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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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318/560

318.師団長会議終了

よろしくお願いします。

「……いまなんといった?」


 はずれそうになったあごをなんとか元にもどした陛下が、ようやく言葉をしゃべったけれどその動きはカクカクとぎこちない。


 陛下は隣にすわるユーリにも「どういうことだ」とたずねた。ユーリは陛下には返事をせず、わたしにむかって確認してくる。


「ネリア……〝秋の対抗戦〟に錬金術師団も参加する……と、今いいましたか?」


「うん」


「ネリアは〝秋の対抗戦〟がどんなものか知らないと思いますけど……魔術師団と竜騎士団の総当たり戦で、北の平原ではかなり激しい戦闘がおこなわれますよ?」


「そうらしいね」


 べつに運動会をやるわけじゃない、それぐらいはわかっている。


「見物、ではなく……参加ですか。そして勝者への賞品として〝竜玉〟を要求すると……」


 ユーリはそこまでいうと自分のあごに左の拳をあて考えこみはじめた。レオポルドが厳しい声で詰問してくる。


「竜玉など何に使う」


「秘密。無条件で欲しいから賞品として要求しているの」


 じつのところオドゥが竜玉をなぜ欲しがるのか、どのように使うつもりなのかはわたしにもよくわかっていない。


 けれどコソコソもらおうとしても無理なのであれば、堂々と要求するまでだ。


 ライアスがためらいがちに口をひらいた。


「ネリア……もし参加するとなれば真剣勝負だ、手加減はできないぞ?」


 レオポルドも厳しい視線をよこす。


「そのとおりだ、魔術師団をなめてもらっては困る。熟練の魔術師たちは日々訓練を積んでいる」


「そうね……錬金術師団も竜玉を手にいれるためには本気をださないとね」


 しずかに師団長たちとにらみあうように会話をしていたら、陛下があわてて割ってはいった。


「まて、ネリス師団長!錬金術師団もたしかに王都三師団ではあるが、どちらかといえば後方支援だ。いくらなんでも戦闘むきではない!」


「……やってみなければわかりません」


「どうしても竜玉が欲しいのであれば、ちゃんと理由を説明してくれれば……」


 アーネスト陛下の申し出にはわたしは首をふった。


「無条件で欲しいんです。グレンもこの国にきたときに竜玉を渡されたと聞きました」


「それはそうだが……」





「竜玉の用途については説明できませんが、これにはふたつ目的があります」


 わたしは小会議室の円卓にならぶ師団長たちや王族の顔を見まわした。


「ひとつは錬金術師たちの地位向上……王都三師団のなかでは一番人数が少なく、グレンの業績があってもそこに属する錬金術師たちひとりひとりは認められていない。新しく取り組んでいる研究もありますし王太后主催の茶会にも参加しますが、彼らを認めさせるには〝秋の対抗戦〟で勝利をおさめるのがてっとり早い」


 納得できないようすでアーネスト陛下が反論した。


「勝利をおさめれば、だ。わが国の魔術師団と竜騎士団双方を相手にするのだぞ」


 錬金術師団が勝てるとはとても思えない……全員の顔にそう書いてあった。


 人数だって足りないし使えそうなのは爆撃具や黒蜂……ヌーメリアの知識やヴェリガンの植物……ドラゴンを駆る竜騎士たちやレオポルド率いる魔術師団相手に何ができるというのかと。


「ふたつめは、わたしは錬金術師たちの本気を見てみたい……オドゥ・イグネルもだけどヌーメリアやヴェリガン、それにユーリ……グレンのもとに集った錬金術師たちの〝実力〟を」


