24.もう帰りたくなりました
こじんまりとした〝竜の間〟は、落ち着いた格式ある内装で、ドラゴンで訪れる客人を迎えるため、〝天空舞台〟に接していた。
空に近いこの場所は窓も大きくて、開放感のある部屋だ。そこにいた人物たちを、ライアスが順に紹介してくれる。
エクグラシアの国王アーネストは、堂々とした体格でもとは竜騎士でもあったらしい。赤髪をライオンのようになびかせた壮年の男性だった。
そしてラベンダー色の髪をした神経質そうな男性がヒルシュタッフ宰相で、プラチナブロンドで貫禄のある、タヌキみたいなのがデゲリゴラル国防大臣。
最後にやってきたのが、錬金術師団のクオード・カーター副団長だった。
魔術師団長のレオポルドに竜騎士団長のライアス……この世界は美形ばかりかと思ったけれど、見渡してみてそうでない人もいると知り、失礼ながらホッとする。
ヒルシュタッフ宰相を中心に、次の錬金術師団長に誰がなるか、みんなは話し合いをはじめた。
副団長だというクオード・カーターは、ジロジロと無遠慮にわたしを眺めるし、魔術師団長のレオポルドもずっとにらみつけてきて、なんだかとっても居心地が悪い。レオポルドが言ったとおり、わたしを師団長にという意見は、誰からもでない。
ライフゲージはゼロのまま、わたしはその話し合いに口を挟む気力もなかった。せっかく王都にやってきたのに、わたしはさっきの衝撃からまだ立ち直れていない。
レオポルドみたいな息子がいるなんて、グレンからは聞かされていない。そう考えると、何も言わなかったグレンにも、ふつふつと怒りが湧く。
(べつに師団長にならなくてもいいんだけど。もう帰ってもいいかなぁ……うん、もうこのまま王都見物して、メロディさんのお店寄って帰ろう……)
でなければ気ままに、魔導列車で旅してもいい。とにかくここから、レオポルドの視界から離れて消えてしまいたい。だいぶ投げやりになって、わたしは口を開く。
「わたしが王都シャングリラに来たのは、グレンの死を確認するため、そして彼との約束を果たすためです。錬金術師団長になれとは言われていません。なのでもう帰ってもいいですか?」
「は?かっ、帰るだとっ⁉」
宰相さんもだけど、なんでみんな驚くの。さっきまでそう望んでたじゃん。
「おっしゃるとおり、わたしに錬金術師としての実績はありません。みなさんの支えがなければ、師団長など務まりません」
誰も望んでいないのに、師団長という肩書きだけがあってもしかたない。わたしは帰る気満々だった。
「わたしがグレンから、すべてを譲るかわりに頼まれたのは、師団長になることではありませんから」
レオポルドがピクリと眉を上げ、いぶかしむようにわたしを見た。
「グレンに頼まれた……それは何だ?」
「それについては話せません。グレンが亡くなったのなら、わたしは帰ってもいいですか?」
どうやって帰ろうかなぁ。ライアスに頼めばドラゴンで送ってくれるかしら。収納鞄を持ち直したわたしに、カーター副団長が顔を真っ赤にしてかみつく。
「じゃあ、さっさと師団長室の封印を解け!」
「どうして?」
わたしがほほに手をあて、ゆっくりと小首をかしげると、みんながぎょっとする。
「だって封印が解けなくても、わたし困りませんし」
みなが無言になった。
「封印されたものはすべて、グレンからわたしに譲られたものです。封印を解かなくても、たとえば中身を燃やすのも、わたしの自由ですよね?」
「なっ、なんだと⁉︎勝手なことを!」
カーター副団長はわなわなと震え、青ざめて拳を握りしめる。赤くなったり青くなったり忙しい人だ。
「勝手なのはあなたたちです。師団長室を封じたのはグレンの意思です。グレンが生きていたら、あなたたちはそれに触れられなかった。だから今、わたしを脅して開けさせようとする」
小娘であるわたしは、グレンよりあしらいやすいと思ったんだよね。ずいぶんと舐めてくれるじゃないの。
デゲリゴラル国防大臣が叫ぶ。
「待てっ!封印も解かずに我々がお前をそのまま帰すと思うのか⁉︎」
「……帰れますし、帰ります。試してみますか?」
力技には力技を。わたしはずっと体の中にしまっていた、自分の魔力を開放すると同時に、グレンが掛けてくれていた防御魔法陣に魔素を流す。
グレンが幾重にも仕掛けた防御魔法が、光とともに展開し可視化する。大臣は驚愕して目を見開いた。
「なっ!三重防壁!物理、魔法、状態異常……すべてをブロックする防御魔法だと⁉」
正解。可視化してみせただけで、ずっとこれはわたしの周りに存在していたけどね。グレンが丹念に掛けてくれた魔法陣は、少しの綻びもなく、わたしの魔力を帯びて煌めいた。
「……やはり化け物だったな……」
レオポルドが険しい顔をして、低く唸るように呟く。
「そうなのかな?確かにグレンの防御魔法なら、あなたの攻撃魔法も防げるだろうけど、化け物呼ばわりはやめてほしい。わたしはここから無事に帰りたいだけだもの」
それにあなたとならお互い、いい勝負じゃないかなぁ。そっちも魔力の圧がすごいよね。レオポルドが魔力を練り始める。
「アーネスト陛下、魔術の使用許可を」
「おっ、やる気ですか……いいよ、受けて立つよ!」
さっきの暴言への怒りも込めて、ぶっ飛ばしてやりたい。わたし、攻撃魔法も武術も使えないけどね!
「待て……!待てレオポルド!……もういいだろう、城が壊れる!」
アーネスト陛下が慌ててレオポルドを制止し、よく響く声で宣言した。
「エクグラシア国王アーネスト・エクグラシアの名において、ネリア・ネリスを錬金術師団長として認める!みな静まれ!」
あら。
……認められちゃった?
ありがとうございました。









