283.メロディのさっぱりわからない土産話
2巻発売まであと4日!
1~2巻を振りかえりながらのSS。
10話でネリアと別れたあとのメロディサイドの話です。
メロディ・オブライエンと『ニーナ&ミーナの店』のニーナやミーナは、シャングリラ魔術学園時代からのつきあいだ。
魔道具師になって三番街に店舗兼工房をかまえたメロディは、「気がひきしまるのよ」と言いながら、『ニーナ&ミーナの店』の服を着て自分の店にたつ。
そして彼女の服をほめる客には必ず、この店のことを勧めてくれる。
高額なドレスを買うわけではないが、二人はメロディが自分たちを応援してくれるその気持ちがありがたかった。
メロディはなんといっても行動派で、研究熱心ないい魔道具師だ。素材だってギルドを通せば買えるのに、今回もわざわざ品質をたしかめに現地まで行ってきたのだから。
そのメロディが『ニーナ&ミーナの店』にやってくるなりさけんだ。
「もぉ聞いてよ、すごかったんだから!」
これで何回目の「すごかった」かしら……と思いながら、黄緑の髪を頭の上でおだんごにしたミーナは、店の奥からすぐに顔をだした。
「あらメロディ、サルカス山地への素材の買いだしから無事に帰ってきたのね」
その声を聞きつけて、まとめ髪をして一筋だけ耳のわきに垂らしたニーナが、奥のテーブルを片づけてお茶の用意をはじめる。
「ほんと。女の一人旅だから買いだしは大変……ってこぼしてたけど、元気そうじゃない」
メロディは持ってきたサルカス土産のミュリスをミーナに渡すと、自分の指定席になっている椅子にいきおいよく座った。
「それどころじゃないことが、サルカスからの帰りに魔導列車で起こったの!」
メロディの周囲ではいつも、「それどころじゃないこと」がいっぱい起こっている。だからニーナもミーナも余裕の表情だった。
「なぁに?『エンツ』じゃ済ませられないって、よっぽどね」
「魔導列車で殺人事件とか……でもそんなニュースなかったわよね」
ミーナがミュリスを皿に盛りつけてテーブルに置き、ニーナが人数分の紅茶をついで席についたところで、メロディが話しはじめる。
「私が目を覚ましたら、目の前に妖精がいたのよ」
「はぁ?」
ニーナが口元にカップを持っていきかけて、手をとめた。
「目を覚ましたら目の前に妖精?」
ニーナとミーナは目を見合わせる。
「まぁ、いるかもしれないわね……サルカスは地脈の魔素も豊富だし……」
なんだかんだいってここにいるのは全員〝魔力持ち〟……つまり魔女なので、少々のことでは驚かない。
どんな怪奇現象でも、「まぁ、そういうこともあるかもね~」で流してしまえる神経の持ち主だ。
「ゴーストのお友だちが三人います」と言われたって、「あ、そう」で済ませてしまう。
ミーナが軽く相槌をうち、そのままミュリスに注意をむけてしまったので、メロディはあわててつけ加えた。
「そうじゃなくて……ええと、私がウレグの手前で目を覚ましたら、むかいの席に妖精のような子がいたのよ」
「なんだ人間か」
「なんだじゃないわよ!黄緑の目がキラキラと光って、私を見て『おはようございます』って言ったのよ!」
「それ、人間だったらあたりまえじゃない?」
二人の反応が鈍すぎて、メロディはもどかしそうに手を大きく動かす。
「そうなんだけど……瞳の輝きがちがうのよ!まるでペリドットみたいに、その子が笑うたびにキラキラと輝くの」
ニーナが想像するように、耳の脇に垂らした自分の髪を持ちあげて眺めた。
「ペリドット……黄緑……」
ミーナがミュリスをつまみながら冷静に指摘する。ペリドットはデーダス荒野の外れでよく採れるため、エルリカではよく見かける石だ。
「エルリカだったらペリドットの妖精ぐらいいるんじゃない?」
メロディの動きがピタリととまった。
「その子……私が寝ている間にエルリカから乗りこんだって言ってたわ……」
「決まりね。その子ペリドットの妖精だったのよ」
メロディは首を横にふりながら、ニーナが淹れた紅茶をひとくち飲んでため息をつく。
「そうじゃなくて……ちゃんと人間だったわ。しかも錬金術師だって言ってた」
ニーナが顔をしかめた。
「えぇ?堂々と『錬金術師だ』と名乗るなんて……その子、めっちゃ怪しくない?」
「そんな感じの子じゃないのよ!もっと話したかったのに、その子ウレグで降りちゃって。ウチのショップカード渡したから、お店にきてくれるといいんだけど」
「シャングリラまでいっしょだったんじゃないの?」
首をかしげてたずねたミーナに、メロディがまた勢いづいた。
「それよ!そこなのよ!」
メロディは明るくて話し好きだが、表現が感情豊かすぎて何をいっているのかわからないことがある。
「どこがそこなのよ……」
「だからすごかったとこよ!五体よ五体!」
「五?」
いままでの話の中でようやく初めてでてきた数字だが、ニーナもミーナもさらにわからなくなった。メロディは手を大きく広げて説明する。
「五体のドラゴンがウレグ駅で待ち構えていて、竜騎士団長もいたの!」
「うそ、ライアス・ゴールディホーン⁉︎」
ようやくニーナたちにもわかる固有名詞がでてきた。
「そうよ、私のすぐ目の前まで、あのライアス・ゴールディホーンがやってきたの!」
「メロディは学園生のときから、ライアス推しだったものねぇ」
そのときの光景を思いだして、メロディはうっとりした眼差しを宙にむけた。
「そう、彼が……私の向かいに座っていた錬金術師だというその子を、迎えにきたのよ」
「それがすごいこと?」
「だって素敵だったんだもの!」
ニーナがようやく、納得したようにうなずいた。
「あ~つまり、メロディが乗った魔導列車にライアス・ゴールディホーンがやってきたのが『すごかった』てことね」
「そりゃそうよね……夜会シーズンは毎日のように紙面をにぎわしていたもの。彼大人気よね」
「そうなんだけど……」
生身のライアス・ゴールディホーンは確かにため息がでるほどの美丈夫だった。
だけど……メロディは二人にそれ以上説明するのをあきらめた。
(彼女をひとめ見れば、理解できるんだろうけどな……)
ふわふわした赤茶の髪をもつ小柄な、妖精のような雰囲気をもつ女性。
黄緑の瞳は好奇心いっぱいにきらめいて……頬はふっくらとやわらかそうで唇はふるりと赤い……。
かわいいけれど、すごい美女というわけでもない。着ている服だって動きやすそうな普段着だった。
話をすればお菓子が大好きな、ぜんぜん普通の子だった。
けれど朝日のなかで……その子の黄緑色をした瞳が放つ輝きに、メロディは一瞬ポカンと見入ってしまった。
あれは本当に人間なんだろうか。
そしてメロディは見たのだ。
魔導列車に現れたライアス・ゴールディホーンも一瞬動きをとめて、その輝きに見入っていたことを。
【魔導列車】
グレンが開発した魔導列車の外観は、よくあるSLではなくEH10形電気機関車がモデルです。
現存する61号機が唯一の車体で、大阪市の東淡路南公園に展示されています。
今のところ公開されてはいませんが、よろづ先生はラフまで描いてくださいました!感謝です!









