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295.ライアスと竜騎士団(新人時代)

本編より6年ほど前の、ライアスが竜騎士団にはいったばかりの話。

()内はこのときの年齢です。

ライアス・ゴールディホーン(17)金髪・碧眼 竜騎士見習い新人

デニス(26)緑色の髪『ツキミツレ』の竜騎士

レイン(24)紺色の髪『アマリリス』の竜騎士

ヤーン(19)茶色の髪 竜騎士見習い

アベル(19)水色の髪 竜騎士見習い

 竜騎士見習いのヤーンとアベルが、それぞれ自分の騎竜になる予定であるクレマチスとリンデルカの世話を終えると、竜騎士のレインが見回りを終えてアマリリスと竜舎に戻ってきた。


「よっと……シャングリラは今日も平和……っと!」


 ギュオオオゥ!


 白く美しい翼を優雅にたたんだアマリリスは、レインを降ろすと高くひと鳴きしてミストレイのところに飛んでいき、ミストレイの側で休んでいたアガテリスと、頭をかるくぶつけあうドラゴン同士のあいさつを交わすしはじめた。


 アマリリスと同じ白竜で見た目はよく似ているアガテリスは、長老格のドラゴンで鷹揚な性格であり、ほかの竜騎士たちが乗るドラゴンにくらべ、出動回数こそ少ないが飛行が安定している。


 アマリリスはまだ若く、近寄らせる人間の好き嫌いもハッキリしているが、おおらかで気安い性格のレインとは相性がいい。


 レインはヤーンとアベルが着ているボロボロの訓練着に目をやった。止血の魔法はほどこしたらしいが、あちこちが裂けている。


「なんだお前たち……またリンデルカとクレマチスにやられたのか」


「ええ、もうボロボロっすよ」


「うーん、まぁ背中に乗せるにはまだちょっと物足りねぇんだろうな、二人とも」


 アマリリスとの〝感覚共有〟で読みとった、ドラゴンの感想をレインが正直に伝えると、茶髪のヤーンがなげいた。


「ええええ、俺はともかくアベルなんか、シュッとしたイケメンなのに」


 イケメンといわれたアベルは水色の髪をかきあげて苦笑する。


「ドラゴン相手に顔なんか関係ないだろ」


「そうかぁ?アベルが竜騎士の甲冑を着て、ドラゴンにまたがったらキラキラして、カッコいいと思うんだけどなぁ」


 ちょっとお調子者なところがあるヤーンは首をひねるが、アベルは冷静に指摘する。


「俺のリンデルカはそうはいってない、お前のクレマチスもな」


「うう……ドラゴン受けする男になりたい……」


「そういえばイケメンといやぁ、今年の新人がさっき……」


 レインが話しだそうとしたとき、竜舎の扉をあけて副官のデニスが若い男をひとり連れてやってきた。


「おぉ、レイン。ヤーンとアベルもいるならちょうどよかった。今年入団した新人を連れてきたぞ!」


 連れてこられた新人は金髪に蒼玉の瞳で……ヤーンもアベルもなんとなく見覚えがある顔だ。


「ライアス・ゴールディホーンです。よろしくお願いします!」


 少し緊張した顔でビシッと背筋を伸ばしてあいさつする、ライアス・ゴールディホーンの青い瞳はキラキラしていて初々しい。


 だが「ゴールディホーン」と聞いて、ヤーンとアベルは思いだす人物がひとりいた。


「え……」


「ゴールディホーンってオーランドの……」


「はい、オーランドはふたつ上の兄です!」


 くしゃりと笑う笑顔まで似ている。そう、ライアス・ゴールディホーンに銀縁眼鏡をかけさせたら、ヤーンたちと同級生だった男にそっくりになる。


 バサリ、と音がしてミストレイが飛来すると、ズン……とライアスの前に降りたつ。ライアスは恐れるでもなく真っ直ぐに、ミストレイの金色をした瞳を見あげた。


「よろしくな、ミストレイ」


 グルルル……うなり声ひとつだけで、ミストレイは飛びたち次の瞬間にはもう天高く舞いあがっていた。


 散歩にいってしまったのだろう……ミストレイの羽ばたきひとつで竜舎のいろいろな物が吹っ飛んだが、それを片づけるのは見習いであるヤーンとアベルだ。


 デニスがミストレイを見送って感心したようにいう。


「ほう、ミストレイが見にきたか……ヤーンもアベルもうかうかしていると、ライアスに先を越されるぞ。ライアスは職業体験でもミストレイと遊びきったからな」


「なんだって⁉」


 ヤーンがおどろくとライアスはあわてたようにいう。


「いえ俺も……ミストレイにどつきまわされて散々でしたよ」


 そういってライアスは苦笑するが、ヤーンとアベルはどつかれるどころか死ぬかと思った。職業体験は毎年厳しめにやるらしい。竜騎士にならないのであれば、入団してから何年もおこなう訓練がムダになる。


