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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
25/560

25.帰りたいのに帰れそうにない

ブクマ&評価ありがとうございます!

イイねと誤字報告も感謝です!

挿絵(By みてみん)

4巻発売記念イラスト

(絵:よろづ先生)

 ヒルシュタッフ宰相が国王に確認する。


「陛下、よろしいのですか?」


「よろしいも何も……昔っからグレンは好き勝手にやってきた。彼から大いなる恩恵を得た以上、我々はその遺志を無視することはできん」


「それはそうですが」


 アーネスト陛下は顔をしかめ、獅子を思わせるみごとな赤髪を、ガシガシとかきむしる。髪を乱すとライオンっぽさがさらに増した。彼はわたしに赤い瞳を向けた。


「だからネリア・ネリス!もうお前でいい!速やかに錬金術師団長の座につき、事態を収拾するように!」


「えぇー『お前でいい』とか言われても。断りたいです」


 わたしがげんなりして答えると、国王は威厳を保ちつつも下手に出てきた。


「即答せず検討しろ!だが断らないでほしい!」


『断らないでほしい』とか言いながら、断らせない雰囲気だよね。さっきまでみんな反対してたくせに!


「嫌な予感しかしないです。それにこういう勘はよく当たるんです!」


「何が不満だ!待遇はグレンを超えないまでも善処する!」


「全部ですよっ!さっきからずいぶん無茶振りしてきますよねっ⁉︎」


 こういうおっさんの威圧は相手を怖がらせることに無頓着か、知っててやっているのだ。ただデカい声出せば相手が黙ると思って、無理難題押しつけてんじゃないわよ!


 グレンともさんざん怒鳴り合ったのだ。言い募るアーネスト陛下相手に一歩も引かず、わたしが押し問答をしていると、警備兵が突然知らせを持ってきた。


「失礼します!錬金術師団に異変が!ヴェリガン・ネグスコが大量のグリンデルフィアレンを放ち、研究棟を占拠しました!」


「グリンデルフィアレン?」


 それが何かわからないわたしに、知らせを受けた国王が必死に迫る。


「ネリア・ネリス!お前ならなんとかできるだろう!頼む!本っ当になんとかしてくれ!」


「ええ?帰りますよぅ……」


 わたしはクオード・カーター副団長をチラリと見る。さっと目ぇ逸らしたよ、この人!なんとかする気ないの⁉︎


 ライアスは緊張感あふれる、キリっとした表情でうなずいた。


「ネリア、グリンデルフィアレンは魔樹だ。我々竜騎士団も力を貸そう」


 わぁ、力を貸してくれるって……頼もしいね。わたしはちょっとだけ遠い目になった。魔樹のグリンデルフィアレンて……どんなのだっけ。


 帰りたい。


 なのに帰れそうにない。


「……しかたないですね」


 はぁ、とため息をつく。このまま放っておくわけにもいかないんだろう。


「師団長を引き受ける条件がふたつあります。ひとつは、ここにいる全員がわたしを、錬金術師団長として認めること」


 引き受けるにしてもこれだけは約束させなければ。アーネスト陛下がホッとしたようにうなずいた。


「うむ。それはもちろんだ。もうひとつは何だ?」


「ふたつめは錬金術師団に、竜騎士団と魔術師団双方が協力することです」


「…………」


 レオポルドが口を開くより先に、アーネスト陛下が力強く言い切った。


「王都三師団が協力し合うのは当然だ。保証しよう!」


 うん、ゴリ押し大切ね。わたしは大きく息を吸い、ライアスとレオポルドに向かってにっこりと笑う。


「グリンデルフィアレンの件も、ゴールディホーン竜騎士団長とアルバーン魔術師団長が、わたしを手伝うならば引き受けましょう」


 銀髪の魔術師は心底嫌そうな顔をしたけれど、彼とライアスがいれば、よく知らないグリンデルフィアレンも、何とかなりそうな気がする。


「おふたりは新米師団長のわたしを支えてくれますか?」


「まかせてくれ!」


「…………」


 ライアスは快活に即答し、レオポルドは唇をぎゅっと引き結んで無言のままだ。


「レオポルド、頼んだぞ!」


 アーネスト陛下に促されてようやく、彼は不機嫌そうにうなずいた。これで言質はとった。その強力な魔力、使わせてもらいますとも。


「カーター副団長、魔樹グリンデルフィアレンとヴェリガン・ネグスコについて教えて」


「…………」


 ギリッと音がするほど奥歯を噛みしめ、わたしを睨みつけたクオード・カーターは、への字に口を歪める。うわぁ、答える気ないね。


「クオード・カーター!」


 アーネスト陛下の叱責に、すっと背筋を伸ばした副団長は、わたしに向かって嫌味たっぷりの口調で言う。


「ヴェリガン・ネグスコは魔法植物の専門家だ。北の大地に育つ魔樹グリンデルフィアレンは、春の雪解けとともに大地を覆いつくす。気温が上昇すればその勢いは増す。ここシャングリラの気候なら、あっというまに研究棟を覆いつくすでしょう」


