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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第七章 ネリアとお城の舞踏会
248/560

248.師団長会議を終えてドレスの相談に行きました

ブクマ&感想ありがとうございます!

誤字報告も助かってます!

 クオードは半信半疑でそれを聞いた。


「たしかにグレン老は『実績など後からつくればいい』といっていた……」


 だがそれはグレンが天才だったからだ。それなのにあの娘までがそれをやってのけたとは。


 あの娘は第一王子をはじめほかの錬金術師たちもいつのまにか手懐けてしまったが、さすがにアムリタ薬品の会長まで色じかけで落とせるとも思えない。


『だからねぇ、排除するのではなく、近くで観察することにしませんか?』


 オドゥはそういったが生意気でガサツなあの娘には、エヴェリグレテリエのような繊細な美しさも品もない。


 もしあれがグレンの作品だというのなら、息をのむような美しさがなければ。


 たしかにあのペリドットのような瞳の輝きは素晴らしいが……。


『正しく視よ』


 ふいにグレン・ディアレスの言葉がよみがえる。


 グレン・ディアレスはあくなき探究心をもつだけでなく、対象をつぶさに観察する能力にすぐれていた。


 彼はいつもまわりの様子をきちんと観察していた。


 あの娘を観察したグレンがその価値を正しく認め、そのうえで三重防壁をほどこし王都へ送りこんだとしたら。


 錬金術師団はそれこそエヴェリグレテリエ以上の、とんでもないものを抱えこんだのでは。


 それに気づいたクオードはじわりと額に汗をにじませた。





「錬金術師団の新規事業は順調か?」


「はい、防虫剤の販売権を売ったことで販売網づくりと材料を安定して仕入れるメドがたちました。防虫剤の原料を供給するため定期的な収入になります。防虫剤ですから季節的な変動はありますが……」


 ララロア医師とも協力しているサプリメントや医薬品の販売にもゆくゆくは活用していきたい。


「ふむ……創薬には期待しているぞ。レオポルドも災害派遣、いろいろとご苦労だったな」


 アーネスト陛下がねぎらうと、レオポルドは淡々と返事をした。


「いえ、冬を迎えるまえに対処しただけで、本格的な復興には時間がかかります」


「それだけでもずいぶんちがう……冬が越せればまた春からの暮らしに希望がもてる」


 アーネスト陛下が復興予算の配分や、被災地の様子などをかんたんに報告した。ライアスは書類をくばり王都の各街について立体図を展開して説明する。


「竜騎士団からは〝立太子の儀〟における警備状況、および秋祭りでの王都警備についてです」


「ふむ……国内外問わず人が集まるからな。災害が起きたからこそ華やかにとりおこない、人々の心に希望をあたえねばならん」


「はい」


 会議の話し合いがひととおり終わり、間近にせまった〝立太子の儀〟や〝夜会〟の話になる。


 わたしにはピンとこないけれど、十番街の貴族街には全国から集まった貴族たちがすでにおおぜい滞在しているらしい。


 毎日のようにあちこちで夜会が開かれ、にぎやかな社交が繰りひろげられているのだとか。


「〝立太子の儀〟でも王家主催の夜会があるが、ライアスやレオポルドも出席したら令嬢たちの相手をしろ。数にいれるぞ、いいな?」


「ですが出席するといっても私は会場の警備責任者ですし……」


 ライアスが困ったように眉をさげると、アーネスト陛下はテーブルについた肘に頭をのせ、組みあわせた両手で額をささえるようにして深くため息をついた。


「圧がすごいんだ……」


「圧……?」


 ライアスが首をかしげると、アーネスト陛下はダンッと自分の拳でテーブルをたたいた。


「令嬢たちとその保護者からの圧だ、おまえら独身だろうが。いいか、国中の名だたる令嬢がこぞってやってくる。ユーティリスひとりだけでは対処しきれん。竜騎士団からも独身を中心に会場へ配置しろ!」


