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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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341.対抗戦終了後・夜

今回はレオポルドとユーリの様子です。

 実は学園の寮ではオドゥの部屋よりも、レオポルドの部屋のほうが暖かく魔道具もそろっていた。


 レオポルドはしゃべらないからかえって居心地がよく、本棚の本も読み放題だ。


 お茶を飲みたくなったら自分で淹れて、ついでに寝こんでいるレオポルドのぶんも用意しただけだ。


 いつも不愛想なレオポルドもベッドに寝ていればおとなしい。


 熱で目元をぼんやりとうるませ、浅い呼吸のなかから「あり……がと」とつぶやく。


 ほほが上気し唇もぽってりと赤く可愛いっちゃ可愛い。あくまで観賞用だし、いまはそれほどでもないけど。


 つぎにオドゥは薬の調合をはじめる。こちらのほうが本命で、レオポルドの魔力はいまとても不安定になっている。魔力暴走一歩手前といったところだ。


 錬金術師団の攻撃に魔術師団が総崩れになりかけたところを、レオポルドはひとりで支えようとした。


 雨を喚んだあとは大地を凍りつかせてヘリックスをとめようとした。目を閉じたレオポルドはただ寝ているだけにみえるが、身動きすらままならない状態だろう。


「あいつ……本気で怒ってたな」


「まぁお前のことだから、ネリアを怒らせるようなことさんざん言ったしやったんだろ。それに……ネリアに頭突きをされなかったら、いまごろもっとまずいことになってたかもよ?」


 学園時代から無茶をしたあとはかならず寝こんでいた。それがわかっていても無茶をする……そんな彼の性格をオドゥはよく知っている。


 そこを利用して今回レオポルドを追いこんだ自覚はあるから、薬を用意してやるのはオドゥにとっても罪滅ぼしのようなものだ。


「ほらできた。もう起きられるだろ、あとは自分で飲めよ」


 魔法陣を収束させたオドゥの背後で、身じろぐ気配がしてぼそりとつぶやく声がする。


「真っ向からぶつかってきた……」


「ん?」


 薬を手に持ってふりむいたオドゥは、レオポルドの顔をみてあっけにとられた。


「えっ?お前……もしかしてネリアに頭突きされて喜んでる?」


「許されたわけじゃないが……チャラにしてやると」


 しぼりだすようにつぶやかれた、かすれ声の色気がハンパない。


 額をおさえた腕の影になっているが、銀のまつげにふちどられた瞳の黄昏色がいつもより光を増している。


「ちょっと待て!いまここ僕しかいないんだからさぁ、そんなうれしそうな顔で変な色気をたれ流すな!」


 オドゥの叫びが仮眠室にひびきわたった。





 秋の対抗戦を錬金術師団が制したころ、王都全体も秋祭りのフィナーレを迎えていた。


 五番街にある〝ニーナ&ミーナの店〟でも、ニーナやメロディが掘りだしもの市でみつけた戦利品をひろげていた。


 仕事はまだ終わらないがこの日だけは秋祭りを楽しむと決めていた。


「冬物のコートがこの値段なんて!それにこの色欲しかったの!」


「同業者の偵察……といいながら、しっかり買いこんだわね」


 ミーナが六番街からテイクアウトしたムンチョのから揚げをつまみながら、発泡するミッラ酒をグラスに注ぎのどをうるおした。


「今夜はどこにいく?王城前広場もにぎやかなのよねぇ、収穫祭のダンスは楽しまなきゃ」


 アイリは収納鞄に荷物をつめこむと立ちあがった。


「私、買いものした荷物をいちど工房に置いてきますね。すぐ戻りますから」


 うれしそうな顔のアイリに、ニーナもやさしくうなずく。


「ゆっくりでいいわよ、私たちここでひと休みしてるし」


「そうね、今夜の相談してるわね」


「はい、いってきます!」


 はじめて自分が稼いだお金で冬支度をして、自分が着るための服を買いこんだ。それと八番街の古本市で本を数冊。


「買いものは秋祭りまで待ったほうがいい」というミーナたちのアドバイスに従い、きょうまで我慢していた。


 手元にはいくらも残らなかったが、アイリの心は浮きたっていた。


(服だけでなく本も買えたのはうれしかった……)


