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魔術師の杖【コミカライズ】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@『魔術師の杖』
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう

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26.グリンデルフィアレン

ブクマ&評価ありがとうございます。

「見ればわかる」というグリンデルフィアレンは、なるほど見ればわかった。


 三階建ての研究棟が蔦で覆われ、どデカい緑の塊になっている。


 細かい葉がついた緑の蔦がびっしりと絡みあい、竜騎士たちが剣をふるっても、蔦の成長が速くて入り口に近づけない。


 師団長室に入れないよう時間稼ぎをして、その間に封印を壊すか、わたしを説得するつもりだったのかも。


「これ、どうやってなかに入れば……」


 モジャハウスを見上げてぼうぜんと呟くと、横でレオポルド・アルバーンがぶっきらぼうに言った。


「燃やせばいいだろう」


「レオポルド・アルバーン……それ、研究棟ごと灰にするってこと?」


 確認すると銀の魔術師は、ぷいっとそっぽを向いた。


「ふん」


 ほんとかわいくないねっ!きみにかわいさは求めてないけどさ!


「ヴェリガン・ネグスコを捕まえたぞ!研究棟側の植えこみに隠れていた」


 ライアスの指示で竜騎士たちが、痩せこけた錬金術師を捕らえて連れてきた。


 艶のないパサパサした紺色の髪で、瞳もどんよりと精彩もなく、ほほがこけていて陰気な印象のひょろりとした男だ。あまりにも不健康そうで、ちゃんとご飯を食べているのか心配になる。


「どうも……」


 声もボソボソとくぐもって、聞き取りにくい。


「このグリンデルフィアレン?……は、あなたがやったの?」


「きみが……師団長室の……〝エヴェリグレテリエ〟を手に入れたら……困る……」


「あなたも〝エヴェリグレテリエ〟がほしいの?」


「違う……僕は別に……」


「じゃ、なんでこんなことを?」


「僕……寒いの……苦手……だから……」


「?」


「グリンデルフィアレン……春の芽吹き……この目で……見たくて……北にいくのは……寒い」


(だから、ここでやっちゃったのかよ!)


 よくよく見れば顔色の悪いヴェリガン・ネグスコの、こけたほほがほんのり赤らんでいた。顔色が悪いなりに上気して赤茶色になっている。念願の春の芽吹きが見られて、興奮しているみたい。理解できないけど。


「じゃあ、見て満足したんなら、もとに戻してくれる?」


 そういうとヴェリガンは、オドオドと視線をそらした。


「僕には何もできない……っていうか……そのうち……枯れる……」


「それじゃ遅いんだけど!」


 カーター副団長が、目ぇそらして丸投げするわけだよ。後のこと何も考えてないって……さすが錬金術師だね!


 この脱力感とはた迷惑な感じが、妙に懐かしいと思ってしまうのは、わたしが三年間グレンに毒され続けたせいかもしれない。はぁ……。


(グレンのバカ!わたしに託すなら……根回しぐらいしときなさいよぉっ!)


 今はもういない……とわかっていても、わたしは彼を怒鳴りつけたくなった。


「うーん。凍らせて動きをとめるとか、根元を枯らすとか……」


 ない頭を振り絞ってうんうん考えていると、小柄なわたしと同じくらいの、赤い髪と瞳を持つ十四、五歳に見える少年に話しかけられた。


「あの、すみません。新しい師団長ですか?僕、ユーリ・ドラビスっていいます。錬金術師です!」


「あっ、はい。ユーリ、よろしくね!危ないから離れてて」


 ずっと長身の人たちに囲まれていたから、同じ目線の高さにほっとする。わたしの返事に、ユーリはすねたような顔をした。


「僕はもう十八歳で成人してます!それより、ヌーメリア・リコリスという錬金術師の女性が、姿が見えなくて。もしかしたら閉じこめられているかも!」


「この中に人が⁉︎」


 ヴェリガンが何かいじったのか、グリンデルフィアレンの成長スピードはすさまじい。北の大地で春の雪解けとともに芽吹き、勢いよく大地を覆いつくす植物は、地面の乾燥を防いでほかの植物の苗床となるらしい。


 カーター副団長がいうように、のんびりしてられないようだ。こうしているあいだにも、魔樹グリンデルフィアレンはどんどん成長し、伸びた蔓がたがいに絡んで厚みを増し、研究棟全体を緑の繭みたいにすっぽりと覆っていく。


