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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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314.師団長会議開始

 翌日の朝、会議があるからライアスはこなかったけれど、彼がいなくとも錬金術師たちはおなじように動いて食卓に勢ぞろいした。


 いつも家で朝食をとるため、みんなより遅れてやってくるカーター副団長の姿をみつけたわたしは声をかけた。


「あ、カーター副団長、メレッタの婚約おめで……」


「その話はしないでいただきたい!」


 わたしが言いかけると副団長はすごい勢いでわたしをさえぎった。うわぁ、すごいカッカしてる……。


「どいつもこいつも……今朝は人の顔をみるなり『おめでとう』だの『楽しみですね』だの話しかけてきおって……いまはユーリの赤い髪をみるのさえ腹立たしいというのに!」


「僕ですか⁉」


 カーター副団長はギリギリしながらユーリをにらみつけている。


「そうだ、お前ら兄弟二人してメレッタをたぶらかしおって!」


「ちょっと待ってください、その言いかたは聞き捨てなりませんね!」


 ああ……昨日までの食卓はあんなに平和だったのに……ここにライアスがいたらビシッといってくれるのかなぁ、と思いつつわたしは口をはさんだ。


「カーター副団長、カディアンを弟子にしたと聞いたのだけど」


「そのとおりです」


 憮然としたまま答えるカーター副団長に、さらにわたしは質問した。


「どういう教育をするつもり?」


「は?それはオドゥとおなじように……」


「おなじとは?」


「私の仕事を手伝わせ……」


「城中の魔道具を修理してまわるの?それともミスリルの精錬?」


「ほかにもいろいろやっておる!」


 かみつくように言いかえしてきた副団長の視線を受け流し、わたしはソラが淹れてくれたミルクティーのカップを持ちあげゆっくりと飲んだ。


 さあ、これから本番だ。


「そうね、でももう雑用はしなくていいわ。あなたの()()()()()()()()()()研究をすすめてくれる?」


「オドゥとですかな?」


 カーター副団長がけげんそうな顔をし、自分の名前がでたオドゥが眼鏡のブリッジに指をかけこちらをみた。


「ええそう、オドゥは〝竜玉〟を使った研究をしたいそうなの。あなたは職業体験でやってきたカディアンやメレッタの様子を見ていないでしょう?まずは()()()()()()()()()()()()()()()()、新しく入団する彼らにどんな錬金術を教えるか考えてくれる?」


「竜玉、だと……?」


 竜玉は国により厳重に管理されている貴重な素材だ。〝風〟への親和性が高い竜玉を手にいれることは、〝風の精霊〟を手にするようなものだといわれている。


 カーター副団長の目がギラリと光った。わたしはあっけにとられているオドゥにむかってにっこり笑う。


「ねぇオドゥ、竜玉を手にいれられるならどんな手段でもいいのよね?錬金術師団のみんなであなたを応援するわ、がんばってね!」


「えっ、あ、ちょっとネリア?」


 焦るオドゥの肩をカーター副団長の手ががっしりとつかんだ。


「オドゥ・イグネル……貴様のくわしい研究内容を聞かせてもらおうか……そういえばいつも呼びつけるばかりで、私はお前の研究室に行ったことがなかったな、そこで話をしよう」


 オドゥは眼鏡をおさえたまま、副団長にむかい顔をひきつらせて人のよさそうな笑みを浮かべた。


「やだなぁ副団長……顔がこわいですよ」


「私は生まれつきこういう顔だ!さっさと行くぞ!」


 オドゥがカーター副団長にひきずられるようにして連れていかれると、ユーリが赤い眼をキラキラと輝かせてわたしに話しかけてきた。


「そうか……副団長の怒りと執念深さをオドゥにぶつけさせる!まるでモリア山のゴリガデルスにカレンデュラのレビガルをぶつけるみたいだ!ネリアの発想、すごく参考になります!」


 そこは参考にしなくていいから……。あとは竜玉を手にいれる方法……。


 わたしはちゃんとソラがいれてくれた紅茶の味を感じてる?その香りがわかってる?わたしの感覚は正常だろうか……すべてがきちんとうまく働いている?


