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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
番外編

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対抗戦後日談 前編(レオポルド視点)

21日で書籍発売1周年となりました!

ありがとうございます。

今回は秋の対抗戦後日談です。ネリアは出てこないレオポルド視点の話。

今回の彼はいつものレオポルドです。

 秋の対抗戦は『終わりが始まり』といわれる。


 塔にいるどんな美女たちも霞ませてしまうほどの美形であるレオポルド本人は、美貌を台無しにするようなシワを眉間にくっきりと刻んでいた。


 塔では彼を中心に対抗戦の検証、敗因の分析、来年への対策などが話し合われている。


 模擬戦とはいえ真剣勝負だから、二年連続で敗北した魔術師団の空気は重たい。


 とくに騒動を起こしたカイラたちには「魔術師団の恥さらしだ」と、ほかの魔術師たちも怒っていた。


「では今回の敗因ともなったカイラ、マーク、リズリサ三名の処遇についてですが……」


 バルマ副団長の言葉にレオポルドは口を開いた。


「……このまま三人を塔へ置いておくことはできない。カイラとマークにはモリア山の山番を命ずる」


 凶暴な魔獣も多く、一年のほとんどが雪と氷に閉ざされるモリア山の管理は、魔術師団にまかされている。


 過酷ともいえる環境に、マリス女史は当人たちよりも子どもたちの身を案じた。


「それは……小さな子には厳しい場所ではありませんか?」


「子どもたちはいずれ魔術学園に入学し親元を離れる。過酷な環境では夫婦で協力していくしかない」


 カイラの炎魔術は塔でも指折りの腕だ。それがモリア山で役に立つとは皮肉なものだが。


「リズリサはどうします?」


「あの二人と物理的に引き離すしかなかろう。エクグラシア南端のマウナカイアに派遣する。人魚の王国との交流がはじまる……魔術師団にも要請があった」


 塔にいる魔女たちはみな美しい。押しに弱いリズリサに近づく人魚がいるかもしれない。


 そうなればマークとの縁は切れるだろうし、あとは夫婦二人の問題だ。


 それぞれの処遇をレオポルドが銀のペンで記すと、辞令はそれぞれひらりと浮く。


 すかさず転送魔法陣が発動し、それらはすぐに本人たちに送られた。


「アルバーン師団長、私からひとつよろしいですか?」


 団長補佐であるマリス女史はいつも的確な助言をくれる。レオポルドはバルマ副団長と同様に頼りにしていた。


「なんだ」


「いまは私がネリス師団長とやりとりしてますが……今後のことも考えますと、師団長ご自身がもっと話し合われてください。聞けば竜騎士団長もネリス師団長にはよくエンツを送っているとか」


 バルマ副団長もうなずいて言葉を添えた。


「そうですね、竜騎士団長とは十年のつきあいですから言葉にしなくても伝わる部分があるかもしれませんが……それではネリス師団長には伝わりません。いまはグレン老の時代とはちがいます、三師団の結束を固めるべきです」