「研究棟を……覆いつくす⁉︎」


「封じられた師団長室ごと、グリンデルフィアレンで研究棟を封鎖したのか」


 レオポルドが眉をひそめれば、クオード・カーターは吠えた。


「錬金術師団長室は現在、〝エヴェリグレテリエ〟によって閉ざされている。〝ネリア・ネリス〟とあのオートマタを接触させるものか!」


「エヴェリグレテリエ?」


 またわからない単語だよ。聞き返したわたしに、レオポルドが渋々説明してくれる。うん、ごめんね、何も知らなくて。


「師団長室の管理者にして、グレンの最高傑作と言われるオートマタ。グレンが創り、奴が契約した精霊の魂を込めてある、動く『人形』だ」


「……人形……」


『王都に行ったら、お前は驚くだろうな』


 グレンはそう言っていたけれど、それは人形のことか彼に息子がいたことなのか……驚くことがいろいろありすぎる。


 カーター副団長がわたしに向かい、わめき散らした。


「お前が師団長の座を継ぐだと!お前が『エヴェリグレテリエ』の主になるのか⁉︎あの素晴らしい『人形』がお前のものに⁉︎なぜだ!認められん!許せるものか!あの造形!あの美しさ!あの動き!私の物だ!ずっと手元に置いて研究したいと思っていた!それなのに!」


「カーター副団長、王の裁定だ!」


「…………」


 ライアスが一喝し、カーター副団長はギリリと歯を食いしばって、ふたたび黙りこんだ。


(なんなの?副団長が執着しているのは『エヴェリグレテリエ』という人形?)


 わたしを睨みつける彼の目は血走り、額には血管すら浮きでて、ぎょろりとした目は狂気を感じる。


「時間が惜しい!グリンデルフィアレンについては、見ればわかる。行くぞ!」


 レオポルドが素早く転移陣を敷き、わたしたち三人はそろって〝竜の間〟から転移した。





 転移陣から三人の姿が消え、エクグラシア国王アーネストは大きく息を吐いた。


「あきれるほど物怖じしない娘だったな、宰相」


「まったくですな。陛下にへり下ることもなく、あのアルバーンに正面から魔力でぶつかろうとするとは、さすがグレンの後継者と言うべきか」


 国王と宰相が退出した後、〝竜の間〟に残され歯を食いしばったままうなだれるカーター副団長に、デゲリゴラル国防大臣が声をかけた。


「残念だったなカーター、私は君を推したのだがね」


(役立たずめ)


 心の中で罵りながらも、クオード・カーターはデゲリゴラルに向かい神妙に頭を下げる。


「いえ……大臣にはいつもお引き立ていただきまして」


 デゲリゴラルは鷹揚にうなずくと、クオードの肩を親しげにポンと叩いた。


「まぁ、これまで通り何も変わらん……師団長なんぞただの『お飾り』だ。実質的に錬金術師団を切り盛りしているのは君だ」


(ふざけるな)


 国防大臣を殴り飛ばしたくなる衝動に駆られながら、クオードはさも同意するように、笑みを浮かべ深くうなずく。


「左様でございます、これまで通り……何も変わりはありません」


 クオード・カーターは怒りを抑え、余裕たっぷりに見えるように、大臣と笑みを交わし合った。


 本当は、喉から手が出るほどその『お飾り』の椅子が欲しくてたまらなかった。相手がグレンだからあきらめたのだ。


 だがグレン以外の錬金術師には、負ける気も譲るつもりもない。『エヴェリグレテリエ』も必ず手に入れてみせる。


(追い落とすチャンスはいくらでもある)


 クオード・カーターは必死に自分に言い聞かせ、震えそうになる自分の拳を押さえた。

ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 裏でなにかするとかではなく直接的に手を出しまくってるけど同じ国の別の部隊に攻撃しかけておいてなんのお咎めもなし?
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