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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第二章 錬金術師ネリア、師団長になる

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33.防虫剤を作りました

化学と錬金術の融合的な…適当ですけど。

「さっすが、王都の錬金術師団。立派な工房ね!」


 研究棟の一階にある工房は師団長室に続くドアもあり、錬金術師が自由に使える素材庫も備えている。


 師団長室の奥に保管してあった稀少な素材も、わたしはソラに命じて素材庫に移動させた。


 わたしがかけた防御魔法のおかげで、研究棟はほぼ無傷だったし、ソラと精霊契約をしたことで封印も解かれた。


 グリンデルフィアレンの灰や残骸を片づけて、竜騎士たちに壊された入り口もすぐに修復された。


 ところが、わたしを妨害したウブルグとヴェリガンはまだ拘束されていたし、オドゥはまだ帰ってこず、カーター副団長は協力せずで、六名在籍している錬金術師たちのうち四名は工房にきていない。


 というわけで、工房にいるのは見ため十四~五歳(でも本当は十八歳)のユーリと、〝毒の魔女〟ヌーメリア、新入りのわたし……という三名だけだ。


 ユーリは二重の瞳も短い髪も赤い、快活な感じの男子で、背丈はわたしと同じくらいだ。


 この国は十八歳が成人で、彼も成人しているそうだけど、まだやんちゃな感じの少年に見えた。


「ユーリはわたしが師団長でも気にしないの?」


「僕、長いものには巻かれる主義です。それに師団長が誰かなんてどうでもいいし」


 ユーリにたずねたら、にこやかに本音を言われた。わぁ、正直。しかも赤い瞳がキラキラと輝いている。


「僕はグレン老に近しかった、ネリス師団長の錬金術に興味があります!」


 いいね、好奇心いっぱいだ。興味を持ってもらえるのは、わたしもうれしいけどちょっと怖い。


「ネリアでいいよ。とりあえず、急ぎの仕事を片づけていこう。ユーリが得意なのはなに?」


「僕は魔道具や機械系の術式が好きで、薬草とかポーション系は苦手です。そっちはネグスコとリコリスが得意ですね。ウブルグが師匠ってことになってます」


 なんとユーリはウブルグの弟子だという。


「入団すると師となる錬金術師のもとで、見習いとして修業するんです。でもあの人はカタツムリの話しかしなくて。正直、勉強になったかというと微妙です」


 苦笑するユーリが気の毒になる。カタツムリの蠕動運動や巻貝の構造はおもしろくても、そればっかりでもねぇ。


「素材錬成は?錬金術の基本だけど」


「なんとかやれますよ。けど素材錬成は、カーター副団長やオドゥが得意です。あのふたりはオールマイティです」


「オドゥ……オドゥ・イグネルかぁ、ウレグ駅にいたはずだけど、よく覚えてないんだよね」


「まぁ、オドゥはモテるわりにパッとしないですよね」


「じゃあ、わたしがヌーメリアと薬草系を片づけるわ。ユーリには魔道具の修理と手入れをお願いするね」


「はい」


 それぞれの錬金術師たちはみな、自分の研究室を持っている。だから彼らが工房に集まって、共同で作業することはなかったらしい。


 ユーリとウブルグの研究室は三階に、クオードとオドゥの研究室が二階にあり、ヴェリガンは一階、ヌーメリアは地下にこもって研究していたそうだ。


 わたしは薬草系の依頼リストを眺める。


『王城の各部屋に置くクローゼット用防虫剤』


『部隊遠征用の携帯ポーション各種』


「ふむふむ、防虫剤は大量にいりそうね」


「こ……これが、いつも作る防虫剤のレ……レシピです」


 ヌーメリアがびくびくしながら、レシピノートを恐る恐る差しだしてきた。


 わたしはノートにざっと目を通す。まず薬草から虫が嫌う成分を精油で取りだし、防虫剤に加工していた。


 防虫剤作りはべつに錬金術じゃない。けれど工房に設備もあるし、王城の家政部門から頼まれたらしい。


「シトロネラールみたいな、虫が嫌う成分を含む素材がいるわね。クローゼットに置くなら、香りづけや消臭成分もいれたいし……」


 ソラとヌーメリアに手伝ってもらい、わたしが素材庫からあれこれ引っ張りだすと、作業机に山ができる。


「こんなもんかな」


 わたしは風魔法でふわりと素材を浮かせ、ついている細かいゴミを吹き飛ばした。水で洗うより早いし、素材を痛める心配もない。


 きれいになった素材を凍結魔法で急速冷凍し、風魔法で気圧を下げて乾燥させ、粒子の大きさをそろえて粉砕していく。


 わたしは素材に手を触れず、いくつもの魔法陣を発動しながら、細かい術式を手早く調整していく。


(温度はマイナス八十セシまで下げて、えーっと……粒子の大きさは〇・五ナムに統一)


