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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第九章 デーダス荒野のネリア

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368.ミルキーウェイ セレナーデ

ギリギリ1分前ですけど、七夕に滑りこみセーフってことで(汗

 持ってきた食材を食糧庫にしまっていると、グレンの部屋からレオポルドが着替えてでてきた。


「え……どうしてそんな恰好を?」


 レオポルドは部屋に残されていたすりきれてヨレヨレになったグレンの古びたローブを着て、手にはわたしがあげた白い仮面を持っていた。


「こうすればグレンにみえるか?」


「銀髪がツヤツヤだし、グレンはレオポルドみたいに姿勢もよくないよ」


「ふむ、すこし乱すか」


「ちょっ……!」


 止めるまもなく部屋に風が吹き、ザシュザシュという音ともに彼の髪が床に落ちる。わたしはびっくりして悲鳴をあげた。


「レオポルド、何してんの⁉︎」


「すぐ伸びる」


 わたしが叫んでも彼は気にせず、床に落ちた髪をサッと風でかたづけた。


「いきなりびっくりするでしょ、何でグレンの真似なんか……」


「どんな気分なのかと思ってな。グレンの足跡をたどりたい」


 そういってグレンみたいなボサボサ髪になった彼は手に持っていた仮面をつけた。





 魔導列車の駅があるエルリカの街までは、ライガを使えばひとっ飛びだ。


 冬期休暇をとって王都からエルリカに帰省するひとたちも多く、商店街はにぎわっていた。


 白い仮面をつけてヨレヨレの古びたローブを身につけた長身のレオポルドは目立つけれど、だれもそれが王都の魔術師団長とは気づかない。


 それどころか街の人たちは、ときどきふらりと街へあらわれるグレンのことを覚えていて、あちこちで気さくに声をかけられた。


 店先に湯気をあげるせいろが置かれ、蒸し菓子を売っていたおばちゃんがうれしそうに話しかけてくる。


「おや旦那、ひさしぶりだねぇ。ちょうどよかった、蒸し菓子を保温する魔道具の調子をみてくれないか?」


 レオポルドも無言でうなずくと魔道具の修理をはじめ、それを待つわたしの前にはホカホカと湯気をあげる蒸し菓子とお茶が置かれた。


「いただきます!」


 はむっとかぶりつくと、ふわりと生地の香りがただよい優しい甘味が口の中にひろがる。


 なかに包まれた柔らかい餡を味わっていると、おばちゃんはレオポルドをみて首をかしげた。


「いっときはよく姿をみかけてたのに、ここ半年はパタリとみなくなって。どこかにいっちまったのかと思ってたよ」


「グレ……彼はよくここへきてたんですか?」


「そうでもないけどあの仮面は目立つからねぇ。いろんな店で買いものついでに魔道具を修理してくれたから、ここらの商店主はみんな覚えていると思うよ」


 おばちゃんは思いだしたようにレオポルドに話しかけた。


「そうだ、駅前の店にも寄ったらどうだい。ペリドットのいい石が手にはいったからあんたに見せたいってさ」


「ペリドット?」


 レオポルドが顔をあげた。


「ああ、あんたが欲しがるのは質のいい石ばかりで、いい値段で買ってくれるからとっておいたのに顔を見せないってボヤいてたよ。まだあるといいけど」


「わかった。それと彼女を連れていけるような場所はないか?」


 それにうなずいた彼がたずねると、おばちゃんは顔をクシャッとさせて笑った。


「あらそれなら、今の時期は凍った川でスケートができるよ。スケート靴を買っていくといい」


 おばちゃんが持たせてくれた蒸し菓子を、収納鞄にいれ店をでた。


「グレン、エルリカでは有名だったんだ……」


「こういう街でよそ者は目立つ。しかも住人とはちがう行動をとるとなればなおさらだ」





 デーダス荒野のはずれでは黄緑色のペリドットがよく採れる。


 微量のニッケルが与える力強い黄緑色が特徴で、それほど稀少性はないけれど屈折率が高く透明感も強い。


 エルリカみやげとしても有名で、駅前にはいくつもの店があった。品質のいい高級品を扱う店もあれば、ふぞろいな原石をビーズのようにつなげた手ごろなネックレスやブレスレットを売る店ある。


