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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる
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38.メロディ・オブライエンの魔道具店

メロディ・オブライエンて誰?と思う方は第7話辺りをご覧下さいませ。

 王都シャングリラの三番街、その端っこにメロディ・オブライエンの魔道具店はある。


「店主さん、夫へのプレゼントにこの『噛みつく財布』が欲しいんだけどね……」


「ハイ、『無駄遣い防止機能付き』の物ですね……『噛みつく』金額と用途を細かく設定できますよ?……ハイ、じゃあそれで術式を組み込みますね……お色はどうされます?」


 店の中には、『欲しいだけの水を注いでくれる水差し』『飼い猫とおしゃべりができる首輪』『呼びかけると返事をするキーホルダー』、きっちり寝たい時間だけ眠らせてくれる『眠らせ時計』など、あると便利だな、と思う魔道具が所狭しと並んでいる。


 午前中や昼休みの時間帯は、駆け込みの修理の依頼で忙しく、夕方の帰宅時は魔道具を購入する客で混み合うらしい。


「ネリア!よく来てくれたわねー!」


 昼下がりに店を訪ねたわたしを、メロディは笑顔で迎えると、奥の工房に案内してくれた。


「散らかっててごめんねー、適当にその辺にかけて」


 奥の工房は、コンパクトながら使いやすく整理整頓されていて、大きな物は魔道具ギルドの工房を借りる事もあるそうだが、ちょっとした修理ならそこでできるようになっていた。


 壁の棚には『修理待ち』や『修理済み』の札をつけた魔道具が、幾つも並んでいる。


「ねね、これ、ネリアでしょー?」


 休憩がてら淹れたお茶を手に、工房の椅子に腰を落ち着けながらメロディが見せてくれたのは、王都の出来事があれこれ載っている『王都新聞』だ。


 王都新聞の一面に『赤獅子』とも呼ばれるアーネスト・エクグラシア国王陛下に、王都三師団―『竜騎士団』『魔術師団』『錬金術師団』―がつき従っている写真が載っている。


 それは先日、王城で行われた式典の時の写真で、竜騎士団のいかつい顔ぶれと、魔術師団の錚々たる顔ぶれが並ぶその端っこの方に、ちまっと白いローブの一団が居る。もちろんわたしはグレンの仮面着用中だ。


「ああ、女性達の歓声がもう凄かったです。ライアスもレオポルドも大人気ですね」


「そりゃもう!『金の竜騎士』に『銀の魔術師』、どちらも美形で独身ですものね!へたな俳優なんかよりずっと人気なんだから!二人揃ってアンガス公爵の夜会に出席した時なんか、二人が並んだ写真欲しさに新聞がいつもの五倍売れたらしいわよ!」


「おかげでわたし、目立たなくてすむから助かってます」


「あらぁ?そんな事ないと思うけどなぁ?『錬金術師団』のことも見てる人は見てるし、あの天才グレン老が指名した謎の人物……って魔道具師の会合でも話題にでたわよ?」


 メロディは、カップ越しにウィンクしてくる。


「ネリス師団長が仮面を取ったらこんな可愛い女性なんだ……って知ったら皆大騒ぎでしょうね」


「自由に街歩けなくなるんで、顔バレはしたくないですね……」


「ふぅん?じゃあ普段はネリアの事は、『ネリィ』って呼ぶことにするわね」


「助かります」


 基本、わたしが仮面を外すのは『研究棟』の中のみ。『研究棟』をでる時は仮面をつけ、極力しゃべらない。


 幸い『錬金術師団』は他の二師団に比べて花形とはいえないうえに、クセの強い面子が揃っていると思われているから、遠巻きにされ必要以上に近寄られることもない。


 先日のグリンデルフィアレンごと『研究棟』を燃え上がらせた一件は、王城内に箝口令が敷かれ、外に漏れることはなかったため、『錬金術師団』の最近のニュースは、『先代の師団長の死去に伴い、ネリス新師団長が就任』という、一行で終わる地味なもののみだ。


 わたしとしては、顔バレしていないのをいい事に、オフも充実させたい!


 師団長室はソラが居てくれるおかげで抜群の居心地だけど、せっかく王都に居て、休みも部屋にこもりきりとか悲し過ぎる!


 やるぜ、街歩き!


 やるぜ、美味いものめぐり!


 行くぜ、メロディさんのお店!


 それに、新しい服も買いたかった。


 三年間デーダスでグレン爺と暮らしていた頃は、着ざらしでも気にならなかったけど、ここは王都!街を歩いている女の子達も皆お洒落で可愛い!


「そうそう、今度ライアスが王都を案内してくれるので、新しい服を買いに行こうかと……」


「ライアスですって!?」


 ぎゅいん!と振り向いたメロディの勢いに押されて、わたしはのけぞった。


「ライアスって、あのライアス・ゴールディホーン⁉」


「そうですけど……」


 メロディは自分の頬に両手をあてて、目を輝かせる。


「まぁ!まぁまぁまぁ!あの出会いからいつの間にかそんな事になっていたのね!」


「あの、メロディ、さん……?ライアスにとって、わたしはただの同僚ですから……」


 ライアス、いい人だし、王都にはじめて来たおのぼりさん状態のわたしを気遣ってくれたのだと思う。いつとは言ってなかったけど、先日の会議の帰りにも「覚えているか?」と念を押されたから、誘われたのは間違いないと思うけど。


「『ネリィ』……そりゃ王城には『ただの同僚』なんてわさわさ居るでしょうけどね……ライアス・ゴールディホーンに誘ってもらえる『ただの同僚』なんて、私の知る限り今までひとりも居ないわよ!」


「はぁ……」


「それなら『勝負服』が必要ね!」


「えっ!そこまで気合入れなくても……」


 別に夜会などに行くわけではない、王都を案内してもらうだけだ。さすがに着ざらしではマズいけど、清潔感があって街で浮かない程度に流行りを押さえていればいいのでは?


「甘いわよ、ネリィ!ライアス・ゴールディホーンとでかけてご覧なさい、『隣に居るあのオンナ何⁉︎』って大騒ぎになるわよ!」


「えっ!ちょっとハードル高すぎませんか⁉︎ライアスの隣に並んで遜色ないのって、レオポルドぐらいしか居ませんよ!」


 むしろ『ただの同僚です』って名札があるとしたら、それをつけて歩きたい。


「それは同意するけど!ああもう、そういう事じゃないの!ライアス・ゴールディホーンの隣に居るのが、『彼女なら仕方ない』って思える相手か、『何なのあのオンナ』って思ってしまうような相手かによって、全然違ってくるんだから!」


「えええ⁉︎」


「これはね、戦争なの!『仁義なき女の戦い』が始まるのよ!」


『仁義なき女の戦い』⁉︎怖い!怖いよそれ!


「ああもう、こうしちゃいられないわ!『エンツ』!」


 メロディはパチンと指を鳴らすと、『伝言』の呪文を唱えた。


「ニーナ!ミーナ!今夜店開けといてくれる?あたしの可愛い友人に、とびっきりのデート服を見繕ってちょうだい!」


 メロディはすぅ、と息を吸った。


「相手はあのライアス・ゴールディホーンよ!」


 悲鳴のような歓声とともに、ニーナさん達の返事はすぐに返ってきたのだった……。

ありがとうございました。

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