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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
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3.その頃、シャングリラ城では

挿絵(By みてみん)

魔術師団長レオポルド・アルバーン

(絵:よろづ先生)

 そのころ魔導国家エクグラシアの王都シャングリラでは、錬金術師団長グレン・ディアレスの突然の死で、ひき起こされた事態に王城が揺れていた。


 錬金術師団長といってもグレンは、一年のほとんどを辺境の家で過ごす隠居暮らしの老人だ。


 王都には年に数回しかあらわれず、今では副団長のクオード・カーターが実務をおこなっている。


 そのため老いた師団長が抜けても、錬金術師団の業務にはさして支障がないはずだった。


 ところが今朝、グレンの死とともに王都にある錬金術師団、その本拠地である研究棟の各所で、いきなり複数の魔法陣が展開した。


 グレンが設置した魔法陣は研究棟を管理する各種の術式を、すさまじい勢いで書き換え、錬金術師団は完全にその機能を停止した。その知らせはすぐさま魔術師団にも伝えられる。


「ネリア・ネリス?」


 塔と呼ばれる魔術師団の本拠地で、魔術師団長のレオポルド・アルバーンは、聞き覚えのないその名に秀麗な眉をひそめた。師団長補佐のマリス女史がうなずく。


「はい。師団長の権限はグレンの遺言で、『ネリア・ネリス』という人物に譲られたとか」


「そのような錬金術師の名は聞いたことがないが……」


 長く伸ばした銀髪をさらりと背に流し、銀のまつ毛に縁どられた黄昏色の瞳は、光のかげんで色を変える。


『まるで精霊のよう』と称される美貌は、幼くして亡くなった彼の母親ゆずりだが、銀の髪は父親からゆずられた。


 年はまだ二十三と若いが魔術学園を卒業後、一年間の修業を終えてすぐ、魔術師団長に就任した天才だ。


 黒いローブの胸元に輝く紫の護符は、みずから狩った煉獄鳥から採った魔石で作ったものだ。護符の中では魔素を帯びた遊色が、ゆらゆらと輝きを放っていた。


 レオポルドは手元にあるグレンの魔石を見つめる。エクグラシアでは強大な力を持つ〝魔力持ち〟は死ぬと、〝消失の魔法陣〟により凝集した魔素の塊である魔石だけを遺す。


 グレン・ディアレスは今朝、研究棟の師団長室で最期を迎え、護り手である〝エヴェリグレテリエ〟が、その魔石をレオポルドにもたらした。


 そのまま封印されたその部屋には、今や〝錬金術師ネリア・ネリス〟だけしか入れない。保管されていた極秘資料や、稀少な素材も持ちだせなくなった。


「錬金術師団のカーター副団長から『解呪を手伝ってほしい』と要請が」


「……しかたあるまい」


 レオポルドはため息をつくと、魔石をしまって立ち上がった。





 研究棟の一階にある師団長室の前では、クオード・カーター副団長がギリギリと歯ぎしりをして、扉をにらみつけている。


「お待ちしておりましたぞ。さぁ、アルバーン師団長!」


「…………」


 レオポルドの長い指先から、術式が糸のように紡がれる。扉全体、鍵穴、金具……グレンが張り巡らせた魔法陣は厳重で、すでに書き換えられた術式は、魔術師団長である彼にもどうしようもなかった。


 長い銀髪をかきあげて眉間にシワを寄せ、レオポルドは黄昏色の瞳でいまいましそうに扉をにらみつけると、カーター副団長に向かってゆるく首を振る。


「無理に扉を壊せば、エヴェリグレテリエが攻撃する。『ネリア・ネリス』とやらを呼び、封印を解かせるしかない」


 それを聞いた副団長は青ざめ、ついで真っ赤になって怒りだした。


「ふざけるなっ! どこのだれとも知れぬヤツに、錬金術師団をまかせるだと!? グレン老は何を考えている!」


 怒りが治まらない副団長の横で、レオポルドは軽くため息をつく。今朝エヴェリグレテリエにグレンの魔石を渡されてから、彼はずっと錬金術師団のゴタゴタにつき合わされていた。


