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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

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30.じゃくじぃ

マッグガーデン様よりコミカライズ決定!WEBコミック『MAGKAN』にて月刊連載されます。

 目が覚めてしばらく、ここわたしは自分ががどこにいるのかだか分わからなくて、見慣れない天井を見上げてぼんやりしていた。明るい日差しが窓から射しこんでくる。


「ネリア様、お目覚めですか?」


 かけられた声にハッとして身を起こし、キョロキョロとあたりを見回せば、水色の瞳をしたソラと目が合った。


「ソラ! そうだ師団長室を開けて……」


「ここはグレン様が暮らしておられた居住区です。ご朝食をお持ちしますね」


 わたしはぺったんこのお腹をさする。 きのうは食べずに寝ちゃったから、 起きていきなりお腹がペコペコだ。


 すぐにソラが準備した焼き立てのパンとスープ、目玉焼きにベーコンと温野菜が添えられて運ばれてくる。


「グレン様がいつも召し上がるメニューでご用意しましたが、なにかご希望があればおっしゃってください」


「ありがとう」


 ベッドで朝食とか……なんなのこの待遇。あ、師団長様だった。


「え、毎朝こんな感じなの?グレン爺、王都でこんな暮らししてたの⁉」


 ううう、気をつけなきゃ。これが当たり前になると勘違いしそう。


「……おいしい!」


 モグモグしているとソラが流れるような美しい所作で、お茶を淹れてくれる。人間離れした繊細な美しさの横顔と、その手つきにみとれてしまう。


 うわ、これは一度味わってしまったら、抜けだせないかも。


「どうぞ、ネリア様」


 お茶を受け取りながら、気になったことを聞いてみる。


「ソラって男性? 女性?」


 ソラはこてりと首をかしげたけれど、まばたきをしてすぐに答えてくれた。


「精霊のソラに性別はございません。生殖活動もしないのに、体をそこまで作りこむのは面倒だとグレン様が」


「なるほど……でもなぜ精霊がグレンと契約して人形の中に?」


「……グレン様に『人間ごっこをしてみないか?』と誘われました」


「人間ごっこ……ソラも楽しんでいるってことかな?」


「はい」


 実体を持たない精霊は自由なもので、人間とは感覚が違うから、ソラが何を考えているかはよくわからない


 でもきっとグレンとの契約は、寿命の長い精霊にとって気まぐれのようなものだろう。


 彼らが人間と契約を結ぶこと自体まれで、今はそれがわたしに引き継がれてしまっている。


 満腹になって香り高いお茶を飲みながら、ふと昨夜は疲れ切ってベッドに倒れこみ、そのまま寝てしまったことに気がつく。


 浄化の魔法もかけてないから、体がペタペタしている。


「浄化の魔法もいいけど、こんな時はリラックスしたいなぁ。あーお風呂入りたい」


 わたしがなにげなく呟いた言葉を拾って、ソラが応えてくれる。


「ご用意しましょうか」


「あるの⁉︎」


 驚いてたずると、ソラはこくりとうなずいた。


「グレン様が先日、ネリア様のために作製されてました。『じゃくじぃ』というものだそうです」


「じゃくじぃ?……ジャグジー⁉︎入る!今すぐ!見たい!どこ?」


 案内された浴室は、ゆったりとした広さがあり、柔らかい光に満ちて明るくて。大理石でできた白い浴槽は大きくて、壁のスイッチを押すと気泡が出て。


 グレン爺、仕事完璧だよ!


「うわぁ、本当にジャグジーだぁ。これ、グレンが?」


「はい、ネリア様の二十歳の誕生祝いだと」


「え」


 師団長室がデーダスの家にくらべて散らかっていなかったのも、グレンがソラに命じて片づけさせていたらしい。


 びっくりだ。二十歳のお祝いで一緒にお酒を呑んだ夜に、今度王都に連れていってくれるとは言ってたけど。


 お風呂を作ってくれるとか、そんなこと……彼からはひと一言も聞いていない。


「そっか……うん、ありがとう。入ってくるね」

 ソラがこてりと小首をかしげると、水色の髪がさらりと揺れた。


「ネリア様。ソラに『ありがとう』を言う必要はございませんよ?」


「そうだね、でもわたしが言いたいんだ……当たり前のことにしたくないというか、有り難いっていう意味で……ごめん、難しかったかな」


 ソラは無表情に水色の瞳を何度かまたたかせた。コミュニケーションは取れるけれど、精霊と意思の疎通は難しい……。このへんは手探りでやっていくしかない。


「……ネリア様は『ありがとう』と言いたい。これでよろしいでしょうか」


「うん、そう。わかってくれてありがとう」


「はい」


「あと、お風呂に入る時のあいさつは『ごゆっくりどうぞ』。着替えとタオルをこのカゴに置いたら、ソラは退室して扉を閉める。わかった?」


「はい。『ごゆっくりどうぞ』」




 湯船に張ったたっぷりのお湯。ぶくぶくと湧く泡が身体を包み、強ばった筋肉をほぐしてくれる。


「あああ、気持ちいい。ゆったりとお風呂で手足を伸ばせるのって三年ぶり……」


 こっちに来てまだ日も浅い頃、わたしはさんざんグレンに、「お風呂に入りたい」と訴えた。


 浄化魔法もある世界で、『お風呂』という概念を説明するのも難しく。


「お湯に人間が入る」と言ったら、「人間を煮るのか?」と真顔で問い返された。


 違ーう!と一生懸命、お風呂はどういうものかを説明して。


 気持ちいいんだーとか、ジャグジーなんて最高!とか、何度も何度もお風呂の良さを、わざわざ絵まで描いて説明したのに。


「ふん、浄化の魔法で汚れは落ちる。風呂なんか知らん」


 とか言ってまったく取り合ってくれなかったくせに。


 今になってジャグジーとか。


 二十歳の誕生祝いとか。


 何なのこれ。


 本当にもう口が悪くて偏屈で、素直じゃない困ったお爺さんで。


 それなのにこんな優しさ。


 ふい打ちだよ。


 もっともっといっぱい話しておくんだった。


 グレンに会いたい。


 視界が涙でゆがんでしまい、わたしはしばらくお風呂からでられなかった。

今回はネリアの休日です。

わたしもグレン爺に『じゃくじぃ』作って欲しい。次回からは、『王都編』始まります。

挿絵(By みてみん)

(絵:よろづ先生)

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Teardrop
― 新着の感想 ―
[一言] 初めまして。 雅せんすと申します。 お便りコーナーを読んで本作を知りました。 とても面白くてグイグイ物語に引き込まれました。 この回はグレンさんの不器用な優しさに泣きました。 こんな心の…
[良い点] >ふい打ち みごとに心に沁みる。記述と構成力も上がってきたと思います。
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