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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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335.対抗戦開始

対抗戦開始です……!

 オドゥが遮音障壁を展開した。


「ではきょうの作戦だ。ヘリックスがいるからネリアは錬金術師たちを守る必要はない、ユーリのライガに乗りドラゴンたちをかく乱してくれ」


「はいっ!」


 わたしがビシッと敬礼のポーズをすると、オドゥはふっと笑ってユーリにむきなおった。


「赤いライガは地上の魔術師たちからも格好の的になる。ユーリはとにかく落ちないようにひたすら逃げろ。残りの錬金術師で魔術師たちをたたく」


「……はい」


 ユーリが表情をひきしめてうなずくとカーター副団長が眉をあげた。


「魔術師たちを?空を制するドラゴンを攻撃せんでいいのか?」


「ネリアとも相談して決めた……グレンは対抗戦を〝儀式〟だといっていたらしい」


「儀式……だと?」


 けげんな顔をしたカーター副団長にわたしは説明した。


「対抗戦って竜王神事の対になる儀式だとグレンはいっていたの。つまり竜王神事とは逆のことをおこなうのが本来の目的なの」


「逆……ですか?」


 ヌーメリアが首をかしげた。五百年の間に本来の目的よりも、対抗戦でどちらが勝つか戦いの内容ばかりが注目されるようになってしまった。


 あくまで魔術痕を冷静に観察したグレンの意見だけれど、あっちの世界にも〝野焼き〟の習慣があった。


 野焼きで焼かれるのは地表の枯草だけ、その灰は肥料にもなるし虫の卵が焼かれることで虫害を防ぐ。虫は作物を食い荒らすだけでなく、さまざまな病気を媒介する。


 シャングリラにほど近い平原……ここで毎年おこなう対抗戦は王都シャングリラを疫害より守るためのものだった。


「収穫を祝うだけでなく土地を永代にわたり護ることをちかい、大地の豊穣をねがう儀式……それが〝秋の対抗戦〟……もしかしたら文献に残っているかもしれません」


 ユーリも考えこむようにしてうなずいた。


「そう、ドラゴンと人間双方が全力をだしあい、自分たちの持つ魔素を可能なかぎり大地にたたきこむ……つまりだいじなのは大地に魔素を還元することなの。だから空ではなく魔術師が陣取るこの大地を魔素で染めあげる!」


「ほむ。そうしたらわしらはひたすら魔術師どもを泣かせればいいのか?」


 ウブルグがあごに手をあてニヤリと笑うとオドゥは苦笑した。


「まぁそういうこと。あとドラゴンはさすがに邪魔なんで、ちょっとおとなしくしてもらわないとね。そこはカーター副団長にお願いするよ。ヌーメリアは例のもの用意できた?」


「ええ……ほぼ理想どおりのものが」


 ヌーメリアがほほ笑みを浮かべると、オドゥは満足そうにうなずいた。


「それは最高だ。ヌーメリアは初手からたのむよ。ではユーリとネリア以外はヘリックスに乗りこんでくれ!」


 わいわいとにぎやかにヘリックスのまわりで準備する錬金術師たちを、魔術師たちが遠巻きにみまもっている。


 そこから長身のレオポルドが抜けだすと、銀の長い髪をなびかせてこちらにやってきた。何か用かな……と彼をみあげると話しかけてくる。


「いい天気だな」


「そうだね」


 話はそれきり途切れたのでおたがいだまる。レオポルドの背後に魔術師団のバルマ副団長とマリス女史がいて、彼らもこっちをみていた。


「あ、ちょっとまって!」


 わたしは思いだすと肩にさげた収納鞄からとりだした仮面を、錬金術師たちひとりひとりに配った。


「ネリアこれ……」


「グレンの仮面、防護マスクのかわりになるからね、つけてても呼吸は楽だし視界は良好!だから人数分用意したんだ!」


 仮面を受けとったみんなは最初とまどっていたけれど、やがて全員が顔にはめた。仮面の錬金術師たちが勢ぞろいすると、ちょっとマッドな感じがさらにパワーアップした。


「ごめんお待たせレオポルド、何か用だった?そうそう、きょうは参加させてくれてありがとう!」


「ああ……」


 返事をしたレオポルドの視線はわたしが手にもった仮面に注がれている。おお、そういうことですか!


