表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第七章 ネリアとお城の舞踏会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

266/561

266.レオポルドとの遭遇

本日二話目!

よろしくお願いします!

 レオポルドは動けないでいるわたしにはかまわず、わたしが落とした魔道具を拾いあげるとあちこちさわる。


「壊れてはいないようだな……自分を撮りたかったのか?」


「その、こんなにオシャレしたのは初めてなので記念にと……」


 なるべく顔をみられないよううつむいて返事をすると、おもむろにレオポルドが魔道具をかまえる。


「……そこに立て」


「はい?」


 かまえる間もなくレオポルドが一歩下がり、フォトを撮ると魔道具を返してくれた。


 撮ってくれたのはうれしいけれど、フォトのなかでは〝奈々〟が真顔でこちらをみつめかえしている。この世界に『チーズ』とかないのは知ってるけどさぁ、もうちょっとイイ顔で撮りたかったよ!


「せめて笑顔で撮りたかった……」


 手にしたフォトをみながらぼやくと、ふっと笑う気配がした。


「笑わずともじゅうぶん美しい」


 うそ、レオポルドがほめた⁉


 わたしがびっくりして顔をあげると、彼はもうすでに真顔にもどっていた。


「ここで自分を撮るぶんにはいいが会場内での撮影はマナー違反だ、気をつけるんだな」


「あ、はい……そうですよね」


 わたしは返してもらった魔道具をあわててドレスにしまう。あたりまえだよね……こんなところでフォトなんて撮れるわけないじゃん。


 ヘタしたら魔道具をとりあげられてた。フォトを撮って返してくれるなんて、レオポルドってなんだかんだいってもいいヤツだね。


「あの、レオポルド……さんはどうしてここに?」


 おずおずと聞くとレオポルドも淡々と返す。


「私はもともと人を避けてここにいた。きみがあとからやってきてゴソゴソやりだしたのだ。怪しいやつだと困るからしばらく観察していた」


 たしかに……はたからみたらめっちゃ挙動不審だったかも。フォトも撮れたしそろそろ会場にもどってレディらしくふるまおう。


「それでは会場に戻りますね、おじゃましました」


 背筋をのばしドレスをつまみ、レオポルドの脇を通り過ぎようとしてとめられた。


「まて」


(まだ何かあるのかなあ⁉)


 正直めんどくさくなりながら振りかえると、レオポルドはいぶかしげに眉をひそめている。


「連れはいないのか?そもそもきみのような女性が、ひとりでウロウロするような場所じゃないだろう」


(そこ気づかないで欲しかったなぁ……)


「ええと……王城には不慣れなので同じく人を避けて……でももう戻りますから」


 なんとかもごもごと言い訳をしてバルコニーの入り口に目をやる。大広間に戻り人に紛れてしまえば、レオポルドもわたしのことなど忘れるだろう。


 けれど彼はため息をつくとわたしに手を差しだしてくる。


(ええと……?)


 その手をみつめてわたしがとまどっていると、レオポルドは低い声で静かに……けれどハッキリといった。


「お送りしよう……名をうかがっても?レディ」


(いやっ、ほっといてくれないかなあ!)


 内心絶叫しているわたしにむかって、レオポルドは無表情に手を差しだしたまま動こうとしない。


 いまのわたしにはお偉い魔術師団長サマの手を払いのける勇気はない。


 差しだされた大きな手におそるおそる手を重ね、自分の名を口にだした。


「奈々、です」


 いつものように「ウソをつくな!」と彼の罵声が、いまにも飛んでくるような気がした。


 けれどそんなことは起こらず、なのにレオポルドの低い声に呼びかけられ、わたしの心臓はギュッと止まりそうになる。


「ナナ……」


 もう二度とだれかに呼ばれることはないだろうと思っていた……自分の耳がレオポルドの声をくりかえす。もう一度呼んでくれないだろうか……と思ったらひとりごとのように彼がつぶやいた。


「……家名はなしか……まぁいい」





 レオポルドのあたたかい大きな手に、ふわりと優しくわたしの手が包まれた。こんなふうに彼の手にふれたことはない……。


『触るな……っ!』


 あのとき払いのけられてジンジンと痛んだ指先が、いまは彼の大きな手のひらにある。


 わたしをうながして一歩一歩バルコニーからなかへと進んでいく彼の横顔は、いつもどおり無表情で冷淡にすらみえるのに、わたしの歩みにあわせゆっくりとエスコートしてくれる。


(わたしが知ってるレオポルドとちがう……けどわたしもいつもの〝ネリア〟じゃないもんね。いくらレオポルドでもよく知らない淑女をいきなり怒鳴ったりしないか……)


 なんとなく不思議な気分でだまって手を引かれていたけれど、大広間が近づくにつれこれはヤバいと思いはじめた。


 そこかしこで談笑しさざめいていたひとびとが、わたしたちの姿をみるなりピタリと話をやめ道をあける。そしてそのまま全員の視線がこちらに集まってくる。


 このまま大広間まで連行されたらこまる!


