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296.ユーリとリーエン(学園時代)

本編より6年前……魔術学園に入学したばかりのユーリと、サルジアから来た留学生リーエンとのやり取りです。

「精霊の血をひくといわれるサルジアの民には美男美女が多い」と聞いたことがある。


 そういわれているとおり、〝彼〟の第一印象は「きれいな人だな」というものだった。背は自分よりもすこし高い。


 竜王との契約前だったユーティリスは、母ゆずりである榛色の髪に琥珀の瞳をしていた。


 父に「女の子だったらリメラそっくりの美少女だったのに」と嘆かれるほどのやさしげな顔立ちをしているから、相手のキリッとした顔立ちがうらやましく思えた。


「きみがユーティリス・エクグラシア?」


 しっかりとしたよく響く声がユーティリスの名を呼んだ。


 サラサラとした黒髪は艶があり、前髪は眉にかかる程度までのばしていて、頭の後ろは短く刈ってあった。黒い瞳はまるで黒曜石のようだ。


 まだ体の線も細いが、こちらに伸ばした手の指も節くれだったところなどまるでなく、長くて優美な印象を与える。


 握手をすれば体はおなじように小さくとも、剣ダコもある自分の手とはまるでちがっていた。


「僕はリーエン……サルジアからきた留学生だ、よろしく」


「エクグラシアへようこそ、同じ学年だね……どうぞよろしく」


 最初に交わしたあいさつはそれだけだった。


 アーネストが国王に即位し、ユーティリスも卒業前に竜王との契約を済ませる予定だった。


「本来なら〝王族の赤〟をまとうのは成人後でもいいのだが……レイメリアが抜けてずっと父上と俺のふたりだけだったからな。カディアンも魔術学園を卒業する前に契約することになるだろう」


 ユーティリスには成人したばかりのテルジオ・アルチニが補佐官としてつけられることになり、ふだんは学園に通い休日はテルジオといっしょに教育を受ける……といういそがしい毎日だった。


 サルジアからの留学生……それも皇太子がやってくるなど、エクグラシアの五百年という歴史の中でもはじめてのことだ。


 気にはなったが、リーエンにはリーエンで同年代のレクサという少年が故国サルジアからつけられ、二人でいることが多い。


 ひと月ほどそうして過ごして、ある日学園の食堂でランチをとるユーティリスの前に彼が座った。


「なんだい?」


 彼はちいさく唇をとがらせた。


「僕は寮生活なのにきみは王城に帰るから、ふだん全然話せない。せめてランチぐらいはいっしょにとりたいと思ってね」


 ユーティリスはほとんど食べ終わっていたトレイを脇にどけた。


「ユーティ、でいいよ。僕と話したがっているとは思わなかった……失礼したね」


 彼は「ユーティ」とつぶやくように口の中で転がした。


「ユーティか……でも僕はきみの〝ユーティリス〟という音の響きが好きだ。そのままでもいい?」


「もちろん。ふだんは何をして過ごしてる?」


 ユーティリスがたずねると彼はかるく肩をすくめた。


「いまのところ、学園と寮の往復かな……学園の中だけでも探検しがいがあるよ。担任のロビンス先生のところにお邪魔したりね」


「ロビンス先生は魔法陣研究では第一人者だ。いまは学園に落ちつかれているが、エクグラシア各地をまわって遺跡に残された魔法陣を調べられたというよ」


 ユーティリスも知っている話をすると、リーエンはうなずいた。


「そうなんだよ。エクグラシアには独自の魔法陣が存在してた……サルジアからもたらされた知識もあるけれど、それぞれのいいところがうまく融合してる。それは発見だったな!」


