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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる
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37.波乱の小会議室(ライアス視点)

ブクマ&評価ありがとうございます。

 陛下が戻ってきて、錬金術師団の今後についての話し合いがはじまった。


「わたしとしては、錬金術師達には『研究棟』に戻って欲しいんですよね……あ、ウブルグだけは『カタツムリ』の研究のままでいいですけど……」


 ネリアがそう言うと、レオポルドが眉をひそめる。


「殺されかけたのにか?」


「まずは話し合えないかと……とにかく錬金術師団は本当に人手不足なんです」


「ふん、グレンのように懐柔するつもりか」


「話し合うんですよ!わたしはあなたと違って、ずーっとしかめ面なんてしてませんから!」


 ネリアは錬金術師達が戻った後の事について語りはじめる。


「まず、錬金術師団を三部門……『素材錬成』、『創薬』、『魔道具』の三つに分けます。具体的には『素材錬成』をカーターとイグネル、『創薬』はネグスコとリコリス、『魔道具』はドラビスに任せるつもりです」


「ユーリ・ドラビスひとりに魔道具部門を任せるのか?」


 アーネスト陛下の問いに頷いて、ネリアは続ける。


「今はひとりですが……、彼には今後魔術学園から錬金術師団に入ってくる、若手の錬金術師の取りまとめ役になってもらいます」


 レオポルドが皮肉気に唇を歪めた。


「錬金術師なんぞにわざわざなりたがる者が、居ると思うのか」


「もちろん居ますよ!何でも否定してかかるの止めてくれません?ユーリは人当たりもいいから、魔術学園の生徒達への窓口になってもらいます。魔道具は分かりやすいし、とっつきがいいと思うんです」


 人手不足なら増やせばいい。


 是非とも優秀な魔術学園の生徒を引っ張ってきたい。


 そのためには、魔術学園の生徒に『錬金術師団』の魅力を紹介し、やりがいのある仕事だと理解してもらう!


 ユーリには、その窓口になってもらいたい、そうネリアが説明するとアーネスト陛下が口を挟んだ。


「……ユーリ・ドラビスは錬金術師としても役に立ちそうか?」


「彼はいい錬金術師ですよ!魔力も安定していて魔道具の扱いにも慣れていますし、魔導回路の設計も得意ですね……魔導列車の駆動系のメンテナンスは彼に任せるつもりです」


「ほぉ……ユーリがな……そうか」


 陛下は感心したように呟いた。ネリアはさらにぶち上げた。


「人材が確保できて研究環境が整ったら……将来的に、『錬金術師団』は『独立採算制』を目指します!」


「独立……採算制……だと?」


「そうです……自らの研究により利益を生みだし、それを新たな錬金や研究の資金源にしていく。そして人々の生活も豊かにしていく……それが理想ですね」


 レオポルドが呆れたように口を挟んだ。


「そんな事ができると思っているのか?」


「もちろんです!錬金術は『無』から『有』を生み、『不可能』を『可能』にする奇跡の技……、可能にしてみせますとも!」


 レオポルドが忌ま忌ましげに溜息をついた。


「グレン以外にも、頭のイカれた奴が居たとはな……お前の言う事は実態がない、ペテン師のホラ話と変わらん……だいたい、今居る錬金術師達すら掌握できていない師団長に何ができる!」


 ネリアの黄緑色の瞳が、怒りにきらめいた。


「時間がわたしが正しい事を証明してくれるわ!そしたらあなたは数々の暴言をわたしに謝ってくれるんでしょうね⁉︎」


「自分が肩書きだけの『お飾り』なのだと自覚しろ!大きな口を叩くなら、それだけの事を成し遂げてから言え!」


「分かってるわよっ!今に見てなさいっ!」


 あの華奢な体のどこから、レオポルドにも食ってかかるほどの負けん気がでてくるのだろうか……と俺が感心していると、アーネスト陛下が仲裁した。


「レオポルド……錬金術師団の運営については、ネリア・ネリスに一任すると決めたのだ。魔術師団も竜騎士団もできる限り協力するように」


 アーネスト陛下が重々しく口を開いた。


「ところでネリアよ……お前はグレンの事は信用しているのか?」


 呼びかけられてネリアは、少し考え込むように、目を伏せて返事をした。


「……はい」


「だからグレンの遺言通り、師団長の職を引き受けたのか?」


「そう、ですね……グレンに頼まれましたから……」


「なら、それでいい。レオポルドの疑念を晴らすためには、グレンの信頼を証明してみせろ。……ところでなネリア」


 アーネスト陛下はそれまでの重々しい口調をガラリと変えた。


「そなた、俺の息子の嫁にならんか?」


 俺は思わずガタッと椅子の音をさせたが、ネリアは即答した。


「はぁ?何でいきなり?ダメですよ!」


「ダメか?二人居るんだが、好きな方を選んでくれて構わんぞ?」


「親が子どもの結婚相手を決めるなんて、横暴です!そんな事したら、一生息子さんに恨まれますよ!絶対ダメです!」


「そなたのようなしっかり者なら、いいと思ったんだがなぁ……」


「しっかり者じゃないですよ……とにかくダメです!」


 会議はそれで散会となった。俺は帰りかけたネリアに、思わず「王都を案内するという約束を覚えているか」と確認してしまった。ネリアは笑顔で頷いてくれたが。






「殿下、振られましたね」


 控えの間で様子を見ていたユーティリスに、側に控える補佐官のテルジオが紅茶を差しだしながら、からかうように言う。


「そうだな、頷いてくれても良かったのに……残念だ」


 頷きながら紅茶を受け取るユーティリスの言葉を聞いて、テルジオが眉を上げる。


「……本気ですか?」


「彼女となら、毎日が面白そうじゃないか」


 くつくつと笑うと、ユーティリスは紅茶のカップを口に運んだ。


「退屈な会議かと思ったら……なかなかどうして見応えがあったな……まさか彼女が、あそこまでいろいろ考えていたとは……」


 楽しそうなユーティリスを見て、テルジオは思わず尋ねた。


「殿下が本気なら、我々側近が動きますが……」


「やめてくれ。彼女を口説き落とすなら、自分でやるよ……玩具をねだる子どもじゃないんだ」


 ユーティリスは退室するネリアをじっと見送る。テルジオはユーティリスの本気を測るように、その横顔を見つめた。


「それに彼女はグレンの『お姫様』だよ?彼女の三重防壁、テルジオも見たろう?あれ程の魔法陣は王族だって掛けてもらえなかった」


 どれだけ大切だったんだろうね……と呟くユーティリスに対し、テルジオは肩をすくめた。


「その前に、あの魔法陣維持したまま、動き回れる人間がどれだけいるかって話ですよ……普通だったら魔法陣に魔素を吸われて、ぶっ倒れます」


「それもそうだ。本当に彼女は謎が多い……しばらく『錬金術師団』から目が離せないね」


 ユーティリスは紅茶のカップを置き優雅に脚を組むと、綺麗な笑顔で楽しそうにそう言った。

ありがとうございました。

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