234.オーランドの疑問(オーランド→ネリア視点)
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「はぁ?お前らいったい何をいうかと思えば。ネリア・ネリスがレイメリアのわけがなかろう。お前たち二人が『相談したいことがある』とやってくるから、俺はてっきり〝立太子の儀〟についての話かと思ったのに」
国王の執務室にいたエクグラシア国王アーネストは開口一番、そういって首をひねった。執務室には国王と王妃リメラ、王族づきの筆頭補佐官が四名そろい、オーランド・ゴールディホーンは困惑した表情で銀縁眼鏡のつるを持ちあげた。
「ですがダルビス学園長は、彼女を〝レイメリア〟と呼んでおりました」
「あーあのじいさんか、あれはレイメリアを相当美化して崇めていたからな」
アーネストは息を吐くと椅子の背もたれに体をあずけ、獅子のたてがみのような赤い髪を乱すようにガシガシと頭をかくと顔をしかめた。
「背格好や雰囲気……それに髪と瞳の色などは似てるかな。だがレイメリアのことはリメラのほうがよく知っている」
静かに話を聞いていたリメラ王妃は首を横にふった。
「私も……ネリア・ネリスがレイメリアに似ているとは思いましたが、彼女はレイメリアではありません。まったくの別人です」
「だいたいネリアはおとなしいじゃないか、レイメリアとは全然ちがうぞ?」
アーネストの言葉にテルジオがふしぎそうな顔をした。
「おとなしい?ネリス師団長はかなり元気のよい女性ですが」
「それはお前らが〝レイメリア・アルバーン〟を知らんからだ。いいか、ネリア・ネリスが元気のいいネコだとする。あばれてもひっかかれる程度だ」
「はぁ」
腕を組み眉間にシワを寄せて身をのりだしたアーネストに、テルジオはよくわからない顔をして相槌をうった。
「で、ネリア・ネリスがネコだとしたら、レイメリア・アルバーンは野生の凶暴な魔獣だ。ゴリガデルスだと思え」
アーネストが大真面目な顔でそういうものだから、テルジオはますますわからなくなった。
「ゴリガデルス……ですか?私が聞いた話ではとても優雅で美しい女性だったとのことですが」
「だからみためだけだ。レイメリアは華奢で小柄だったし、顔立ちはネリアみたいに可愛らしいからな。俺はグレンがレイメリアを引き受けてくれて心底ホッとした」
リメラ王妃が眉をひそめて夫をみると小さくため息をついた。
「あなた……いくらなんでもわたくしの親友を凶暴な魔獣にたとえるのはやめてくださる?」
「そうかすまん……ううむ、『女レオポルド』とでもいえばいいか。だがあれにくらべればレオポルドのほうがまだまし……」
ポリポリと頭を掻くアーネストに、リメラ王妃の筆頭補佐官であるジゼル・ホープが助け舟をだした。
「そうですわね……とにかく行動力のあるかたでした。先代のアルバーン公爵も強烈なかたでしたから、怒鳴りあいの親子ゲンカがすさまじく、魔術師団に入団後は彼女の歩いたあとには草も生えないと……」
「だな……あの頃にくらべると本当にいまは平和だ」
アーネストが遠い目をしたところで、しばらく口をとじていたオーランドが質問した。レイメリア・アルバーンが想像以上の女傑ということはわかったが、いま知りたいのはそのことではない。
「ですが無関係とはいえますまい……たとえば血縁の可能性はないのですか、ネリス錬金術師団長がアルバーン魔術師団長の妹御であるとかは?」
「どうだろうな……研究棟なら人間ひとりぐらい隠しておけるかもしれんが。どう思う?リメラ」
アーネストに水をむけられたリメラは首を横にふった。
「わたくしとレイメリアはよく会っていましたからそれはないでしょう。それに先代のアルバーン公爵がレオポルドだけをアルバーン領に連れかえり、彼女によく似た娘を残すとは思えません」
オーランドは眼鏡のレンズをキラリと光らせてさらに質問した。
「ディアレス師団長がデーダス荒野に隠し育てた可能性は?」
「それはない。ネリア・ネリスが王都にきたころケルヒに調査させている。デーダス荒野に派遣した竜騎士からの報告もあがっている。グレンがデーダスに家を建てたのはユーティリスと契約したあとだ」
「調査の報告書は読みました。デーダスにもその周辺の地域にも、ネリス師団長の〝痕跡〟は存在しない……ということでしたね」
オーランドが第二王子の補佐官になったのは最近のことだったため、目を通した報告書がそれだけで終わっていることを不思議に思っていた。
