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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪
過去編 レイメリアと魔術師の杖

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388/560

388.アーネストとリメラ(過去編その2)

学園の卒業パーティーでアーネストががんばる話。

リメラの惚気というより、アーネストの惚気です。

 魔術学園の講堂でおこなわれた卒業パーティーで、紺色をした学園生のローブを脱いだ女生徒たちは、色とりどりのドレスを着ていてとても華やかだった。


 ちなみに今夜のリメラはクリーム色に若草色のラインがあしらってあるドレスで、榛色の髪と琥珀の瞳を品よくひきたてていた。


 きれいに飾りつけられた会場で、ちゃんとレイメリアはリメラとアーネストを踊らせてくれた。


「私のどが渇いちゃったわ、リメラ……アーネストの相手をお願いできる?彼を逃がさないようにしっかり見張っててちょうだい!」


「え?ええ……」


 アーネストとは一曲踊っただけで、レイメリアはリメラに押しつけるようにしていなくなった。


 手に汗かいてるのがバレないようにしないとヤバい……アーネストは深呼吸して手を差しだした。


「お手をどうぞ、リメラ」


 リメラの手をとって遮音障壁を展開すると、琥珀の瞳をもつ彼女は目をみひらいて肩をビクッとふるわせた。


 アーネストは彼女を安心させるように笑ってみせたが、野獣が牙をギラッと光らせたみたいになったのは、きっと本人のせいじゃない。


「内緒話をするときは、王族は遮音障壁を使うんだ。いっつもレイメリアのわがままにつきあわされて、リメラは大変じゃないか?」


 話のネタが従妹というのは何とも情けないが、リメラははにかむようにほほえんで首を横にふった。


「そんなことないわ。私が落ちこんでいるとレイメリアがいつも元気づけてくれるの。ああみえて彼女、とっても優しいのよ」


(声までかわいい……)


 俺もこんな風に「優しい」っていわれたい!女の子だってだけでリメラにくっついて、ベタベタできる従妹が心底うらやましかった。


 そしてレイメリアはというと、魔道具師になるアイシャと話しているようで、こちらと目が合えばウィンクだけして返された。


 だから曲が変わってもアーネストは、リメラを放さなかった。


(ええと……まずはドレスと髪飾りをほめて、それからもちろん彼女の瞳をほめて、あとはこんど花飾りを贈らせてくれって……)


 頭のなかで必死にしゃべる言葉を考えるのに、カチンコチンになった口は固まって動かない。


(しっかりしろ、まずは『かわいい』っていうんだ。話はそれからだ!)


 口をひらいて話しだそうと息を吸った瞬間、伏し目がちなままアーネストにリードされていたリメラが話しかけてきた。


「あの……」


「きゃふぃっ、は、な、何?」


 いいかけた言葉は形にならなくて、聞きかえせばどもった。リメラはパチパチとまばたきをして、遮音障壁の内側だというのに小さな声をだす。


「レイメリアが……」


 また従妹の話だった。けれど……アーネストは聞こえてきた内容に自分の耳を疑う。


「レイメリアが『アーネストが好きなのはあなたよ、リメラ』といつもいうのだけど、それは誤解だって彼女にちゃんと伝えてほしいの」


「ご、誤解……?」


「ええ、そう」


 リメラは真面目な顔でこくりとうなずく。


「彼女はほかに好きな人がいるから、代わりに私を……って思ったみたいだけど、あなたにはもっとふさわしい人がたくさんいるわ」


(もしかして俺の気持ち……まったく伝わってない?)


 レイメリアはアーネストの気持ちをリメラに伝えてくれていたし、王族が暮らす奥宮へも彼女を連れてよく遊びにきていた。


 アーネストだってリメラと何度も話をして、うなずいて恥ずかしそうに返事をする彼女に、嫌われてはいなそうだからイケるかも……ぐらいの気持ちでいた。


 何ならレイメリアというお邪魔虫がいるものの、王城でリメラとデートしているつもりだった。


 ――何にも伝わっていなかった!