「あっ、もしかしてレオポルドもこれ欲しい?」


「いや、私は……」


「対抗戦の前だからいまは無理だけど、あとでレオポルドにもあげるね。だいじょうぶ、多めに作ったから!」


 ちょっとまて人の話を聞け……レオポルドが口をひらくまもなく、赤茶色のふわふわした髪をもつ娘は、元気よく手をふると赤いライガに走っていった。





 北の平原に到着した竜騎士団はそのまま上空に展開した。ライアスは号令を発した。


「これより竜騎士団は第一級戦闘体制にはいる!」


「団長、ちょっといいですか?」


 水色の髪をした竜騎士アベルが声をあげた。


「何だ」


「魔術師団はともかく錬金術師団が相手というのは、やりにくくないですか?」


 アベルがいいたいことはほかの竜騎士たちも感じているらしく、みなの視線がライアスに集まった。


「……対抗戦は全力で、が決まりだ。相手が錬金術師団でも例外はない!」


「まーた、団長ってば生真面目なんだから……竜玉ぐらいサクッと渡しちゃえばいいのに」


 紺の髪をもつベテラン竜騎士のレインがため息をつくと、茶髪の竜騎士ヤーンもうなずいた。


「そうですよ、どうせ加工しないと俺ら使えないんだし」


「手順をきちんと踏みたいのだろう……それに俺はそんな彼女だから好ましいと思うし錬金術師団長としても尊敬している」


 ライアスの生真面目な返答に同意しながらも、アベルは平原をみおろした。


「それはそうですけど……ミストレイだってネリア嬢を攻撃したくはないだろうから、錬金術師団は防壁張っておとなしくしててくれないかなって思いますよ」


「だな。ヘリックスとか変な形のオートマタ運んだって輸送隊がいってたから、マール川での襲撃みたいに魔道具で撹乱してくるんじゃないか?」


 ヤーンがアベルにあいづちをうつとレインが空をあおいだ。


「うわ、魔術師たちもいるしそれはそれでうぜぇな」


「爆撃具の閃光と爆音に注意しておこう。ドラゴンたちが動揺しないように注意しろ」


 それに……。ライアスはふたたび平原に目をやった。


(錬金術師たちの全力がみたい、オドゥ・イグネルを表舞台に引っ張りだす……ネリアはそういっていた。さすがのあいつも本気にならざるをえないだろう)





 まともにやったら勝てない……それが学園時代のライアスがオドゥ・イグネルに対して抱いていた印象だ。


『父さんに狩りを習ったからね、ちょっとした魔術の小技が使えるだけだよ』


 本人は何でもないようにそういっていたが、オドゥは骨格の構造や筋肉の動きを熟知していて的確に急所をついてくる。そして人間の体は急所だらけだ。


 ただの肉弾戦ならライアスもそう簡単に負ける気はしないが、オドゥは相手の動きに合わせて流れるように攻撃をかわし、こちらのわずかな隙をついて仕掛けてくる。


 オドゥの攻撃はかるい突きでもとにかく痛くてしびれた。


『だってさー狩りなんだもん、相手の動きをとめなきゃ。自分がケガしたら獲物をもって帰れないだろう?効率重視なんだよ』


 まだ入学したばかりのころだ。絡んできた上級生を返り討ちにしたあと、そういって地面に転がっていた長い棒をひろいあげ、ザスッと彼の前に突き刺したオドゥはくすりと笑った。


『人間じゃなかったらここでトドメを刺して、血抜きのあと解体だな』


『ひっ』


 蒼白になった上級生は二度と絡んでくることはなかった。みかねたライアスが「死んでしまう」と注意しても、本人は「死なないだろ魔力持ちなんだし」とけろりとしていた。


『魔力持ちはそうかんたんに死なない……死んでしまえば何も残らないのにね』


 そうつぶやくと寂しそうな目をして空をみあげていた男はいま、白いローブを着て錬金術師団にいる。


 忘れたことはなかったが、竜騎士団で激しい訓練をこなし竜王戦を制した自分はどこかで慢心してはいなかったか。自分こそ最強であると。


(オドゥ……お前との決着、つけさせてもらうぞ!)


 ライアスが気合いをいれた瞬間、感覚共有によりミストレイの感覚が飛びこんできてライアスの視界が赤く染まった。


(赤?なんだ、いったい何が……)


 ミストレイが赤い物体を食いいるようにみつめているらしい。ライアスは頭をめぐらし、ミストレイの視界を占領したものを自分の目でとらえた。


 ネリアがはじめてみる赤いライガにちょこんと乗っている。ユーティリス王太子が前に乗っているところをみると操縦するのは彼らしい。


 ミストレイのイライラした感情がライアスに伝わってきた。ネリア乗っけるの我慢してたのに、アイツがネリア乗せてるなど……許さん!


「……ちがう、ミストレイそうじゃない!落ちつけ、あれは紅竜じゃない!おそらくライガだ!」


 ライアスのさけびもむなしく、ミストレイは赤いライガにむかって急降下していく。


 ライアスにすら止めようがなかった。感覚を共有しているライアスにも、赤いライガ全体がキラキラと光をまとう魔素に満ちた個体にみえたのだから。


「まて!ミストレイ!それにはネリアが乗っている!」


 そうだ、だからこそ竜王を怒らせたのだ……!

作者はこれを恋愛物のつもりで書いています(震え声

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― 新着の感想 ―
[一言] 恋愛もののつもりで書いてます ↑いやいやかなり重い恋を書いてるから大丈夫。 ミストレイがめっちゃ嫉妬www
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