371.ようやく1日が終わりました
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「……レオポルドのなかにあったグレンの印象が変わったってこと?」
この人はどうしてそんなところまで、グレンに似ているんだろう。
そんなこといったら怒られそうだけれど。
「グレンもね……わたしを助けてくれたのは、わたしが『生きたい』といったからだって。でも、グレンが本当にやろうとしていたことは……っ!」
わたしがいおうとしたことは彼に遮られた。
彼の両腕が伸びてきて、次の瞬間には彼の腕にわたしは抱きすくめられていた。
わたしの視界はグレンのローブに覆われて何もみえなくなり、すこしだけ震える彼の声が耳に届く。
「それ以上はいうな。いまはいわなくていい……何があってもそばにいる。だから生きろ」
怖いのは彼もおなじなんだ……自分のコートと彼のローブ越しに彼の存在がしっかりと感じられて、わたしは肩の力を抜いた。
おずおずと自分の腕を動かして彼のローブにギュッとしがみつく。
この世界で生きようと思った。
こうして「ずっとそばにいる」といってくれた彼に、しがみついてもいいのだろうか。
もしも世界にふたりだけだったら……。
「ありがとう……レオポルド」
(そして、ごめんなさい……)
腕のなかから彼をみあげると、黄昏色の瞳はすぐ近くにあった。
「あのときわたしを助けてくれて。それにきょうだって、わたしのためにいろいろしてくれたんだよね。なんだか盛りだくさんで頭が爆発しそうだよ……レオポルドがスケートに挑戦するとか思わなかったし」
「……やる機会がなかっただけだ」
彼はふいっと横をむいたけれど、腕にはしっかりわたしを抱きこんだままだ。
わたしをみていない彼に、自分の笑顔を思いうかべてほしくて声の調子をワントーンあげた。
「うん。勇気がでた……ありがとね」
お礼をいいながら、これは彼にグレンの工房をみせないわけにはいかないだろうなぁ……なんて考えて、心のなかでため息をつく。
彼はずっと……王都にきたときからわたしを観察して、デーダス荒野にくることを決意したのだ。
ごまかしは効かず、わたしも彼の決意に向き合うしかない。
「あのさ……レオポルド」
彼の腕がきつくなったような気がして呼びかける。
「こうしてるとあったかいけど、グレンのローブだから……その、グレンの香りというか」
バッと勢いよく彼が離れて、わたしはおかしくなって笑ってしまう。
「そんなローブ着てくるからだよ」
「でなければ聞きこみができん」
そっぽをむいたままの彼にむかって、わたしはえいっと浄化の魔法をかける。
「おいっ!」
「これでだいじょうぶ!」
ぎょっとした彼に思いっきり抱きつくと、ここはまだ氷のうえで。ふたりそろって滑って転ぶ。
わたしは三重防壁が発動して痛くもなんともないけれど、派手に尻もちをついた彼は仰向けになったまま顔をしかめてため息をついた。
「きみは……ほんとに予想できないな」
こんなときにあらわれる眉間のシワでさえ、なんだか懐かしく感じるからふしぎなものだ。
「うん、ごめん。あのね、レオポルドは『どうでもいい』といったけど、わたしはやっぱりグレンが遺した杖の設計図も探したいの。だからもうすこし時間をちょうだい」
「時間……」
「グレンはわたしに何もいわずに好きなようにさせてくれた。それって……わたしだけだと思っていたけれど、研究棟にきてそうじゃないことに気づいたの。わたしだけじゃなくて研究棟にいる錬金術師たちも、それにレオポルドのことだって……彼は何もいわず自由にさせていたんだって」
「グレンが……私を自由に……」
レオポルドが虚を突かれた表情をした。
「そうでしょう?だって、いまのレオポルドは自由だもの。好きなときに好きな場所へ、こうやってでかけられる」
「それはお前がいるからだ」
「ちがうよ、そんなことない。わたしがいなくたって、レオポルドは思うままに生きてた」
わたしは立ちあがると左腕からライガを展開した。ライアスに教わったアルバを唱え、暖かい空気でふたりを包む。
「さぁ、乗って。デーダスへ帰ろう」
うながされるままにレオポルドはわたしの後ろに乗りこんだ。その重さを感じながらライガの駆動系に魔素を流す。
「わたし、もうすこしグレンのことを知りたいの。だからレオポルド、つきあってくれる?」
ふりむいてそういうと、黄昏色の瞳がまたたいた。
「……ああ」
「ありがとう!きょうはとっても楽しかった。またエルリカにこようね、グレンの仮面を被って!」
からかい気分でいったのに、彼は素直にうなずいた。
「……そうだな。私も楽しかった」
グレンのローブがはためき、銀の髪が風になびく。
それだけでわたしたちは、星空のなか銀河を渡るほうき星になったみたいだ。
デーダス初日、わたしがきょう知ったレオポルドは、実は何でもやりたがりだってこと。
デーダスの家に着くと家は暖炉の火を燃やし、部屋を暖かくしてでむかえてくれた。
わたしはコートを脱いで浄化の魔法をかける。レオポルドは手袋をとったけれどローブのままだ。
居間でそろっておやすみ前のお茶を飲み、あとはそれぞれの寝室にひきあげるだけだ。
「おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
グレンの部屋へむかう彼を見送ろうとしたら、彼はそこから動かない。
(何だろう……お茶のおかわりでもしたいのかな?)
ぼんやり思ってみていると、彼は額をおさえて深くため息をつき、わたしに手を差しだしていった。
「部屋まで送る」
「えっ⁉」
わたしが飛びあがると、彼はあきれた声をだす。
「そんないちいち驚くようなことか?」
「いや驚くでしょうよ、部屋って階段をちょっとあがるだけだよ、ここからドアみえてるよ?」
「……それでもだ」
わたしが指さした方角をちらりとみても、彼は譲りそうにない。
差しだした手をひっこめたりもしない。
「あああの、よくわかりませんが。女の子あつかいされているってことでよろしいでしょうか?」
「そういうことだ、マイレディ」
ひいいいい!これはこれで心臓に悪すぎる!
何だか知らないけど眉間にシワを寄せたレオポルドに手をとられ、わたしは自分の部屋までエスコートされたうえに、ドア越しに階段を降りていく彼の足音を聞くことになった。
これってもしかして毎日やるの?
この小さな家のなかで?
……ウソでしょう⁉
ありがとうございました!









