表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/568

27.ヌーメリア・リコリス

ブクマ&評価ありがとうございます。

 レオポルドが詠唱を終えたらしく、彼の杖に魔素が集まっていく。


 杖は埋めこまれた緑玉を輝かせると、膨大な魔力を制御し統率し、魔素を最大限に増幅させる。


 魔術師団長ともなると、立派な杖を持つのね。


 彼が創りだした炎は、白い色だった。


 すべてを焼き尽くす、高温の炎は。


 まばゆいばかりの白焔だった。


 魔法陣が輝き、研究棟全体が炎に包まれる。


 合図とともに竜騎士たちが耐火防壁の魔法陣を張りめぐらして、次々と音速剣を繰りだす。


 蔦に直接切りつけるのではなく、振りぬいた剣の斬撃に風の魔力を載せて、衝撃波を繰りだす技だ。


 メキメキメキ……バチバチバチッ!


 白焔に包まれたグリンデルフィアレンが蒸散し、消し飛んでいく。


 研究棟の入り口が崩れ、穴が開いた。


 出口を見つけた館内の炎が、一気に広場へと噴きだし、各自が張った耐火防壁に、熱気と渦巻く炎が押し寄せる。


「うわ!」


「息をするな!炎耐性に身体強化!肺まで焼けるぞ!」


 みんなが耐火防壁の向こうで身をすくめ、わたしだけが研究棟に向かってゆっくりと歩きだす。


 熱と光と物が焼ける匂いに、グリンデルフィアレンがバチバチと爆ぜる音。


 感覚はしっかりあるから、炎に近づく恐怖心に足がすくみそうになる。


 平気だとわかっていても、炎のなかに入っていくのは怖い。骨まで溶けてしまいそう。


 それでも。


 一歩一歩。


 歯を食いしばって足を動かす。


 耐火防壁の向こうで見守る竜騎士たちが、ぼうぜんと呟いた。


「マジか……あの嬢ちゃん、この炎のなかをふつうに歩いていったぞ……」


「あのアルバーン師団長の炎魔法を防ぐ防御魔法を、建物全体にかけるとか……すげぇもん見た……」


 少しでも気が緩めば、建物全体が燃えあがってしまう。研究棟全体に掛けた防御魔法を維持するためには、相当の集中力が必要だけど、おかげで内部の構造があるていど把握できた。


(入口をはいって右に進めば師団長室の扉……その手前に地下へと下る階段……)