「……承知しました」


「…………」


 ライアスはしぶしぶ応じ、レオポルドは眉間にシワを寄せてだまっている。彼は「めんどくさい」とか考えていそうだな……とわたしが思っていると、アーネスト陛下もそれは感じたらしい。


「レオポルドもだ、お前ちゃんと踊れるだろうが!公爵邸ではサリナに頼まれダンスの練習相手になっているのは知っているんだぞ、ミラが自慢していたからな」


 あっ、そうなんだ……。


 なおもムスっとしているレオポルドに、アーネスト陛下はさらに念を押す。


「お前は……夜会ではわざと魔力で威圧して令嬢たちを近寄らせないようにしているな。サリナ以外の娘ともちゃんと踊れ、わかったか?」


「……わかりました」


 ようやくレオポルドがうなずくと、アーネスト陛下は大きな手で額をおさえ力を抜いて椅子にもたれた。


「まぁ、おまえらが相手を決めたら……国中の女たちが泣きくずれそうでそれも恐ろしいがな」


 アーネスト陛下は思いだしたようにわたしに目をむけた。


「それでネリア、お前は……」


「あっ、わたしは立太子の儀に出席したあとは、夜会では自由にさせてもらいます。ユーリに『仮面をつけなくていい』といわれたし、一参加者として華やかな夜会を楽しみます」


「……は?」


 わたしはライアスやレオポルドとちがい令嬢たちと踊る必要もない、国中からこぞって着飾った令嬢たちが集まるならモブ中のモブでいいはずだ。


 気楽にはじめての夜会を楽しめる……そう思ってニコニコしていたら、アーネスト陛下が変な顔をした。


「だがお前のドレスを……」


「ドレス……あっ!」


 わたしはガタっと椅子から立ちあがる。


「忘れるところでした、ニーナの店にいかなきゃ。ではきょうの会議は終了ですね、おつかれさまでした!」


「あ……」


 急げ、急がなきゃ。立太子の儀までもうそんなに時間がない。ニーナに怒られちゃう。


 そういえばわたしが転移するとき、アーネスト陛下が何かいいたそうだったけれど何だろう。


 まぁいいか、大事な話ならあとでエンツでも送ってくるよね!





 アーネストはさっさと転移したネリアを、ぼうぜんと見送り首をひねった。


「ユーティリスは、あの娘にまだ何もいってないのか?」


 ライアスがその言葉に首をかしげた。


「なにか?」


「あ、いや、いい……何やってんだあいつ」


 椅子に深く座りなおしたアーネストは、自分が反面教師になっているとは思いもしなかった。





 ニーナにエンツを送ったら、すごい勢いで返事があった。


「ネリィ、あなたいつになったらドレスを作りにくるのよ。遅すぎるわ、生地もまだ決まってないのに!」


「ごめんなさい、いまからデザインを決めにいくから!」


「じゃあお店へすぐにきてちょうだい。こっちは手が離せないの!」


 あわてて収納鞄にドレスのデザイン帳をほうりこんで転移すると、アイリが泣き崩れニーナが怒っている。 


「私がいけないんです、どうかお店を辞めさせてください。すぐに公爵夫人にお詫びを……どうか!」


「何いってるの、アイリだって大事な戦力なのに辞めさせるわけないじゃない!」


「ですが……っ!」


 ニーナが勢いよく首をふった。


「厳しいことをいうと……身元保証もない魔道具見習いの未成年なんて、ここをでたらどこも雇ってくれないわ。それこそ年ごまかして四番街の歓楽街で働かなきゃならなくなるわよ!」


「それは……」


「ここがイヤで辞めるならしかたないわ。けれどそれなら成人して一人前の魔道具師になってから辞めてちょうだい!」


「でもそれではニーナさんやミーナさんに迷惑が……!」


「いま辞められるほうが迷惑よ!」





「ねぇ、いったい何があったの?」


 二人が深刻に話しあう内容がさっぱりわからず、わたしは厳しい顔をしているミーナにたずねた。


「アルバーンのやつらが来たの」

最後のほう、書き直しました。

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