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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
番外編

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SS続き『レオポルドに迫られたい』

前回、会議室に消えた2人の続き。

アンケートの結果、1.の『レオポルドに迫られたい』となりました。

なお、2.の『いやネリアの方から迫れ』も活動報告に掲載しています。

SSなので、どちらも本編より糖度高めです。

 ギルド長室の隣にある会議室は、収納鞄の契約やグリドルの商品登録をした場所だ。


 会議室の扉を閉めるとレオポルドはようやくラベンダーメルの耳から手を離し、コツリコツリと歩いて机に近づくと、わたしのために椅子をひいた。


「……とにかく座れ。話を聞く」


「どうも……きょうのレオポルド、いっぱい護符がついているね」


 耳飾りのような護符は集中力を高め、魅了や混乱などの精神攻撃を防ぐらしい。


 左胸にミスリル銀で精巧につくられた台座にひときわ大きな魔石がセットされた、宝飾品のように美しい護符をつけている。


 あれはだれが作ったのだろう。


 目を留めていると、レオポルドもそれに気づいた。


「ここは魔道具が多い……魔力が影響して壊しかねないからな。いわば自分のための『鎖』だ」


「鎖……」


「ミスリルに煉獄鳥の魔石をはめたものだ。私は炎の属性が強いため、護符には煉獄鳥の魔石を使う」


 レオポルドもすぐ左の椅子にすわったので、わたしの目の前に魔石がくる。


 紫色をした煉獄鳥の魔石には遊色が焔のように揺らいでいた。


 閉じこめられた焔が揺らぐのが不思議でみいっていると、レオポルドも机に左肘をついてじっとこちらをみつめている。


 思わずメル耳がピョコンとはねると、レオポルドはそれに視線をむけてため息をついた。


「本当にお前の行動は予測できんな」


「ええと……それは魔道具ギルドにいたことでしょうか、それともこのラベンダーメルの格好でしょうか」


 わたしは居心地の悪さを感じながら、椅子のうえで身じろぐ。


「両方だ」


「サヨウデゴザイマスカ」


 だよねー。なんでこんなとこみられちゃうかなぁ……遠い目をしたわたしの横で顔をしかめ、レオポルドはさらりとした銀髪をかきあげる。


「ずいぶんと王城のそとでは好き勝手にやっているようだな」


「好き勝手って……学園生の実習に参加して真面目にやってたんだから。ちょうど実習の打ちあげをしてたんだよ。四本足のお茶会ってレオポルドも知ってるでしょ?」


 疑われるようなことは何もしていない、そういいたくて必死に説明すると彼は無表情にうなずく。


「ああ」


 いつも王城で会うレオポルドとここで話をしているなんて、なんだか不思議。


「……レオポルドこそ、なんでここにいるの?」


 聞いたとたん、わたしたちのまわりに一瞬で遮音障壁が張られ、わたしはビクッとする。


 え、早くない⁉︎


 ユーリとかが遮音障壁を張っているところは何度もみたけれど、たいていはまず指を使い術式の構築をする。


 レオポルドの指はまったく動いていない。まるでまばたきだけで障壁を張ったみたいだ。


 いやそれすらも必要ないのかも……あらためて彼の凄さに感心していると、レオポルドが口をひらいた。


「調べたい魔道具があって、ギルドに協力を依頼した」


「調べたい魔道具?」


 レオポルドが目を伏せると、長い銀のまつ毛が黄昏色の瞳に影を落とす。


「エクグラシアのものではなく……サルジア製の魔道具について知りたい。サルジアの情報が少しでもわかればと……お前もそうではないかと思ったのだが」


「ソコマデハカンガエテマセンデシタ……」


 そうか、師団長は国王を支える……王太子がサルジアを訪問し、それに師団長が随行する話がでているのなら、レオポルドだって情報を集めようとするだろう。


 だからデーダス荒野にだっていくのだし。彼は視線をあげ、わたしのつけている首飾りに目をやった。


「その護符……王都にきたときもつけていたな、グレンの作か?」


「これ?そうだけど……」


「みせてもらいたい」


 レオポルドが差しだした右手をみて、わたしは一瞬ためらった。


『もしもわしが帰ってこなければ、お前はそれをつけて自分で王都へ来い』


 コインぐらいの大きさをした三枚の丸いプレートを連ねた首飾りは、王都にいく前のグレンからそういって渡されたものだ。


 プレートのひとつは師団長室の鍵にもなっていて、もうひとつはデーダスにある工房の鍵……それを彼の手に渡すことに不安がよぎる。


 けれどいわれるがままに、わたしは留め具をはずして彼の手にそれをのせた。


 シャラリと軽い音がしたそれを、レオポルドは目の前にもっていきじっくりと眺めている。わたしは慎重に彼へたずねた。


「……何か気になることが?」


「仕組みだ」


「仕組み?」


「魔道具はどれも術式を用いて機能を持たせている。サルジアの魔道具もおなじだが……表にみえる術式とは別に隠された術式があり、複数の機能がある場合が多い」


「複数の機能?」


 レオポルドが首飾りのまわりに魔法陣を展開すると、そこに精巧に刻まれた術式が浮かびあがる。


「これが表側の術式……刻まれているのは護符の働きだ。だがその裏に隠された術式があり、その機能はこれを所持する者にしかわからない。非常に凝った細工だ」


「そうなんだ……」


 もしかしたら『鍵』の機能がそうなのだろうか。


 彼は首飾りからわたしへと視線を移した。


「これを調べさせてほしい……といったら許可はもらえるか?」


「ごめん……」


「……だろうな」


 レオポルドはわたしの返事を予想していたようにうなずくと、首飾りをかえしてよこす。


「サルジアの魔道具は魔道具としてちゃんと使える。だがそれとは別に隠された機能がある。グレンが作ったその首飾りにも、護符以外の働きがあるのだろう。そんな魔道具は、と考えて……ひとつ思いだしたものがあった」


