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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第八章 ネリアと秋の王都

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275.メレッタの悩み

ブクマ&評価ありがとうございます!

「ええと……その話、オドゥにはもうしたの?」


 カディアンは首をよこに振った。


「まだだ……兄上に相談してみたら、ものすごくイヤそうな顔で『やめておけ』といわれた」


「ユーリならそういうかもね」


 なんとなくユーリの表情も思い浮かぶ。こういうのどうしたらいいんだろう。


「わたしからオドゥに話してもいいのなら聞いておくけれど……カディアンが研究棟にきて、オドゥに直接自分で頼んだほうがいいとおもうよ」


 錬金術師団への入団を許可するのは、師団長であるわたし……ということになるけど、入団して誰につくかはわたしだけでは決められない。


 カディアンがオドゥの弟子になりたかったら、まずはそれをオドゥに認めてもらわないと。つまり師弟となって、カディアンはオドゥの研究を手伝いながら錬金術を学ぶことになる。


「やっぱりそうか……もしもイグネルさんに断られたら、俺をネリィさんの弟子にしてもらえるだろうか」


「わたし?……うーん、わたしにはまだ弟子をとるような余裕はないなぁ」


 錬金術師の知識というのは無形の財産だ。それをどう使うか誰に渡すか……ということは、研究棟の錬金術師たちがみずから決める。


 グレン・ディアレスが認めた彼の弟子はわたし一人だけだからこそ、錬金術師として何の実績もないわたしが、どうにかこうにか師団長をやっているのだけど……。


 ユーリ・ドラビスはウブルグ・ラビルの弟子だし、オドゥ自身もほぼひとり立ちしているとはいえ、カーター副団長の弟子といえるだろう。


 ヌーメリアとヴェリガンは、もう引退したけれど薬草をあつかうのが得意な錬金術師の弟子だったらしい。


 つまりカディアンを弟子にするかどうかは、オドゥが決めることで……こればっかりは彼に聞いてみないとわからない。


 オドゥは受けいれるかな……カディアンが彼の弟子というのも頭が痛いけど……。


 そしてできればわたしも、カディアンを弟子にするのは遠慮したい。


 わたしはまだ弟子をとって……自分の知識をつたえる覚悟がない。


「オドゥの許可をもらえたら、錬金術師団への入団はみとめるよ……それでいいかな?」


「ああ」


 うなずいたカディアンと一緒に五階へのぼるエレベーターに乗りこむ。エレベーターの内部は、はじめて魔道具ギルドに訪れたときとおなじように、木のうろに戻っていた。わたしが光るキノコのボタンを押すとエレベーターは昇っていく。


 エレベーターが五階につく直前、カディアンが思いだしたように声をあげた。


「あっ、そうだ……いまの話はまだだれにも言わないでくれ!」


 エレベーターの扉がひらく。


「うん、わかった」


「たのむ!」


 カディアンに返事をして前をむいたとたん、待ちかまえていたディアの燃えるような瞳と目があった。


 ええとディアさん……わたしたちは話をしていたので、見つめあっていたようにみえたかもれないけれど、あなたににらまれるほどのことをした覚えは……ないですよ?





 どうやら研修室に戻ってきたのはわたしたちが最後のようで、メロディが明るい声をあげた。


「ネリィ、待ってたわ。ではみんな、昼休憩のあとまたこの研修室に戻ってきてね。午前中の感想を聞かせてもらうわ」


 ディアは腕組みをしてこちらをにらんでいたものの、わたしに文句を言うのはやめたらしい。腕をほどいて優雅に髪をはらうと、カルにほほえみかけた。


「カルが遅いので迎えにいこうとしていたのよ。お昼は私たちといっしょに食べるでしょう?グラコスやベラも待っているわ」


「えっ?ああ……ニックはいかないのか?」


 呼びかけられたカルがニックに声をかけると、ニックは肩をすくめた。


「俺はいい。実習はメレッタと組むことにしたし……昼もメレッタと食べる」


 どうやらディアはわたしとカルが組むのが気にいらないだけでなく、自分がニックと組むのもいやだったらしい。メレッタがニックと組み、ディアはレナードと組むことにしたようだ。


「そうなのか?」


 カルがメレッタをみると、メレッタはうなずいた。


「メロディさんが近くのおいしい食堂を教えてくれるって。昼食代は節約したいし、ニックがよければいいんじゃない?」


「じゃ俺も……」


 カルが何かいおうとしたところで、ディアがイライラしたように声をあげた。


「カルったら、私たちが庶民の店になど入れないことを知っているでしょう?それにエスコートもなしに私……外に昼食を食べになどいけないわ」


 えっ、そうなの?


