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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』コミティア155東4【F34b】
第八章 ネリアと秋の王都

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276.実習は波乱の季節

ブクマ&評価いただきありがとうございます!

「メレッタのお母さん、錬金術師になることはまだ反対しているの?」


 そう聞くとメレッタはしょんぼりとうなだれた。


「そうなんです……こっちは毎日まじめに勉強して、成績だってそこそこ頑張ってるのに気にするとこそこ⁉……って、このあいだも大ゲンカしちゃいました」


 メレッタが入団してくれたら心強いけれど、「家に二人も錬金術師がいるなんてゾッとする!」と叫んだアナの気持ちもなんとなくわかる。


 クォード・カーター副団長はもともとは魔道具師で、大きな工房に勤めていたという。王城に魔道具をおさめたときにたまたま目にしたグレンの錬金術に惚れこみ、研究棟にやってきたらしい。


 クオードが魔道具師としての安定した仕事と規則正しい生活をかなぐり捨てて、グレンの研究につきあったのだとしたら、アナからしたら「話がちがう!」と怒りたくもなるだろう。


「ユーリ先輩がいざとなったら母を説得してくれるって……けれどこんなことで力をかりるのもどうかなって思うんです」


「そうだね……」


 いまやユーリも王太子だ。王太子じきじきの説得なら効果はあるかもしれないけれど、それもなんだかちがう気がする。


 得体が知れない、うさんくさい、詐欺師まがい……錬金術師のイメージを向上させるために、わたしは何をしたらいいんだろう。


 そんなことを考えていると、メレッタはくるりとわたしにむきなおって、紫色の瞳をキラキラさせて話しかけてきた。


「だからネリィさんは私の憧れなんです。ライガを飛ばしているところもカッコいいけど、いつも堂々としてて!」


 あ、うん。師団長だからね……堂々としてないとね。つったってるだけだけど……。憧れといわれてしまうとなんだか面映ゆいな……。


「それに母はアイリとレナードがぬけたから、成績からいって私が魔術師になれると思っているようだけれど、ディアとベラも希望しているから……そっちからの風当たりも最近きつくて」


