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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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333.北の平原・上空

いわゆるロマンス小説とは違うこの物語が恋愛物だというのは、最終話を読むと「あ、そういうことか」と納得できると思いますが、いまはこれ以上書けませんm(_)m

「その眼鏡にはいくつかの役割がある。ひとつは隠形……かけた人間をめだたなくする。もうひとつは魔素の流れを可視化する。僕はグレンの術式を読み解くのに使った」


「この眼鏡……魔道具なのは知ってたけど……」


 ユーリも欲しがっていたオドゥの黒縁眼鏡……ちいさな魔道具で消費する魔素量も少ないのに、メロディの店にはこんな魔道具はみかけなかった。魔道具ギルドの図書室にも資料はみつけられなかった。


「刻んだ術式は消えても魔素が流れた痕跡がのこる。流れを追えば術式が発動する仕組みもわかる……デーダス荒野できみが残した魔術の痕跡もすごかったな」


「デーダス荒野で……って、オドゥみたの?」


 ふりかえると眼鏡をかけていない彼は髪が風にあおられて、整った目鼻立ちがハッキリみえた。


「きみが王都から僕を迎えにくるまでのあいだ、デーダス荒野にある家の周囲を調べてまわった。きみの様子はルルゥが知らせてくれたしね。あの子も気まぐれだからいつも張りついていたわけじゃないけど、きみがライアスとでかけたのも知ってるよ」


「ええっ⁉」


 動揺のあまりライガががくんと急降下した。


「おおっと、ネリア気をつけてよね」


「オドゥのせいだよ!」


 ストーカーじゃん!前言撤回、やっぱこいつ突き落としたほうがいいんじゃないかしら……。


 涙目になったわたしはなるべく体をオドゥから離すようにして、ライガのハンドルにしがみついた。後ろにすわるオドゥをにらみつけると、彼はしげしげとわたしの顔をながめて感心したような声をだす。


「眼鏡をかけたネリアも新鮮……っていうか、可愛いねぇ」


 ひいいいい!おまわりさん、気持ち悪い人がここにいます!ねぇホントにこの人どうにかして欲しいんだけど!わたしが月にむかって絶叫したい気分になっていると、オドゥはさらに続けた。


「最近では魔道具ギルドに通ったり、七番街にある収納鞄の工房へよくでかけているし……どうしたのかなって」


 いやああああ!アウト、それアウトだから!


「それはっ、メロディやニーナたちに憧れてて……魔術学園に通うのは無理だけど魔道具ギルドなら、アイリみたいに働きながらでもいろいろと学べるかなって。そしたら」


 ぽろりと言葉がこぼれたら、こんどは止まらなくなった。


「ライアスのことも前向きに考えられるかなって……いまはまだ街中で暮らすとボロがでそうで……ライアスの家族に会うとかも怖いし。もし深くかかわることになったら、生まれ育った場所の話をまったくしないのは、自分がつらくなりそうで」


 あ、話してたらなんか涙がでそうになってきた。けれどそのタイミングでうしろからとっても優しい声が聞こえてくる。


「僕を頼ってくれていいんだよ?」


 なぜかまったく頼る気にはならず、わたしはさけんだ。


「結構ですっ!」


「遠慮しなくていいのにぃ」


 遠慮とかじゃないから!にこにこ迫ってくるオドゥが怖いです! オドゥは首をかしげて優しくほほえむ。


「きみの側にいて何がおかしいかどうふるまえばいいか、ひとつひとつ教えてあげるよ。きみの世間知らずっぷりは学園時代のレオポルドとたいして変わんないし」


「レオポルドと?」


 いっつもえらそうに眉間にシワ寄せてるあのレオポルドと?


「あいつ……アルバーン領ではほぼ幽閉されて過ごしてたんだ。当主の命令で人も寄りつかない〝魔力封じ〟がほどこされた部屋で。食事は差しいれられたけど冷めたスープに乾ききったパン……それをひとりでもそもそ食べてたんだと」


「魔力封じ……」


「それのおかげで全身に力がはいらなくて、寝たり起きたりしながら部屋に散らばる魔術書を読むだけ。あとは窓からみえる雪の積もった木立ちのあいだから、たまに顔をのぞかせる雪ウサギを観察してたってさ」


