れるように道ができる。
話しかけられることはないけれど、かわりに視線が……視線が……もすごく痛い!突き刺さる!
うわぁあああ!メロディが言っていたのはこれかぁ!ライアス・ゴールディホーンの隣がこんなわたしでごめんなさい!ただの同僚なんですよぉ!
「ネリィはすごいな!とたんに歩きやすくなった」
そうした視線は気にならないようで、ライアスは広場をまっすぐに進んでいく。見られることに慣れているのだろう。わたしはぜんぜん慣れてないけど!
しかも歩調はゆっくりとわたしのペースに合わせてくれる。
ゆっくりと……合わせてくれて……広場引き回しの刑のようです……おおぅ……早くこの場を抜けだしたい。
「あ」
何かを思いだしたのか、ライアスは立ち止まって、困ったようにこちらを見下ろした。
「俺は今日のあなたが素晴らしく美しくて、いつものかわいらしさにくわえ、さらに魅力的だといったかな?無作法な男で申し訳ない……」
ここでまさかのホメ殺し⁉︎わたし、今間違いなく赤くなってるよ!顔あついもん!
「いえっ、わたしもライアスに、『すごくステキでかっこいい!』ってまだ言ってないし……」
「ありがとう。ネリィにそういってもらえるなんて、とても光栄だ!」
夏の青空のような澄んだ青い目を細め、くしゃっと照れたように笑うライアスは……うわぁ、太陽みたい。うれしいけど、緊張してしまう。数年ぶりにワンピースを着たせいか、ライアスがかっこいいせいか……全部だきっと。
けれど見上げるライアスは、本当に楽しそうに笑っている。その笑顔を見ていたら、わたしもだんだん緊張がほぐれてきた。
そうだね、楽しまなきゃ。
「一番街は官公庁が多いから殺風景なんだ。二番街は金融街だから同じく……ゴブリン金庫は見応えがあるが」
「ゴブリン金庫!へぇぇ……」
「ネリィなら興味を持ちそうだな。三番街から六番街までは商業区域になっていて……」
「ちょいとお兄さん!」
とつぜん呼びかけられて振り向くと、花車を押したおばあさんがニコニコと笑っていた。
「彼女、まだネリモラの花を身に着けてないじゃないか!おひとつどうだい?」
花売りのおばあさんは、小さな花飾りを差しだしてきた。白くて小ぶりな、甘い爽やかな香りの花を束ねたものだ。
「そうだな、ひとつ……いや、ふたつもらおう」
「!……おやおや、ふたつとはごちそう様!さぁどうぞ!お兄さんの手で飾っておあげ!」
「ネリィ、つけてもいいか?」
「えっ?はい」
ライアスは慎重な手つきで花飾りを、ひとつは髪に、もうひとつは胸元につけてくれた。まわりの女の子たちから悲鳴があがる。
かわいい花飾りからは、ふわりと優しい香りがした。
「ネリィの髪に、この白い花は映えると思ったんだ」
うん、いちいち格好いいよね。にっこりしたライアスの横から、おばあさんが手鏡を差しだして見せてくれた。
「おお、かわいい!」
メロディたちが「アクセサリーはつけていかないほうがいい」とアドバイスしてくれたのは、このためか。花で身を飾る習慣があるんだね。
「ありがとう!ライアス!」
わたしたちが立ち去ると、花車はあっというまに押し寄せた人で埋もれた。
「いまの!いまの花をわたしにも!」
「わたしも!」
ネリモラの花飾りを着けた人で、広場はいっぱいになりそうだ。わたしはライアスと顔を見合わせて笑った。
はじめてのシャングリラ、背筋を伸ばして堂々と歩こう。
さぁ、どこに行こうか。
傍から見たら「どう見てもそれ、デートだろう!」…と思うような『王都見物』をお送りしております…。









