247.お仕事再開!(ネリア→クオード視点)
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王都に戻るとまたあわただしい日常がはじまった。
ヌーメリアとヴェリガンを中心に創薬部門を立ちあげたけれど、二人ともコミュニケーションスキルは皆無だ。
そのためわたしも仮面をつけて、ララロア医師や薬種商のみなさんたちとの交渉に同席する。
「ヌーメリアだいじょうぶ?」
「だ、だいじょうぶ……です。きょうは防虫剤の販売について……や、薬種商のかたたちと話しあい……だいじょうぶ……きっと」
ヌーメリアはぶるぶるしながら必死な顔で、お守りがわりの毒入りペンダントを握りしめている……。
さいわい防虫剤の販売については、師団長室での話し合いはスムーズに進んだ。
ヌーメリアはときどきつっかえたが、カーター副団長も協力して書類を作り無事契約できた。
ソラがお茶を運んでくると業界最大手の薬種商、アムリタ薬品の会長さんがヌーメリアに話題をふった。
「リコリス女史は〝毒の魔女〟という異名もお持ちだとか……ぜひ〝毒〟の話を聞かせていただきたい」
「〝毒〟といっても、さまざまな種類があります……どのようなものについてお知りになりたいですか?」
きっと相手の得意分野を語らせることで、ヌーメリアの緊張をほぐそうとしてくださっているのだろう。彼女もほっとしたのか、言葉がなめらかにでてくる。
「たとえば致死毒であったとしても、目の前ですぐに息絶えてほしいか、七年後に確実に死を迎えさせたいかでも使うものはちがいます。自然死にみせかけたいのか、みせしめのために全身から血を噴きだすようなむごたらしい死に様を望むか……などでもかわります」
ていねいに返事をするヌーメリアは、きっと緊張しているのだと思う。
彼女の話をきく薬種商のみなさんたちは青ざめているけれど、きっとそのあたりは理解してくださってるはず。
だされたお茶にだれも口もつけないのは、途中でトイレに行きたくなったら困るからだろう、たぶん。ヌーメリアはがんばっている、うん。
「それで……アムリタ商会長はお相手のかたにどのような死に様をお望みですの?」
「あ、いや……失言でした。忘れていただきたい」
小首をかしげて優しくたずねたヌーメリアに、質問した会長さんは汗を拭きながら返事をした。余裕がでてきたヌーメリアは灰色の目をまたたき、ソラにお茶をたのもうとする。
「そうですか……あら、私ったら話に夢中になって、みなさまのお茶がさめてしまいましたわね。ソラ、お茶をとりかえていただける?」
「かしこまりました」
「けっ、結構。きょうは涼しいため、のどは渇いておりません!」
「そうですか……?」
薬種商のみなさんたちが帰ったあと、わたしはカーター副団長を呼びとめた。
「カーター副団長、ちょっと聞きたいことが……」
「うわっ、何ですかなネリス師団長、私はダルビス学園長が植物園にいた件のことは何も知りませんぞ!」
「その話じゃなくて、パパロッチェンの作りかたをおしえてほしいの」
「パ……パパロッチェンですと⁉」
カーター副団長は一瞬ギョッとしてから高笑いした。
「……フハハハハ、それこそ残念ですな。私はパパロッチェンを学生時代から何十回と飲んでおりまして、ネコから何からありとあらゆる変身は体験ずみです。仕返しに飲まそうったってムダですぞ!」
「どういうこと?」
わたしが首をかしげるとカーター副団長は得意気に語る。
「フン、パパロッチェンでその対象に変身できるのは、なんであろうと一度きりですからな」
「一度きり……」
つまりわたしは二度と白猫にはなれないってことらしい。
そして学生時代から何十回とパパロッチェンを飲んだカーター副団長には、変身できるものがほとんど残っていないという。
あのすごい臭いと味の液体をよくそれだけ飲めたね……。
「カーター副団長、どんだけパパロッチェンで遊んだの……」
「あれは遊びというより嫌がらせ……っと、では失礼」
そそくさと立ち去ろうとした彼をわたしはもう一度つかまえる。
「とにかくパパロッチェンの作りかたを教えて!」
「ほんとうにほんとうに、私に飲ませるつもりはないのですな?」
「しつこいよ!」
何度も念を押すカーター副団長に怒鳴りかえし、わたしはパパロッチェンの作りかたを教えてもらった。
「へぇ……ありがと。じゃあわたし師団長会議にいってくるね!」
聞くだけ聞いてさっさと転移した娘を見送り、カーター副団長は毒づく。
「フン……あいかわらずあの師団長は遊んでばかりだ」
王都をフラフラしているのはあいかわらずだし、植物園にいった竜騎士といっしょにカレンデュラへもでかけた。
あの娘が遊び歩いているあいだに研究を進めて見返してやるつもりが、それも思うようにいかない。
「ちっ……素材がなくなったか。おいソラ、追加の素材はあるか?」
「こちらにございます」
ソラに案内されてはいった素材庫の棚には、たくさんの種類の素材が量も豊富にならんでいる。
「追加予算でもおりたか……素材不足に悩まずに錬金ができるのは助かるが」
また王城から雑用をいいつけられるかもしれん……とクオードが考えたらソラは首をふった。
「予算はおりておりません。ネリア様が資金はご用意なさいました」
「なんだと?だがあの娘がやってるのは、防虫剤づくりと野菜の汁をしぼっているだけだぞ」
「その防虫剤の権利を入札でお売りになりました。成分の抽出は錬金術師団でおこないますが、製造販売はアムリタ薬品がおこないますので定期収入になります」
「……薬種商の業界最大手ではないか!」
クオードはたかが防虫剤が王城土産の第一位を独走していることも、王都でも高感度の奥様たちにその評判が口コミでひろまっていることも知らない。
アムリタ薬品の会長夫人が防虫剤の大ファンで、「ぜひウチであつかってほしいわ!」と夫の顔をみるたびに訴えたことも。
妻からの訴え……この世にこれほど効果的なプレゼンテーションがほかにあるだろうか。そのうえ妻だけでなく娘に嫁、さらに姉と妹に義妹からも訴えられては効果は絶大だ。
もちろん会長らしくそのあとは冷静に〝師団印の防虫剤〟をとり寄せ検討したという。
クオードは自分もさんざん作った防虫剤のどこに、そんな価値があるのかと思った。
「素材となるハーブの栽培促進や、これまでの乾燥させたハーブをサシュにつめ、クローゼットにいれる文化がすたれないよう定期的に講習会をひらく……などこと細かく注文をおつけになり、それでも業界最大手アムリタ薬品が最高値をつけたのです」
「ただの防虫剤だぞ?」
ソラは水色の目をまたたいて淡々とこたえた。
「グレン様はいわれました。『錬金術などハッタリとイカサマの世界だ。自分の研究がいかに利益を生むかを相手に信じさせ多額の資金を提供させる』……ネリア様はそのとおりになさったのかと」
ありがとうございました!