 どんな話をしたっけ……と考えて、アーネストはいつもリメラの顔やしぐさにみとれて、彼女の声を聞くだけで満足していて、彼女が話した内容を何にも覚えていないことに気がついた。


 つまり彼はリメラの話をまったく聞いていなかった。


『私のかわいいリメラとつきあおうなんて、アーネストには百万年早いわ』


 ――レイメリアのいった通りだった。アーネストはサーッと血の気がひいた。





 愕然として立ち直ったあと、アーネストの行動は素早かった。


「リメラ、誤解しているのはきみだ。俺はまちがいなくきみが好きで、俺がたのんでレイメリアにきみを王城に連れてきてもらってたんだ」


 おどろいたように目をみひらいたリメラに、アーネストはさらにたたみかける。


「きみは俺のことどう思ってる?少しは好かれてると思っていいのかな?」


「ええと……」


「俺のこと嫌い?」


 幸い曲は三曲目にはいった。ダンスぐらいは体が覚えていて、何も考えなくとも自然なリードができる。


 アーネストはこの曲のあいだに、答えを聞くつもりで眉をさげた。そんな彼のようすにリメラは困ったような顔でほほを染めて、小さな声で返事をした。


「……嫌いじゃないわ」


「好き……とはいってくれないの?」


「声が大きいところは好きよ。遠くからでもあなたがいるってよくわかるもの。それに強いのに偉ぶらないところ。あと……」


 ――そんなにいっぱいあるんだ。リメラから自分の好きなところを聞かされて、アーネストは天にも昇る心地だった。けれど……。


「レイメリアにやりこめられて、アワアワしてるとこ……かわいいと思うわ」


 ようやくクスッと笑ってくれたリメラに、アーネストのテンションは爆上がりした。


(あああ、やっぱかわいいいぃ!)


 もう、このままさらってしまいたい。しかもアーネストのこと「かわいい」っていってくれた!やっぱりレイメリア絡みだけど!


(待て待て俺!あせるな、落ち着け……まだ肝心の返事を聞いてない!)


 アーネストは必死に心を落ち着けて、言葉をしぼりだした。声は震えるし、もう手は汗でびっしょりだ。アーネストのそれはぜんぶリメラにも伝わってるだろう。


 リメラはとまどうような、心配そうな顔をして彼をみかえしている。


「じゃ、じゃあ……俺のこと好き?」


 リメラがまばたきをすると琥珀色の瞳が魔導シャンデリアにきらめいて、アーネストはその輝きをうっとりとみつめた。死ねるものならいま死にたい。


 愛する女性をこの目に映し、彼女からもみつめられてその手にふれて……人生が終わるならいまこのときがいい。


 そんな気持ちになっていたアーネストは、リメラのささやきをうっかり聞きのがすところだった。


「あなたのこと……好きになってもいいの?」


 ――好きになってもいいの……?


 ――好きになってもいいの……?


 ――好きになってもいいのおおぉ……⁉


 一瞬おくれて彼女の言葉をそのまま脳内で再生し、アーネストは絶叫した。もちろん実際には叫んでいない。


(かっ、かわいすぎるだろおおおぉ!好きだとかじゃなくて、『好きになってもいいの?』って!『好きになってもいいの?』ってええぇ!)


 リメラは真剣に彼をみつめて返事を待っている。硬直していたアーネストは必死に自分を激励した。


(返事、俺、返事いいぃ!)


 背筋をぐっと伸ばし、表情筋を総動員して精一杯カッコよくいった。手汗すごいけど手袋でどうか気づかれないでほしい!


「もちろん、俺を信じてほしい」


 まだリメラはためらっていた。けれど決意したように唇をきゅっとかみしめてから、彼の目をみて答えてくれた。


「……信じるわ」


 アーネストからは彼女の琥珀色をした瞳が、金色に輝くようにみえた。彼の手にそえられた手に、ギュッと力がこめられる。


 曲が終わりアーネストは遮音障壁を解いて息をつく。周囲のざわめきが自分たちのまわりにもどってきた。


 ふと視線を感じてアーネストが顔をあげれば、赤茶色の髪に黄緑の瞳……鮮やかなターコイズブルーのドレスを着たレイメリアと目があった。

遮音障壁を使うところは息子そっくりだけど、息子のほうがスマート。

次回は『レイメリアと杖』です。

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