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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪
第九章 デーダス荒野のネリア

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370/560

370.星空のしたで

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「グレンが私の杖を……」


 彼の顔に何ともいえない表情が浮かぶ。


「そう!それがみつかればきっと……グレンの想いだってわかる……!」


「…………」


 黙りこんだ彼の表情がすこしだけ……険しくなったような気がした。


「グレンのことはどうでもいい」


「え……だって」


 わたしへまっすぐにむけられた瞳は、黄昏色がゆらめいて。すこしためらうようにしてから、彼の口から絞りだされた声は掠れていた。


「もしも……私が『杖を作ってほしい』と頼めば、きみは作ってくれるのか?」


 それは懇願にも近い響きを帯びていて。わたしも真剣に答えようとしたら、かえってどっちつかずになった。


「作りたい……と思ってるよ」


 わたしのあいまいな答えに彼が首をかしげて薄く笑うと、月を浴びた彼の銀髪が白く輝いた。


「なら作ればいい、きみ自身の手で」


「でもわたし、作りかたとか何にも知らない……」


「私も自分の杖は何度も作った。そのたびに壊してきたが。きみもそうすればいい。試行錯誤をくりかえして何度でも」


 彼がわたしの右手をとらえて手袋をしゅるりと脱がせ、そのまま口元へ持っていく。


「この手で私の杖を作ってくれるというなら、私はそれを受けいれる」


 ささやくように告げて手首に落とされた口づけに、わたしが固まっていると唇を離した彼がわたしの目から視線をはずさぬままに問いかけた。


「……その覚悟はないか……?」


「あの……それって……」


「作ればいい。何度でも……失敗しても結局作れなかったとしてもかまわない。きみがあきらめずに私のそばで杖を作り続けるというのなら、私はそれを受けいれる」


 私の手首をつかんでいた彼の手が緩んで、そのまま離れていった。


「でなければ……グレンの頼みなど気にすることはない。きみは自分のしたいように自由に生きろ」


 そのまま遠ざかろうとした彼の背中に、わたしはあわてて呼びかけた。


「待って!それって……わたしが願えば杖を作らせてくれるってこと?でもどうして?いままでは……」


 彼が振りむくと冴え冴えとした美貌が目にはいる。


「きみはデーダスの工房に私を連れていくつもりだろう。あいつの目的を暴くことは、きみ自身を暴くことになる……おそらくきみはそれを恐れている」


「レオポルド……」


「ならば私も自分の決意を伝えておこうと思った」


「だからって……まだわたしのこと何も知らないのに……」


 調べれば調べるほど、彼がもしだれかに杖を作らせるとしたら、よほど信頼した相手だろう……そう思えた。


 わたしではどうしたってその相手にはなれないことも。


「だから知りたいと思った。きみの答えは私のことも教えろだったか。私を知れば当然、杖も作れるようになるだろう」


「あの、わたしを信用してくれるってこと?」


 その質問に彼はあっさりと首を横にふる。


「信用してはいない。私はデーダスでグレンと〝ネリア・ネリス〟について探る」


「うん……」


 信用されてはいないけど、杖は作らせてくれる……わたしが望めば……わたしが彼の言葉について考えていると、彼がまた口をひらいた。


「だからそこで何が起ころうと、どんな事実がわかっても受けいれると決めた。それをデーダスの工房にはいる前にいっておきたかった……杖についてはお前の決定を受けいれる」


「まだ何もわかってないのに……?」


「そうだ。それがわかってからでは遅すぎるような気がした。きみは『去る』と決めたら、一切ためらわないのではないかと」





 彼の瞳に不安がよぎる。なぜこんなに心配そうな顔をするのだろう……と考えて、ふと思いだした。


「あの、前にも私が師団長室で魔力暴走を起こしたとき……レオポルドがそばにいてくれたでしょう?」


 じっと瞳をのぞきこむようにすると、彼は瞳を泳がせふいっと顔をそらす。


「薬を飲ませた……それだけだ」


「あの、わたし変じゃなかった?取り乱したりとか……」


 彼の雰囲気が変わった。


 いつもの淡々とした無表情は変わらないのに、こちらに向けられる眼差しはわたしをひるませるほど強くて。


 彼は何もいわないまま、しばらくわたしをみていたけれどやがてついと目をそらす。


「あれはただの魔力暴走じゃない、きみは死にかけた。私も必死だったから、そのときに言霊が働いた」


「言霊?あの、それって……」


「私はきみに『生きろ』といった。『ずっとそばにいる』とも……精霊契約ほどではないが、魂をかけた約定をたがえることはできない。私は何があろうときみのそばにいる」


 それは夢でグレンに約束させたことだ。


 わたしはわがままな望みを、思いっきり彼にぶつけてた。


「ごめんなさい、レオポルド……ごめんなさい!」


 必死に謝ろうとしたわたしを手で制し、彼は首を横にふった。


「……それだけだ。私が勝手にやったことで気にする必要はない。きみまで縛られたわけじゃない」


 わたしは縛られていない、けれど彼は縛られた……あれからずっと自分の発した言霊に。


「それって取り消したりとかは……?」


「命をかけた言霊だ。人間同士の契約より厄介だ。そう簡単に取り消しは効かない……それに助けると決めたのは私だから気にすることはない。もとより一人で生きると決めていた」


「よくないよ!」


 何よりも自由を望んでいたはずの人に、縛られることを選ばせた。彼が心から望んだことなら、もっと早く教えてくれただろう。


 戻せない時間、返せない魔石……それにくわえて取り消せない言霊……わたしの魔力は強すぎて、それはわたしをこの世界に安定させるには必要なものだけれど、彼にとっては厄介なことでしかない。


「謝っても許してもらえることじゃないけど……わたしあのとき簡単にあきらめようとしてた。『もういい』と思えてしまって、レオポルドが約束してくれてようやく安心して……」


 ほんとにどうしよう……泣きそうな気分で言葉を探していると、彼が静かにつぷやいた。


「……そんなものではなかった」


「レオポルド?」


 彼の黄昏色をした瞳がまっすぐにわたしを射抜いた。


「きみの心からの叫びはそんなものではなかった。あのとき言葉こそ投げやりでも……きみ自身は強い力で私にしがみつき、全身全霊で必死に生きようともがいていた。私は命懸けの願いに応えただけだ」


「命懸けの願い…… レオポルドは、わたしが生きることを望んでくれたの?」


 何といえばいいのかわからなかった。生きているのかどうかさえ怪しまれていると……近寄ることさえできないと思っていた人から、そんな言葉を投げかけられるなんて。


「魔術師はひとびとの『願い』をかなえる存在。きみの願いに応えられたことには満足している。それと……私にとっては父と呼べるような男ではなかったが、グレンがきみを救ったことに、私ははじめてあの男に感謝した」

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