355.塔の二人
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今朝、わたしは魔術師団のマリス女史から〝レオポルド注意報〟をもらったばかりだ。
「ここ数日ずっとご機嫌が悪くて……近寄らないほうが無難ですわ」
「そうなんですね、ありがとうございますマリス女史、気をつけます!」
なので自分の行動範囲を研究棟と服飾部門だけにして、移動もレオポルドにぱったり会いそうな中庭は通らないよう気をつけてたのに。
グッと眉間にシワを寄せたレオポルドは、わたしの肩をがっしりつかんでずんずん歩きながらバルマ副団長に指示をだす。
「メイナード、中庭に修復に長けた魔術師を五名ほど派遣しろ。検分を済ませたら修復にかかる時間と人数を割りだせ!」
「はっ、はいっ!」
ずんずん歩くレオポルドに、引きずられるように連れていかれるわたしも大股歩きだ。いやむしろ、足が地に着いてないよ。脚!長い脚がほしい!
各所への連絡と対応に追われはじめたバルマ副団長に心のなかで詫びながら、わたしはレオポルドをみあげた。
「あの……中庭を壊しちゃったし、わたし牢屋とかいれられるの?」
長いため息が返ってきた。
「それも考えたが……海の牢獄さえ脱獄したというお前をいれるのに適当な牢獄が見つからん」
検討されてるよ!
塔の入り口から師団長室へ転移すると、なかにいたマリス女史がわたしを見て「あらあら」という顔をした。
きょうのレオポルドには近寄っちゃいけないんでしたよね!知ってます!
わたしを椅子に座らせて、自分も師団長机の椅子にどっかりと座ったレオポルドは、背もたれに体をあずけため息をつくと目をつむった。
「で、何をしようとした。順を追って話せ」
「ええと……何から話せばいいんだろ」
「全部、だ」
目を閉じた彼の顔からは色彩が消え、白い顔に銀の髪とまつ毛が影を落として、まるで淡い水墨画みたいだ。
(まつ毛長いなぁ……しかも濃いし。あのまつ毛なら何かのせられそうだよね……ビーズとかのせてもキラキラしそう)
じーっと見ていると、まぶたがあいて黄昏色の瞳がでてきた。不機嫌そうな視線がわたしに向けられる。
「おい、話す気はあるのか?」
おおっと、そうでした!
「あの、わたしはメレッタのために宝石づくりを」
「宝石づくり?」
けげんな顔をしたレオポルドにむかってわたしは抗議した。
「そうだよ!もとはといえばアルバーン公爵夫人のせいなんだからね!レオポルドの叔母さんの!」
「おばさ……彼女の?」
驚いたように目をみひらいた彼に、わたしは説明した。
カーター副団長が公爵夫人から「錬金術師なら〝金〟を創ってメレッタを飾れ」とあてこすりをいわれたこと、王太后主催の茶会が迫っていること……。
それでなんとか知恵を絞って錬金術師らしく、メレッタの身を飾るものを創りだそうとしたのだと……。
聞いていた彼は首をかしげた。
「それでなぜゴーレムを創る」
「ゴーレムはついで!ほんとは宝石を創るつもりだったんだもん!そしたらオドゥが『宝石づくりの練習』といってカーター副団長と岩を創りはじめて」
「…………」
「それでゴーレムが創れるんじゃないかって話になって、途中からユーリも参加してオートマタの駆動系に使う術式を応用して……ゴーレムっぽい動く岩人形ができたの」
そこへふたたびレオポルドが口をはさんだ。
「……それで中庭を破壊したということか?」
「うん……」
わたしがうなずくと彼は長い指で顔にかかる銀髪ごと額をおさえ、目をつむって脱力したように椅子の背にもたれた。
しばらくしてから彼のうすい唇がゆっくりと言葉をつむぎだす。
「いま、理解しようと……している」
「や、べつに理解しなくても……わたしも訳わかんないし!動きだしたゴーレムを見て『運動会ができそうだね』と言ったらそれにゴーレムたちが反応して……」
「……お前の言葉に反応したのか……」
目をひらいた彼が黄昏色の瞳で宙をにらんでいると、バルマ副団長からエンツが飛びこんでくる。
