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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第七章 ネリアとお城の舞踏会
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253.レオポルドの個人指導

ブクマ&評価ありがとうございます!

誤字報告と感想も感謝です!

 わたしはなんとかマホウガニー製の本棚を、レオポルドの助けも借りて師団長室に転移させた。


 バラバラとこぼれた本はまとめてソラに後片付けをたのみ、わたしたちはふたたび魔術師団長室にもどってくる。


 魔術師団長室の家具はいろいろと壊れているが、バルマ副団長が死んだような目で修復の魔法陣をほどこす横で、わたしは一冊の本をはさむようにしてレオポルドとむかいあう。


「で、これを参考にしたわけか……」


 レオポルドの前に置かれている一冊の本……八番街の古書店〝イズミ堂〟でみつけた〝初級魔術読本〟だ。


 表紙にこすったような傷がある本を手にとり、レオポルドはパラパラとページをめくる。最後までみたらもう一度最初からたどって彼は眉をひそめた。


「魔術学園の生徒が売りはらったものだろうな……入学前の参考書みたいなものだ。中身もおかしなところはない」


「アレクと一緒にみようと思って……」


 そもそも怪しかったら古書店も売らないだろう。世のなかには〝呪いがかけられた〟稀少本のたぐいをあつかう専門古書店もあるらしいが、わたしが本を買ったのはごくふつうの古本屋で、しかも店先に積んであった本だ。