 瞳をうるませるディアの様子に、カルはニックのことを気にしながらもグラコスやベラもくわえた四人ででかけていった。メロディが気をとりなおしたようにわたしに声をかける。


「ネリィは私たちといっしょね、庶民的なところだけど味は保証するわよ」


「いきます!」


 レナードやニックもいっしょに五人でエレベーターにむかうと、メレッタが不思議そうにいった。


「あらニック、本気で私たちとご飯食べるつもり?」


 ニックがむすっと返事をした。


「いけないか?」


「いけなかないけど……いつもカルたちといっしょだったじゃない」


 メレッタの横からレナードも口をだした。


「ニック、お前とディアはどうなってんだ?」


「べつにどうもしない。それに研究棟でもみんなで食事したじゃないか……ディアやベラは注文がうるさいかもしれないが、俺はどこだって平気だ」


 メロディがエレベーターのボタンを押した。


「じゃあ店が混むまえにいきましょ。みんなが魔道具師になるわけじゃないだろうけど、せっかくだし実習中においしいお店教えてあげるわ!」


「わ、たのしみです!」


 メロディが連れていってくれたお店は、混雑しはじめる手前だったらしく、わたしたちが奥のテーブルに座るとすぐにほかのテーブルもいっぱいになった。


 こういう定食屋さんみたいなところもいいなぁ……いくつかあるメニューから選んで注文すると、すぐに食事が運ばれてきた。


 厨房の活気が伝わってくる店内では、話をするのに大きな声になるけれど、メロディのオススメだけあって、料理はボリュームもありとてもおいしい。


 庶民の店は慣れていないのか、ニックは最初少しとまどっていたけれど、食べだせばみんなに混じって普通に食べていた。





 食事をおえて戻りながら、メロディが近くの店についてもいろいろと説明してくれる。わたしは前にも聞いたことがあるので、ニックやレナードに場所をゆずって一番うしろを歩いていると、メレッタが話しかけてきた。


「ネリィさん、さっき二人ずつで実習にいくとき、ディアたちから何かいわれませんでした?」


「あ、うん……でもたいした話じゃないよ」


 わたしがそういうと、メレッタがぽつりとこぼした。


「アイリがいた頃はディアもあんなじゃなかったのに」


「どういうこと?」


 メレッタは前を歩くニックにちらりと目をやると、わたしに教えてくれた。


「前はアイリがいたから、ディアはニックと仲がよかったんです」


「え?それって……」


「私、卒業パーティーはカルとアイリ、グラコスとベラ、ディアとニックでペアを組むんだと思ってました」


 メレッタの説明では、アイリが退学したあとディアが「家格からいってもアンガス侯爵令嬢である自分が、カルのパートナーをつとめるべきだ」といいだしたらしい。


「カルがどうするのかは知らないけど、それでニックとディアはうまくいかなくなって」


「そうだったんだ……」


「私、もともとアイリとはそれほど親しくなくて。いつもディアやベラがアイリの側にいて、三人でがっちりカルたちのまわりを固めてました。私は父が錬金術師団に勤めているといってもそれだけだし」


「平民だと何か差別されたりするの?レナードも研究棟ではカルたちにつっかかってたけど……」


「うーん……私たち平民には逆によくわからないんですよね。貴族の子たちは家同士の力関係とかいろいろ気にするみたいで」


 そういえば研究棟にきたときも、グラコスとかは最初「雑用は助手にやらせろ」なんて態度だった。ソラに取り押さえられておとなしくなったし、最後にはみんなで協力してライガを組み立てていたから忘れていたけれど……。


「ユーリやカルからは、そんなの感じたことないけどなぁ」


「王族の人たちは気にする必要がないのかも。〝赤〟をまとえるのは竜王と契約した者だけですし。どんなに力のある貴族でも、それには敵わないんですもの」


「それもそうか」


「私の学年、平民はアイリに夢中なレナードしかいないから、最初から私にはパートナーなんて見つかりようがないんです。ほかの学年だって似たようなもので……母は学園にいるあいだに素敵な人を……なんて夢みてるから、こんながっかりさせるような話できなくて」


 メレッタはそういって、ため息をついた。


「家で進路の話をしようにも、母は『相手は見つからないのか?』ってそっちの話ばかりしたがるし、まいっちゃう」

カディアンの進路にメレッタの悩み……助手のネリィは相談も受けつけてます。

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