 考えこむようにだまりこんでいたユーリの赤い瞳と目があった。


「オドゥ・イグネル……」


 ライアスがつぶやき、レオポルドは厳しい表情のままわたしの顔を見かえす。


「勝てば竜玉を手にいれられるとしても、負ければ恥をかき笑われることになるぞ。われわれは負けるつもりはない」


「……あなたたちだって錬金術師団の実力を知らないわ」


「…………」


 そのままにらみあっているとアーネスト陛下が言葉を発した。


「そうだな、面白い余興だとおもえば認めてもいいが賞品が竜玉か……どうするライアス」


 竜玉はもともと竜騎士たちの装備に使われるものだ。それを賞品にできるかはライアスの承諾を得られるかにかかっている。


 わたしは唇をぎゅっとかんで横にいるライアスを見あげた。ライアスの青い瞳がわたしを見おろし、瞳の奥を探るようにのぞきこんだ。


「ネリア、きみはオドゥ・イグネルを表舞台にひっぱりだすつもりか?」


「…………」


 無言でコクリとうなずくと、ライアスの眉間にぐっとシワが寄る。


「……レオポルド、オドゥが相手となれば油断はできん。あいつは勝つためなら()()()()()()使う」


「そうだな、錬金術師団……手の内が読めぬだけにやっかいだ」


 真顔で言葉をかわす二人の師団長にわたしは慎重に問いかけた。


「それは錬金術師団の参加を認めてくれるということ?」


 蒼玉と黄昏……両方の瞳がこちらをむいた。


「ああ」


「異存はない」


「……だそうです陛下」


 あらためてアーネスト陛下にむきなおると、陛下は師団長たち全員の顔を見まわし、救いを求めるように隣にすわるユーリの顔も見てから、最後におおきくため息をついてひと声発した。


「錬金術師団の参加を認めよう、賞品は竜玉だ」





 それから各師団が欲しい賞品や、勝利の条件など細かいルールの打ち合わせをしてから散会となった。


 すべての話し合いを終えて、師団長たちは今回の内容を持ち帰るためにさっさと転移した。


 終わった……なんとか無事に目的を果たして会議を終えられた……そのことに放心していると、円卓をまわってユーリが近づいてくる。


「ネリア、無謀すぎますよ」


「そのわりにはユーリも反対しなかったじゃない」


 彼が差しだした手をとって椅子からたちあがりながら言いかえすと、ユーリも少しきまり悪そうな顔をしていつもの優しげな笑みをうかべる。


「それは何ていうかその……ちょっと面白いな、と思えてしまって」


「うん、だよね……昨日の夜にヌーメリアとこの話をしたら彼女もちょっと笑ったの。それに竜玉が欲しいのはオドゥなんだから、彼ががんばればいいのよ。もしも無事手にはいったら、ユーリは彼に眼鏡を作ってもらえばいいわ」


 それを聞いたユーリはパチパチとまばたきをする。


 わたしから顔をそらしてふぅと息を吐き、赤い髪をかきあげるとその瞳を挑戦的にきらめかせてくすりと笑った。


「ネリアって……僕らを本気にさせるのがホントうまいですね」


「そんなことないよ、必死なだけ」


 そう、必死なだけ……。





『免疫系の術式はこんなものか……ひととおり覚えたか?』


 グレンが確認するようにわたしにたずねた。


『うん……これぐらいはなんとなくわかるよ。わたしの世界でもね、人類の歴史は病気との戦いだったの。新しい土地にいくとそこにある風土病に悩まされたんだ……もともとそこに住んでいる人は抵抗力があるんだけどね』


 サルジアの呪術師に使った免疫系を操作する術式は、グレンに習ったものを応用したものだ。


 言語解読の術式をほどこしてもらうだけではなく、わたしの体はこの世界になじむために、いろいろなことを覚える必要があった。


『いいか?お前の体は手がかかる。いまのところデーダスにも王都にもじゅうぶんに素材は準備してあるが……何かあれば』


 グレンはそこで言葉を切り、少し宙にミストグレーの瞳をさまよわせた。


 何かの感情がそこに浮かんだようで、わたしが不思議におもって彼を見つめていると、やがて彼は首を横にふった。


『いや、誰を信用しその身をあずけるか、その場合はお前が自分で判断しろ』


 グレンはあれほどよく知っていたオドゥの名をわたしに教えなかった。


 オドゥ・イグネル……彼は信用できるだろうか。わたしはそれを見極めなければならない。この世界で生きていくために……。

師団長会議……師団長たちが腹を割って話しあいをする場でもあります。

ネリアは意識してませんが唇をぎゅっとかんで上目遣いで見あげているためライアスは断れません。

真面目な顔して(可愛いな……)とか考えてます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ネリアがかっこよくてすごく好き 2人の団長相手に媚びることなく堂々と宣戦布告することも、目的の為の潔い行動力も。竜玉をどのように手に入れるのか気になってたけど、盗むよりこの結果になったことが…
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