353.茶会の準備をしてるはず?
衣装合わせをしつつ、茶会の準備を……してるはず!
「だけど今回の主役はメレッタだし、わたしはなるべく目立たないようにしてるよ」
「えぇ?でもネリス師団長がいっしょだって聞いて、私すごくホッとしてるんです」
「わたしだけじゃないよ、カーター副団長やオドゥもいっしょだよ」
「うわ、父といっしょ……ってほうが緊張しますよ。優雅にお菓子つまんでお茶を飲む父なんて想像できません」
スタッフに案内された試着室でわたしは下着姿になり、用意された衣装に袖を通す。
「なるべく飾りのすくないシンプルなものを……ということでしたので」
「ありがとうございます。うん、いい感じです!」
サイズの細かな調整を終えたわたしがもとの服に着がえて試着室をでると、メレッタが「えっ、もう着がえちゃったんですか?」と残念そうな声をだした。
メレッタのほうも白いドレスに着がえていて、動くたびにすそに幾何学模様が浮かびあがる。袖の折り返しや胸元も模様を意識したデザインになっていて、元気いっぱいでとてもキュートな感じだ。
カディアン、センスいいじゃん!
「当日までのお楽しみ。メレッタ、とっても可愛いよ!」
「ありがとうございます、カディアンの考えたデザイン……ってのが、ちょっと引っかかるけど」
ちろっと舌をだしたメレッタの横でカディアンが「何だよ」とむくれた顔をする。
「俺、すっごく一生懸命考えたのに」
「あら、ライガのことだってそれぐらい必死に考えなさいよ」
「お前……ホントそればっかりだな。あとで兄上が改良した新しい術式をみせてもらうか?」
メレッタはパッと顔を輝かせると、そのあとでまた真っ赤になった。
「ホント?やだ、ずるい……ライガで釣るなんて!」
「ならやめとくか?」
「いくわよ、いくに決まってるじゃない!」
二人のやりとりにアナが目を潤ませて、王城スタッフのみなさんもほほえましそうだ。
細かなサイズ調整をするためにメレッタが試着室に消えると、カディアンが緊張したように背筋を伸ばした。
「あの、ネリィさん……いやネリス師団長。今回は俺たちのためにすみません……公爵夫人の件についても兄上から聞きました。おばあ様にお願いすれば所蔵品を何か貸してもらえるかもしれませんが……」
「だいじょうぶだよ、いまカーター副団長とオドゥががんばってるし。当日はカディアンもよろしくね。この作戦はカディアンがキモなんだから」
わたしがグッと拳をにぎりしめると、カディアンもうなずいて自分の胸をたたいた。
「はい、まかせてください。公爵夫人たちの度肝をぬきましょう。でもまさか師団長から『メレッタに甘い言葉をささやき続けろ』って指令を受けるとは思いませんでした」
「茶会までにカディアンの甘さに慣れてもらわないと。当日、メレッタが動揺したんじゃ困るもの」
顔を赤くしたカディアンが照れたように頭をかく。
「そうですが……俺も何だか意識するようになっちゃって……もともと『可愛いな』とは思ってたけど、だんだん彼女が何をしても可愛くみえてきちゃって。いまではメレッタの顔がまともにみられないんです」
「うっわー、ごちそうさま!」
「でも当日はちゃんとやりますから。それと……」
カディアンはビシッと姿勢を正すと、立ちあがりわたしに頭をさげた。
「私、カディアン・エクグラシアに錬金術師団への入団を認めていただき感謝します。どうかよろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
汗だくになったオドゥが眼鏡をはずして髪をかきあげ、カーター副団長によびかけた。
「カーター副団長、休憩にしましょう」
「まだだ……もう少し!」
「このままでは魔素が枯渇します。ポーションを飲んだだけでは体の疲れが回復しません!」
同じく汗だくで歯をくいしばっていたカーター副団長がようやく動きをとめた。二人そろって椅子ではなく工房の床に崩れるようにへたりこんだ。
自分よりも消耗がはげしいのだろう……副団長の荒い息づかいを聞きながら、オドゥも呼吸を整え汗をぬぐう。こんなときは眼鏡が邪魔くさい。
土属性を持つオドゥにとって、金属や鉱石をあつかうことはたやすい。だがネリアが要求してきたのはそれとは別の、まったく異質なことだった。
『結晶構造を理解して』
『星が大地の奥深くでやっている化学処理を自分たちの手でするのよ』
金を創るより簡単だ。それなのに簡単じゃない。彼女が命じたことがまるで理解できない。ネリアは自分たちに何を命じた?
オドゥは天井をみつめたままで、カーター副団長に投げやりに質問する。
「カーター副団長、〝結晶〟って何か知ってますか?」
「はぁ?輝雪結晶が素材にもあるだろう!」
ぜぇぜぇと息を切らしながらも、副団長は律儀に返事をした。
「ありますねぇ……モリア山で降った雪がまったく溶けずに、ひと冬かけて成長するとか」
「そうだ、優れた耐熱性があり夏でも溶けん」
(塩なんかも結晶になるな……)
ぼんやりとオドゥは考えた。そう、結晶は成長する。石も結晶だと……?
「育てる……のか?」
『水が命を生み、生まれた命は風が運び、炎がその運命を変える。そして土は命の終焉……すべては星へ還る』
古来よりいわれてきたことだ。
すべての命は土を通して星に還り……やがて〝星の魔力〟とひとつになる、それが命のさだめ。
だが石には命がない。命がないものを〝育てる〟とはいわない。唯一思い当たるそれは伝承でしかない。
太古の昔、大地より生まれこの地上を支配したといわれる石人形。古い遺跡の壁画などに姿を残すのみ……いまでは本当に実在したのかすら定かではない。
「……まさか、ゴーレム……!」
『そのあとはあなたたちがその手で好きなものを創りだせばいい』
ネリアが命じたのはメレッタの身を飾る宝石づくりだ……だがこの技術はそれに使えるのではないか?
『これは〝必要な技術〟よ……覚えて』
「……いわれなくとも……!」
ギリッと歯を食いしばったオドゥは浄化の魔法で汗をきれいにすると、目を閉じて術式を組みたてはじめた。
グレンの元で錬金術を学び、カーター副団長の技術も盗んだ。だけどまだその先がある……そう思わせる何かを彼女はサラッと置いていった。
この世界にひとつしかないあの体には価値がある。けれどそのなかで三重防壁に守られた命も……。
(そう簡単には狩らせないつもりか……)
4巻表紙は私の「ネリアのおへそが見たい」というお願いを叶えてもらいました。
ご要望があればページ下部にございます表紙イラストから公式サイトに飛べるので、そちらからいずみノベルズ編集部に直接メッセージを送ってみてください。
編集部の会議で検討されるので、実現の可能性が高いです!
今までに編集部宛に送ってこられたのはたった1人だけ。
その方の要望は3巻表紙で実現、そのために本文も書きかえました。
4巻発売前でまだ売り上げも出てない状況なので確約はできませんが、5巻以降の製作にはまだ間に合います。
よろづ先生はたまたま担当になられた方ではなく、私がいずみノベルズさんと契約するときに、
・瞳が綺麗に描ける。
・ドラゴンが描ける。
・ライガや魔導列車などの魔道具類が描ける。
・空間認識能力がある。
・描く機会はないかもしれないけど、カーター副団長などのオジサンもしっかり描ける。
という5つの条件をあげ、必死に探していただいた方なんです。
それなのに何の要望も出さないなんて実にもったいないです。
 









