354.茶会の準備はどこいった⁉
24日の更新はお休みします。
「研究棟にいくのって夏以来だからドキドキしちゃいます!」
カディアンとメレッタが研究棟にいきたいというので、衣装合わせを終えるとわたしたちは研究棟前の広場に転移した。
そしていきなり目の前にひろがった光景に、わたしはあぜんとする。
研究棟前の広場は、ゴロゴロした岩のかたまりで埋め尽くされていた。
「……これ何?」
わたしの声にひょこっと岩の間からこげ茶の頭が顔をだした。
「あ、ネリアお帰り」
「うん、ただいまオドゥ……えっと、それでこの岩どうしたの?」
オドゥはいつもの黒縁眼鏡ははずしていて、広場をみまわすと肩をすくめた。
「あぁ、まぁネリアに教えてもらった〝結晶錬成〟がむずかしくてさ。岩の錬成なら練習になるかもって」
「岩の錬成⁉」
いわれてみれば向こうにもなんだか機嫌がよさそうなカーター副団長の頭がみえている。
「メレッタ、きたか!」
「やだお父さん、遊んでたの?」
カーター副団長はゴロゴロと転がる岩を魔法陣であやつりながら、くっつけたり離したりしている。オドゥも楽しそうに魔法陣を紡いだ。
「遊びながらやったほうが練習になる。魔術学園ではよく遊びながら術を覚えるんだ。童心に帰るっていいよねぇ……ネリアの教えてくれた方法でゴーレムを創れないかと思ってさ」
「はいぃ⁉ゴーレム⁉」
耳を疑ったわたしに、カーター副団長がもったいぶってうなずく。
「太古の昔大地より生まれ地上を支配した石人形……自らの意思を持たず、精霊たちのしもべとして忠実に働き、大地を創りあげた〝創世の巨人〟ともいわれておる。まさかネリス師団長のおかげでゴーレムの研究がはかどるとは!」
「いえ、あの……わたしは」
メレッタのアクセサリーを作ろうと……それで茶会の準備を……。
ユーリも研究棟からあわててでてきた。
「うわ、ゴロゴロ岩が転がる音がうるさいと思ったら……カーター副団長もオドゥもいったい何を?」
「ゴーレムづくりだよ。ネリアが教えてくれたんだ!」
ちがーう!わたしはメレッタのアクセサリーを作ろうと……それで茶会の準備を……。
オドゥとユーリは熱心に話はじめる。
「この関節部の術式がうまくいかなくてさ。岩をつなげて巨人にしたいんだ」
「どれどれ……オートマタの技術が使えるかもしれませんね。これでどうです?」
「お、いいじゃん!」
なんとバラバラだったいくつもの岩がドスンドスンと積み重なっていき、大きなヒトガタのような形をつくる。
「腕はこう……で、足はこうすれば」
ぎこちないがゴーレムっぽいものは腕を回し足をあげ、運動音痴な人がラジオ体操をしているような動きをはじめた。
「すごーい!」
メレッタがパチパチと手を叩くと、カーター副団長も「なんの、私にだってそれぐらい!」と岩を積む。
しばらくポカンとみているうちに、広場に転がっていた岩からは十体ほどのゴーレム(仮)ができた。
おかげで広場は歩きやすくなったけれど、まるでいびつなモアイ像がならんでいるみたいだ。しかも動くし!
「動きを調節すれば労働力として使えるかもしれませんね」
「だなぁ……『命令』を聞くように言葉に反応する術式を組みこんでみる?」
オドゥとユーリは相談しながら本格的に術式の構築をはじめ、やがてオドゥがうなずいた。
「やってみるよ……『踊れ』」
十体のモアイ像風ゴーレム(仮)は、その場でゴスゴスドスドス足踏みをしてどうやら踊っているようだ。その愉快な動きにみんなで笑ってしまう。
「ぶっ、何これおもしろい!」
「なっ、おもしろいだろ?」
「うん、そのうちゴーレムたちで運動会もできそうだね!」
どうやらそれがいけなかったらしい。
ブ……ン!
ゴーレム(仮)に仕掛けられた術式が反応した。
『ウ……ンド……ウ……カイ』
「えっ?」
ユーリがあわてて聞いてきた。
「ネリア、『ウンドウカイ』って何です?」
「えっと、駆けっこしたり、組体操とか棒倒しとか……あと玉入れ!」
そのたびに術式の一部が反応する。やがて……ゴーレム(仮)たちがいっせいに動きだした。
ドスドスドスドス!ガスガスガスガス!
ゴーレムたちは勢いよく、研究棟前の広場から王城の中庭へと走っていく。
「なっ、どうしたの?」
わたしがびっくりしている横で、オドゥは首の後ろに手をあててユーリに話しかけた。
「どうするユーリ」
「どうしましょうか」
こまったように返事をするユーリに、わたしは聞いた。
「ねぇ、どうなったの?」
「……『ウンドウカイ』をしにいったんだと思います」
「はいぃ⁉」
中庭のほうから破壊音とひとびとの悲鳴が聞こえてきた。
わたしたちがあわてて中庭に駆けつけたときはすでに遅く、ゴーレムたちの駆けっこで中庭は踏み荒らされ、ゴーレムたちの華麗な組体操により噴水と水路は砕けちり、ゴーレムたちの棒倒しにより魔導灯は引き倒され……見るも無残な状況だった。
そしてゴーレムたちは転がった破片を拾いあげては投げている。どうやらあれが玉入れらしい。ひとびとは悲鳴をあげて逃げ惑っている。
そして……。すぐさま駆けつけた魔術師団長、黒いローブに魔石を使った護符を身につけた涼やかな美貌の主が、黄昏色の瞳でギッとこちらをにらみつけた。
「……またお前か」
「ちがう、わたしメレッタのアクセサリーを作ろうと……それで茶会の準備を……衣装合わせしてただけだもん!」
ぜったいわたしのせいじゃない!
説明してもらおうとオドゥたちのほうをみると、全員が視線を泳がせた。オドゥが首のうしろに手をあてて、困ったような顔でやさしくほほえむ。
「あー……ネリアいってきなよ、あとかたづけは僕らに任せていいからさ」
「えっ……」
ユーリも気の毒そうな顔をしつつ、眉をさげてうなずいた。
「そうですね、僕らでかたづけておきますから、研究棟のことは心配しないで」
「うむ、こちらはだいじょうぶだ」
副団長が重々しくうなずく横で、カディアンも思いだしたようにメレッタに話しかける。
「そういえば俺たち、兄上の新しい術式見せてもらいにきたんだ」
「そうだったわね……ネリス師団長いってらっしゃい!」
ちがーう!心配してほしいのはわたし!だれか助けて!
わたしが口をパクパクしていると、肩にがしっとレオポルドの大きな手が置かれた。
「……師団長室にきてもらおう」
「待って、わたしも訳わかんなくて!」
レオポルドはきれいな顔をしかめてため息をつき、銀の髪をかきあげて首を横にふった。
「お前がやることは、たいてい訳がわからん」
「ほんとに、ほんとにわからないんだってば!」
メレッタのアクセサリーを作ろうと……それで茶会の準備を……してたはずだよね⁉
「お前が師団長だろう!」
「そうでした!」
たーすーけーてー!
ずりずりとひきずられながらいくら叫んでも、ゴーレムたちは満足したのかそれきり中庭で動かなくなった。
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『魔術師の杖④ ネリアと人魚の王国』
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