 新刊を一冊買う値段で、古本なら何冊も買えるのは発見だった。


 魔道具ギルドの図書室で読めるものとはちがう……古い詩集と物語。


 部屋のベッドわきに本がならんでいるところを想像すると、それだけで心が温かくなる。


 アイリは五番街のポートから七番街に移動すると工房にいそいだ。





 工房までやってくるとその前にたたずむ人影がいて、アイリは立ちどまった。


「あの……きょうはお休みですから、もしご用なら五番街に……」


 声をかけてふりむいた人物の顔をみて、アイリは目をみひらくと持っていた鞄を落とした。


「あ、すまない。おどろかせて……」


 その人物はすまなそうな顔をしてアイリが落とした鞄を拾おうとしたので、アイリはあわてた。


「そんな、だいじょうぶです、どうかそのままで……ユーティリス王太子殿下」


 拾った鞄に浄化の魔法をかけると、その人物はこまったように優しげな笑みを浮かべた。


「どうか……街中では〝ユーリ〟と呼んでくれないか?」





「片づいてなくてすみません、こちらへどうぞ。ニーナかミーナにエンツを送りましょうか?」


 アイリは工房へユーリを案内し、比較的片づいている作業机のわきに彼をすわらせた。


 北の平原では秋の対抗戦があり、それに錬金術師団が参戦し勝利したことは知っている。道でだれかが興奮して叫んでいた。


「春には第二王子が錬金術師団に入団だってよ、これからは錬金術師の時代になるな!」


 椅子にすわるユーリは落ち着いていて、戦いを終えたばかりのようにはとてもみえない。


「いや、ちょっと工房のようすを見にきただけだから……それに、きみに会いにきたんだ」


「私に?何かご用でしょうか?」


 アイリが緊張して彼の言葉を待っていると、ユーリは困ったように眉をさげた。


「用があったわけじゃないんだが……いままでここにくる勇気がなかったんだ」


「勇気……」


 アイリが目をまたたいていると、ユーリは言いにくそうにたずねてくる。


「カディアンの婚約のことは聞いた?」


 ……ああ、その話か。アイリはなんとなく落胆しながらうなずいた。


「メレッタからエンツをもらいました、二人ならきっとうまくやれますわ」


 私とちがって。声にならない言葉は飲みこんだ。ユーリはそんなアイリの様子をじっとみていた。


 アイリはユーリをそのままにして工房の隅にいき、お茶のしたくをする。


 そういえば前に彼とお茶を飲んだときは、彼がお茶の用意をしたんだっけ……いまはそれが遠い昔のことのように思える。


 いつもより緊張して淹れたお茶のトレイを運び、ユーリが礼をいってカップを手にとったのをみて、アイリもそれを口に運んだ。


「おいしい……!」


 ひと口飲んで目を丸くしたユーリに、アイリはほほに血がのぼるのを感じた。


「そんな……ふつうのお茶です」


「そうかもしれない……だけど、きょうはいろいろとすごいことがあってね、食事はしたけれどいままで味を感じなかったんだ。これはちゃんと味を感じられる」


 くしゃくしゃと髪をかき乱して照れくさそうに笑ったユーリは、ふっと肩の力をぬいた。


「きみに謝りたかった。けれどどんな言葉をかけたらいいのかわからなくて……ここにくる勇気がなかった」


 アイリは首を横にふる。


「……この職場をあなたに世話していただいたことは知っています、それだけでじゅうぶんです。工房にもいつでもいらしてください、ニーナたちも喜びます」


「僕のせいなんだ……きみの人生が狂ったのは。僕がさっさと立太子していれば宰相も……きみはカディアンのことが本当に好きで、弟のために一生懸命だったのに」


 彼は謝りたいのだと思うと同時に、アイリは彼に謝らせてはいけないと思った。そんな優しさはいらない。だから立ちあがって明るい声をだした。


「そうですね、卒業パーティーでダンスを踊りそこねてしまいました。だから……よろしければ私と踊っていただけますか、ユーリ?」


 アイリが工房の窓を開けはなつと、風に乗って秋祭りの音楽が流れこんできた。

3巻が発売しひと月経ちました。

3巻がでたことでようやく『魔術師の杖』を知ってくださる方も増え、「コツコツと書いた小説を読んでもらえるって嬉しいことなんだなぁ」とあらためて感じています。


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