表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/568

28.守護精霊

ブクマ&評価ありがとうございます。

 わたしの首に下げたプレートのひとつが、師団長室の扉の鍵になっていた。誰もはいれなかった師団長室の扉は、軽くふれるだけであっさりと開く。


 デーダスの家みたいなガラクタ置き場を想像していたのに、部屋は思ったよりも片づいている。


 研究棟を覆う緑の蔦も、師団長室には入りこめなかったらしい。部屋全体に、懐かしいグレンの魔力が満ちていた。主がいなくなった今、彼の魔力は徐々に薄れてしまうのだろうけど。


「し、師団長室……これが……」


 ヌーメリアも珍しそうにキョロキョロしている。


「十年も錬金術師団にいて、入ったことなかったの?」


「わ、私、極度の人見知りで……師団長室には〝エヴェリグレテリエ〟もいますし……」


「ねえ、その〝エヴェリグレテリエ〟ってどんなの?」


 聞いたとたんに、彼女はガクガクと震えだした。


「怖いです!……侵入者は排除されますっ!に、逃げましょう!」


「逃げないから!」


「人形だから毒が効かないんですよぅ……怖いぃぃ」


「すぐ毒を使おうとするの、やめようよ」


 毒の入った小瓶のペンダントを握りしめる彼女と、なんだか気の抜けた会話をしつつ、師団長室に足を踏みいれる。


 中庭に面した広いガラス窓の手前に、グレンが使っていたのか、どっしりしたデスクと椅子があった。壁全体が本棚になっていて、ギッシリと本で埋まっている。


 部屋は広くて、十人ぐらいが座れる大きなテーブルもあり、左右の壁にもドアがあるから、ほかの部屋に続いているのだろう。


 机の上に置いてある魔導ランプの、やわらかな光に照らされて、仕立てのよさそうな服に身を包んだ白い人形がいた。


 瞳だけが赤くて、髪も肌も全身まっしろで……人の形をしているものは、()()だけだった。


(きっとこれが〝エヴェリグレテリエ〟……)


【師団長室の管理者】


【グレンが作った最高傑作のオートマタ】


【精霊の魂をこめてある、動く人形】


 ここにくるまでに聞いた説明は、どれもピンとこない。


 華奢な外見は十二、三歳ぐらいの少年か少女のようで、とにかくきれいすぎる顔をしていて性別がわからない。


 グレンが創るものはいつもセンスがいい……というか、人目を奪う美しさがある。


 この人形なら動かなかったとしても、ほしがる人は大勢いそうだ。


「エヴェリグレテリエ?」


 いきなり人形が動いて、澄んだ高い声で返事をする。


「お待ちしておりました、ネリア様」


「ひぃっ!」


 人形の滑らかな動きに目をみはっていると、ヌーメリアがノドの奥からひきつったような声をあげ、わたしのうしろにシュッと隠れた。


「ちょっと、ヌーメリア……」


 彼女に押しだされたわたしの前まで、人形はトコトコとやってきて、自然な仕草で首をかしげる。


「ネリア様、新たな名をくださいませ」


「新しい名?う~ん、『エヴェリグレテリエ』は言いにくいものね……んんん……」


 わたしはミストレイの背から見た空を思いだした。うん、王都初上陸の記念にピッタリじゃない?