「……わかった。竜騎士団にいってくる」


 転移したレオポルドを見送り、メイナードとマリス女史は顔をみあわせた。


「この話の流れでさぁ、なんで錬金術師団じゃなくて竜騎士団にいくの?」


「さぁ……ネリス師団長に何て話しかけようか悩んでるとか……」


 マリス女史の返事にメイナードは苦笑いした。


「ウチの師団長ならありうるね」





 レオポルドは竜騎士団の前でひとりため息をつく。


「力を示すだけではダメということか……」


 体が小さなときは制御に苦労した魔力も、成長してからは使うのが楽しかった。


 塔にはいってからもひたすら魔術を磨き、自分よりも上の者に挑んでは打ち負かしてきた。


 力を示せば受けいれられる……魔力がなければ自分には何の価値もない……先代のアルバーン公爵にもさんざんいわれたことだ。


 そして彼女にそれは通用しない。どうすれば……と考えて、レオポルドは首をふる。


 ただそばに在ればいい……それ以上のことは考えるな。


「友人、ぐらいにはなれるかもしれんな」


 ひさしぶりにアガテリスでも乗ろう……それにライアスから彼女の話が聞けるかもしれない。そう考えたレオポルドは、竜騎士団の建物に入っていった。


 エンツもなしに訪れたレオポルドを、ライアスはさわやかな笑顔で迎えた。


「レオポルド、よくきてくれた!ちょうどよかった、お前も意見を聞かせてくれないか」


 レオポルドがみていると、ズラリと勢ぞろいした屈強な竜騎士たちを前に団長のライアスがうなずく。


「きょう集まってもらったのは先日の対抗戦を振り返るためだが……」


 紺色の髪をしたベテラン竜騎士のレインがげんなりした顔をした。


「まぁ毎年のことだから反省会をやるのはわかるが……今回は振り返りたくもないな」


「俺も……あの感触は早く忘れたいです」


 今回、初参加だった新人竜騎士ベンジャミンが、鳥肌を立てぶるりと身をふるわせて自分の腕をさすると、茶髪のヤーンも顔をしかめた。


「しばらく夢にでたよな……」


 対抗戦では視覚を奪われた状態で送りこまれたものが頭に絡みつき、ドラゴンたちはパニックになった。


 転送魔法陣で送られたものの正体は、魔獣でもなんでもなくただのタコだったのだが、竜騎士たちのミスリル鎧は魔法攻撃をはじいてもタコ墨の直撃は防げなかった。


 負けっぷりの情けなさに竜騎士団に沈黙が流れると、副官のデニスは咳払いをした。


「ともかく、タコには驚かされたが、飛行能力のないあいつらを送りこんだ座標計算の正確さは見事だった!」


「たしかに……あの精度であれば、実戦でも役にたつな」


 腕組みをしたアベルが唸るようにいうと、根っからの戦闘集団である竜騎士たちは忌まわしい記憶をふりはらう。


「あの正確さなら敵陣営の詳細な地図があれば、すぐに要所を落とせるな」


 ヤーンが指摘すると、レインもうなずく。


「それに戦闘は早期決着が理想で、長引けば長引くほど泥仕合になり収拾が難しくなる。錬金術師団が初心を思いださせてくれたな……ドラゴンが飛ばねば竜騎士とてただの人間だ」


 そう、忘れてはいけない。竜騎士たちも輝くミスリルの甲冑で身をかため、いまでこそ魔術師たちとの魔法勝負みたいになったが、本来の対抗戦はもっと泥くさいものだ。


 人間がこの地で暮らすには竜王に勝つしかなく、建国の祖バルザムはあらゆる手を使ったはずだ。


 竜王に何度敗れてもあきらめず挑みつづけ、そうしてようやく手にいれた安住の地がシャングリラなのだ。


 ドラゴンを乗りこなすことに気をとられ、その戦闘力の高さに胡座をかいていた……。竜騎士たちは深く反省した。


 副官のデニスが場を締めた。


「今回の戦いはいくつもの反省点がある。まず我々は錬金術師団の戦力を見誤った。情報収集を怠ったともいえる。まずは『敵を知る』ことが大切だ。今日は訓練場に特別講師をお呼びしている!みんな移動してくれ!」





 レオポルドもついて移動すると、訓練場には錬金術師団のクオード・カーター副団長が待ち受けていた。


 やってきた全員の顔をねっとりと眺め、カーター副団長は重々しくうなずく。


「ふん、竜玉はムリでもドラゴンの爪や牙ならいくつか寄越せるというのでな、面倒だが協力してやろう」


 話を持ちかけた副官のデニスは、カーター副団長から「ウロコ程度では話にならん!ドラゴンの牙を寄越せ!」と、それはもうしつこく粘られた。


 だが転送魔法陣の座標計算をおこなったカーター副団長とは、ここでいい関係を築いておきたい。


「カーター副団長、本日はお忙しいなかありがとうございます」


「ちゃんと素材は用意しておろうな。品質もしっかり確かめさせてもらうぞ。あとで竜騎士団の保管庫をあらためるからな」


 カーター副団長の目がギラリと光った。


「それは……もちろんです、どうぞご自由に」


 副団長は目をつけた素材があればついでに持ち帰るにちがいない……デニスは顔をひきつらせたが、ライアスがうなずいたので愛想よくいった。


 ついでカーター副団長はレオポルドをみて眉をひそめた。


「魔術師団長も参加されるとは聞いておらんが……」


「たまたま居合わせた」


「フン、参加されるからには魔術師団からもキッチリ対価を要求させていただく。保管庫の素材をだす気はあるのですかな?」


 欲張りなカーター副団長がレオポルドからも素材をせしめようとすると逆に聞きかえされた。


「そんなものでいいのか?」


「は……?」


「ならばあとで塔にくるといい」


 あまりにもあっさり要求が受けいれられたため、ごくりと唾を飲んだクオードはもうひとつ要求を上乗せした。


「あの……それならついでに魔術師団長室の蔵書なども拝見したいのですが……」


 これにもレオポルドはすぐにうなずいた。


「許可しよう、でははじめてもらおうか」


 カーター副団長の機嫌はすこぶるよくなった。


「ふはははは!魔術師団と錬金術師団もこれからは協力していかなければなりませんからな、私がたこ焼きの真髄について教えて進ぜよう!」

後編もすぐに掲載します。

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