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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪
第九章 デーダス荒野のネリア

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377/560

377.工房のふたり

ブクマ&評価ありがとうございます!

編集部へのお便りもよろづ先生と読ませていただきました!

感謝感激です!

 刻々と数値がかわる魔流計の前にたち、彼は長い指でゆっくりと魔法陣の術式をなぞった。


 グレンに似せて髪をふぞろいにしたくせに、後ろ姿の彼は猫背じゃないからちっとも似ていない。


「これほどの設備は王都にもない。この装置全体が巨大な治癒魔法をおこなう魔道具ともいえる。細胞の活動を活発にして組織の再生をおこなうなど、医術師が何年もかけて磨く技術だ。触媒は何を用いたのか……」


 彼がつぶやく言葉は耳慣れない呪文のようで。三年間わたしにとって世界のすべてであった場所に、異分子のように彼が紛れこんでいることがふしぎだった。


 すべてを引き継ぐべきなのは彼だったと思えるのに、この空間においてどこまでも異質な存在。


 レオポルド・アルバーンはやはり、錬金術師ではなく魔術師なのだ。


「魔術学園の教師どもがみたら腰を抜かすだろう。グレン・ディアレス、天才と呼ばれても尊敬には値しないと思っていたが、これはあまりにも人間離れしている。やつの術を間近でみることができたら、だれもが心動かされるだろう」


「レオポルドも心動かされる?」


 レオポルドは無言になって、もういちど工房を見まわした。


「ああ、鳥肌が立った。グレンはここで何をしようとしていた」


 ようやくこちらをむいた彼の、黄昏色をした瞳は複雑な色を帯びていて。


「少しだけ疑った……お前は私の母親かもしれないと。あいつがやろうとしたのはレイメリアの復活か?」


「ちがうよ、色や背格好が似ているだけ。グレンが……彼がやろうとしたのはちがう」


 けれど似ているから選ばれたのだとも思う。異界の門をひらいた隙間からこぼれ落ちた、再生するだけの力と意志を持った肉体。


 バスの事故は偶然なのか必然なのか、魔素との親和性を高めるペリドットは用意されていた。


 召喚すらも命がけで、この世界に定着させるために、わたしと星の魔力をつなげる魔石も存在していた。


 グレンは〝レイメリア〟を、とりもどそうとはしなかった。


 わたしはグレンの命を賭けて、レイメリアの魔石まで利用して創られた。いくつもの偶然が重なって生まれた、たったひとつの奇跡。


 ただこの世界に在るために、わたしはどれほどの労力と素材をつぎこまれたのだろう。すべては目の前にいる彼のものだったのに。


 止まってしまった時間、失ってしまった魂、ふれることのない指先……。


 いまはもう〝レイメリア〟という存在はなく、ただ心臓に埋まった魔石から波動が伝わってくる。わたしはキュッと唇をかみしめてから口をひらいた。


「グレンは、オドゥの研究を手伝っていたの。彼の『家族をとりもどしたい』という願いをかなえるために」


 レオポルドが意外そうに眉をひそめた。


「グレンがオドゥを手伝っていた……ここでか?」


「そう、オドゥは家族をとりもどすために錬金術師になった。けれど研究棟にやってきた彼はまだ未熟で、グレンは彼を錬金術師として育てることにしたのだと思う。きっと彼は熱心ないい生徒だったのよ」


 わたしは机の天板をなでる。グレンひとりに机はふたつもいらない。


 これを使ったのはきっとオドゥ。彼はわたしが思うよりずっとグレンのすぐ近くにいた。彼の教えを聞いて指示に従って。


 レオポルドは真剣に考えこむような表情になった。


「いい生徒か……そうだろうな。だがその話はあいつから聞かされていない」


「親子ではないけれど、オドゥとグレンはいい関係を築いていた。グレンが工房を手伝わせるぐらいには。ふたりは協力して〝死者の蘇生〟をやろうとしたの」


「…………」


「それをおこなうためには、魂をいれるための〝器〟がいる。わたしはそのための被験者、必要なのは体だけだった」


 異世界からきたということは伏せた。


「なのにわたしはグレンに助けられ、ボロボロだった体は修復された。〝ネリア・ネリス〟はたしかに『創られた』といえるかもしれない」


 一歩、また一歩彼に近づく。手を伸ばせば届く距離まで。またあのときみたいに彼はわたしの手を払いのけるだろうか。


 それとも天空舞台で初めて会ったときのように、異形のモノを見るような眼差しでにらみつけるだろうか。


「聞かせて、あなたはわたしを壊す?それとも殺す?」


 銀の髪を持つ美しい人が顔をゆがめた。


「どのようなことになろうと、私はきみのそばにいる」


 そんなことを聞きたいんじゃない、そんなことを言ってほしいんじゃない。


「わたしはあなたに自由でいてほしい。こんな形でわたしにも縛られてほしくない」


「私はそれでかまわない!」


「ごめんなさい、ダメなの。あらためて工房をみて……わたしにもわかったことがあるの」


 伸ばされかけた手を、こんどはわたしのほうから払いのけた。


「わたしにはオドゥが必要なんだって。わたしが()()()であり続けるためには、グレンがいなくなった今、オドゥ・イグネルの協力が必要だと」


 わたしに必要なのは、レオポルドやライアス……ましてやユーリでもなく、オドゥ・イグネルなのだと。


『きみには僕が必要なんだとわかってもらえたらそれでいいよ』


 ようやくわかったよ、オドゥ。


 わたしにはあなたが必要だ。


 グレンの真の後継者……錬金術師、オドゥ・イグネル。


 この工房を使いこなせるのは彼しかいない。

いきなりシリアスぶっこみました……。


8章でイチオシのシーンについてアンケートです。(〆切9月末日)

終わった時にやっておけばよかった、と今頃気づきました(汗

8章でいちばん印象に残っているシーン、好きなシーンは?

1.第281話『知らずの湖』(レオポルド)

2.第304話『中庭で魔獣グルメを』(ライアス)

3.第329話『王都の秋祭り』(オドゥ)

4.第336話『容赦ないヌーメリア』(ユーリ)

5.その他(他にもあればぜひ教えてください!)

作者的には『クオードのとんでもない1日』とか『情熱フルスロットル』なども気にいってますが……。

Twitterでもアンケートをとっていますが、そちらは〆切が早めです。

9章の終わりでも同様のアンケートをとるつもりです。

よろしくお願いしますm(_)m

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