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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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339.竜王が墜ちたならそれが合図

よろしくお願いします!

 ヌーメリアだけでなく、ヘリックスにいた錬金術師たちが全員固まった。え、いまこの状況でやる?


 ヴェリガンは自分の心臓がとまるかと思ったけれど、とまるどころかどんどんバクバクと鼓動が激しくなった。


 息をすることも忘れた時間はどれくらいだったろう、やがてヌーメリアから小さな……本当に小さな声で返事がかえってきた。


「……はい」


 その返事にオドゥが天をあおいだ。


「あ~ユーリもがんばったけど、今回の〝最高殊勲者〟はヴェリガンかなぁ……いまので全部持ってかれたな」


 カーター副団長が腕組みをし、うなるような声をだした。


「ふん、ようやくやりおったか。このまま一生何にもいわず終わるのかと思っておったぞ」


「いっ⁉」


 仮面の奥で青くなったヴェリガンが身を縮こませる横で、ウブルグが爆撃具をわさっととりだした。


「ほむ、そうと決まれば盛大な祝砲をあげねばな。錬金術師団に完全なる勝利を!」


 オドゥはさっきからずれそうになっていた黒縁眼鏡をはずし、ローブのポケットにしまった。


「じゃあ僕はちょっとでてくるよ。カーター副団長、ミストレイの座標をこちらに」


「かまわんが……飛ぶミストレイの背でやりあうつもりか?」


「……崖みたいなもんだろ?足場のわるい場所での戦いは慣れてる」


 オドゥは転移魔法陣の構築をはじめ、ほかの錬金術師たちが持ち場にもどると、ヴェリガンは恥ずかしそうにしているヌーメリアに声をかけた。


「みてて、ヌーメリア!」


 ヘリックスがガクンと揺れてまた動きだし、オドゥはあわてて声をあげた。


「おっと、魔法陣の構築中なんだから気をつけてくれよ。こっちはネリアみたいに顔を思いうかべただけじゃ跳べないんだから」


「き、気をつける……」


 ヴェリガンは慎重にヘリックスを動かした。もっと彼女を喜ばせたい……あわれな魔術師たちがそのあとも何人か犠牲になった。





 ライアスはミストレイとの〝感覚共有〟を切った。


 ドラゴンに乗る際には必須のスキルとされているが、この状態で共有し続けるほうがつらい。


 絡みついてくるタコの脚をはらうと、固定具もはずし身軽な状態になった。


 水生動物であるタコをドラゴンたちは知らない。ただしくはタコ型のオートマタだがその動きや触感はまさしくタコそのもので、はじめてみる得体の知れない物体にドラゴンたちはつぎつぎに戦意を喪失し、それが竜騎士たちにも影響している。


「ハアアアァーーッ」


 まだ視界には火花が散っているが、ライアスは招喚した槍でタコの頭部を串刺しにすると一気に電撃を通した。


 ぶ厚い筋肉質の被膜に保護された駆動系の術式を破壊すると、タコの脚はビクビクと痙攣しミストレイの頭部からはがれ落ちた。


 ほっとする間もなくライアスの耳に風鳴りが聞こえ、人影の出現とともに白刃がきらめいた。


 キンッ!


 ライアスが腰の剣を抜きはなちそれを受けとめると、耳慣れた声がきこえた。


「ん~鎧でガチガチなぶん、ちょっとやりにくいな」


「オドゥ……!」


 またキンッと鋭い音をさせて切り結び、すこし離れて二人は間合いをとる。


 タコがはがれて正気にもどったミストレイは、自分のうえで何をしているのかと怒りの咆哮をあげた。


 グオオオオオゥッ!


「ミストレイ、そのまま飛べっ!」


 いくら竜王の背中には人を乗せるぐらいのひろさがあるといっても、戦いの足場としてはすこぶる悪い。


 飛行を維持するようライアスが怒鳴りつけると、何か感じとったのかミストレイも水平飛行をはじめた。


 条件はおなじなのにオドゥは余裕のある表情をして、ミストレイのうえにかるく立っている。するどい深緑の瞳が楽しそうにきらめいた。


「立派な甲冑を身につけているわりに昔の癖がぬけないんだな。無意識に急所をかばう」


 いうなり手に持ったナイフをオドゥが投げてきて、ライアスはそれをかわした。


 ローブのなかにいくつ武器をしこんでいるのかは知らないが、まだ手持ちはあるらしい。かわしたそばから切りかかるオドゥの手には新しいナイフが握られていた。


 キンッ!キンッ!ガキイッ!ザンッ!