 今から塔へ戻っても、たいした仕事はできない。怒ってわめいているカーター副団長をそのままにして、レオポルドは魔術師団長室へと転移した。


 塔では魔術師団の副団長メイナード・バルマや、団長補佐のマリス女史が彼を出迎える。


「おかえりなさい、どうでした錬金術師団は」


 紫の髪と瞳を持つメイナードが声をかけると、レオポルドは精霊のような美しい顔を思いっきりしかめた。


「どうもこうもない。あれでは錬金術師たちも何もできまい」


「困りましたね。〝竜王神事〟が終わればじきにモリア山への遠征です。ポーションの補充はできるのかしら」


 錬金術師団は後方支援でポーションの作成や、ミスリルの精錬及び装備の錬金、素材を使った効果の付与など、実戦には参加しなくてもやることが多い。


 夏に行われる遠征への影響をマリス女史が心配すると、レオポルドはもういちどため息をつく。眉間を指で揉みほぐし、椅子に深く身を沈めた彼は、窓から上空を飛ぶドラゴンたちを見上げた。


「ライアスと相談する」


 彼が竜騎士団に伝言の呪文〝エンツ〟を飛ばすと、すぐに塔の最上階にある魔術師団長室へ、金髪碧眼の竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンがやってきた。





 王都シャングリラで王城に本拠を置く錬金術師団、魔術師団、竜騎士団を合わせて王都三師団という。


 グレン・ディアレスが率いる錬金術師団が一番人数が少なく、現在はカーター副団長を筆頭に六名の錬金術師が在籍している。


「国王以外に頭を下げる必要がない」


 そう言われるほど、各師団長は強力な権限を持つ。国王とともに並び立ち、その治世を支えている。


 錬金術師団長グレン・ディアレスは、人嫌いで有名な老人だった。ボサボサの髪にいつも仮面をかぶり、自分の研究以外にいっさい関心がなく、ほかの師団長たちとも交流しなかった。


 魔術師団長を務める〝銀の魔術師〟レオポルド・アルバーンは、炎・氷・風の多属性を持つ優れた魔術師だ。風魔法が必須の竜騎士修業もレオポルドはこなし、ドラゴンに乗って竜騎士たちと天空を駆けることもある。


 精霊の化身といわれるほどの美貌は、美女が多いことで知られる、魔術師たちのなかでもひときわ目立つ。


 精緻な術式が刺繍された黒いローブの全身に、魔石を使った護符を身につけている。とくに胸元につけた煉獄鳥の護符はひときわ大きく、美しい遊色が内部で揺らめいていた。


 ただしその性格は傲岸不遜で気難しく、だれに対しても冷ややかに接する。けれど同い年の竜騎士団長ライアス・ゴールディホーンとは、学園時代から気心も知れており仲がよかった。


 エクグラシアを守護する竜王ミストレイに乗るライアスはさわやかな好青年で、厳しい訓練に耐えて昨年に行われた竜王戦を制し、団長に就任したばかり。


 気真面目な性格の彼は職務にも熱心で、団長でありながら穏やかなその性格は、年上の竜騎士たちからも評判がいい。光を浴びて輝く金髪に、精悍でりりしい顔立ちをしており、澄みきった夏の青空のような瞳を持つ美丈夫だ。


 エクグラシアを守る双璧、魔術師団と竜騎士団。それらを率いる〝銀の魔術師〟レオポルド・アルバーンと、〝金の竜騎士〟ライアス・ゴールディホーンは、どちらも趣のちがう美形だった。


 ふたりがそろえば王城の女性たちは、あまりの眼福に目を潤ませ、その日の幸せをかみしめた。


お読みいただきありがとうございました!

ふたりの師団長について加筆しました。

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