39.ニーナ&ミーナの店
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メロディは、すぐにでも店を閉めてでかけようとしたけれど、わたしは商売の邪魔はしたくないと断り、閉店まで魔道具を眺めながらゆっくり過ごす。
そして閉店後、メロディと一緒に五番街にあるという『ニーナ&ミーナの店』へ向かった。
実用的な物が揃っている三番街とは違い、五番街は言わば王都のファッションストリート。服の他に、帽子や靴、鞄などの小物も扱う店も揃っていて、道行く人たちのよそおいも華やかだ。
『ニーナ&ミーナの店』は五番街の通りに面した店舗の二階にあり、横に小さな看板を掲げた、人ひとり通れるほどの、狭い階段を上った所にあった。
看板も小さくて目立たないし、ひとりで来ても絶対見つけられなかったろう。連れてきてくれたメロディに感謝だ。
「絶対ネリィも気に入ると思うわ!こんばんはぁ!……突然、悪いわね!ニーナ、ミーナ!」
奥から顔立ちのよく似た、黄緑の髪の女性がふたり出てきた。
「「いらっしゃい!」」
二人はわたし達を迎え入れ、さっと店のドアに『閉店』の札をかけると、「今日はもう貸し切りよ」とほほ笑んだ。
ニーナさんとミーナさんは姉妹でお店をやっているらしい。背の高い方がニーナさんで、低い方がミーナさん。
主にニーナさんが服を作り、ミーナさんが靴やバッグ、帽子などの小物を作っているそうだ。
「メロディから『エンツ』が来て興奮しちゃったわ!」
「この子がお相手ね、あら可愛い」
「ネリィよ。魔力持ちだから貴女達のお店の服も着こなせると思って連れてきたの」
とりあえずわたしは、デートといっても王都を案内してもらうだけであること、エルリカの郊外の辺境のデーダス荒野からでてきたばかりで、新しい服が欲しいことを説明する。
ニーナさんとミーナさんはわたしをじーっと食い入るように見つめると、目をキラキラさせて一緒に話しだした。
「純朴ね……素敵!」
「なんて華奢なの!」
「しかも可憐だわ!」
「おうちに持って帰りたい!」
メロディが叫ぶ。
「ちょっと!ネリィはあたしが見つけたんですからね!」
「わかってるわよぅ……でもこういう子を選ぶって……ライアス・ゴールディホーンの好感度が上がったわ」
「やるわね……ライアス・ゴールディホーン」
「時間があればイチから仕立てたいとこだけど……」
ニーナさんが何点か見繕ってくれる。
「小柄だから、華奢さを引き立てる装いがいいと思うのよね。ミントグリーンのストライプにレースの飾りをつけた可愛いワンピとか、サンセットオレンジのお洒落なツーピースとかどうかしら」
わたしの髪や瞳の色に合わせて選んでくれたらしい。
そのうちのひとつ、ミントグリーンのストライプワンピの試着をさせてもらった。ふわりと翻るスカートが風にそよいで涼し気だし、襟のレースも上品でとても可愛い。
共布のベルトがついていて、裾には細かい術式の刺繍が模様のようにしてあり、風が吹くとさわやかな香りがする。でもちょっと恥ずかしい。わたしが黙っているものだから、ニーナさんが心配そうに眉を下げた。
「どうかしら?気に入らない?」
「いえ……スカートを穿くのが数年ぶりなので……」
照れてからニーナさんとミーナさんの方を見ると、二人で手を取り合ってぷるぷる身を震わせている。
「か、可愛い……」
「何なの、この可愛さ!おうちに持って帰りたい‼︎」
メロディが叫ぶ。
「ダメよ、二人とも!ネリィを見つけたのはあたしなんですからね!」
ミーナさんは靴をだしてきた。
「小柄だから、ヒールはあった方がいいわね……足首がストラップになっている素敵なサンダルがあるの!ちょっとお高めだけど、どれだけ歩いても靴ずれしない術式が仕込んであるのよ!」
「ホントだ!羽のように軽いです!」
メロディの方を見ると、彼女は自分の事のように得意そうに笑っている。
「すごいでしょ?ニーナとミーナの作る服は、術式が仕込んであってそれ自体が魔道具なの!その分、着る人を選ぶんだけどねー」
「すごい!」
店内に置いてある服もよくよく見ると、『汚れ防止』や『交通安全』といった術式が細かい文様のように刺繍してあり、糸の色といい、綺麗な装飾になっている。うわぁ、これは面白い!
「そうよぉ、『胸がどう見ても大きく見える服』とか、『足がどう見ても長く見える服』とかいろいろあるけれど、ライアス・ゴールディホーン相手には素材そのままで勝負したいわね!」
「小細工なしね!素敵!最高だわ!」
ニーナさんとミーナさんは興奮してきたのか、ふたりで盛り上がっている。
「でも相手がネリィみたいな子で良かったわぁ……ほらライアス・ゴールディホーンと言ったら、ライザ・デゲリゴラル嬢と婚約間近だっていうウワサだったじゃない?」
「えっ⁉︎」
「ミーナ!余計なこと言わないの!」
「そうよ、どうせそれライザ側の流した情報でしょ?竜騎士団長を囲いこもうと必死なのよ」
「ネリィは気にしなくていいからね!」
「はぁ、まぁ……」
気にするも何も、わたしもライアスとおつき合いしてるわけじゃないからなぁ。んん……でも、ちょっとだけもやっとする?
他にもお店には『着るとシャッキリするブラウス』とか、『雨除けがついている傘いらずのワンピース』とか『着ると眠くなるパジャマ』なんかがあって。
魔道具になっている服が面白くて、日常で着る服も何点か買い込んだら、結構な量の荷物になってしまった。
「どうするネリィ?送ってもらう?」
「あ、大丈夫です。カバンに入りますから」
わたしはデーダスを旅立つ時に持ってきた、小さな布製の肩掛けカバンを取り出した。帆布のような生地を自分で縫い合わせて作った、シンプルなものだ。
わたしがカバンに買った服を詰めだすと、三人の目がいきなりキラリと光った。
「ねぇ……それ魔道具よね?」
「ネリィの手作り?」
「……素敵……」
「えっ?はいそうです。空間魔法の応用で収納力をアップして……」
ミーナさんがずいっと身を乗り出してくる。
「ネリィ!その術式、教えてもらえないかしら!」
「うちで作る鞄に組み込みたいわ!」
「えっ、ええっ⁉︎でも空間を拡げるのに結構魔力を使いますよ?」
「収納力はそんなに高くなくてもいいのよ。そうね……大きなトランクひとつ分、七泊八日用の荷物が入る程度ならどう?」
「三泊四日用とかでもいいわ!」
「ああ、それなら使う魔力も少なくてすみますね……いくつか術式を書き換える必要はありますが」
我慢できなくなったメロディが口を挟む。
「その鞄、できあがったらうちの魔道具店でも扱わせてもらうわ!絶対よ!」
「じゃあメロディのお店とうちの店の独占販売ってことで!」
「契約書!契約書作りましょ!今度、皆で魔道具ギルドに行きましょ!」
きゃいきゃいと騒ぐ三人の勢いに押されて頷いてしまったけど、数日中に術式を書き直して組み立て直す約束と、ついでにわたしも新しい鞄ができたら、ちゃっかり貰う約束をした。
だって可愛くてお洒落な収納カバンって……あったら最高じゃない?
ありがとうございました。












