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魔術師の杖【小説9巻&短編集】【コミカライズ準備中】  作者: 粉雪
第一章 錬金術師ネリア、王都へ向かう
24/560

24.もう帰りたくなりました

ブクマ&評価ありがとうございます!

イイねと誤字報告も感謝です!

挿絵(By みてみん)

6巻発売記念イラスト

(絵:よろづ先生)

 ミストレイが降り立った〝天空舞台〟からすぐ、こじんまりとして落ち着いた格式ある内装の部屋があった。


 ここでドラゴンで訪れる客人を迎えるため、〝竜の間〟と呼ばれているらしい。天空舞台に向かって大きな窓が開き、空に近くて開放感もある部屋だ。


 そこにそろったのは七人。ライアスが順に紹介してくれる。


 エクグラシアの国王アーネスト・エクグラシアは赤髪をライオンのようになびかせた壮年の男性で、堂々とした体格のイケオジで、元は竜騎士でもあったらしい。


 そして神経質そうなラベンダー色の髪をしたヒルシュタッフ宰相と、タヌキみたいな感じのデゲリゴラル国防大臣。


 魔術師団長レオポルド・アルバーンに竜騎士団長ライアス・ゴールディホーン、最後にやってきたのが錬金術師団のクオード・カーター副団長だった。


 この世界は美形ばかりかと思ったけれど、見渡してみてそうでない人もいると知り、失礼ながら正直ホッとする。


 わたしがぼーっとそんなことを考えていたら、みんなはヒルシュタッフ宰相を中心に、次の錬金術師団長に誰がなるかの話し合いをはじめた。


 副団長だというクオード・カーターからは、ジロジロと無遠慮な視線が飛んでくるし、この居心地の悪さ、どうにかしてほしい。わたしが師団長になることなど、誰も望んでいない。


(べつに師団長にならなくてもいいんだけど……もう、帰ってもいいかなぁ)


 せっかく王都に乗りこんできたのに、わたしはまださっきの衝撃から立ち直れていない。魔術師団長のレオポルドはわたしをずっとにらんでいる。彼みたいな息子がいるなんて、グレンからは何も聞いていない。


(うん、王都見物してメロディさんのお店寄って帰ろう……)


 そう思ったわたしは、みんなに向かって言った。


「わたしが王都シャングリラに来たのは、グレンの死を確認するため、そして彼との約束を果たすためです。『錬金術師団長になってくれ』とは頼まれていません。なのでもう帰ってもいいですか?」


「は?かっ、帰るだとっ!?」


 宰相さんもだけど、なんでみんな驚くの?


「わたしはおっしゃる通り、錬金術師の実績は何もありません。みなさんの支えがなければ、師団長などという大役は務まりません」


 誰もわたしが師団長になることなど望んでいないしね?帰っていいよね?


「わたしはグレンから全てを譲られました。そのかわりに彼から頼まれたのは『師団長になること』ではなく、まったく別のことです」


 レオポルドがピクリと眉を上げ、いぶかしむようにわたしを見た。


「グレンに頼まれた……それは何だ?」


「それについては話せません。グレンが亡くなったのなら、わたしはもう帰ってもいいですか?」


 肩かけ鞄を持ち直すと、カーター副団長が真っ赤な顔で噛みついてきた。


「じゃあ、さっさと師団長室の封印を解け!」


「どうして?」


 わたしがほほに手をあて小首をかしげると、みんながぎょっとしたような顔をする。


「だって封印が解けなくても、わたし困りませんし。別にそのままでも……」


 みなが無言になった。


「封印されたものはすべて、グレンから譲られたわたしのものです。わたしが封印を解かず、例えば中身を燃やして灰にしたとしても……それはわたしの自由ですよね?」


「なっ、なんだと⁉︎勝手なことを!」


 カーター副団長はわなわなと震え、青ざめて拳を握りしめる。赤くなったり青くなったり忙しい人だ。


「勝手なことを言うのはあなたたちです。封じたのはグレンの意思でしょう?あなたたちは、グレンが生きている時から()()に触れられましたか?違うでしょう?だから今、わたしを脅してでも開かせようとする」


 グレンよりは小娘であるわたしの方があしらいやすいと思ったんだよね?舐めてくれるじゃないの。


 デゲリゴラル国防大臣が叫ぶ。


「待てっ!封印も解かずに我々がお前をそのまま帰すと思うのか⁉︎」


「……帰れますし、帰ります。試してみますか?」


 力技には力技を。わたしはずっと体の中にしまっていた、自分の魔力を開放すると同時に、グレンが掛けてくれていた防御魔法陣に魔素を流す。


 グレンが幾重にも仕掛けた防御魔法が、光とともに展開し可視化する。大臣は驚愕して目を見開いた。


「なっ!三重防壁!物理、魔法、状態異常……すべてをブロックする防御魔法だと⁉」


 正解。可視化してみせただけで、ずっと()()はわたしの周りに存在していたけどね。グレンが丹念に掛けてくれた魔法陣は、少しの綻びもなく、わたしの魔力を帯びて煌めいた。


「……やはり化け物だったな……」


 レオポルドが険しい顔をして、低く唸るように呟く。


「そうなのかな?確かにグレンの防御魔法なら、あなたの攻撃魔法も防げるだろうけど、化け物呼ばわりはやめてほしい。わたしはここから無事に帰りたいだけだもの」


 それにあなたとならお互い、いい勝負じゃないかなぁ。そっちも魔力の圧がすごいよね。レオポルドが魔力を練り始める。


「アーネスト陛下、魔術の使用許可を」


「おっ、やる気ですか……いいよ、受けて立つよ!」


 さっきの暴言への怒りも込めて、ぶっ飛ばしてやりたい。わたし、攻撃魔法も武術も使えないけどね!





「待て……!待てレオポルド!……もういいだろう、城が壊れる!」


 アーネスト陛下が慌ててレオポルドを制止し、よく響く声で宣言した。


「エクグラシア国王アーネスト・エクグラシアの名において、ネリア・ネリスを錬金術師団長として認める!みな静まれ!」


 あら。


 ……認められちゃった?


ありがとうございました。

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