 オドゥの攻撃は変幻自在でどこからくるのかわからない。ナイフに気をとられたら足技をつかってくる可能性もある。


 とびこんでくるオドゥと距離を保ちつつ、ライアスは素早く動き剣をふるった。


 ギャウワアアアッ


 自分のまさしく背中でおこなわれる激しい戦闘に、ミストレイは不満そうなうなり声をあげた。





 降りしきる雨が髪をぬらすけれど、ローブのなかまでは濡れない。ライガを追っていたミストレイの姿がみえなくなって、わたしはユーリに声をかけた。


「雨が降ってきた!ミストレイの追撃もやんだみたい」


「そうですね……どうしたんだろう、まだ対抗戦ははじまったばかりなのに」


 ユーリがぐるりと平原上空を旋回するとようやく平原全体が見渡せる。


 ミストレイだけでなくほかのドラゴンたちもようすがおかしい。なかには地上に降りてしまったドラゴンもいる。


「戦意喪失……?」


 首をかしげているとミストレイの咆哮が聞こえた。


 グオオオオオゥッ!


「あれ!ミストレイのうえに二人乗ってる!」


 わたしが指し示した方角をみて、ユーリもおどろいた声をだした。


「ライアスと……オドゥ⁉」


 白刃がきらめきするどい金属音がして、二人はどうみてもミストレイのうえで戦っていた。


 すばやく動くオドゥにくらべ鎧を着ているライアスは、せまい足場で戦うのに苦戦しているようにみえた。


「あんなところで戦って二人ともだいじょうぶなの⁉」


 わたしが悲鳴をあげるようにさけぶと、ユーリもいきおいよく首をふった。


「竜騎士団の訓練でもあんな戦いはみたことがありません!」





 ガキイッ!キンッ!ザンッ!


「オドゥ……お前との決着を今日こそつけさせてもらう!」


 竜騎士団で鍛えたスタミナなら自信がある。ライアスがかまえるとオドゥがあきれた声をだした。


「冗談だろ?」


「冗談……だと?」


 ライアスが眉をひそめると、オドゥは肩をすくめた。


「これは個人戦じゃない、秋の対抗戦だ。僕が転移までしてお前に襲いかかったのは……」


 オドゥの足元に魔法陣が展開した。


「竜王を墜とすためだよ」


 ライアスと戦いながらミストレイの体にいくつもの術式を刻んだ。感覚共有を切ったライアスが気づかぬうちに、ミストレイの体全体を包む魔法陣が完成していた。


「重力魔法〝グラヴィベル〟……〝沈め〟ミストレイ」


 ギャアアアアアアオゥッ!


 ミストレイがひときわ大きく絶叫すると、地にむかって墜ちていった。





「ミストレイが……墜ちる!」


 ミストレイが墜ちていくようすはライガに乗るわたしたちからもよくみえた。


『だいじょうぶ、僕らにまかせてネリアはひたすらユーリと飛んでて』


 そういってオドゥは続けた。


『いいかい?竜王が墜ちたならそれが合図だ。ネリアは……』


 竜王が墜ちたならそれが合図……。


「ユーリ!レオポルドの正面におろして!」


 風にあおられた銀髪は遠くからでもよく目立つ。わたしはグレンの仮面をはずして投げ捨て、着地したライガから一直線に走った。


 わたしにむかって炎をくりだすレオポルドのまわりに魔法陣が展開し、彼自身の防御魔法が発動する。鋼鋼のごとくまるで硬質な水晶のような……そんなもの……邪魔だ!


「レオポルド!」


 彼のまわりに魔法陣を展開していた、彼が身につけていた護符のいくつかがくだけ散った。わずかに身をひいたレオポルドにむかい、わたしが必死に腕をのばすと黄昏色の瞳がみひらかれた。


 わたしが伸ばした腕はなんとか、長い銀のきらめきをはなつ髪にとどいた。


 手でわしっとつかんだその感触を確かめるまもなく、わたしはその長い髪をギュッとひっぱる。


 レオポルドの上半身がわたしのほうにかたむき、勢いのままにわたしは彼の額に渾身の頭突きをくらわせた。

「どうせやるならコテンパンにやって欲しい」というご意見が多かったのです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >ヌーメリアだけでなく、ヘリックスにいた錬金術師たちが全員固まった。え、いまこの状況でやる? ですよね! 前ページの最後で思ったのを、今回の頭で書いててくださって面白かったです! こてん…
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