 教えられた店にはいるとすぐに店の奥に案内された。


 厚みのあるすわり心地のいい椅子に腰かければ、ビロード生地が貼られたトレイにはしっかりした品質の原石が置かれた。


 宝石商の店主はうやうやしくレオポルドに説明してから、わたしの顔をちらりとみた。


「当店でもなかなか手にはいらないものです。ですがお連れ様がお持ちの瞳にはかないませんな」


「もらおう」


 レオポルドはたぶんグレンがしたように、あっさりと支払いを済ませた。


 ペリドットの包みをふところにいれた彼に、店をでてからわたしさたずねる。


「それどうするの?」


「グレンが石をただ集めていたとは思えない」





 また街を歩くと、いいにおいがする街角でレオポルドはお店の人に声をかけられた。


「食事はできるか?」


「ああ、いつもの席があいてるよ。奥へどうぞ」


 店の奥にある個室に案内され、すぐに湯気がたつ鍋や取り皿に飲みものが運ばれ、「ごゆっくり」と扉がしめられた。


 グレンとしてふるまうレオポルドにもびっくりだけど、彼を迎える街のひとたちの反応にもおどろかされる。


「特徴のある客だったのだな。たぶん、毎回同じ行動をとったのだろう」


「……だね」


 仮面をはずしたレオポルドは鍋の中身をわたしによそってくれながら、おもしろそうにいう。


「きみに聞かなくともエルリカの街にきただけで、グレンのことをだいぶ知れた」


「うん、びっくりした」


「デーダス荒野ではペリドットぐらいしか採れないが、エルリカの街には川も流れサルカス山地から山の恵みも運ばれる。煮こみ料理がうまい」


「うん、お肉やわらかい」


 ハフハフしながら鍋のお肉をつついていると、飲みものを手にした彼がふっと笑った。


 ふぞろいに切られた銀髪は乱れているけれど、目を細めるだけでどこか妖艶な色気がただよう。


 前かがみでかきこむようにして食べていたグレンとちがい、背筋をのばした彼の食べかたはとてもきれいだ。


 じっとみていると、彼もわたしを見かえしてきた。


「食べないのか?」


「あ、食べる。でもさっき蒸し菓子も食べたし」


「なら酒はほどほどにして、川にいってみよう」


 食事を終えて外にでると日はとっぷりと暮れ、澄んだ夜空に流れる銀河が輝き、無数の星がまたたきく。


 王都の夜景もきれいだけれど、夜空の美しさはデーダスにかなわない。


 川の手前でスケート靴を買って、エルリカの街を流れる川へいく。


 凍った夜の川ではみな思い思いに手をつないで、スケートを楽しんでいた。


 スイスイと滑るさまはとても気持ちよさそうだけれど。


「あのねレオポルド、白状するとわたしスケートって、数えるほどしかしたことなくて」


 思いきって告白したのに、ようやく仮面をとったレオポルドも淡々といった。


「私もやったことはない」


「いっ⁉」


「冷涼なアルバーン領でも楽しめるはずだが、湖のそばには近寄らせてもらえなかった。『精霊に連れ去られる』とかいわれて」


「じゃ、おたがい初心者?」


「そういうことになるな」


 二人そろってスケート靴を履き、恐る恐る氷に乗る。ぎくしゃくと手足を動かすけれど、すぐにステンとひっくり返った。


「ひゃあああ!」


 それはレオポルドも似たようなもので、転んでは笑って起きあがるうちにだんだんさまになってきた。


「あっ、ずるい!」


 レオポルドはなんと身体強化に風の術式まで使って、動きを調整している。


 吐く息は白くおたがい鼻を真っ赤にして、銀河のしたで滑るアイススケートなんて初めてだ。


 よろめいたところを、グッとレオポルドの腕がささえてくれた。


「ありがとう!楽しいけど……夜なのにどうしてみんな帰らないんだろう?」


「たぶん、待っている」


「待っている?」


 レオポルドが上空をみあげてつぶやいた。


「はじまったようだ。滅多に見られるものじゃない。運がいいな」


 夜空一面に銀河をバックにオーロラのカーテンがひろがり、緑に赤に……色を変えて虹色にかがやいた。言葉を失っていると、レオポルドがいった。


「精霊たちの祝福をうけて新年を迎えるために、みなはこの場に集まる」


 彼がさしだした手をとると、そのまま手をつないで滑りはじめる。


「グレンのこともだが……私はきみのことも知りたいと思っている」


「わたしのこと?魔力の源とかそういう話?」


 銀河のしたでオーロラが輝く夜、思わず緊張したわたしに彼が低くささやいた。


「ちがう、きみ自身についてだ。聞かせられる話だけでもかまわない、きみのことが知りたい」

暑いのでアイススケートにしました。

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