321.図書室と学園生たちとの語らい
ニーナがヒロインの小編『キスから始まる婚約破棄』 も同時に投稿、完結してます。
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こちらは『魔術師の杖』100万字達成!と『魔術師の杖③ ネリアと二人の師団長』発売記念として書かせていただきました。
ニーナは1~3巻を通じて登場しますがメインキャラでなく、本編や書籍に差しこむと話が間延びするためスピンオフに。本編より糖度高めです。
本をもって読書机にすわりページをめくる……なんだか学校の図書室にもどったみたいで懐かしい。
グラコスも選んでもらった本を三冊ほど持って、机のところに移動してきた。
カウンターに残された本たちは司書さんがカウンターの上にある魔道具の魔法陣を起動すると、ふわりと浮かびあがって本棚にもどっていった。
しずかな図書室だとページをめくる音もおおきく聞こえる。
(彼の杖をわたしが作ることはないだろうけど……)
『魔術師にとって杖がもつ主な役割は〝魔力の調律〟である』
その書きだしではじまる本は、ロメニーという魔術師が試行錯誤しながら自分で杖をつくった記録だった。
『魔術師にとって杖は自分の分身のようなものだ。事象をひきおこし、またおさめる……魔素を自分の手元にひきよせるときに、杖を中心に渦を描くように集めることをイメージするとやりやすい。そして発動した魔力の波動は杖を中心にひろがっていく』
魔術師が書いた本だからあくまで魔術をつかう側からみた、道具としての杖について書かれている。魔術師が魔術をつかうときに、自分の魔力だけを使うのは危険だとも書いてあった。
『自分と世界との境があいまいになり、魔力暴走をおこしやすくなる。術によっては魔力のほとんどを吸いとられ死に至ることもある。そのため事象を支配するときには、術の中心を自分ではなく杖におくようにするのだ』
(術の中心を自分ではなく杖に……そういえば研究棟をおおったグリンデルフィアレンを燃やしたとき……彼は杖を中心にして魔力を練っていた……)
『強大な力をふるうすぐれた魔術師は、世界に満ちている魔素を利用し、杖を媒介に自分の魔力をもちいてうまく循環させている』
(……つまりレオポルドは、自分の魔力だけを使っているわけじゃないんだ……)
そんなことを考えながら本をめくっていくと、こんどは杖の材質について書かれている。
『最初は私も加工しやすい木材を使おうとした。たいていの初心者はそうするだろう』
ロメニーはあちこちでかけては、手ごろな木の枝を持ちかえり杖をつくったらしい。
もともと工作好きだったんだろうか……木を削ることもあれば蔦を編んでみたり……使い捨ての消耗品みたいな杖もあるけれど、核に魔石をつかったしっかりした杖には、手先が器用なロメニーが持ち手に装飾をほどこしたりしている。
(レオポルドが持っていた杖は……先端に包みこまれるように魔石がセットされててこれに近いかな。わりと形はシンプルだったよね……)
『堅いマホウガニー製の杖ならじょうぶだろう……と苦心してけずったものの、よほど気にいらなかったのか、完成したその日に家をでていき帰ってこない。使い心地はけっきょく謎のままだ』
マホウガニー製の杖はしばらくして近所の老人が使っているのをみつけたものの、「腰を痛めて動けず困っていたところに窓から杖がとびこんできて。ほんとに助かりました!」とお礼をいわれ、ロメニーは返してもらうことをあきらめたらしい。
『杖づくりのアドバイスをもらおうと、ある日錬金術師と話したがケンカになった』
(えっ?)