 まだグリンデルフィアレンは燃えていて、パラパラと上から焼け落ちてくる。


 階段をの途中にうずくまる人影を見つけた。錬金術師団の白いローブを羽織った、灰色の髪をした二十代ぐらいのおとなしそうな女性だ。


「ヌーメリア・リコリス?」


「ひいいいい!許じでええええ!」


 ヌーメリア・リコリスはそれはもう、涙と鼻水でグシャグシャになって、うずくまってぷるぷる震えながら泣いていた。


 わたしの防御魔法が彼女も守っているはずだけど、研究棟に閉じこめられていた彼女は、そんなこと知らない。


 地下にある自分の研究室にいたら、突然グリンデルフィアレンに拘束された。


 それだけでもパニックになるのに、その次はグリンデルフィアレンが燃えあがったのだ。


 ヌーメリアにとっては、グリンデルフィアレンごと火あぶりにされたような気分かも。わたしの考えが足りなかったと申しわけなくて、あわてて駆け寄る。


「ヌーメリア⁉︎落ちついて!だいじょうぶだから……」


「ごめんなざいごめんなざいごめんなざい、許じで……ごめんなざいごめんなざい、許じでぇえ」


「ほら、防御魔法効いてるから!熱くないし、痛くないよ?」


「ごめんなざいごめんなざい、ネリア様……本当ごめんなざいまじで……許じでぇえ」


「えっと、なにをそんなに謝ってるの?」


「いっぱい毒薬づぐっだがら、ひっ、火あぶりにぃ!ごめんなざいいいい!ゆるじでぇぇえ!」


「毒薬?」


「わっ、わだじ……いっぱい殺じだいひどがいて……だっ、だがら、いっばい毒薬づぐっだのぉ……」


 ヌーメリアはえっぐえっぐ泣きながら、物騒なことを言いだした。


「まさかの殺人鬼⁉」


「ち、違う……本当に殺ずんじゃなぐでっ」


 泣きながら話した彼女の説明によると、小さなころから家族にも虐げられて育ったヌーメリアは、人と打ち解けられず引っこみ思案で、殺してやりたい相手だけは増えていった。


 冷淡な両親、意地悪でわがままな姉、上から目線の親戚のおじさん、近所の悪ガキ、近所のウワサ好きなおばさん、通りすがりに絡んできた酔っ払い……etc.。


 魔力を持つヌーメリアは成長して、魔術学園で毒薬の基礎知識を学んでからは、毒薬作りにのめりこんでいく。


「い、イヤな奴を……どんなふうにゴロすか考えながら……毒……作ると、コ、ココロが癒ざれて……」


「そ、そうなんだ……」


 もちろん本当に殺したりするわけじゃない。


 あくまで想像するだけだ。


 イヤな目にあったら、毒を作る。


 そうするとヌーメリアは、イヤなことも笑って受け流せる気がした。


 外にでたり人と接するのは、いまだに怖い。


 そういうときにお守りがわりの毒を持っていると、彼女は安心することができた。


 そんな気弱なヌーメリアが魔術学園を卒業し、錬金術師団に入団して十年。


 研究棟でも人目を避け、恨みつらみを詰めこんで、ひっそりこっそり毒薬を作り続けた結果……。


 気がつくと、ありとあらゆる毒薬をたっぷり作っていた。


「うわぁ……なんというか……」


 これ一度タガが外れたら、絶対ヤバいことになっていたやつだ。もしかして握りしめている小瓶ってヤバいやつ⁉


「ね、ネリア・ネリズにも、いろいろ用意、じ、じでで……」


「わたしに⁉︎」


 カーター副団長から「錬金術師団が乗っ取られるかもしれない」と聞かされた彼女は、安息の場が消えることを心配し、研究棟の地下でひっそりと毒薬を準備している最中だったらしい。


「ど、毒だけど死なないやつ、目が見えなくなるとか、全身の痛覚が鋭敏になって、痛みにのたうち回るとか……」


「おおぅ……死ななくてもそれ、えげつないねー!」


「ひっ、火あぶり……やめでぇ……」


 なるほど。やましいことはあったわけね。助けないほうがよかったかしら。グレンがかけてくれた状態異常をブロックする魔法陣に感謝する。


 とはいえ現時点では、ヌーメリア・リコリスはまだ何もしておらず、むしろグリンデルフィアレンの被害者といえる。これからのことは、彼女を連れだしてから考えよう。


「なんにせよ、たくさんの毒を作ったってことは、それだけつらいことがあったんだよね。それでも一度もそれを使わなかったんだし、あなたは優しい人なんだと思う」


「えっ」


 ヌーメリアは、涙で濡れた顔をあげた。


「とりあえずここからでて、師団長室にいこうね」


 わたしはちょっとだけ魔法陣をいじり、レオポルドが放った浄化の炎で、地下にたっぷりあった毒薬を焼却してしまう。そしてヌーメリアに向かって、安心させるようにほほえんだ……つもりだった。


「ひぃいっ!」


 わたしは優しくほほえんだつもりだったのに。


 ヌーメリアには毒を舐め尽くしながら燃え盛る、地獄の業火を背景に、仮面をつけた赤毛の魔女が仁王立ちしているように見えたらしい。


「あ」


 そういえばわたし、グレンの仮面をつけたままだった……。

本当は無人の『研究棟』に突入する予定でしたが、毒薬の小瓶を抱えて震えている気弱な魔女がひょんっと頭に浮かび、前話分も含めて慌てて書き直しました。

結構気に入ったので、またどこかで出したいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆『魔術師の杖 THE COMIC』☆☆
月曜更新ニコニコ漫画

毎月1日更新!『MAGKAN』(先行配信)

『魔術師の杖 THE COMIC』
☆☆アプリ『コミマガ』でも配信中!☆☆
作画:ひつじロボ先生

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
腹黒(?)眼鏡、人形変態(?)副師団長、カタツムリおじさん、寒がり不健康植物オタク、毒殺(未遂)女…。あとグレン(故人)。 錬金術師達のキャラが濃ぉい…。 最後の1人、ユーリ君とやら…。君はいったい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