「ソラ!ソラでどうかな?」


「……ソラ」


「気にいらないかな?」


 安直すぎたかもしれない。わたしが心配になって眉尻を下げると、人形は無表情に首を横に振り、銀のナイフを差しだしてきた。


「新たな主より新たな名を得て……新たな契約を……血の約定をここで。ネリア様には防御魔法がかかっておりますから、ご自分で」


 血の約定……精霊契約の最上位だね。まさか自分がやることになるとは思わなかったけど。


 銀のナイフは研ぎ澄まされていて、左手の薬指の先に軽くあてただけで、簡単に傷をつけることができた。


「これでいい?」


 血の滲んだわたしの指先を、人形は自分の口元に持っていき、そこから小さく舌をだして、するりと血液を舐めとった。


 その滑らかな仕草はとても自然で、まるで生きているみたいなのに。


 その手は人としての温もりを全く感じさせない、ひんやりとしたもので。


「……っ!」


 デーダスで家の術式が書き換わったときと同じように、体中の魔素がごっそりと抜かれる感覚がして、わたしはフラついた。


 たくさんの術式が人形の体から放たれて、部屋いっぱいにひろがり、また集まると収束して、ひとつの魔法陣を形作っていく。


「ひっ……!すっ……すごい!これが……これが精霊契約……!まさかこの目で見られるなんて……!」


 わたしの背中に隠れていたヌーメリアまで、怯えていたことを忘れたように目を見開き、魔法陣を見つめている。


 わたしの魔力が魔法陣に向かい、どんどんと流れこんでいき、やがてそれが光りながら回転を始めると、巻き起こる風とともに、人形の外見に変化が現れた。


 赤かった瞳の色は薄くなり、瞳孔の中心から水滴を落としたように水色が広がる。白かった髪も根元から変わり、血の気がなくて透きとおるようだった冷たい肌は、わずかに赤みが差したように見える。


「……ソラ?」


 ソラはパチパチとまばたきをして、自分の姿を確認するとうなずいた。


「ネリア様、『色』をいただきました。お疲れになったでしょう」


 ソラがわたしの顔をのぞきこむ。透き通った水色の瞳はガラス玉みたいにきれいだ。わたしのイメージどおり……どこまでも澄んだ空の色。


「ソラって、グレンの最高傑作なの?」


 本人に聞くと、ソラは水色の瞳を瞬かせて、こてりと首をかしげた。


「グレン様はソラのことを『試作品』だとおっしゃいました」


「ふふ、グレンなら言いそう。なにを作っても、次はああしたらどうだ、いやこうしたらどうだ……って言いはじめるの……」


 燃えるものを燃やし尽くして、炎は消えたらしい。師団長室のそとが騒がしくなってきた。


 わたしがソラを連れて、ヌーメリアと師団長室の扉を開けると、ライアスやレオポルドのほかに、いつのまに来ていたのか、クオード・カーターもいた。


 ソラを見るなり彼はショックを受けて、ぶるぶる震えだす。


「あ……あ……あぁ……なんという、なんということだ……契約が成されてしまった……グレン老の最高傑作とも言われる〝エヴェリグレテリエ〟が……へ、変な色に……」


「うん、なんかごめん。契約しちゃった」


 でもわたしはこの空色が好きで、変えるつもりもないけど。ああ、そうだ。


「ソラ、グレンがわたしを指名したみたいに、わたしも誰かを『引き継ぐ者』として指名できるかしら?」


「はい」


 それを聞いて、うなだれていた副団長がガバッと顔を上げる。


「な、ならば私を……!」


「じゃあわたしがもしも死ぬとか、動けなくなるようなことがあれば……すべての権限をレオポルド・アルバーンに」


「なんだと⁉︎」


「断る!」


 副団長とレオポルドがほぼ同時に叫んだ。何度もひどい目にあってるのに、副団長に譲るわけないじゃん。


 レオポルドを見ると、やっぱめっちゃにらんでた。でも……あなたがいちばん、適任だと思う。わたしは投げやりに手を振った。


「そのぐらいやってよ。グレンの息子でしょ?いらないならあなたが処分するか、錬金術師団の誰かに渡せばいい。ま、わたしが死なないように祈ってて」


 なんだか体がとてもだるい。本当は立っているのもやっとな感じ。力が抜けたわたしの体を、すかさずソラが受け止めた。


「小さいのに力持ちだね、ソラ……」


 自分が小柄なことに感謝しつつ、オートマタのひんやりした腕に身を任せる。


「師団長室から続く中庭を挟んで、居住区がございます。ベッドにお連れしましょう。ネリア様のお世話は、このソラにお任せを」


 寝泊まりできる場所もあるんだ……それは助かる。


 わたしを抱きあげたソラは、固唾を飲んで見守っていた全員に向かい、凛と澄んだ声で宣言した。


「お引き取りを。ネリア様には休息が必要です」

ソラにすぐ改名する予定でしたので、最初の名前は、『言いにくい』かつ『覚えにくい』ものにしました。

『エヴェリグレテリエ』は忘れて大丈夫ですよー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆『魔術師の杖 THE COMIC』☆☆
月曜更新ニコニコ漫画

毎月1日更新!『MAGKAN』(先行配信)

『魔術師の杖 THE COMIC』
☆☆アプリ『コミマガ』でも配信中!☆☆
作画:ひつじロボ先生

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