ロメニーが「魔素は世界にひろく存在し事象をつかさどる源だ」と熱っぽく語ったところ、相手は「くだらん、魔素とて物質の構成要素にすぎぬ。妙にありがたがるから魔素をうまく扱えんのだ」といいかえしてきて大ゲンカになった。なんだか目に浮かぶなぁ……。
ロメニーは杖づくりが趣味といってもいいぐらい、のめりこんでいく。なかなかこれだ!……というものはつくれなかったらしい。
『土属性だから木の杖でもいいだろうと思っていたが、炎属性がある私はどうやら木に嫌われるようだ。金属製を試すことにする』
いくつもの杖とその材料、使い心地などが記されている。
(レオポルドも炎を使うから金属製がいいかもしれない。金属かぁ……チタン合金だったら軽くて丈夫かも)
銀色に輝くチタン合金できた杖を、レオポルドが振り回しているところを想像する。
おかしくなってひとりでウケていると、グラコスがふしぎそうな顔をした。
「ネリィさん……たのしそうだな」
「そだね、いろいろ発見もあるし。グラコスこそ魔導回路は苦手なのにがんばってるね!」
グラコスは赤くなってポリポリと鼻の頭をかいた
「魔導回路は苦手だけど……こんな機会でもないと勉強なんてしないだろうからな。あの、ネリィさん」
「なあに?」
グラコスは剣ダコのついた大きな手の指を、もじもじとしばらく組み合わせていたけれど、思いきったように顔をあげた。
「カディアンから聞いた……錬金術師団に入団するって」
「うん」
「ネリィさん、あいつを……よろしくお願いします。あいつならやれると思う、俺とちがって手先器用だし」
「グラコスはイヤじゃないの?」
「……あいつが決めたことだし、あいつが何になろうと俺にとって大事な友人であることには変わりない。それに……俺、あいつの助けになろうと気負ってたけど、結局何の役にもたたなかった。俺は俺で……力をつけなきゃなって思ってる」
「そっか、がんばってね」
はげますとグラコスは照れたようにわらった。
「俺は立派な竜騎士になりたい。俺、自分の部屋に竜騎士団長の肖像画を飾ってるんだ!毎晩彼をながめながら筋トレしてる!」
グラコス……毎日ライアスの肖像画をながめながら筋トレしてるんだ……。
図書室の反対側のはしにひときわ高く本がつまれた机があり、その向こうをのぞくとディアが必死にノートをとっていた。
「ディアも勉強しているの?」
なんとなく魔道具ギルドの臨時講師助手の気分で声をかけたら、ディアは小さな声で返事をした。
「勉強じゃありません……」
「えっ?」
顔をあげたディアは涙目になっている。
「補講ですの……このままでは魔道具ギルドの実習で単位がとれないっていわれてしまって……」
「えっ、だれに?」
「サージ・バニスですわ!彼がうれしそうにいうんですの……『こんなにできない子ひさしぶりだ!』って大喜びで。ギルドでの実習に単位をくれないっていうんですもの!魔術師団どころか卒業できないなんて、お母様になんていわれるか……」
ディアはアイリにもらったハンカチをにぎりしめながら必死にノートに書きこんでいる。あんなに適当に課題をやっていたのに!
「うわぁ……でも勉強は自分のためだし、がんばってね」
そう声をかけると、ディアは頬を赤らめた。
「でも……サージさん、優しいんですの。私がどんなに癇癪をおこして不満をぶちまけてもずっと最後まで聞いてくれて、それから実習につきあってくれるんです。それに休憩室で『お疲れさま』ってサージスペシャルを作ってくれるんです」
ん?
「だ、だから私もちゃんとしないといけないなって……」
え?
もじもじと顔を赤らめたディアをみて、わたしは衝撃を受けた。恋する乙女がここにいる!
何がどうしてそうなったのかわからないけど!
「あの、サージって……ギルド一階の検査部門にいる、オレンジの髪が爆発してる人だよね?」
ディアはうっとりとうなずいた。
「そうですわ、彼が休憩室の窓辺にすわるとその髪が光に透けて、まるで〝立太子の儀〟でみた花火の残像が目に焼きついているみたい……」
え、待って、それでいいの?
「私のために作ってくれる〝サージスペシャル〟も美味しいのですけど、彼の話も楽しくて……なんと彼、〝キノコのおうち〟に住んでいるんですって!」
「はいぃ⁉」
ディアの話ではサージは城壁内ではなく郊外にあり、彼の家は大きなキノコをくりぬいて造られた家で、菌糸のじゅうたんやベッドでなかはフカフカだそうだ。彼はそこから魔導列車で時間をかけて通勤しているらしい。
「いつか〝キノコのおうち〟で彼に〝サージスペシャル〟をつくってもらうのが夢なんです!」
そういいきってから急に恥ずかしくなったのか、ディアは真っ赤になって自分の長い髪をいじる。
「あ、でも招いていただけるほどまだ親しくはないのですけど……ねぇネリィさん、彼どんなことに興味を持つとおもいます?」
「えっと……魔道具……かな?」
「ですよね!だからちゃんと勉強しなきゃ!」
なんだかよくわからないけれど、恋するパワーってすごい……。それにしても立ち直り早くない⁉
あまりちゃんと書けませんでしたが、グラコスは部屋にライアスの肖像を飾りつつも恋愛は順調、ニックは気になる女子には意地悪に接することがあるため、女子たちからは敬遠されてうまくいかない……という設定でした。
『魔術師の杖③ ネリアと二人の師団長』発売記念イラスト!
(画:よろづ先生)
ニーナが作った〝羽をもがれし妖精の受難〟正面バージョンです。可愛すぎる……「背中推しで!」とお願いしていたものの、ラフを見て「うおおお!正面も可愛いんですけど、どうしたらいいんですかぁ!」と叫んでた。よろづ先生、ありがとうございます!
https://izuminovels.jp/isbn-9784844379959
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