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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第八章 ネリアと秋の王都 続き

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306.メレッタに起こったとんでもないこと(メレッタ視点)

今回の登場人物はメレッタとカディアン、ヒルダさん。

ほかにも人はいますが、背景の一部になっています。


 おなじころ休日のカーター邸でもひと騒動あった。錬金術師団にいきたいというメレッタに、アナは相変わらず反対していた。


「どう考えても魔術師団よ!魔術師団がムリなら魔道具師でもいいわ。そりゃあなたのお父さんは錬金術師よ?でも世間のイメージがねぇ……魔術師団のほうが結婚相手だって探しやすいわ!」


 魔術師団がムリなら魔道具師でもいいという母は、錬金術師だけはどうにも認められないらしい。


「ええ?結婚相手とかホントどうでもいいんだけど」


 投げやりなメレッタの返事に、アナのほうもカチンときたらしい。


「あなたがそんなだから卒業パーティーにエスコートしてくれる男の子だって見つからないのよ!」


「魔術学園に入学するときに『へんな男にひっかからないでね』と、クギをさしたのお母さんでしょ。だいたい卒業パーティーに夢みすぎ!あんなのドレス着て踊るだけじゃない!」


「屁理屈こねるんじゃないの!」


「お母さん、マジうるさい!」


「なんですって⁉」


 ヒートアップする二人のいい争いに、ペットのウポポが尻尾を丸め「キュウン」とおびえクオードのもとに逃げこむ。クオードはしかたなく、恐る恐る仲裁した。


「お前たち、すこしは落ちつかんか。それにメレッタのエスコートならこの私が……」


「あなたはだまってて!」


「そうよ、だいたい錬金術師のイメージが悪いのって、お父さんのせいなんだから!」


「ヒッ!」


 せっかくの休日なのに、気の毒なクオードは妻と娘から集中砲火を浴びることとなった。





 そんないい争いをしたら家になんかいられない。メレッタはさっさと魔道具ギルドにでかけた。


「あらメレッタ、きょうは実習も休みなのに熱心ね」


 すっかり顔なじみになった受付のヒルダが笑顔で話しかけてくる。


「せっかくだし成人までに魔道具師の資格もとりたくて」


「そう、がんばってね。困ったことがあればいつでも相談にのるわよ」


「ありがとうございます、ヒルダさん!」


 アイリといっしょに見習い魔道具師の登録を済ませてから、メレッタはギルド四階にある図書室を利用している。


(やっぱり魔道具関係の専門書が充実してるわね……)


 魔道具師のための図書室だ。申請を終えたばかりの新しい魔道具の資料もみられるし、魔道具づくりのテクニック集なんてのもある。


 メレッタは実習に役立ちそうな参考書とグレンが開発したライガの記述がある本をみつけ、閲覧コーナーにむかう。


 そして本を開いたまま……ページは進まなかった。いつもなら読書をするうちに気持ちが落ち着いてきて、いつのまにか本に夢中になっているのに。


(やっちゃったなぁ……お母さんもヘソ曲げちゃってどんどん説得しにくくなってる)


 メレッタとアナの親子仲はそれほど悪いわけじゃない。ただちょっとアナの趣味がメルヘンチックで、メレッタはそれについていけないだけだ。


 魔術学園の卒業生でないアナは、魔術学園や魔法使いの卵たちが参加するその卒業パーティにもあこがれが強い。


 それに錬金術師の話になるとアナは感情的になる。父のせいでアナにもいろいろと、積もり積もったものがあるのだろう。


 家をでることも考えたけど、そうなればきっと父が反対する。その父は「母を納得させろ」というし、まったく頼りにならない。


(いざとなればユーリ先輩が家にきて、お母さんを説得してくれるというけど……いくらなんでも王太子様にそこまでしてもらえないわ)


 メレッタが本をひろげたまま考えこんでいると、人の気配がして本に影がさした。顔をあげると目の前にカディアン・エクグラシアがいる。


「カディ……とと、カル、だったわね。どうしたの?」


「家に連絡したら、カーター夫人からメレッタはここだと聞いて」


 メレッタとカルはエンツ先を交換するほど親しくない。


 カルはいちどカーター家に連絡をいれてから、ここまでメレッタを訪ねてきたらしい。


「え?私に用事?」


「ああ……邪魔だったろうか」


 メレッタは本を読むのはあきらめて、表紙をパタリと閉じた。


「べつにいいわよ、集中できないなって思っていたところだったの。休憩しにいきましょ」


 王子様のカルはお忍びといえど気軽にであるけないはずだ。メレッタはちょっと考えて三階にあるギルドの休憩所にむかうことにした。


 ギルド員しかふだんは使えないが、きょうは休みだからあまり人はいない。いまはカルも実習生だから、いちおう関係者だろう。


 三階の休憩室でも紅葉した樹々が赤や黄色の葉を散らしている。一階とちがうのは書類や魔道具を持って行き交うシカやリスがおらず、景色も渓谷ではなく樹々にかこまれ緑の苔におおわれた地面を、水分を失いつつある葉を透かすようにして日差しがやわらかく照らしている。


 ところどころに切り株のテーブルにキノコのイスが置かれている。まずコーナーにいき二人ならんでお茶のしたくをしようとした。


「あ、お茶の葉が切れてる……」


「ストックがあるだろ……これか?」


 メレッタが困っていると、背の高いカルが棚のうえからひょいとお茶の缶をとりだした。


(私は背伸びしたって届かないのに……)