「そういえばディアがさっき、そんなことをいってたね」


 メレッタが肩をすくめてため息をついた。


「ディアがネリィさんに何ていったのか予想つくっていうか……私にも魔術師団はあきらめろといってきたし」


「ええっ?」


 思わず大きな声がでて、前を歩くメロディとカルたちが振りかえったのを、何でもない……と手をふってまた前をむかせた。メレッタがふたたび声をひそめる。


「こっちも一緒に魔術師になるのはお断りですけど……その前になんとか母を説得しないとなんです」


 メレッタの敵はいまのところ、ディアでもベラでもなくアナ夫人ってことか……。





 魔道具ギルドの建物が近づいたところで、わたしたちが前を歩く三人においつくと、ニックがメレッタに話しかけてきた。


「メレッタ、いまメロディさんから教えてもらったんだが、もうすぐ王都で秋祭りがあるんだろ?」


「あるわよ、収穫を祝う庶民のお祭りだけど、屋台もたくさんでて賑やかで楽しいわよ」


 そういえば七番街の工房でもニーナたちがアイリに秋祭りのことを教えていたっけ……とわたしが思いだしていると、ニックがメレッタを誘った。


「メレッタはいったことがあるんだろ、俺はないから一緒にいかないか?」


「ニックと?」


 メレッタがけげんな顔をしたので、さらにたたみかけるようにニックは聞いてくる。


「ほかに予定があるのか?たとえば家族といくとか……」


「もう子どもじゃないんだもの、家族といく予定なんてないけれど……ニックってばそんなに秋祭りに興味あるの?」


 ニックは気まずげに目をそらした。


「竜騎士になったら秋祭りの警備をするんだ。どんなものか知っておきたいじゃないか」


「それだったらカルやグラコスといけば……」


 メレッタの返事に、カッと顔を赤くしたニックがかみついた。


「カルもグラコスも秋祭りを知らないから、お前に頼んでるんだろ!」


「なんでそんなに怒るのよ。だいたいそれ、人に頼む態度じゃないわよ!」


「怒ってなんか……」


「ニックってばいっつもそう、カリカリしてて私には文句ばっかり!」


 メロディが割ってはいった。


「あーちょっと、ギルドの前で騒がないでちょうだい。ニックも……秋祭りに女の子を誘うなら、もうすこし優しくね?」


「そっ、そんなんじゃない。かんちがいすんな、だれがメレッタなんか……!」


 顔を赤くしたままメロディに抗議するニックに、とうとうメレッタがブチギレた。


「かんちがいなんてしませんとも。私はあんたたちとちがってマジメに実習をしにきてるの。ギルドの中で実習以外の話をしたら、ブッ飛ばすわよ!」


 小柄なメレッタがどうやってニックをブッ飛ばすのだろう……と思ったけれど、メレッタはプリプリ怒ったまま、建物の中にはいってしまった。


「アイツ……本当に怒りっぽいな」


 ニックがガリガリと頭をかいて息を吐きだし、メロディがほほに手をあてた。


「あらあら……私もしかして余計な口出ししちゃったかしら?」





 午後は研修室でそれぞれが体験した実習の内容について報告し、感想を提出させておわった。後片づけを終えて報告がてらギルド長室にいくと、ビルがコーヒーを淹れてくれる。


 ありがたくメロディとコーヒーをのみながら、話はどうしたって今回の五年生たちのことになる。


「カルとネリィを組ませたのはね、ほかの生徒たちとおなじように扱うんだもの、態度で王子様とバレたりしたら困るからよ。たとえばディアとだとすぐ身バレしちゃうでしょ」


「なんだか職業体験のときもそうでしたけど、最終学年なのにあんまり落ちつかないですね」 


 わたしがそういうと、メロディは当然のことのようにいった。


「あら、それはそうよ。実習の時期って波乱の季節だもの」


「波乱?」


「魔術学園って五年もあるでしょ。人数も少ないし、卒業するまでにはだいたいのカップルが決まっちゃうわけ。当然あぶれる子はいるわけだけど……その子たちにもチャンスが訪れる、最後の番狂わせがおこる時期ってこと」


 メロディの話によると、それまでずっと学園の中で過ごしていた生徒たちが、三師団での職業体験や魔道具ギルドの実習を通してはじめて社会に触れる……それはそれぞれにとって世界がひろがり大きく成長するチャンスなのだけれど。


 逆にそれがきっかけでいままで一緒にいた相手と、うまくいかなくなったりするらしい。


「むつかしいわね……たがいに物足りなくなるとか、二人の思い描く未来がくいちがうとか……ともかくいろんな理由で、それまで鉄板だと思われていたカップルがギクシャクしだすの。当然あぶれていた子にもチャンスが訪れるってわけ」


「でも魔道具ギルドにはみんな実習にきているんですよね?」


 みんなよくそんなヒマがあるな……と思ったけれど、ディアやニックにとっては大問題なのかもしれない。


「あたりまえでしょう、実習だってしっかりやってもらうわよ。勉強もしつつ同時進行で恋もこなしていくのよ」


 リア充おそろしすぎる……同時進行ですと⁉︎


「それまでひたすら魔力を制御し使いこなす訓練をしていた子たちが、魔力を使って働くというのがどういうことか、身をもって体験するのよ。それはひとつの成長ではあるけれど、たがいの絆を見つめなおす時期でもあるの。恋も友情もね」


「ひえええ……いそがしいですねぇ」


 わたしがコーヒーを飲みながらおののいていると、メロディのほうが首をかしげた。


「ていうか、ネリィは王都にくる前はどうしてたのよ。まさかずっと錬金術の勉強してたの?」


「……そのまさかです」


 そういったらメロディに思いっきり残念な子をみるような目つきをされた。だってグレンしかそばにいなかったし!


「ほかの勉強もしましたよ。生活魔法とか生きていくのに必要そうなものは、必死で覚えましたとも!」


 ちゃんと勉強してた。生きていくためには恋より大事なものもある!


 そう思って抗議したのに、メロディは頭痛でもするように顔をしかめてこめかみに手をあてた。


「あーはいはい……王都にでてきてすぐ変な男にひっかからなかっただけ、マシなのかしら……」


 むむ。残念な子あつかいされるのは不本意だけど、どうしようもない。


「そういうメロディさんは、学園時代はどうだったんですか?」


 そこでためしにメロディはどうだったのかたずねてみると、彼女の顔からすっと表情が消えた。


「ネリィ……そういえば、世の中にはしょうもない男がいるって話をしたわよね……」


「ひゃいっ、しししました……ね?」


 なんだろう……わたし何か地雷踏んだろうか。あせっていると、メロディがとても恐ろしい顔でせまってきた。


「今日会ったでしょ、サージ・バニス……私の魔術学園の同期に」

お寄せいただいたレオポルドのFAは280話後書きに移動しました!

やはりレオポルドが出てくる場面がふさわしいかと思いまして。

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