 大量にあった素材の下準備を終え、錬金釜に入れ終える。


 ふと気づけばヌーメリアが、灰色の目を丸くしてぼうぜんとしていて、ユーリも手が止まっている。


「早い……」


「目が離せないのはわかるけど、ユーリは仕事してね。もしかして素材って、手で刻んでたの?」


「は、はい、量を作ると手も器具も薬草臭くなって、浄化魔法で器具をいちいち洗浄するのも大変で……」


 そういえば、グレンも最初は驚いていたっけ。風で素材からゴミを取り除くとか、凍結乾燥なんて地球の知識だもんね。


「ヌーメリア、精油の抽出は水蒸気蒸留でやるの?」


「は……はい、じょ……蒸留装置ならあります」


「今回は水蒸気蒸留ではなくて、〝超臨界流体抽出法〟を使います!」


「ちょ……?」


「んーとつまり、二酸化炭素に高圧を加えて液体でも気体でもない〝超臨界〟の流体にするの。それに物質を溶解することで、成分の分離・抽出・濃縮を行うんだけど」


「???」


「うーん……〝二酸化炭素〟の説明からしないといけないか……」


 まぁ、知識のすり合わせは必要だとして、〝超臨界流体抽出法〟、まずはやってみよう!


 もとの世界では専用の設備が必要で、〝超臨界流体抽出法〟なんてとても、個人レベルでできないけれど。


 ふっふっふ。でもここは錬金術が使える世界だからね!しかも目の前には超便利な万能錬金釜がある!


 グレンにさんざん使いこまれ、低圧でも高圧でも自在に対応できるスーパーアイテム。


 錬金術師は錬金釜内部の『空間』と『物質』を、支配できる。


 錬金釜に魔法陣をかけて、物質指定により二酸化炭素を集める。内部の圧力をどんどん上げていくと、臨界を超えたところで液体でも気体でもない、『流体』と呼ばれる状態になる。


 流体には非常にものがよく溶ける!


 これね、火も使わないし室温でできるんですよ!


 しかも二酸化炭素は圧力を下げれば、そのまま放出できるから分離も濃縮も簡単!超便利!


 こんなふうに使う人はいないけれど、魔道具でもある錬金釜は、無茶な注文にも応えてくれる。


 そんなことをせずとも、魔力を使えば素材から直接成分を取りだせるのでは……と思うかもしれない。


 けれど自然界にある素材は、さまざまな構成要素からできている。


 魔法陣を使ったとしても、魔力のみを用いて成分を取りだすのは、効率が悪くて疲れる。グレンなら無理矢理やったかもしれないけれど。


 この方法なら錬金釜の操作だけで、成分の抽出には魔力がいらず、水蒸気蒸留より早い。


 取りだした精油に、香りづけや消臭効果のある成分をブレンドして、基剤にしみこませたら成型。


 防虫成分が徐々に放出されるゲルタイプでもいいけれど、見慣れない形だと扱いにとまどいそうだ。


 タブレットタイプにして、型から取りだして薄紙に包むと完成だ。


 これひとつで半年はもつから、衣替えにも十分だろう。成型と取りだしはソラに、製品チェックはヌーメリアにやってもらう。


 手先の器用なソラが助手として大活躍だ。指先の細かい動きを見ていると、本当に感心してしまう。


 しかもグレンが作ったソラの体は、ときどき魔力をあげるだけでご飯はいらない。


 子どもを働かせているようで気がひけるけど、なんだかんだ言ってソラは、わたしを抱き上げられるぐらい力持ちなのだ。


「うん、なかなかいい出来」


 さわやかな柑橘系の香りがする防虫剤ができた。


 防虫剤作りがひと段落すると、工房の入り口にカーター副団長がいて、わたしをじーっと観察している。


(ひぃいいいい、目つきがマジすぎて怖いよぉ)


 彼はわたしと目が合うと、「ふん」と鼻を鳴らして去った。まだ協力してもらうのは難しいかなぁ……。

【錬金術師のローブを着たネリア】

挿絵(By みてみん)

作者手描きにコピック彩色。

(キャラクターデザイン:よろづ先生)

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― 新着の感想 ―
ちょ、超臨界、だと…?? それを、見た目鍋だろう魔道具の入れ物の中で、個人が…?? ──魔法のちからってスゲー…。 通常の空気中の二酸化炭素濃度はごく微量だろうに、よく必要量集めきったな…。 魔法釜…
他の作品だと「錬金釜だから!」で済ませてたのに仕様を説明してくれたのは斬新! ちょうりゅ...え? 現世に居ながら知識チートを振る舞われたぜ( ̄▽ ̄;)
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