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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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36.初の師団長会議

ブクマ&評価ありがとうございます

 ライアスが小会議室に入ると、国王アーネスト陛下と魔術師団長のレオポルドの他に、ユーティリス第一王子がいた。


「珍しいな、ユーティリス」


 公の場では『殿下』をつけるが、こういう内々の会議ではただの同僚だから、おたがい呼び捨てになる。ユーティリスはにこやかな笑みを見せた。


「僕も彼女には興味があって。初登城のときも別室で様子を見ていたけど、今日もそうするつもりです。ライアスは彼女をどう思いました?」


「そうだな……性格は素直で頭の回転も早い。レオポルドににらまれても、ひるまない豪胆さもある。はじめての環境にも順応していく柔軟さもあるかと。竜騎士団の連中とも初対面でうまくやっていた」


 ほとんど表情の変わらないレオポルドが、それを聞いて眉をひそめた。


「ライアス……ずいぶんと懐いたな」


「なっ、懐いてなど……懐いたのはミストレイだ。彼女になでられて喜んでいた」


 あまり言いたくないが、ライアスとしてもミストレイのことは、報告しておかなければならない。


「なんと!」


「あのミストレイが⁉」


「……ドラゴンが好む魔力だと?」


 陛下とユーティリスが驚き、レオポルドはあごに手をかけ、眉を寄せて考えこんでいる。


「ああ、そろそろ彼女が来たようですね。じゃあ僕はこれで」


 控えの間にユーティリスが姿を消すと、すぐにパタパタと軽い足音が聞こえてきた。


「すみません、遅くなりましたー!」


 元気よく駆けこんできたのは、錬金術師団長に就任したネリア・ネリスだ。


 真新しい錬金術師団の白いローブを着て、グレンの仮面をつけている。


 王城を走るなど本来ならあり得ないため、レオポルドの目つきが鋭くなった。


「なぜ転移陣を使わない。師団長であれば自由に使えるだろう」


「へっ⁉︎」


 驚いたような声をあげたネリアは、入り口を振り返り、転移陣を見つけてからポンと手を打った。


「ああ、王城って広いですもんね。こんどから使います」


「もしかして知らなかったのか?」


 もともと機嫌がいいことなど、めったにないレオポルドだが、彼女に対してはさらに態度がきつい。


(王城のしきたりなど、知らないことも多いだろうに。俺が教えてやればよかった……)


 ライアスはネリアが気の毒になる。彼女はそのまま空いている席に座り、会議室を見回した。


「宰相と国防大臣はいないんですね」


 国王アーネストがそれに答える。


「三師団は国王の直属だからな。先日は同席させたが、師団長会議ではあのふたりは必要ない。ネリアよ、仮面も外していいぞ。錬金術師団はどうだ?」


 いわれて仮面を外したネリアに、国王はさっそくたずねた。


「そうですね、研究棟内部の設備は問題なく使えますし、素材の保存状態も良好です」


「不自由していることはないか?」


「今のところは。ただ資金や素材が足りないです。予算ってどうやってもらえばいいですか?」


「予算に関しては私の裁可が必要になるな。財務に相談してみるが……当分は今のまま、やりくりしてもらうしかない」


「やっぱそうですよね。錬金術師団が自分で稼ぐのはアリですか?」


「本来の業務に支障がなければかまわんが……何をやるんだ?」


 そう聞かれたネリアは腕組みをして、小首を傾げた。


「んーまぁ、これから考えます」


「エヴェリグレテリエ……今はソラだったか、契約を交わしたようだが、あいつはどうだ?」


 アーネスト陛下が慎重に聞くと、ネリアは明るく答えた。


「ソラは力持ちで手先も器用だし、すごく助かってます。錬金釜もずっと混ぜてくれる、いい助手ですよ!」


「ほお?」


「いちど覚えたことは忘れないので、作れるデザートのレパートリーを増やそうと、ソラにはお菓子のレシピを少しずつ覚えてもらっています」


「ほお……」


 国王がなんと反応すればいいかわからず、パチパチとまばたきをしていると、ネリアは気にせず話を続ける。


「ああ、それとヒマなときはスコップ片手に、中庭の手入れをしています。水まきも進んでやってくれて、中庭も居心地のいい、気分転換の場所になってます」


「ソラがか?」


「はい。働かせすぎですか?」


「いや、()()は睡眠や食事は必要としない。消費した魔力を与えるだけだから、大丈夫だと思うが」


『錬金術師団長室のエヴェリグレテリエ』といえば、王城内では恐怖とともに語られる、師団長室の守護精霊だ。


 グレンの研究を盗もうと、過去に何人もが師団長室に侵入を試みた。けれどそこから生きてでられた者はいない。


 契約したグレンには忠実だが、その腰に差した銀のナイフは、常人にはありえない速さで繰りだされる。


 グレンの死で閉ざされた錬金術師団長室に、無理に入ることができなかったのはそのためだ。


 天使のような外見の血塗られし人形……それが〝エヴェリグレテリエ〟だ。


 ライアスは言ったことはないが、グレンが作っただけあって、あの人形は子どものころのレオポルドに似ている。整った硬質な美貌で、無表情なところも。


 そんなことを口にすれば、思いっきりレオポルドの地雷を踏み抜くだろう。


「燃やしてしまえばいい」と言ったときの彼は、本気で研究棟ごとオートマタもすべて、灰にしたかったのではないかとライアスは考えていた。


 その〝エヴェリグレテリエ〟が……錬金釜をずっとかき混ぜている?


 レシピを覚えてお菓子を作り、スコップ片手に庭いじり?


 ……あの〝エヴェリグレテリエ〟が⁉︎


 何と反応したらいいかわからなくて、その場にいた全員が固まった。


「ぶっ、くっくっくっ……!」


 最初に国王がこらえきれなくなって、腹を抱えて机に突っ伏した。


 レオポルドはものすごい渋面で、眉間に指をあてている。


「ひゃーっはっはっはっはっ!……いや、ネリア・ネリス……お前が錬金術師団長でよかったと、心の底からそう思うぞ!」


「えぇ?そうですか?わたしまだ、防虫剤と携帯ポーションしか作ってないですけど?」


 けげんそうなネリアに、国王はさらに質問する。


「防虫剤作りもエヴェリグレテリエは手伝ったのか?」


「今は〝ソラ〟ですよ。ええ、素材運びや成形する作業をやってもらいました。本当に働き者なんですよ!」


 うれしそうに語るネリアは、オートマタの過去をきっと知らない。


「そ、そうか……っ、すまん、俺はもうこれ以上耐えきれんっ……!」


 ネリアは部屋を飛びだしていった陛下を見送って、「トイレ……?」と小首を傾げてつぶやいている。


(いや、たぶん陛下は今ごろ、ユーティリスのいる別室で笑い転げている)


 そう思ったライアスがチラリと横に視線を走らせれば、レオポルドは眉間から指を離して、まじまじとネリアを見つめていた。

ユーティリスを登場させたくて、ライアス視点です。

彼は初登城の『竜の間』の様子も陰で見てました。謁見後に王様とユーティリスの会話シーンもあったのですが、あっさり削除。カーターに出番を奪われました。

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― 新着の感想 ―
無理矢理に例えるならば、タ◯ミネーター(2のシュワちゃん)に料理や菜園手入れを任せる様なものか…? 確かにシュール~…。 にしても謎に仲の悪い息子(の幼い頃)と似た外見とか…。 「人の心」ェ…。
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