 職業体験で自分に向かないとわかれば、すっぱりあきらめてちがう道を選んだほうがいい……そのため魔術学園生たちは、ドラゴンたちから手荒い洗礼を受けるのだ。


 ふたりの言葉にならない叫びを感じ取ったのか、レインが説明した。


「べつにミストレイが手を抜いたわけじゃないぞ。ライアスはミストレイの動きを読んで先に動いただけだ、攻撃させないようにうまくかわして、ミストレイの注意を逸らす……ヤツとまともに遊んだら死ぬからな」


「俺は父が竜騎士だったので、子どもの頃からドラゴンを見慣れていただけです」


 ライアスは照れたように頭をかく……そしてなんというか笑顔がかわいい。


「なぁ、アベル。オーランドはちっともかわいくなかったが、弟のライアスはかわいいな!」


「あぁ、俺も同感だ。顔はそっくりなのに」


 オーランドからかわいさを取って、ぜんぶライアスにくっつけたみたいだ。


「うわぁ……ライアスが竜騎士の甲冑を着てドラゴンにまたがったら、キラキラしてめっちゃカッコよさそう」


 ヤーンがうらやましがると、アベルもうんうんと素直にうなずいた。


「確かにモテそうだなぁ……女の子がほっとかないだろう」


「とんでもない!俺は全然モテなくて……家も兄がひとりいるだけで男兄弟ですし、女性への接しかたもわからなくてお手上げです」


「……ウソだろう⁉」


 ライアスは困ったように否定したけれど、イケメンの「全然モテない」発言ほどウソくさいものはない。


 兄であるオーランドだって、卒業パーティには一番人気の女子と踊っていたし、ヤーンもアベルも信じなかった。


 すぐに竜騎士団になじんだライアスは、ひたすらがむしゃらに訓練をやり、素直で真面目な性格で団員たちにかわいがられた。それになんといっても笑顔がかわいい。


 厳しい訓練を終えてライアスがほっとしたように笑うと、まわりの竜騎士たちも心がほわっと温かくなるのだ。


 だがさぞかしモテるだろうと思われたのに、本人がいう通りとくに女性のウワサはない。


 もちろん竜騎士見習いのときは、だれもが訓練にあけくれて、キラキラ甲冑なんて着る機会もないから、令嬢たちの注目を集めることもないのだが。


 ライアスにそれらしい女性が現れないことは、竜騎士団でも不思議がられていて、ときどき訓練を見学にくるオーランドが見張っているのでは……とささやかれていた。


 だがある日訓練場にレオポルドがあらわれ、ヤーンもアベルも「これか!」と思った。


「なぁ、アベル」


「なんだヤーン」


「俺、魔術学園でライアスがモテなかった理由……わかったような気がしたわ」


「ヤーンもか、俺もだ。女より綺麗な男とつるんでちゃ……そりゃ近寄りにくいよな」


 訓練場でライアスがレオポルドと話すのは、同期なのだからべつに珍しい光景ではない。それなのにレオポルドと並ぶライアスは、ヤーンにもアベルにもやたらにキラキラして見える。


「むしろ見守りたいんじゃないか?」


「あーうん……『お似合いのふたり』とか思われてそうだな」


 ライアスがさわやかな笑顔で何かいい、ふだん無表情なレオポルドがめずらしく笑う。ふっとかすかにほほえむ程度だが、いつのまにか増えたギャラリーの熱気が、離れて見ているヤーンとアベルにも伝わってくる。


「ヤバいわー、あの魔術師にほほえまれたら俺でもときめくわ。むしろ全然平気なライアスがすごい」


 感心するヤーンに、アベルが自分たちに置き換えて説明した。


「たとえばだ、俺とヤーンが同期でおなじ竜騎士だからという理由で『ふたりともお似合いね』と、まわりから勝手に思われていたとする」


「うむ……勝手だな」


 ヤーンは顔をしかめた。そんな誤解をされたらたまったもんじゃない。


「じゃあだからといって、『俺たちいっしょにいるのをやめようぜ』ってなるか?」


「ならねぇな。男の友情は大事だ」


 たとえかわいい彼女がいても、男同士はなんといっても気楽だし、これはこれですげぇ楽しいときがある。これを簡単に捨てられるか……というとヤーンにも難しい。


「つまりはそういうことだ!」


 アベルの説明にヤーンは納得した。


「そっか、そういうことだな。ま、いずれどっちかに彼女でもできれば落ち着くだろ」


 ヤーンとアベルはこのとき気楽に考えていた。


 五年たってライアスの竜騎士団長就任により、ギャラリーの熱気は落ち着くどころか、ものすごい盛りあがりを見せることになるとは……思いもしなかった。

ヤーンとアベルはライアスの兄オーランドと同級生です。

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