「あの……ここまででいいです……」


 手を引っこめようとしたわたしをみおろし、「どうかしたのか?」とレオポルドが聞いた。


 どうもしてませんけども!


「いえ、あの、もう大広間も近いし……もういいかなって」


 そろそろ解放してほしいと目で訴えても、レオポルドには伝わらなかったようだ。


「いきたいところがあればそこまで連れていこう」


 あなたに連れていかれるのが一番こまるんですよ!


 だいじょうぶ、きっと大広間まで。そこまでいけばこの手を離してくれるはず、だってレオポルドだもん。なんたって有名人だしまた一人になりたがってどこかにいくはず!


 レオポルドにエスコートされたまま大広間にたどりつくと、会場に大きなどよめきがあがり、ついでシィン……と静まり返った。もう会場中の視線がぜんぶこちらにむいていた。


 ほらほら、レオポルドが有名人だからこんなに注目されちゃったじゃん、横にいるわたしなんてかすむほどの美形だもんね。そろそろ手を離してくれないかな……。


 ところが手を離すどころかレオポルドはわたしの手を持ちあげ、優雅に口上を述べたため周囲からさらにどよめきがあがった。


「夜空から舞い降りた精霊のごとき麗しい黒髪をお持ちのレディ、よろしければ一曲お相手を願えるか……ナナ?」


「……っ!」


 これ、逃げられないやーつ!わたしは師団長会議でのアーネスト陛下の言葉を思いだした。


『いいか、従妹以外の女性とも一曲はかならず踊れよ!』


(こいつ……わたしでノルマ達成しようとしてやがる!)


 わたしはこのまま壁の花になって、運がよければ二〜三人に声をかけてもらって、踊って帰れればじゅうぶんなんだってば。


 それなのに人垣が割れエスコートというよりも連行されるように、わたしはレオポルドに大広間のどまんなかに連れだされた。


 じつにタイミングよく楽隊が演奏をはじめる。


 なんでそんな待ちかまえていたようなタイミングなの⁉


 そして内心焦りまくりのわたしのウェストにレオポルドの手がまわされ、ぐっと体が彼に引き寄せられたとたんわたしははげしく後悔した。


(ひうっ⁉ダ、ダンス……って、こんなに相手にちかいの⁉)


 視界いっぱいが彼の顔で占領される。あいかわらずニキビのひとつもない綺麗なお顔ですこと!


 レオポルドはいつものように眉間にシワを寄せることもなく、わたしを静かにみおろしていた。そんなにみつめられても何もでませんけど!


 そうだ……ダンスのときは相手に集中するのが礼儀だよね……すこし力を緩めて彼のリードにゆだねれば、〝はくだけで華麗にステップが踏めるヒール〟が脚を動かしてくれる。


 転んだりする心配はないけれど、いつもけわしい表情の彼からこんなふうにじっとみつめられるのははじめてで緊張する。

奈々はパニックですが、たぶんみんな待ってた(笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者にマシュマロを送る
☆☆11/1コミカライズ開始!☆☆
『魔術師の杖 THE COMIC』

『魔術師の杖 THE COMIC』

小説版公式サイト
小説版『魔術師の杖』
☆☆NovelJam2025参加作品『7日目の希望』約8千字の短編☆☆
『七日目の希望』
☆☆電子書籍販売サイト(一部)☆☆
シーモア
Amazon
auブックパス
BookLive
BookWalker
ドコモdブック
DMMブックス
ebook
honto
紀伊國屋kinoppy
ソニーReaderStore
楽天
☆☆紙書籍販売サイト(全国の書店からも注文できます)☆☆
e-hon
紀伊國屋書店
書泉オンライン
Amazon

↓なろうで読める『魔術師の杖』シリーズ↓
魔術師の杖シリーズ
☆☆粉雪チャンネル(Youtube)☆☆
粉雪チャンネル
― 新着の感想 ―
[良い点] ふぉーーー!! ダンスシーンありがとございます! ニヨニヨ笑いが止まりませんです!! [一言] 白猫ネリアも黒髪奈々も、レオポルド様のものでしたか。 続きが楽しみすぎます。白猫ナナの続きも…
[一言] レオポルドさんあなた魔術師師団長なのに魔力の気配とか、目の前で顔を見ているのに気づかないのか!! あちこちで色は変わってますが!! 変身すると気づかないのが人情の常でもあるが!! パパロッチ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