 それをたしかめながらいつもより多めに砂糖をいれた紅茶を飲みほした。


「いきましょう、ユーリ」


 わたしはユーリといっしょに師団長会議が行われる小会議室へと跳んだ。





 マウナカイアからの報告をあげたときとちがい、ユーリはアーネスト陛下のすぐ隣の席にむかった。


 先に席についていたライアスがわたしと目があうとやわらかく笑う。それだけで太陽の光がこぼれるようだ。昨日のお礼をいいたかったけれど、会議の前なのでやめにして席に着く。


 小会議室の円卓をかこむようにして、わたし、ライアス、レオポルドの順に三人の師団長たちは二人とむきあわせにすわった。わたしとユーリはちょうど円卓の対角線上になった。


 ふと視線を感じてそちらに目をやると、黒いローブに艶のある銀髪を流したレオポルドがじっとこちらを見ていた。アーネスト陛下が口をひらく。


「さて、今回から王太子としてユーティリスも参加する、よろしくたのむ」


「こちらこそ」


「エクグラシアの若獅子を歓迎する」


「よろしくお願いします!」


 なごやかにあいさつを交わし、アーネスト陛下が咳払いして報告をする。


「事後報告になってすまんが、第二王子のカディアンが錬金術師団副団長の令嬢、メレッタ・カーターと婚約した」


「おめでとうございます、おふたりに魔術師団からも祝福を」


 レオポルドが淡々と言祝ぎライアスもにこやかに応じる。


「おめでとうございます、竜騎士団からもおふたりに末永く竜の護りを」


 わたしもひとつ息を吸ってお祝いの言葉をのべた。


「おめでとうございます、彼らを錬金術師団に迎えるのはこちらも責任重大ですけど楽しみにしています」


「ふたりとも学生なのでまだ式の予定はない。カディアンは錬金術師を目指しカーター副団長に弟子入りする。メレッタ・カーターも錬金術師団への入団を希望している」


「ウブルグ・ラビルが抜けたので助かります。錬金術師団の未来を担ってくれる人材ですね!」


「ネリス師団長とたいして年はかわらんがな……そのかわり〝赤〟がふたりも錬金術師団に集中してしまうが、ほかの師団はそれに異存ないか?」


「だいじょうぶでしょう、昔とちがい現在は魔術師団、竜騎士団とも人材が豊富です」


「ならいいが……師団長たちの婚姻もわが国にとっては一大事だ、お前らも相手を決めたらきちんと報告しろよ」


 え、なんでそこでみんなわたしの顔をみるの……。


「でもあっさり決まるものなんですね。わたしメレッタやカディアンに会ったばかりですけど、そんな話ちっとも知りませんでした」


 けさのカーター副団長は話を聞ける雰囲気じゃなかったし、昨日やってきたリメラ王妃も詳しいいきさつは知らないようだった。


「カディアン自ら動いて話を決めたというのもあるが、王城全体がユーティリスの婚約に備えていたからな。決まったあとは早い」


 ユーリが苦笑しつつうなずいた。


「ええ、これで逆に僕はゆっくり時間をかけられます」


「どういうこと?」


「第一王子の相手が決まっていない以上、カディアンに後ろ盾になりうる有力貴族の娘を選ばれると困る。貴族たちの思惑とはべつに王家としてはある意味助かった」


「身分的なことはあまり関係ないんですか?」


 ちょっと疑問におもってたずねると、アーネスト陛下が説明してくれる。


「〝赤〟を輩出する可能性のある公爵家はともかく、貴族の階級はただの役職だ。昇進もあれば降格もありうる。王族の存在価値は〝竜王との契約者〟であるということのみ、そしてエクグラシアではそれが絶対だ。その相手は〝魔力持ち〟であればとくに問題ない。さすがに魔力がなければ本人が苦労すると思うが」


 アーネスト陛下はそこで言葉をきり、わたしにむかって身を乗りだした。


「だがこの婚約は錬金術師団がふたりの後ろ盾になるようなものだ。すでにリメラからも話を聞いていると思うが、王太后主催で有力貴族の婦人たちのみが集まる茶会を開催する。メレッタ・カーター嬢とともに、ネリス師団長にはそこに出席してもらいたい」


「はい」


 アーネスト陛下が、リメラ王妃が昨日わたしに伝えにきた本当の用件を告げた。

師団長会議、まだ続きます。

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