「塔の魔術師を全員寄越してください、五人じゃムリです!それと竜騎士団にも要請を……岩が重すぎて人間では動かせません!」
「ドラゴンをいれたら中庭が滅茶苦茶になるぞ?」
レオポルドが指摘すると、バルマ副団長の絶叫するようなさけび声が返ってきた。
「もう滅茶苦茶ですよっ!」
「わかった……マリス女史、竜騎士団に連絡をとり残りの魔術師を連れてむかってくれ」
「かしこまりました」
マリス女史がちらりとわたしを見てから転移し、エンツを終えたレオポルドはわたしに黄昏色の瞳をむけた。
「……だそうだ」
「まことに申し訳ございませんっ!」
机にぶつかりそうな勢いで頭をさげたわたしのうえから、レオポルドの凍えるような声が降ってくる。
「ほかの錬金術師たちがやったこととはいえ、お前が師団長だろう」
「ハイ……ワタシノ監督不行キ届キデゴザイマス」
美しかった中庭……わたしもキラキラとしぶきをあげる噴水とか、水のせせらぎが流れる水路が好きだった。
王城で働くひとたちの憩いの場でもあった場所だ。それを滅茶苦茶にしてしまった……戻せるものならいますぐ時を巻き戻したい。
(宝石を育てて……て言ったら『ゴーレム創ろう!』って発想になるところが、オドゥも異世界人だよなぁ……ふつうそんなの考えつかないよ)
べそをかきつつそんなことを考えていると、レオポルドはため息をついてとんでもないことを言いだした。
「ともかく不完全とはいえゴーレムを創りだした事情はわかった。お前の言葉に反応した……ということはつまり、お前自身は精霊に近いということだ」
「はいぃ⁉︎」
とびあがったわたしに、彼は表情をかえずに淡々と説明する。
「ゴーレムは精霊たちのしもべ。実体を持たない精霊たちの代わりに大地を創りあげたといわれる創世の巨人たちだ。とはいえその痕跡など地上のどこにも残っていない、伝説にしか過ぎぬ存在だ」
「あの……でもオドゥも命令してたよ?」
「……魔力持ちはみな精霊の子孫のようなものだ、程度の差はあれ。だがオドゥとちがいお前の場合は勝手にゴーレムが従ったのだろう?」
「うん……その、精霊に近いっていいこと?悪いこと?」
マウナカイアにいたカイから、グレンも人より精霊に近かった……と聞いた。わたしの質問にレオポルドは考えこむようにしてあごに手をあてた。
「どうだろうな……人の世では生きづらいだろうが、お前の体は恐ろしいほど魔力的に丈夫だ。あれから暴走も起こしてないようだし」
彼にはわたしが人間離れしているように見えるんだろうか。考えているレオポルドに、わたしはおずおずとたずねた。
「そっか……あの、せっかくだからゴーレムの研究をしてもいい?中庭はあんなことになっちゃったけど……ちゃんと研究すればすごいものが創れるかも」
レオポルドは眉をあげた。
「私に断る必要はない、お前が師団長だ。まったく……そんなものを創りだして、秋の対抗戦で使うつもりか?」
「……おお、その手があったね!」
わたしがポン、と勢いよく手のひらに右の拳を打ちつけると、レオポルドがめずらしく慌てた。
「まて、いまのは私がうかつだった、忘れろ」
わたしはむぅ……と、ほほをふくらませる。
「そんな心配しなくても対抗戦にはもうでないし、ゴーレムもださないよ。これなら安心でしょ?」
「……それは困る!」
「どっちなのよ!」
レオポルドは息をつくと首をかしげた。
「だが宝石を創るぐらいで公爵夫人が納得するか?」
「だいじょうぶ、ちゃんと作戦が……」
「『作戦』だと……?」
わたしはうっかり口をすべらせ、レオポルドが顔色を変えて立ちあがる。 いますぐ時を巻き戻したい!
「いえ、ななな何でもないです!」
「いいや、たしかにいま『作戦』と聞いた。何をやらかすつもりだ!正直に言え!」
机ごしに彼がわたしの両肩をつかむと、綺麗すぎる顔が真剣な表情で迫ってきた。
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