「そうだ。ユーティリスにとめられてそれ以上の調査はやめた。もともとグレン・ディアレスだって出自がハッキリしない男だ、いちいち気にしていたらやってられん」
「それも私には理解できないことのひとつです。どうして彼はまだ二十代の青年だったときに錬金術師団長の職に就けたのですか?」
オーランドの質問にアーネストは自分のあごをなで、すこし言葉を探してから口をひらいた。
「それは……それこそ王族案件だな。〝王族の赤〟にのみ伝えられる内容にかかわる。お前たちにも教えられるものではない」
植物園で採れた素材をソラに整理してもらい、魔術師団のマリス女史から送られた必要な種類と数が書かれたリストを参考に、わたしはせっせとポーションを作った。
できたポーションはライアスたち竜騎士団が、カレンデュラの近くに展開している魔術師団に運んでくれる。
わたしは竜騎士団にポーションの納品を済ませると、ミストレイの顔をみに竜舎に寄った。
「ライアス!ミストレイは元気?」
「ネリア!よくきてくれた。植物園で採った素材は役立っているようだな。学園長はあれから何もいってこないか?兄貴はまかせろといっていたが」
「ええと、それが……ポエムが送られてくるようになって」
「ぽえむ?」
「うん。なんていうか、わたしのことをほめてくれてるみたいなんだけど……」
学園長からは二~三日おきに『きみの瞳に捧ぐ』とか、『きみが紡ぐ声の妙なる調べ』みたいな内容を書きつらねたポエムが送られてくるようになった。
オーランドによると返事をする必要はとくにないというので放っておいてある。
「それはまた……しかしあの学園長が……厳格なかただと思っていたが」
二人で話していると急にミストレイが、ライアスの背中にゴスッと頭突きをかました。
「うっ、ネリアはいそがしいからムリに決まってるだろう!それにカレンデュラにいくのは遊びじゃないんだぞ!」
「わたしがどうかしたの?」
聞かれたライアスが困ったような微妙な表情になった。
「ミストレイがカレンデュラまでネリアを乗せたいというから、ネリアはいそがしい……と」
「え、いきたい!」
「そうだよな、いそがしいよな!……えっ⁉ネリアもいきたい……のか?」
いつもこころよく笑顔をみせてくれるライアスが、さらに困ったような顔になった。
「あ……ごめん、邪魔だよね」
そうだよね……いったことがない場所にいけると思ったけれど、わたしがいても邪魔だろう。レオポルドだってどんな顔をするかわからない。
「あっ、いや……そうではなくっ!」
グォオオオオオオ!
あわてた顔をしたライアスの後ろでミストレイが吠え、その様子をみていたレインが肩をすくめてライアスにささやいた。
「団長……あきらめましょう。こうなったらネリス師団長が一緒じゃないとミストレイが飛びませんよ」
「そ……それは……」
ライアスは遠い目をしたが、レインは苦笑いしてからわたしにむかってキリリと告げた。
「ネリス師団長、一旦研究棟に戻られて用意をしてきてください」
「わかった!じゃあライアス、またあとでね!」
「あ、ああ……」
元気よく手をふって娘が転移すると、レインは遠い目をしているライアスにむかってさけんだ。
「団長、しっかりしてください。彼女が戻るまえにいろいろと準備しなければ!」
研究棟に戻ったわたしは、ソラに用意をまかせ本棚で地図を探した。
「カレンデュラ……カレンデュラ……あ、そういえばオドゥの生まれ故郷の近くだっけ。わたしちょっとオドゥの研究室にいってくるね!」
「かしこまりました」
そうだ、カレンデュラにいくまえに彼の研究室にいってみよう……そう思ったわたしはあまり何も考えず、二階にある彼の研究室にむかった。
ドアをノックするとすぐに返事があり、でてきたオドゥはわたしをじっとみおろした。
「ネリア……」
「ごめんねオドゥ、いまいそがしい?」
黒縁眼鏡の奥にあるオドゥの瞳は、光の加減かきょうは深緑の色がとても深い。オドゥは右手を持ちあげて眼鏡のブリッジに指をかけ、人のよさそうないつもの笑みを浮かべた。
「いいや、ちょうどひと段落ついたところだよ。そういえばネリアは僕の研究室をみたがってたね……はいるかい?」
そういってオドゥは脇にどき、芝居がかった仕草で胸に手をあてわたしにむかって頭をさげる。
「ようこそ我が城へ……僕のお姫様」