『自由に……どこにでもいきたかった』


 だから転移魔法を練習した、師団長室でレオポルドはそう語っていた。


 ああそうか……レブラの秘術でみた、居住区ではじけるように笑っていた少年といまのレオポルドが、ようやくわたしのなかでつながった。


 彼はあきらめなかったんだ。母を失い父と引き離されて……あんな風に笑うことはなくなってしまったけれど、彼自身は自分の力を信じてコツコツと努力を続けた。


「魔術学園に入学したばかりのレオポルドはさ、賢かったけど世間のことは何も知らなかったんだ。いまのきみとたいして変わんないよ」


「変わんないっていわれても……」


「はじめて秋祭りにいって屋台で買い食いしたら、あいつ焼きたてを食べるのもはじめてで舌ヤケドして口おさえてた。顔すげぇしかめてたのに、それが面白かったとかいうんだもんなぁ」


 オドゥはちょっとあきれたような声をだす。


「あいつもだいぶましになったけど、王都で華やかな生活を送る公爵家のやつらには、いまだになじめないみたいだな」


 レイバートや夜会でみかけた公爵家の人たちはみんな美男美女で、笑いかたやしぐさまで洗練されていて優雅で気品があって、わたしとは何もかもちがっていたのに……。


 あそこが彼の居場所なんだと思っていたのにちがうんだろうか。わたしがそんなことを考えていると、ふたたびオドゥが話しだす。


「デーダス荒野……何もない乾ききった荒野のあちこちに、流れ星が炸裂したかのような光の痕跡が残されていた。荒っぽくて魔法陣を構築するのも慣れていないのか、ときどき力まかせで……あれは綺麗だったなぁ」


 デーダス荒野で、わたしは必死に魔素を使いこなす練習をした。


 ダテリスのおしべを風でふっ飛ばしただけじゃない……むしろ乱暴すぎるぐらい無茶苦茶な使いかたをした。その痕跡がこんなふうにデーダスにも残っているのだろうか。


「魔法陣を使った跡って……こんなにハッキリ残るものなの?」


「レオポルドはもともと魔力量が多いから魔法陣も力強い……それに師団長をつとめるだけあって、術式が洗練されているし効率よく使いこなしている。みためも綺麗だろう?」


 大地にレオポルドが描きだした魔法陣……彼が術式を構築して魔法陣を展開するところは何度もみたけれど、ただ綺麗なだけでなくまるで空気の色まで変えてしまうようだった。


 目をこらしてみているうちにわたしはふと気になった。


「ねぇオドゥ、もしかしてグレンの目もこの眼鏡と同じような感じだった?」


「グレンの目?」


「わたし……いちど黙ってデーダスの家を抜けだしたことがあって。そのとき探しにきたグレンから、ヘリックスみたいに魔素を垂れ流して歩いてたといわれたの。地面に残る魔素の光る筋をたどったって……でもそんなの肉眼ではみえないし」


 グレンの目にはわたしが歩いた跡がみえていたのかもしれない。


「……視えていたのかもしれない。僕の眼鏡をみても彼は何もいわなかった……だとしたら」


 急にオドゥは黙りこんだ。気になってふりかえると彼は何かに気をとられたようすで空をみつめていた。


「オドゥ?」


 問いかけにも返事はなくて、わたしはもういちど平原を見おろした。


 大地に残された魔術痕……幾重にも重なるそれは、ところどころ途切れたりえぐれたりと戦闘の激しさを物語っている。わたしはデーダスの家でグレンがいったことを思いだしていた。


『秋の対抗戦?グレンはいかなくていいの?』


『対抗戦に必要なのは魔術師と竜騎士だけだ……力と力がぶつかるだけだし、わしが参加する必要はない』


『ふぅん』


 魔術師と竜騎士が操るドラゴンとの戦いなんて空想の世界でしかない。わたしがあれこれ想像していると、グレンがいった。


『秋の対抗戦は竜王神事と対になる儀式だ。だいじなのは……』


 だいじなのは……。あのときグレンは何ていってた?


「ねぇオドゥ!」


「うわっ、何?」


 わたしが勢いよくふりかえったので、オドゥはのけぞりあわてて体勢を立て直した。


「グレンは対抗戦のことを儀式……っていってた。もしかしたらだけど……対抗戦にも意味があるのかも!」


「え?」


 秋祭りのフィランガでみたのは、竜王神事のもとになったバルザムと竜王との契約。


 天と地の魔力をあわせ竜王に捧げる竜王神事、それと対になる儀式である対抗戦……答えはすべてこの大地に描かれている……。


「ちがうのかもしれない……攻めるべきはドラゴンたちじゃなくて魔術師が陣取るこの大地のほうなのかも!」

お読みいただきありがとうございました!

ブクマや評価、いいねもありがとうございます!

いよいよ対抗戦なのですが、書いちゃ消し書いちゃ消し……やっぱあのキャラとかあのキャラも見せ場とか作りたいし!

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