「なにを思いだしたの?」


 ふたたび首飾りをはめなおしたわたしの問いかけに、彼は眉をひそめてだまりこむ。


 話したくなさそうというか、口にすべきかどうか彼は珍しく迷っているようだった。


「あの、話したくないのなら……」


「いや……メイナードとマリス女史にも諫められた」


「諫められた?」


「十年前からの仲であるライアスとはちがう……ネリス師団長には言葉を尽くさねば伝わらないと。ネリス師団長とはもっと会話し連携をとってほしいといわれた」


「そう……ん?」


 わたしの頭につけたラベンダーメルの耳がピクリと反応する。


「あの、もしかして今……レオポルド、わたしと会話しているつもりなの?」


 黄昏色の瞳がわたしをみかえしてきた。


「そうだが」


 わたしは思わず立ちあがった。ラベンダーメルの耳もピンと立つ。


「尋問されているのかと思ったわよ!」


「そうか?」


 首をかしげたレオポルドに、わたしはめっちゃ抗議した。


「だって最初にわたしのことにらんでたじゃない!怒ってる感じだったし!」


「にら……だれだって目を疑うだろう!ラベンダーメルの格好をした師団長などみたこともない!」


「ここにいます!」


「力いっぱい主張するな!」


「ともかくレオポルドは自分の態度が悪いって自覚したほうがいいよ!」


 ふんす、とわたしが腰に手をあて鼻息あらく指摘すると、レオポルドもため息をついて立ちあがった。


「そうだな……すまない、今日はここまでにしよう」


「え、ちょっと!何か話しかけたのならいいなさいよ、気になるじゃない!」


 思わず彼のローブに手をかけてひきとめると、ふりむいた彼は真顔で淡々と返事をする。


「私はお前に優しく接することができない」


「そんなの、優しくしてほしいなんて思ってないし!」


 わたしが真っ赤になっていいかえすと、彼は首を横にふった。


「だが……このあいだは師団長室で話していて倒れたろう」


「あ……」


 そういわれてみると、彼は形のいい眉を寄せ心配そうにこちらをみている。


「レオポルド……まさかわたしの心配をしてるの?」


 ローブをつかんだままそう聞くと、彼は瞳の色を揺らがせてまばたきをした。


 え、どういうこと?


 その揺らぎをもっとよくみようとして。


 彼の瞳に宿る感情をのぞきこもうとして。


 次の瞬間には、わたしは彼の腕に抱きすくめられていた。


「レ、レオポルド⁉」


 仰天したわたしの声にはかまわず、彼の腕はさらにしっかりと抱きこむようにわたしの体にまわされる。


「いまにも消えるかと思った……」


 絞りだすようにつぶやかれた彼の言葉に、倒れた晩は彼がずっとつきそってくれていたことを思いだす。


 あのあと彼は何もいわなかったけれど、本当は彼にとても心配をかけていたのだとわたしはようやく悟る。


「あのっ、ごめん!もうホント大丈夫だから!迷惑かけてごめんね?」


「……謝らなくていい」


 ただしっかりと抱きしめたわたしの髪に顔を寄せ、ささやいた彼は動こうともしない。


 わたしに彼の表情はみえず、ただ彼の鼓動だけが伝わってくる。


 それと背中にまわされた腕の力強さと温かさと。


 どうしたらいいんだろう。メル耳がへちょりと垂れて彼の腕に落ちる。


 わたしが、彼の感情を揺らがせた。


 怒りでもなく喜びでもなく、わたしの存在が消えかかったことが……こんなにも彼を動揺させた。


 彼にとっても予想外だったにちがいない。


 謝りたいような泣きたいような気持ちになって、わたしは彼にささやいた。


「あのね……わたしあのとき王都に早くなじもうと焦ってたから、何だかレオポルドにいわれた瞬間、『もうダメだ』と思っちゃったんだ……ごめんね?」


 彼がわたしを抱きしめたまま、何かに耐えるように深く息を吐く。


「……ごめんねというのなら、しがみつけ」


「え……?」


 顔をあげたレオポルドが右手でわたしの髪をなで、ゆっくりとその長い指がわたしの髪と頬をすべりおりていく。彼はわずかに身を離し、黄昏色をした瞳でまっすぐにわたしの瞳をのぞきこんだ。


「お前がここにいると……きちんと感じたい。だから私にしがみつけ、あのときのように」

アンケートにご協力ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] 続きぃぃぃいい〜〜〜!!!!!(←同じように。叫ばせて頂きます) ※私も、気になりました。 同じように思った方が、沢山おられるかと思います。
[気になる点] 続きぃぃぃいい! こんなイイトコで切らないでぇぇ!気になりすぎるーーー [一言] デレオポルト様ごちそうさまでした。 おかわりください!
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