299.メロディの講義
281話から間があいたので、魔道具ギルドと五年生たちの人物紹介をのせておきます。
【魔道具ギルド】
メロディ・オブライエン 臨時講師
アイシャ・レベロ 魔道具ギルド長
ビル・クリント ギルド長助手
サージ・バニス ギルド検査部門
ヒルダ ギルド受付
【魔術学園5年生】
カディアン・エクグラシア(=カル・ドラビス) 父のアーネストを若くしたようなゴツい体格。
メレッタ・カーター 花飾りのついたカチューシャをつけた栗色のボブ、紫の瞳、小柄。
レナード・パロウ 背は高い、銀縁眼鏡。
グラコス・ロゲン 大柄で武術が得意。
ニック・ミメット 男子のなかでは一番小柄だが、風魔法が得意。
ディア・メイビス メイビス侯爵令嬢。
ベラ・イード グラコスと仲がいい。
翌日もわたしは魔道具師メロディ・オブライエンの助手として、魔道具ギルド五階の研修室で魔術学園生たちの実習を手伝っていた。
「魔道具にはいろいろな種類があるけれど、魔術師たちがつくりだしたものがその起源ね。学園で学んだ分類をあげられるかしら?」
メロディの質問に、さっそくレナードが手をあげた。
「はい、魔術補助具として杖やスティック、護符や魔法陣を刻んだもの、ほかに輸送や農業、工業といった分野で使われる産業用魔道具、暮らしのなかで使う生活用魔道具があります」
優等生らしい模範解答に、メロディはにっこりと笑う。
「そうね、魔術師たちはさまざまな魔導具を使うの。自分たちの魔術を補助をするためと、魔術師でなくとも魔術を広く使えるように、術式を組んで魔法陣を作ったりね。固定型の転移魔法陣がその例ね」
なんだかすごく勉強になる。助手といいつつ、わたしもしっかりメロディの講義に聞きいってしまう。
「魔道具は魔素を動力源として使うのだけど、その魔素の供給方法でも二つにわけられるわ。カル、答えてくれる?」
あてられたカルは茶髪に色をかえた頭をポリポリとかいたけど、ちゃんと真面目に答えた。
「ひとつは魔素を流すことで動かせる……つまり〝魔力持ち〟が使うためのもの。もうひとつは〝魔石〟と術式を刻んだ魔法陣や魔導回路を組みあわせて、〝魔力持ち〟でなくともあつかえる」
「そのとおりよ。最初魔術師がつくりだしたものは、〝魔力持ち〟が使うことしか考えられていなかったの」
学園生たちの講義を受けもつ臨時講師は、ギルドに所属する若手が持ち回りでつとめると聞いたけれど、メロディの講師っぷりも堂々としたものだ。
「もちろん魔石も使ったけれど、あくまで魔力が使えないときのかわりだったのね。だから初期の魔道具は王城や各地の領主館に置かれて、時を刻むとか天候を予測するとか、あとは通信手段として使われたりするような手づくりで高価なものが多いわ」
カルが腕を組んでうなずく。
「王城の大広間にある魔導時計もそうだな」
「魔石を動力源として使うようになったのはつい最近ね。魔石を使うようになってから、魔道具はさらに進化したわ。グレン・ディアレスがつくった魔導列車のような大掛かりな魔導機関を動かすには魔術師が何人も必要だもの。それが魔石を使えば〝魔力持ち〟でなくとも動かせるのよ」
グラコスが服のうえからポケットにいれた噛みつき財布の〝マリー〟をなでた。
「俺たちからすると、それがもうあたりまえだけどな」
「いまではわたしたちがあつかうのは主に生活用魔道具ね。けれど産業用魔道具をつくる工房おかかえの魔道具師もいれば、魔術補助具をあつかう王城勤務の魔道具師もいるの」
メロディは講義のおわりに、にっこり笑って席についた五年生たちを見まわした。
「だからひとくちに魔道具師といってもそれぞれの得意分野はちがうし、ある意味自由に自分の可能性を試せる職業なのよ」
「ネリィさんお願いします」
講義が終わってメロディが研修室をでていくと、ディアとベラがわたしのまえに課題レポートと魔道具をドサドサと置いた。
「昨日だされた課題ですの。研修のまえに昨日の研修先にそれぞれ運んでくださる?」
「あ、はい」
五年生たちはそれぞれの研修先で、ちゃんと宿題がだされていたらしい。
全員分のレポートと魔道具となるとけっこうな量になる。どうやって運ぼうか……と考えていると、レナードとカルが立ちあがった。
「ネリィさん、レポートは俺が運びます」
「俺たちは魔道具を運ぼう、グラコスそっち持て」
「わ、ありがとう!」
レナードがテキパキと書類を運び、カルとグラコスがキビキビと魔道具を箱につめていく。ニックもそれを手伝ってから、わたしにむかって笑顔をみせた。
「ネリィさん、ほかに手伝うことはありませんか?」
「えと……だいじょうぶ」
なんだか五年生の男子たちが紳士だ……。それを目にしたベラとディアは「なんなの?」と不満そうなんだけど。さすがにカルやレナードに文句をいいづらかったのか、ディアはグラコスに不満をぶつけた。
