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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』11月1日コミカライズ開始!
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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34.携帯ポーション

ブクマ&評価ありがとうございます

 防虫剤の次は、部隊遠征用の携帯ポーション各種作製だ。


「ヌーメリア、部隊遠征用ってどんなポーションが必要なの?」


「こ……今回は第三部隊の魔物討伐の遠征用で……南の砂漠地帯に行くはず……回復用のポーション、コカトリスや黒鉄サソリ、砂蛇対策に麻痺や毒対応のポーションがあれば……」


「南の砂漠……エレント砂漠かな?」


 わたしは〝地域別魔物図鑑〟を広げる。ポーションかぁ……いいね、錬金術っぽいね。いや……錬金術だけど。


 ――錬金術は『変容』を起こす奇跡の技……無から有を生み、不可能を可能にする。――


 さっき作った防虫剤は錬金術の技術も使ったけど、正確には錬金とは言えない。薬草の成分を取りだして固めただけだ。


 だけどポーションはただの薬草の抽出液じゃない。


 錬金術は運命すらねじ曲げる。あらゆる角度から〝死〟に向かって落ちていく〝運命〟に逆らい、〝生〟へと引き戻す。


 傷つきし者に〝再生〟を。


 目が見えぬ者に〝光〟を。


 死にゆく者に〝生存〟を。


 毒に侵され朽ちゆく体に〝浄化〟を。


 力尽きた戦士に、みなぎる〝力〟とあふれる〝闘志〟を。


 魔力を失いし魔術師に、高い〝集中力〟と澄みきった純粋な〝魔素〟を。


 それが錬金術師の作る〝ポーション〟だ。


 これはちゃんとレシピ通りに作る。素材の組み合わせで、どうしてこんな効果がでるのか、わたしにはさっぱりわからないもの。


 今度は師団長室の奥から、とっておきの素材を選びだす。わたしもはじめて見るものばかりだ。


 討伐地域に生息する魔物から受ける毒に対しては、討伐地域で採れる素材が有効なことが多い。


 麻痺毒には砂漠薔薇、エレントアロエ、コカトリスの牙と爪、黒鉄サソリの干物、砂蛇の抜け殻……。


 体力回復にはネコネリスの実、ユーリカの花の蜜、エリクシャンテの卵、輝雪結晶の雫……。


 わたしは魔法陣を次々に発動して、錬金釜に放りこんだ素材に重ねていく。


 魔法陣に刻んだ術式で、素材の持つ力を奪いとるためだ。


 砂漠薔薇から、高い再生力を。


 エレントアロエから、熱を奪う力を。


 コカトリスから、麻痺を解く力を。


 黒鉄サソリや砂蛇から、解毒の力を。


 状態異常の回復には、効果反転の術式を仕掛けて作用を反転させる。


 素材の力がうまく引きだせたかは、その種類によって魔法陣が赤や青に光ったりと、さまざまな色に変わることで判別する。


 魔法陣をどんどん発動するので、魔力はたくさん消費するのだけど。


 錬金術師たる者、ここで魔力をケチってはいけない!