「グリンデルフィアレンの特徴、ユーリはわかる?」


「はい!冷気に強く、熱には弱いです。夏の暑さですぐ萎びて枯れ、ボロボロになるので素材としての価値もありません。どうしてヴェリガンが所持していたのか……」


 そう、熱には弱いのか……。


「素材としての価値はないのね?」


「はい」


 念のためもういちどユーリに確認して、わたしは決断した。


「レオポルド・アルバーン、さっきあなたがいったとおり、グリンデルフィアレンを燃やしてちょうだい!」


「ほう?」


 レオポルドにむかって叫べば、彼は意外そうに片眉をあげた。


「生木だけどここは王城だし、ススや煙をだしたくないわ。水分をすべて蒸散させるような高火力でお願い」


 ユーリがあわてたように口を挟む。


「それでは研究棟まで燃えてしまいます!なかにはヌーメリアが!」


「わたしの防御魔法を全体に広げるから!錬金術師の魔力は物質に作用する。一晩中は無理だけど、少しぐらいなら持ちこたえてみせる!」


 わたしは早口でユーリに告げ、こんどはライアスに話しかける。


「ライアス、入り口には防御魔法をかけないから、蔦がもろくなったら、竜騎士たちで入り口を壊して。穴から噴きだす炎と爆風に気をつけて!」


「わかった。我々も防御魔法で炎耐性をあげる」


「まずはわたしが研究棟に入るね。だいじょうぶ、わたしの防壁は炎も平気だから。ユーリ、ヌーメリアがいるのはどこ?」


 わたしの勢いに押されるように、ユーリが答える。


「地下だと……師団長室の手前に階段があります!」


「師団長室の手前ね!」


 わたしは自分のまわりに魔法陣を展開し、可視化すると手早く魔法陣の術式を書き換える。


「三重防壁……!」


 そばにいたユーリが魔法陣を目にして、ひゅっと息を吸いこむ。書き換えが完了したら、術式に魔素を流して固定する。


「防御対象をグリンデルフィアレン以外の〝研究棟〟すべてに……変更!」


 わたしはグレンの仮面を取りだし、傷や隙間がないかチェックする。うん、大丈夫そう。


「ネリア・ネリス」


「なあに?」


 話しかけてきたレオポルドを見れば、彼は変わらず無表情だったけれど、黄昏色の瞳が真剣な光をたたえている。思わずわたしも吸いこまれるように、彼の瞳をまっすぐに見返していた。


「いいのか?エヴェリグレテリエと契約すれば、もう引き返せないぞ」


「この期に及んでそんなこと?」


 わたしは表情ひとつ変えない彼に、ちょっとイライラしてぼそりとつぶやく。


「……最初から」


「なに?」


 眉をひそめた彼に、たたきつけるようにいう。


「竜の間ではあんなこといったけど、わたしには選択肢なんてないの。最初から……ね」


 あの日あのとき、「生きたい」と願った。


 特別じゃなくてもいい。


 ただふつうに、平穏に生きたい。


 けれど何者にも脅かされずに人生を送るためには、グレンの言うとおり、すべてを手にいれるしかない。


 わたしはこのとき、どんな顔をしていたんだろう。レオポルドが驚いたように目を見開く。


「グレンはおまえに何を……」


 なにかいおうとして口を開きかけて、また閉じた。唇をギュッと引きむすび、厳しい表情でわたしを見下ろす。


 わたしもグレンの仮面を被り、合図をすると竜騎士たちが配置につく。レオポルドも杖を取りだして魔力を練りはじめた。


(あれが魔術師の杖……)


 ちらりと見たそれは、緑玉が埋めこまれて凝った細工がしてあるけれど、長身の彼が持つには小ぶりで、素朴な印象を与えるものだった。


 わたしは仮面の下でため息をつく。……本当に。どうしてこうなったんだろう。


 つい二日前、わたしはデーダス荒野にああるグレンの家で、庭にいて洗濯物を干していたのに。のんびりとシーツのシワなんか伸ばしたりして。


 ほんとに、もう。


 どうしてこうなった。

挿絵(By みてみん)

赤の錬金術師ユーリ・ドラビス

ユーリの初登場回なので、彼が引き立つように少し書き直しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] グレンが何を頼んだのか気になりますねー!
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