37.波乱の小会議室
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陛下が戻ってきた小会議室では、錬金術師団の今後について話し合いがはじまった。
「錬金術師たちに研究棟へ戻ってほしいんですよね。あ、ウブルグはカタツムリ研究でいいですけど」
ネリアの言葉に、銀の魔術師が秀麗な眉をひそめる。
「殺されかけたのにか?」
「まずは話し合います。とにかく錬金術師団は人手不足なんです」
「ふん、グレンのように懐柔するつもりか」
「話し合うんですよ!わたしはあなたと違って、ずーっとしかめ面なんてしませんから!」
ネリアはレオポルドに言い返すと、錬金術師たちを戻したあと、どうするかを全員に向けて語りはじめた。
「まず錬金術師団を『素材錬成』、『創薬』、『魔道具』の三つにわけます。カーター副団長とイグネルに素材錬成を、ネグスコとリコリスに創薬、そして魔道具はドラビスに任せます」
「ユーリ・ドラビスひとりに魔道具部門を任せるのか?」
国王アーネストの問いにうなずいて、ネリアは続ける。
「今はひとりですが、彼には魔術学園から錬金術師団にやってくる、若手の錬金術師を取りまとめてもらいます。人手不足なら増やせばいいんです」
冷淡な態度を崩さず、レオポルドは皮肉っぽく唇をゆがめる。
「錬金術師などになりたがる者がいると思うのか」
「もちろんいますよ。なんでも否定するの止めてくれません?魔道具はわかりやすいし、とっつきがいいですから。ぜひとも優秀な魔術学園の生徒を引っ張ってきたいです」
ネリアはぐっと小さな拳を握りしめた。
「魔術学園の生徒に錬金術師団の魅力を紹介し、やりがいのある仕事だと理解してもらうため、人当たりのいいユーリに、生徒たちの窓口になってもらうつもりです」
その説明にアーネストが口を挟んだ。
「その、ユーリ・ドラビスは錬金術師として役に立ちそうか?」
「彼はいい錬金術師ですよ。魔力も安定していて魔道具の扱いにも慣れています。魔導回路の設計も得意ですね。魔導列車の駆動系は彼にメンテナンスを任せるつもりです」
「ほぉ、ユーリがな。そうか……」
国王が感心したようにつぶやき、ネリアはさらにぶち上げた。
「人材が確保できて研究体制が整ったら……将来的に錬金術師団は独立採算制を目指します!」
これにはライアスも驚いて目をみはる。
「独立採算制……だと?」
「そうです。自らの研究により利益を生みだし、それを新たな錬金や研究の資金源にします。そして人々の生活も豊かにしていく。それが理想ですね」
レオポルドが心底あきれたように口を挟んだ。
「そんなことができると思っているのか?」
「もちろんです!錬金術は無から有を生み、不可能を可能にする奇跡の技です。どんなことでも可能にしてみせますとも!」
眉間にぐっと深くシワを寄せ、銀の魔術師がいまいましそうにため息をつく。
「グレン以外にも頭のイカれたヤツがいたとはな。お前のいうことは実態がなく、ペテン師のホラ話と変わらぬ。今いる錬金術師たちすら、掌握できていない師団長に何ができる!」
ネリアの黄緑色の瞳が、怒りにきらめいた。
「時間がわたしの正しさを証明してくれるわ!そしたらあなたは数々の暴言を、わたしに謝ってくれるんでしょうね⁉︎」
「自分が肩書きだけのお飾りだと自覚しろ!大きな口を叩くのは、それだけのことを成し遂げてからだ!」
「わかってるわよっ!今に見てなさいっ!」
(あの華奢な体のどこから、レオポルドに食ってかかるほどの負けん気がでてくるのだろう)
ライアスが感心してネリアを眺めていると、アーネスト陛下がふたりを仲裁する。
「レオポルド、錬金術師団の運営はネリア・ネリスに任せると決めたのだ。魔術師団も竜騎士団もそれには協力するように」
「はい」
「……承知しております」
ライアスは即答し、レオポルドは渋々……といった感じで口を開く。それにうなずいて、国王は重々しくネリアにたずねた。
「ところでネリアよ……お前はグレンを信用しているのか?」
呼びかけられてネリアは、少し考えるように目を伏せて返事をした。
「……はい」
「だから遺言どおり、師団長を引き受けたのか?」
「そうですね。グレンに頼まれましたから……」
ネリアは細い指先で仮面をいじり、それにじっと目を落とす。そのしぐさはこの場にいる誰もが知らない、ふたりの関係を物語るようで、レオポルドの眉間にふたたびシワが寄る。
「なら、それでいい。レオポルドの疑念を晴らすためには、グレンの信頼を証明してみせよ。ところでな、ネリア」
アーネストは身を乗りだし、軽い口調で彼女に聞いた。
「そなた、俺の息子の嫁にならんか?」
ライアスはガタッと椅子の音をさせたが、彼が口を開く前にネリアは即答する。
「はぁ?なんでいきなり?ダメですよ!」
「ダメか?ふたりいるんだが、好きなほうを選んでいいぞ?」
ネリアは国王をにらみつけて、ブンブンと勢いよく首を横に振る。
「子どもの結婚相手を決めるなんて、親の横暴です!そんなことしたら、一生息子さんに恨まれますよ!絶対ダメです!」
国王はこたえていないようすで、腕組みをして座り直した。
「そなたのようなしっかり者なら、いいと思ったんだがなぁ……」
「しっかり者じゃないですよ。とにかくダメです!」
ネリアは唇をとがらせて文句を言い、ただ会話を聞いていただけのレオポルドも、気が抜けたようにふっと息を吐く。会議はそれで散会となった。
ライアスは慌てて立ちあがり、帰りかけたネリアを呼び止める。
「王都を案内するという約束を覚えているか?」
「もちろん!」
ネリアはそれに笑顔でうなずいた。
控えの間で様子を見ていた第一王子に、補佐官のテルジオが紅茶を差しだしながら、からかうように言う。
「殿下、フラれましたね」
「そうだな。うなずいてくれてもよかったのに……残念だ」
紅茶を受け取るユーティリス王子の言葉に、テルジオが眉を上げる。
「……本気ですか?」
「彼女となら毎日がおもしろそうじゃないか」
くつくつと笑うと、ユーティリスは紅茶のカップを口に運ぶ。
「退屈な会議かと思ったら、なかなか見応えがあったな。まさか彼女が、あそこまでいろいろ考えていたとは」
楽しそうな王子に、思わずテルジオはたずねる。
「殿下が本気なら、われわれが動きますが……」
もう頭のなかで関係各所への調整を考えはじめた補佐官を、ユーティリスは手を振って止める。
「やめてくれ。オモチャをねだる子どもじゃないんだ。彼女を口説くなら自分でやるよ。それに彼女の三重防壁、テルジオも見たろう?」
そのまま退室するネリアを、じっと見送る王子の横顔を、補佐官はその本心をつかもうと眺める。
「彼女はグレンの〝お姫様〟だよ。あれほどの魔法陣は王族だってかけてもらえない。どれだけ大切だったんだろうね」
王子のつぶやきに、テルジオは肩をすくめた。
「そのまえに、あの魔法陣を維持して動き回れる人間が、どれだけいるかって話ですよ。ふつうなら魔素を吸われてぶっ倒れます」
「それもそうだ。本当に彼女は謎が多い……しばらく錬金術師団から目が離せないね」
ユーティリスは紅茶のカップを置き、優雅に脚を組むと、きれいな笑顔で楽しそうに言った。
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