 もっと冷静な落ち着いたヤツだと思ったのに、話しだすと瞳に熱がこもるのが意外だった。


「なんだか僕より学園生活を楽しんでいるね」


「当然だろう?ここにくるために必死にエクグラシアの言葉を覚えたんだ。言語的には似ているんだけど……おかしくない?」


 のどに手をあて心配そうに聞いてくる。


「とても滑らかだと思うよ」


 ユーティリスが保証すると、リーエンはうれしそうに顔をほころばせた。


 その笑顔はどきりとするほど美しい。


「リーエン様、こちらを」


 いつもいっしょにいるレクサという少年が、リーエンの前にそっと食事のトレイを置くと、リーエンは彼にも笑顔をむけた。


「ありがとうレクサ。食器は自分で下げるから、あとは自由にしていいよ」


 食事をリーエンの前に置いたレクサという少年は、チラリとこちらを見てから頭をさげて離れていった。


「それ……」


 すこしつつかれた跡のある食事を見て、ユーティリスは眉をひそめた。


「あ、うん……彼は毒見もしてくれているんだ。ここの食堂を信用してないとかじゃなく、ただの習慣だから気にしないで」


 サラリといって彼は食事をはじめ、ユーティリスはお茶を飲みながらそれにつきあう形になる。


「ずっときみと話したかった。毎日だときみの負担になるだろうから、ときどきでいいんだ……こうして一緒に食事をしてくれたらうれしい」


「こちらこそ……僕から声をかけるべきだったね。リーエン……きみにとってここは異国なのに。何か困っていることはない?」


 彼の名を呼んでなにげなく問いかけると、リーエンは勢いよく答えた。


「たくさんあるよ!」


「え……」


「学びたいことが多すぎるんだ!寝てる時間ももったいないぐらいなのに、寝なきゃいけないなんて困るんだ!」


「……寝たほうがいいと思うよ」


 リーエンは肩を落とすと、大げさにため息をつく。


「きみもレクサとおなじことをいうね」


「当然だろ」


 ユーティリスは心の中で、ちょっとレクサという少年に同情した。


 食事を続けるリーエンに、ユーティリスは前から聞きたかったことをたずねる。





「どうしてわざわざエクグラシアに留学を?サルジアのほうが大国だし魔術の歴史も古いだろう?」


「……ユーティリスはせっかちだなぁ」


 彼はパンをつまむとクスッと笑った。


「せっかち……」


「そういうのは、もっと親しくなってから話すもんだよ。そうだなぁ……きみが学生寮で僕の部屋に遊びにくるぐらいになったら聞かせてあげる」


 はぐらかされたような気がして、思わず不機嫌な声がでた。


「なんだい、それ」


 リーエンはまっすぐにユーティリスを見つめ返した。


「僕には目的があるからここにきた。目的はいくつもあるけど……全部達成できるかはわからない。きみが協力してくれたらうれしいけれど、そうでなくとも僕と友人になってほしいと思っている」


 それは恐ろしいほどに真剣な眼差しで、ユーティリスは目をまたたいて返事をした。


「僕たちは友人になれるよ。だって学園では同じ学年だし卒業まで五年間いっしょだ……そうだろう?」


「そうだね……これを機に留学生たちがたがいの国を行き来して学びあえたらなって思うよ。いつかきみにもサルジアにきてほしいな……とても美しい国だよ」


 そういってリーエンは食堂の窓から遠い空を見つめた。涼やかな横顔はとても美しかった。





 話をするようになると親しくなるのにそれほど時間はかからなかった。


 体術や身のこなしはユーティリスのほうが得意だが、魔術の扱いや芸術的なセンスはリーエンのほうが優れている。


 母国語でないのに必死に文献を読もうとするリーエンにつきあって、ユーティリスも遅くまで図書室にこもったりもした。


 エクグラシアとサルジアの未来にもつながる関係だ……テルジオもレクサも、二人を見守りつつ何もいわなかった。


 一冊の本を三日かかってようやく読み終えたリーエンが、満足そうにため息をついた。


「シャングリラで学んだ知識をはやく持ってかえりたいよ。僕がエクグラシアに学ぶべきだっていっても耳を貸さなかった、サルジアの頭が固い連中だってきっとひっくり返る」


「きみの役に立てるのならうれしいけれど、きみが帰ってしまうのはさびしいな」


 ユーティリスが本を片づけながら返事をすると、リーエンはちょっと目をみひらいた。


「ほんとに?そう思ってくれる?」


「思うよ……僕も君と友達になれてよかったと思っているから」


 照れくさくなりながらそう答えると、リーエンは「ありがとう」と小さな声でつぶやいた。





「レクサ、どうだった?」


 寮の部屋にもどったリーエンは、別行動をしていたレクサに声をかける。レクサの返事は彼をすこし失望させた。


「グレン・ディアレスには面会を断られました。彼の息子はレオポルド・アルバーンといいまして筆頭公爵家の人間です。昨年までは魔術学園に通っていましたが、いまは卒業し王都魔術師団にいるようです」


「エクグラシアの筆頭公爵家で塔の魔術師団か……僕には近づくチャンスがないな。銀の錬金術師か魔術師……せめてどちらかと話ができればいいのだが」


「来年になればアルバーン公爵家から令嬢がひとり、学園に入学してくるようですが」


「それじゃ遅いかもしれない……ユーティリスの線から近づくしかないか」


 考えこむリーエンに、レクサは顔をくもらせた。


「あまり……あのかたに近づかれるのは……どうかご自分のお立場をお考えください」


 顔をあげたリーエンは、まっすぐにレクサを見返した。


「わかっているよレクサ……だからこそ僕は命がけでここにいるんだ」

リーエンとレクサ、今回が初登場ですね。

ここで終わるんかーい!……と言われそうですが、SSなので今回はここまでですm(_)m

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