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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪@11月1日コミカライズ開始!
第七章 ネリアとお城の舞踏会

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258.ユーリの告白

ブクマ&評価ありがとうございます!

誤字報告と感想も感謝です!

「おかえりなさいませネリア様、ドレスはいかがでしたか?」


 居住区にもどったわたしは、いつもどおり出迎えてくれたソラにおみやげのお菓子をわたす。


「うん、これで夜会の準備はバッチリ。メロディが注文のしかたを教えてくれて、こないだ買えなかったお菓子も買えたよ!」


「それはようございました」


 工房で楽しくおしゃべりしたことで、この数日間もやもやしていた気分はだいぶ晴れた。


 だけど……本当はあいつに話したいことがいっぱいあるのに。


 わたしは小さくため息をつくとソラに収納鞄を預けた。


「ねぇソラ、失敗ばかりでも……うまくいってることもあるなら何とかなるよね?」


 鞄を受けとったソラは水色の目をまたたいて答える。


「……グレン様は『失敗があるからこそ成功がある』とおっしゃいました」


「グレンがそんなことを……さすが資料庫を『失敗』で埋め尽くしたおじいちゃんだね」


 わたしはグレンが遺した三枚の護符がついた首飾りにそっと手をふれた。指にふれるその感触をたしかめながらわたしはつぶやいた。


「そうね、わたしは錬金術師だものね……あきらめずにがんばりますか」





 その日の晩ひさしぶりに、師団長室へユーリがやってきた。


 ソラの知らせにわたしは急いで中庭をとおり師団長室にむかう。


 ユーリは白いローブではなく王子の略装で大きなテーブルのそばに立ち、わたしをみると笑顔をみせた。


「ネリア!」


「ユーリ、ひさしぶり……というのも変だね、錬金術師なのに。いそがしいんでしょう?」


 ユーリは自分の肩に手をあて首をぐるりとまわす。


「いそがしいの種類がちがうというか……僕は次から次に人に会うだけで、テルジオはいそがしそうですね」


「そっか……元気にしてた?」


 研究棟で見慣れているローブ姿でないせいか、赤い瞳でわたしをみおろすユーリはいつもより大人びてみえた。


「元気ですよ。ネリアはかわりませんね」


「えへへ……あいかわらずちびっこいでしょ」


 こないだまでおなじ目線の高さだったのに、いまはぐっと差がついてしまった。わたしは彼みたいに大きくなれないから、なんだかおいていかれたような気分になる。


「ちびっこい?いいえ、あいかわらず可愛いですよ。ネリア……すこし話をしてもいいですか?」


 王子様なユーリはサラリというとさっと椅子をひき、わたしを師団長室の大きなテーブルにつかせた。


「ソラ、さっき持ってきたサラーグの用意を頼む……ピュラルのしぼり汁をいれたものを二つ……ネリアのぶんも」


「かしこまりました」


「サラーグ?」


 わたしが聞きかえすとユーリは優しくほほえんだ。


「ここにあるのはグレン用の強い酒ばかりだから持ってきたんです。マウナカイアで採れるサラーという木の実からできる酒ですよ。エルッパやクマルみたいに強い酒じゃないし、ちょっとつきあってくれますか?」


「ユーリがお酒なんてめずらしいね」


 わたしがそういうとユーリがちいさく唇をとがらせた。そのすねたような表情はいつものユーリで、なんだかホッとしてしまう。


「僕は成人ですし酒は飲めますよ。あの姿だと似合わないから飲みませんでしたけど」


「そっか、そうだよね」


 ユーリは綺麗な所作で胸ポケットから二つ折りにされた紙をとりだした。


「はいどうぞ、夜会のメニュー表を手にいれました。オススメには印がついてますよ」


「わ、本当に持ってきてくれたんだ……ありがとう!」


「どういたしまして」


 エクグラシアの国花スピネラの押し花を漉きこんだ紙に、美しい金の装飾文字が書かれていた。


「すごく綺麗、これだけで記念に持って帰る人いそうだね。準備するの大変だったろうなぁ」


「そうですね、みな一丸となって動いてくれて。それだけ僕に期待してくれているのかな」


 窓のそとはもう暗くなっていて魔導ランプが灯った師団長室は明るく、窓には並んですわるユーリとわたしが窓に映っている。


 いつもこうやって仕事終わりに二人でお茶を飲んだ。


 ああでもないこうでもないといいあって、ユーリがあきれてわたしが笑って。


 わたしがすんなり研究棟になじめたのも彼がいたからだ。


「お持ちしました」


「ありがとうソラ、ネリアもどうぞ。サラーという木の実を発酵させたもので、香りがよくてさわやかな味がして飲みやすいですよ。飲みすぎても悪酔いしません」


「ありがとう」


 口をつけたサラーグはココナツのような香りにピュラルの酸味もあわさって、マウナカイアのトロピカルな雰囲気を思いださせた。ユーリも口に含むとうなずく。


「うん、なつかしい味だ。マウナカイアを思いだすな」


「こんなのあったんだ……」


 マウナカイアにいたときにこれを飲んだ記憶はない。またいくことがあれば飲んでみようかな……そう思いながら味わっているとユーリがくすっと笑った。


「ネリアは食事中あまり酒を飲みませんからね……僕らは教養としていろんな種類の酒を飲まされるんです」


「教養?」


「そう、酒は土地ごとに作られますから。いった場所でだされる酒の材料や特徴、その酔いかたも学ぶんです。こういうのは自分の舌や体で覚えるしかなくて」


 専門家がよばれ酒の材料や醸造法、歴史や飲みかたまで……ユーリは講義を受けながら味わったらしい。


「契約が完了してからユーリはそういう勉強もしてたってこと?」


「そうです、それ自体は面白いし楽しいですよ。日が浅いのでまだ途中ですが、ネリアも参加しませんか。夜会とはまたちがってくつろいで料理を楽しめるし、ネリアがまだ知らない酒や料理もたくさんでますよ」


 わたしは首をかしげた。


「うれしいお誘いだけど……それって王城でやるんだよね。ユーリとご飯食べながらお酒を味わって教養を深めるの?」


 ユーリがすっと手をのばしてわたしの髪にふれた。


 ん?なんかいつもより距離ちかくない?


 そう思ったとき、ユーリがわたしの髪にふれたままいたずらっぽく笑った。


「僕の契約が完了したらあなたを本気で口説く……って前にいったでしょう?きょうはネリア、あなたを口説きにきたんです」

最後のセリフにくるまで、自分が口説かれてるとは思ってもいないネリア……。

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