 カルは背丈で不自由したことなんかないんだろう……そう思うとメレッタはすこしもやっとした。


「きょうは実習も休みなのに、メレッタはギルドで勉強していたのか?」


「私、見習い魔道具師の登録をしたの。だから休みは勉強がてらここの図書室にいるのよ。学園の図書室とちがって夜もあいているし」


 ツンケンしたいいかたになったのに、カルは感心しただけだった。


「メレッタは魔道具の授業、成績がよかったもんな。それだけ努力しているんだな」


「……努力すればするほど、足りないものが見えてくるの。カルは、勉強はとくにがんばらなかったものね」


「う……」


 言葉につまったカルを横目でみて、さすがにいいすぎたと思った。


「ごめん、いいすぎたわ。ちょっと母とケンカして気がたってたの」


「カーター夫人と?」


「錬金術師団にはいること反対されてるの……なんかもう、お手上げだわ」


 ため息をついたところでお湯がわき、ポットにいれた茶葉にお湯をそそぐ。悩みが湯気のように消えてしまえばいいのに。


「どうしたんだよメレッタ、きみはいつだって強気だったじゃないか」


「私だっておちこむことぐらいあるわよ」


 ポットと取りだしたカップをふたつ、トレイにのせるとカルが「俺が運ぶ」と持ちあげた。


 重たいトレイを軽々と運べる力があるなんてずるい。いやだ、私なに考えているんだろう……メレッタは頭をふってポケットからコインをとりだし、休憩室の隅にいた〝店番くん〟からビスケットの袋を買った。


 休憩室の赤いキノコにすわるとメレッタはビスケットの袋をやぶり、そのまま皿がわりにひろげてふたりの間においた。


「どーぞ」


「ありがとう」


 王族に菓子を差しだすような態度ではないが、カルはとくに気にしたようすもなくポットを持ちあげ、魔法陣で軽く温めたカップにていねいにお茶を注ぐ。


 自分にはできないようなていねいさに、メレッタは一瞬みとれた。


「それでどうしたの?」


 カップを受けとってメレッタが小首をかしげると、カルはすこしだけ動きをとめ、メレッタの顔をじっと見てから口をひらいた。


「俺、錬金術師団に入団したいんだ」


「えっ、でもあなた竜騎士志望だったでしょ?」


 思わずメレッタは大きな声がでて、あわてて口をおさえた。遮音障壁がまだうまく使えないメレッタのかわりに、カルが綺麗な術式を展開する。


「わ、遮音障壁……すごい、王族って感じね……カッコいい!」


 自分のまわりに張りめぐらされた遮音障壁にメレッタが素直に感心すると、カルがかすかに顔を赤くした。


「俺……カーター副団長に弟子にしてもらえるよう、たのもうと思っている」


「カルがお父さんの弟子に?」


 なんだかずるい。メレッタはアナの説得に苦労しているというのに。心にわいた複雑な想いをふりきって、メレッタはカルを応援した。


「そう……カルならやれると思うわ、マウナカイアではすごく助かったもの。私一人じゃユーリ先輩に手伝ってくれといわれても、どうしようもなかった」


 マウナカイアでユーリに「手伝ってほしい」といわれたのはすごくうれしかった。けれどユーリの要求するレベルは、学園生のそれとまったくちがっていた。


 ユーリを手伝ったときもそうだった。魔導回路に刻まれた情報の細かさに、使う素材の大胆な組みあわせ……メレッタにも思いつかない技術がいくつも使われていた。


 たった二年しかちがわないのに、錬金術師として魔導列車のメンテナンスまでおこなうユーリは、あまりにも手馴れていた。


 いつかライガの量産化が成功すれば、メレッタにもライガに乗るチャンスがおとずれるだろう。


 きっといつか……でもそんなの待てない。ライガにすこしでも近づくには、いまのメレッタは錬金術師団にはいるしかない。それなのに……うつむいたメレッタに、カルが静かに話しかけた。


「俺はメレッタの役にたったか?」


「もちろんよ、あなたの仕事はいつもとても丁寧だわ。マウナカイアでもそういったでしょう?」


「ああ……俺はそれがうれしかった。メレッタもいっしょに錬金術師団にいこう。俺たちできみの夢をかなえるんだ」


 真剣な顔をしたカルの顔を見て、メレッタはぼんやりと思った。


(あら?カルってこんな顔してたかしら?)


 目の前にすわる少年はメレッタもよく知る同級生で、いつもほかの子たちに囲まれて、教室の隅にいるメレッタを見たりしなかった。


 学園に五年も通いながら、ちゃんと話したのは錬金術師団で職業体験をしてからだ。だから彼の顔をきちんと見たことがあるかというと、そうでなかったのかもしれない。


「それができればいいんだけど……」


「俺が協力する。きみの入団を認めてもらえるよう、カーター夫人を説得する。かわりにカーター副団長へはきみからとりなしてもらえないか?」


 それを聞いたメレッタはびっくりして、〝カル〟と呼ぶことも忘れた。


「カディアンが母を説得するの?どうやって?」


 カルはまたメレッタの顔をじっと見た。きょうの彼はなぜかメレッタの顔をよく見てくる。なんだろう……と思っていると、彼はいった。


「メレッタ、俺と婚約してほしい」

モタモタしている成人組をさしおいて、未成年のカディアンが決めるのか……?

次回はカーター副団長vsカディアンです。

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[気になる点] いくら何でもカデイアン暴走し過ぎじゃ? そこまで考えが飛ぶ思考の流れが分からずモヤモヤ
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