 レオポルドが顔をあげると、黄昏色の瞳がまっすぐにわたしを射抜いてくる。


「本におかしなところがないのであれば、問題はおまえの魔術だ」


「う……」


 わたしが椅子の上で身を縮こませていると、レオポルドはマリス女史に声をかけた。


「魔術訓練場はいまだれが使っている?」


「ターリ、スーリ、ミルヒの三名ですが」


 レオポルドは銀の髪を乱暴にかきあげ立ちあがった。


「今日の私の予定はすべてキャンセルだ。訓練場をこれから使う……あけておけ」


「連絡します!」


 バルマ副団長とマリス女史があわててエンツを送り、わたしは焦った。


「あのっ、わざわざ訓練やレオポルドの予定をかえさせなくても……わたし、もう不用意に魔術を使ったりしないから……」


 レオポルドはわたしをギロリとにらむ。


「おまえが使おうとしたのは初級魔術……そうだな?」


「……はい」


「けっして天変地異をひきおこそうとしたわけではない……誓えるな?」


「……誓えます」


 だからなんでこう怖い雰囲気なんだろうか……。


「ならみせてもらおうか、おまえの〝魔術〟とやらを……!」


 逃れようのないレオポルドの剣幕におされ、わたしは彼に連れられ塔の一階にある魔術訓練場に転移した。





 頑丈な魔法結界がほどこされた魔術訓練場はかなり広い部屋だった。


 そこにいた三人の魔女たちがレオポルドの出現に喜びの声をあげる。


「レオポルド様!」


「私たち広域魔法陣の訓練をしてましたの!」


「訓練の様子をごらんになります?」


 レオポルドの返事はそっけない。


「訓練場はこれから私たちが使う……立ち去れ」


 魔女たちの鋭い視線がわたしに集中する。


「あらぁ……ちっさくてみえなかったわ」


「錬金術師団長サマ、じきじきのおでましとはねぇ」


「こんどは何をやらかしたのお嬢ちゃん、お忙しいレオポルド様の手をわずらわせるなんて」


 レオポルドは魔女たちをにらみつけると、ひとことだけ発した。


「……いけ」


 魔女たちはまだわたしに何かいいたそうだったが、レオポルドにそういわれてしまえば立ち去るしかない。訓練場にはわたしとレオポルドだけが残された。


「あんなきれいな人たちに囲まれてお仕事って……人からみればすごくうらやましいのに」


 こいつ何のありがたみも感じてないのかしら。そう思ってつぶやくと、レオポルドは嫌そうな顔をした。


「お前にどうみえているのか知らんが、ここにいる魔術師たちの大半は私より年上だ。さっきの三人は陛下よりも上だぞ」


「いっ⁉」


 美魔女パワーすごい……そうか、魔術学園の卒業生で入団を認められるのは毎年一~二名程度だから、まだ若いレオポルドより年下って少ないんだ。


 そういえばライアスもまわりの竜騎士はみんな年上だっけ。


「塔の魔術師どもはみな意地とプライドの塊だ。やさしく接しても舐められる」


「そうなんだ……だからレオポルドっていっつも偉そうにしてるんだね」


 いったとたん、じろりとにらまれる。はい失言でした……。


「力を示せば受けいれられる……そうやって立場を固めた。多少、無茶はしたがな」


 小さくため息をつくとレオポルドは訓練場の中央にむかう。


「魔法結界を壊したおまえのことを快く思っていないものも多い……魔術師たちと接するときは気をつけろ」


「肝に銘じます……」


 もしかして……レオポルドってかなりの苦労人?





 本日はうれしはずかし美麗な魔術師団長による、ワクワクドキドキの魔術指導……なわけがない。


「いいかげんにしろっ、何度もいわせるな!」


「ぴゃいっ!」


 レオポルドがイライラしたように魔法陣を展開すると、そこに大きな炎が燃えあがる。おなじようにわたしが敷いた魔法陣からは……何も起こらなかった。


「どか雪を降らせたかと思えば、炎ひとつどうして生みだせない!」


「だってモノが燃えるには、〝酸化還元反応〟が起こらないと!」


「さん……?」


「とっ、とにかく燃えるものがないと……でも魔法陣を描いて物質の温度をあげたりはできるよ」


「そうか……」


 たぶん、わたしがうまく魔法を使えない原因のひとつはこれだ。


 わたしは何もない場所に炎があることを信じることができない。





 わたしがうつむいていると、しばらく黙っていたレオポルドが口をひらいた。


「……グレンがお前と〝星の魔力〟を繋げたのだったな」


「うん……」


「そうだとしても、それだけの力を受けいれるほどの器だとしたら、お前が元々もつ魔力も相当なものだったのだろう……それは一体どこにいった?」


「…………」


 異世界に転移するのにつかっちゃいました☆


 ……なんていえるわけがない。


 魔力があったとしても、もとの世界ではなんの役にもたたなかった。


 超能力のようなものが使えたわけではないし、霊感もなかった。


 魔素の流れを意識できるようになってはじめて、魔道具を自分の魔力で動かせたときは本当に感動した。


『グレンすごいよ、動いた!わたしが魔道具に命を吹きこんだみたい!』


『……そうだな』


 あのときグレンがわたしにむけるミストグレーの瞳、なんだか優しかった気がする。


 顔をあげるとサラサラした艶がある銀髪の主が、薄紫の瞳でこちらを睨みつけていた。


(……ぜんぜん似てないや)


「とにかく……肩に力がはいりすぎだ。すこしリラックスして力をぬけ」


(あなたの存在がいちばん、わたしを緊張させるんですが……)





 わたしもボロボロだが、汗だくになったレオポルドが大きくため息をついた。


「風魔法は使えるだろう……ライガを乗りこなすのには必要なはずだ」


「うん……」


 風……風は使える。わたしは目にみえなくても空気の存在を信じている。この大気中に存在する物質があるとわかっている。


「思いっきりやってみろ」


「えっ?」


 顔をあげるとこちらをみるレオポルドの目は真剣だった。


「ここで思いっきり風魔法を使ってみろ」


「ムリ、ムリだよ……思いっきりだなんて……!」


 あわてていっても、レオポルドは首をふるだけだ。


「ここの魔法結界は頑丈だ。魔術の訓練用だからな、何かあっても私が抑える……やれ!」


「な、何が起こっても知らないんだから!」


 わたしはさけんだ。


 周囲にいくつもの風を呼びだす魔法陣を展開すると、そこへ一気に魔素を叩きこむ。魔法陣がまばゆいばかりの輝きを放ち、そこからゴウゴウと唸りをあげて突風が吹き荒れた。


 もう目も開けていられないし、ゴウゴウとうなる風の音がすごく何も聞こえない。


 わたしがたまらずに目をつぶり両手で耳を押さえてうずくまろうとすると、ガッシリとレオポルドに腕をつかまれそのまま体ごと彼に引き寄せられた。

ありがとうございました!

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