「ちょっとグラコス……どうしてただの助手にそこまで気を使うのよ」
「そうよ、彼女は私たちの実習を手伝うためにいるのよ?あなたたちが手伝ったら逆じゃない」
ベラもそういうと、グラコスがあわてた。
「バッ、バカいうな!このかたにそんな恐れおおい……!」
「このかた?」
ベラがきょとんとしたけれど、グラコスは汗をかきながら返事をする。
「とっ、ともかく助手だからって、このかたに失礼な態度をとるな!」
「なによそれ」
ディアはくやしそうな顔になった。
「……ちょっとばかりネリィさんがかわいいからって男子どもときたら……」
「そっ、そんなんじゃない!」
これは女子にはほめられているのかしら……。
レナードがディアに声をかけた。
「本当なら自分で提出するものだろう?どうして自分でもっていかないんだ」
長い髪をはらってディアは優雅にほほえんだ。
「あら、だってネリィさんが運んでくだされば、そのぶん実習に集中できるじゃない。それぞれがレポートを持っていくのはムダでしょう?」
それを聞いたレナードはあきれたように頭をふった。
「話にならないな……それより研修だ。昨日のうちに準備してきたものを見せてみろ、ちゃんとやってあるのか?」
「ちゃんとやったわよ」
ディアが得意そうに差しだした豪華な装丁のノートは、開くと香りがふわりと広がり、綺麗な字で術式が書いてある。けれどそれを見たレナードは顔をしかめた。
「……なんだこれは、やる気があるのか?」
「どういう意味よ」
レナードはノートをディアにつき返す。
「この字は……ディアの字じゃないだろう?人にやらせたのか?」
指摘されたディアは悪びれもせず肩をすくめた。
「魔道具の修理なんてしたことないもの。うちには専属の魔道具師がいるんだから!」
レナードはノートの術式を指さした。
「ディアが課題を人にやらせたことはともかく……ここに書かれた術式を研修で再現できるのか?」
「術式を写すぐらいできるわよ。私は魔道具師にはならないし、この実習で単位さえとれればそれでいいの」
きっぱりそういいきって、ディアはレナードではなくカルに話しかけた。
「いままで課題があるときはアイリが助けてくれたんだもの。カルだってそうでしょう?アイリにいつも手伝ってもらったじゃない!」
カディアンはぐっと拳をにぎりしめ、歯を食いしばってから返事をした。
「ああ……俺もアイリにはいつも助けてもらってた。だけどこれからは自分の力でやる。そう決めたんだ」
ディアはカルにむかって甘えるように笑顔をみせた。
「ねぇカル、やっぱりあなたと組めないかしら?レナードったらわたしには厳しいの」
カルは首をよこにふり、きっぱりといって箱を持ちあげた。
「すまない、俺はネリィさんと組む。相談したいこともあるから、今日の昼食はネリィさんたちといっしょにとりたい。じゃあグラコス、これ運ぼう」
「え……」
カルに拒絶されたディアは一瞬ぼうぜんとして、それからギッとわたしをにらみつけてきたけれど、ええと……これ、わたし関係ないよね?
昼ご飯は人数が増えたことで、そとの食堂にでかけるのはやめにした。ビルのおぃちゃんが「特別だぞ」と、近くのパン屋さんからオススメのランチを買ってきてくれた。
そんなわけでギルド二階にあるギルド長室を借り、まえに収納鞄について話しあったテーブルについて、わたしたちはランチを食べている。
メレッタとレナードはお弁当だったけれど、ニックとカルはそれぞれランチから好きなものをえらんだ。
わたしが選んだのはマッシュしたトテポと甘辛いタレで鳥肉とパポ茸をソテーしてパンにはさんだもの。頬張っているとじゅわりと甘辛のタレに肉汁が溶けあい、トテポといっしょに食べるとやさしい味だ。
メロディは揚げたメブレイに刻んだタラスを合え、ソースをかけてパンにはさんだものにかぶりついた。
「ん、おいしい!」
指についたソースをペロリと舐めると、メロディはいたずらっぽく笑った。
「いつもの年だったら魔道具好きな生徒以外は、わりと遊び半分なのよ。なんだかネリィがいるだけで実習の雰囲気もちがうわねぇ」
「そうですか?」
「そうよぉ、ネリィったらだれよりも熱心に講義を聞いているんだもの。ほかの子も気を抜けないわ」
「え、だって面白いですよ。わたしはグレンに教わっただけだから、知識がかたよっているっていうか……いちどちゃんと学びたかったんですよね」
レナードが銀縁眼鏡を持ちあげて、ため息をついた。
「グレン・ディアレスに教わるっていうのが……俺たちからしたらすごいけどな」
トテポは誤字ではなく〝ポテトっぽいもの〟です。
次回は王城に戻ってオドゥとか出てくる予定です。