 息切れしないように呼吸を整えつつ、魔素を一定のリズムで流し続ける。


 錬金に使った素材は、力を魔法陣に奪われるためスカスカになる。何かに再利用できるといいんだけど。


 ソラに錬金釜をかき混ぜてもらいながら、人間の体に馴染むように、さらに魔法陣を重ね掛けして調整する。


 速やかに吸収されるように。


 効果の反動で望まない作用がでないように。


 ギャリギャリギャリギャリ……


 魔法陣同士が反発し合い、干渉し合い、耳障りな不協和音を奏でる。


 それをソラが丁寧に混ぜ合わせて、すべての術式が違和感なくなじむと、ひとつの波動となってゆく。


 やがて魔法陣の奏でる音が、澄んだ音色に変わると、最後にぼわん、とポーション全体が光り、濁っていたポーションが透き通っていく。


「ひぃっ!も、もぅ……完成してる……」


 横で魔法陣を敷き、自分の錬金釜をかき混ぜていたヌーメリアが、ぼうぜんとこちらを見ている。


「ユーリもこっち見てないで、手を動かそうか。ヌーメリアの手はちゃんと動いているよ!」


「あっ、ええ……なんかもう神業っていうか、ポーションひとつに魔法陣の多重展開とか、いろいろ凄すぎて」


 ていうか遠征部隊のポーションに素材つぎこみ過ぎだろ……とかなんとか、ユーリはぶつぶつと呟いている。


 ああ……うん。ちょっと力技でゴリ押しちゃいました。素材はあるものを盛大にぶっこんじゃいました。てへ。


 続いて一般的な体力回復のポーション作成にとりかかる。


 ポーションはだいたい戦闘後に使うことが多いから、飲んですぐ動けなければ意味がない。



 ひと雫で痛みを取り、ひと口で怪我を回復し、飲み干せば瀕死の重症でも立って歩きだせる。


 材料を変えて魔法陣で素材の力を奪いながら、さっきと同じように調整した。


 ソラが並べた携帯用ポーションの小瓶に、状態保存の術式をかけて封入していく。


「移動中の破損防止に、瓶に何か術式を刻もうかな」


 工房をキョロキョロ見回すと、錬金釜に天秤があしらわれた、錬金術師団の紋章が目に留まった。


「そうだ!」


 わたしはひらめいて、破損防止の術式を組みこんだ紋章を、ひとつひとつ瓶に刻んだ。


「おお、格好いいよ。これ!」


 師団印の品質保証つきポーションを、ウキウキしながら箱に並べる。


 こういうのも液体を小瓶に封入するんじゃなくて、カプセルや錠剤に成形できたら便利そうだなぁ。でもありがたみがないかな?


 あとはヌーメリアと相談しながら、役に立ちそうなポーションをほかにも数種類……脱水に備えて水分補給ポーションとか、砂嵐に備えた幻惑回避ポーションとかを作る。


 魔術師の詠唱速度を上げる〝ペラペラキャンディ〟とか、戦士の攻撃力をきっちり二十五上げる〝アタック二十五〟なども作り、携帯ポーションセットを完成させて、さっそく第三部隊に届けてもらった。


 んーっ!お仕事がんばった!そしてお腹もすいた!


「ソラ、そろそろご飯にしよう!皆も一緒に食べよ?」


 ふたりを食事に誘い、師団長室でソラが用意した昼食をとる。


 わたしが教えるレシピを、ソラは一度で覚えてくれるので、今日はソラ特製のリーキのポタージュにピムルの冷製パスタだ。デザートにはなんとミルクレープもあるのだ!


 ユーリもヌーメリアも食べる姿勢がよくて、食事のしかたも凄くきれいで品がいい。


 だけどなぜか緊張しているのか、ソラが給仕をするたびにビクッとしている。


「ふたりともどうしたの?」


「すみません。師団長室でエヴェリ……ソラが横にいて食事とか、どうにも慣れなくて」


「わ、私も……緊張します……」


 などと言いながら、ふたりは強張った顔つきで、フォークでパスタを口に運ぶ。


「これ、もしかして全部ソラが準備を?」


「うん!ソラの包丁さばきって手慣れてて、すごいんだよ!」


 だから安心して任せられるの……と言おうとしたら、ユーリが激しくむせこんだ。


「ぐっ!ゴホッ、ゲホッ、ゴホッ!」


 ソラ特製の冷製パスタなのに!


「ユーリ、だいじょうぶ⁉」


「な、なんでもないです……ゴホッ」


 デザートはこれもソラ特製のミルクレープだ。コーヒーといっしょに運ばれてきたところで、ようやく立ち直ったユーリがぽつりと言った。


「ネリアって天才だかボケだか、わかりませんね」


「えっ⁉︎どうしてそうなるの?」

ようやくネリアの錬金シーンが書けました!

前話が化学っぽくなってしまったので、ファンタジーっぽくしたかった…。

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― 新着の感想 ―
科学的なアプローチができない、不思議魔法効果はその過程ごとまるごとコピーするしかない、と。 しかしネリアさんは超魔力によるごり押し加速で、常人は遥かに超えた処理速度を叩き出す、か…。 う~ん、弾丸娘…
[良い点] >傷つきし者に『再生』を。(略) >砂漠薔薇から、高い再生力を。(略) 優れた文章の展開力に感心しました。これが続きますように。
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