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魔術師の杖【11/1連載開始】【小説9巻&短編集】  作者: 粉雪
第七章 ネリアとお城の舞踏会

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245.リメラ王妃と琥珀のリング(リメラ視点)

王城にて、母子の会話です。

「許可は取っていません、彼女に話したらきっと断られるだろうと……夜会へ出席する彼女をエスコートできなくても、せめて彼女がはじめて身につけるドレスは……僕が贈りたかったんです」


「王城の服飾部門は国家予算で運営されています。錬金術師団のローブやわたくしたち王族の衣装ならともかく、一個人の……しかも女性のドレスを王太子となるあなたが作らせるなど、大騒ぎになりますよ?」


「……費用は僕の私費を使うつもりでした。でもそうですね……僕の考えが足りませんでした」


 落ちこんだようすの息子に、自分から動こうとしたことを喜ぶべきなのかリメラは悩んだ。


「せめて私に相談してほしかったわ」


「相談するほどのことでは……彼女は王都にきてから身のまわりの品をそろえたようですが、ぜいたくをする様子はない。ドレスも自分で用意するつもりだと聞いて……何かしてあげたくなったんです」


「そう……」


 母親の前でもいつもよそいきの仮面を被っていた息子は、ネリアがきてからだいぶ素の表情をみせるようになった。


 王太子の仕事よりも錬金術師として魔道具をあつかうのが好きなのは、アーネストの話やテルジオからの報告でも聞いている。


 彼の体がきちんと成長し、年相応の風格を身につけたのは喜ばしいが。


(それはそれで厄介な問題があるわね……)


 まだ成人したばかりの彼は、立太子の儀を終えても急いで婚約者を決める必要はない。


 現状では相手探しに何年もかかるだろう。





 リメラは慎重に口をひらいた。


「ユーティリス、順番がちがうわ。あなたはまず彼女に自分の気持ちを伝えなくては。あなたのお父様はちゃんと想いを伝えてきました」


「そうして想いを伝えられ……王妃となって母上は幸せですか」


 リメラの胸に秘めた想いを見抜くかのように、息子は強い眼差しをむけてくる。


「父上は簡単に想いを口にします。そしてそれを実行するのは父上の意を汲んだまわりの者だ。あの男は自分の頭で必死に考えたりしない……いつも人任せだ」


「ユーティリス……」


 絶句したリメラにユーティリスはたたみかけた。


「けれど母上はそれではごまかされないでしょう、僕の人をこまかく観察するクセはあなたから受け継いだものだ。母上、あなたは父を見限っておられる」


 そんなことはない……といおうとして、リメラは答えられなかった。


 王子を二人産んで、喜ぶと同時にほっとした。


 自分の務めといえるものは果たした……あとは慎重に生きていけばいい。


 国を背負う者になることを考えると、我が子ですら思いっきりかわいがれない寂しさにも慣れた。


 それは夫にたいしても同じことで、自分の伴侶であると同時に国王でもあるアーネストを独占できるはずもなく。


 これでいい、これでじゅうぶん……いつしか期待することをやめてしまった。


 けっして不幸ではない……むしろ恵まれている。けれど息子に「幸せですか」と問われ、すぐに答えられないのはなぜだろう。





「僕は……彼女を幸せにしたいと思った。彼女の笑顔をみるのがうれしい……こんな自分がいるなんて思わなかった」


 ユーティリスが自分の懐から小箱をとりだし、リメラの目の前においた。


「それと同時に、僕にもできるんじゃないかと思った。彼女にできるのなら僕にだって……いままで無理だと思っていたこともやれるのではないかと」


「これは?」


 リメラがとまどって顔をあげると、ユーティリスは小箱をあけるよううながす。


 小箱を持ちあげ慎重にフタをあけてみると、なかにはシンプルな指輪がひとつ、飴色の光沢をはなつ琥珀がセットされていた。それはちょうどリメラの瞳にあわせた色で。


「僕がオドゥやネリアの協力を得てつくりました……土属性に特化した魔力制御の術式を刻んだリングです」


「美しいわ……」


 リメラがもちあげて光にかざすと細かな術式が立体的に刻まれている。細工物としても美しい品だといえるだろう。


 感心したようにリングにみいるリメラに、ユーティリスがホッとしたような笑みをうかべた。


「よかった……ふだんも身につけてもらいたいし、王妃にふさわしい品位がないといけませんから。ただの魔道具をつくるようにはいかなくて」


「これを……わたくしのために?」


 リングをはめると最初からそこが定位置だったみたいに、スッとリメラの指になじんだ。思わず笑みをこぼしてから息子をみれば、赤い髪の青年は照れくさそうに頭をかく。


「まいったな……本当はもっとあらたまって渡すつもりだったのに……ドレスのことがバレて僕も動揺してしまった。受けとっていただけますか?」


 リメラはもう一度、指にはまる琥珀のリングに視線を落とした。


「そう……これはあなたがわたくしのために、自分で必死に考えたものなのね……」


「母上?」


『あの男は自分の頭で必死に考えたりしない』


 さっきは勢いにまかせて口からでた言葉なのだろう、ユーティリスは面食らったような顔をした。


「こんなに心のこもった贈りものはひさしぶり……そうね本当だわ、心がこもっているとこんなに……心が震えるほどうれしいのね」


 琥珀色をした双眸から涙がこぼれた。ユーティリスは真剣な顔をする。


「母上が幸せでなければ……僕は『かならず幸せにする』と彼女に伝えられない。僕とともに歩く道は制限ばかりだ。だから母上に幸せでいてほしい。すみません自分勝手な望みで……母上の幸せは母上にしか決められないのに」


 そのままユーリは黙りこんだため、また沈黙が流れた。やがてリメラは涙をふいて静かにいった。


「あなたは恋をして人を愛することを知ったのですね。あなたの恋がどういう結末になろうと、ちゃんと彼女の幸せについて考えられる……あなたの成長を知れてわたくしはうれしいです」


「母上……」


「それと、あなたに『幸せですか』とたずねられたことは、自分でも反省しなくてはね。わたくしは〝幸せ〟とは、だれかに与えられるものでも待っていれば転がりこんでくるものでもなく、自分で努力してつかみとるものだと思っています」


 リメラはそっと指輪に手をふれた。これもまたひとつの〝幸せ〟だ。


「どのような幸せであろうと自分でつかみとったものであれば、納得できるのではないかしら。あなたは彼女ときちんと話をして、何が彼女の幸せか考えなさい。彼女の〝幸せ〟はネリア本人にしかわからないのだから」


「そうですね……」


 ほほを赤くした息子を見守りながら、リメラはすこし困ったような顔でつけくわえた。


「それとわたくしは、アーネストを愛しているから王家に嫁いだのです。だからあなたたちもここにいるのだし……その選択を後悔はしていませんよ」


 息子にも指摘されたリメラのクセ、アーネストの側で人をこまかく観察する……それによりネリア・ネリスに視線を送る男が、息子ひとりだけでないのはリメラも知っている。


 かってそんな友人がリメラにもいた。ただそこにいるだけで注目を集める……それでいて彼女はそんなことはまったく気にせずに行動する。あの強い輝きをはなつ瞳をまたみることになるなんて。


(まったく……厄介な相手を好きになったこと)


 ()()は人の運命を変えていく。グレンの……そしてユーティリスの運命さえも……それがどんな結末をもたらすか、だれにもわからない。リメラはひとつ息をついて立ちあがった。


「あなたにみせたいものがあるの。いっしょにいきましょうか」

息子からこんな贈り物って……お母さんはうれしいんじゃないでしょうか。

もうちょっと二人の話は続きます。

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